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新章 青色の智姫
第87話 塩作り
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到着した日の夜は、シェリアの海鮮料理に舌鼓を打つ。
獲れたての魚介類のおいしさといったらこの上なく、コーラル領の確固たる地位を築く一因ともなっているのだ。
そもそもの発端はロゼリアだった。転生したチェリシアと出会って、シェリアの海水から塩を精製し出したのが発端だった。
今では広大な領地を持ち、そこからもたらされる恵みで潤うアイヴォリー王国内随一の富豪な領となっている。ペシエラが王妃という立場に就いたので、さらに拍車がかかっている。
破綻寸前の子爵領のこの発展具合は、成り上がりの物語としても王国内では語られるくらいなのだ。
その豊かなコーラル領の恵みに堪能したシアンたちは、その日はゆっくりと眠りに就いた。
翌日はシェリアの街の散策を行う。
夏の海辺ということもあり、陽の光がかなり強く差していてかなり暑い。
というわけで、王族や貴族の服装としてはかなり軽装である。ただ、日焼けしないように布の面積は多い。水着での露出を控えたのも後々を考えてのことだ。露出が多かったのは前世の意識バリバリのチェリシアくらいである。
よくよく思えば、以前家族旅行でやって来たシアン以外は、このシェリアへやって来るのは今回が初めてである。フューシャやプルネですら来たことがない。そういったこともあって、みんなシェリアの街を物珍しそうに眺めている。
街には獲れたばかりの魚がずらりと売られていて、街ゆく人たちはその魚を真剣に眺めている。
「へえ、にぎわっていますね」
「これでもまだ今日は静かな方ですよ。漁獲量が安定しませんので、今日みたいな不漁だとどうしても活気が落ちてしまうんです」
ライトの感想にアイリスが状況を説明している。
「これでまだ静かなんですか」
「はい、静かです」
驚くライトににこにこと答えるアイリス。認識の違いというのがもろに出ている。
街を案内するチェリシアとアイリス。その後ろをシアンたちがくっついて歩いている。一番後ろにはキャノルたち使用人軍団がついていっている。脇にも衛兵たちがいるので、実に物々しい集団である。王族が四人もいれば仕方のない陣形だ。
一行がやって来たのは海岸近くの塩の製作小屋。ここでは海水をくみ上げて、魔法など様々な方法で塩を作っている。
その一角にシアンたちは案内される。
「それじゃ、今日は魔法の練習を兼ねて塩を作ってみましょう」
にこにこというチェリシアである。子どもたちは揃いも揃って「は?」というような表情をしている。
戸惑うシアンたちの前に、海水がたっぷり入った水槽が運ばれてくる。
「これをこうやって、塩を取り出すんですよ」
隣には空の大きな桶が置かれており、チェシリアは目の前の水槽から海水だけを魔法で取り出している。
「すごい……」
水槽の中のすべての水分が、シアンたちの目の前に浮かび上がっている。
「これは水魔法で、溶けている物質などを無視して純粋な水だけを取り出しているんですよ」
チェリシアは説明しながら、後ろの水桶にざばーっと水を放り込む。持ってこられた水槽の中には、土や砂以外にもなにやらキラキラしたものが残っている。
そこから今度は土魔法で不純物を取り除いていく。まったくもってひょいひょいと軽く行ってはいるが、なかなかに繊細な魔法なのである。
「これでここに残ったのは塩ばかりになるわ。ちょっとなめてみる?」
チェリシアが勧めてくるので、プルネが代表してやって来る。
ぺろっ。
「……!」
なめた瞬間、プルネの表情が渋くなる。
「しょっぱい……」
下をちょろりと出しながら、プルネは呟いた。
「でしょ。今日はこれから、昼食までこれをやってもらうわよ。学園じゃどうせここまでのこと教えてないでしょうからね。生活のために使うことで、繊細な魔法を覚えるようになるのよ。さぁ頑張ってね」
チェリシアはにやつきながら言い放っている。ペシエラは呆れた表情だし、アイリスはただただ苦笑いである。これがチェリシアなのだ、仕方ないのだ。
楽しい旅行かと思えば、突然始まった魔法の勉強である。
「お母様」
「何かしら、フューシャ」
「闇魔法でできるのかしら」
「ええ、できるわよ。見ててちょうだい」
フューシャからの質問に、アイリスが水槽の前に立つ。アイリスは両手を前に突き出して魔法を使う。
闇の魔力が水槽に満ちていく。
「こうやって、特定のものに闇の魔力をまとわせて固めていくと……」
丁寧に魔法を使って、海水に溶け込んだ塩の成分を闇の魔力で集めていく。
「それで、ある程度大きくなったらこうやって取り出せばいいの? できるかしらね」
ざばんと音を立てて、闇の球体が水から出てくる。フューシャの手の上に置いて闇の魔力を解除すると、そこには白くて半透明な塊が置かれていた。
それをチェリシアが鑑定すると、確かに『塩の塊』と出てくる。まったくアイリスも魔法の腕を上げたものである。
アイリスが見本を見せると、フューシャとプルネが俄然やる気になっていた。
その後、お昼ご飯までの間、十歳未満の三人を除いて魔法の練習に明け暮れたのだった。
獲れたての魚介類のおいしさといったらこの上なく、コーラル領の確固たる地位を築く一因ともなっているのだ。
そもそもの発端はロゼリアだった。転生したチェリシアと出会って、シェリアの海水から塩を精製し出したのが発端だった。
今では広大な領地を持ち、そこからもたらされる恵みで潤うアイヴォリー王国内随一の富豪な領となっている。ペシエラが王妃という立場に就いたので、さらに拍車がかかっている。
破綻寸前の子爵領のこの発展具合は、成り上がりの物語としても王国内では語られるくらいなのだ。
その豊かなコーラル領の恵みに堪能したシアンたちは、その日はゆっくりと眠りに就いた。
翌日はシェリアの街の散策を行う。
夏の海辺ということもあり、陽の光がかなり強く差していてかなり暑い。
というわけで、王族や貴族の服装としてはかなり軽装である。ただ、日焼けしないように布の面積は多い。水着での露出を控えたのも後々を考えてのことだ。露出が多かったのは前世の意識バリバリのチェリシアくらいである。
よくよく思えば、以前家族旅行でやって来たシアン以外は、このシェリアへやって来るのは今回が初めてである。フューシャやプルネですら来たことがない。そういったこともあって、みんなシェリアの街を物珍しそうに眺めている。
街には獲れたばかりの魚がずらりと売られていて、街ゆく人たちはその魚を真剣に眺めている。
「へえ、にぎわっていますね」
「これでもまだ今日は静かな方ですよ。漁獲量が安定しませんので、今日みたいな不漁だとどうしても活気が落ちてしまうんです」
ライトの感想にアイリスが状況を説明している。
「これでまだ静かなんですか」
「はい、静かです」
驚くライトににこにこと答えるアイリス。認識の違いというのがもろに出ている。
街を案内するチェリシアとアイリス。その後ろをシアンたちがくっついて歩いている。一番後ろにはキャノルたち使用人軍団がついていっている。脇にも衛兵たちがいるので、実に物々しい集団である。王族が四人もいれば仕方のない陣形だ。
一行がやって来たのは海岸近くの塩の製作小屋。ここでは海水をくみ上げて、魔法など様々な方法で塩を作っている。
その一角にシアンたちは案内される。
「それじゃ、今日は魔法の練習を兼ねて塩を作ってみましょう」
にこにこというチェリシアである。子どもたちは揃いも揃って「は?」というような表情をしている。
戸惑うシアンたちの前に、海水がたっぷり入った水槽が運ばれてくる。
「これをこうやって、塩を取り出すんですよ」
隣には空の大きな桶が置かれており、チェシリアは目の前の水槽から海水だけを魔法で取り出している。
「すごい……」
水槽の中のすべての水分が、シアンたちの目の前に浮かび上がっている。
「これは水魔法で、溶けている物質などを無視して純粋な水だけを取り出しているんですよ」
チェリシアは説明しながら、後ろの水桶にざばーっと水を放り込む。持ってこられた水槽の中には、土や砂以外にもなにやらキラキラしたものが残っている。
そこから今度は土魔法で不純物を取り除いていく。まったくもってひょいひょいと軽く行ってはいるが、なかなかに繊細な魔法なのである。
「これでここに残ったのは塩ばかりになるわ。ちょっとなめてみる?」
チェリシアが勧めてくるので、プルネが代表してやって来る。
ぺろっ。
「……!」
なめた瞬間、プルネの表情が渋くなる。
「しょっぱい……」
下をちょろりと出しながら、プルネは呟いた。
「でしょ。今日はこれから、昼食までこれをやってもらうわよ。学園じゃどうせここまでのこと教えてないでしょうからね。生活のために使うことで、繊細な魔法を覚えるようになるのよ。さぁ頑張ってね」
チェリシアはにやつきながら言い放っている。ペシエラは呆れた表情だし、アイリスはただただ苦笑いである。これがチェリシアなのだ、仕方ないのだ。
楽しい旅行かと思えば、突然始まった魔法の勉強である。
「お母様」
「何かしら、フューシャ」
「闇魔法でできるのかしら」
「ええ、できるわよ。見ててちょうだい」
フューシャからの質問に、アイリスが水槽の前に立つ。アイリスは両手を前に突き出して魔法を使う。
闇の魔力が水槽に満ちていく。
「こうやって、特定のものに闇の魔力をまとわせて固めていくと……」
丁寧に魔法を使って、海水に溶け込んだ塩の成分を闇の魔力で集めていく。
「それで、ある程度大きくなったらこうやって取り出せばいいの? できるかしらね」
ざばんと音を立てて、闇の球体が水から出てくる。フューシャの手の上に置いて闇の魔力を解除すると、そこには白くて半透明な塊が置かれていた。
それをチェリシアが鑑定すると、確かに『塩の塊』と出てくる。まったくアイリスも魔法の腕を上げたものである。
アイリスが見本を見せると、フューシャとプルネが俄然やる気になっていた。
その後、お昼ご飯までの間、十歳未満の三人を除いて魔法の練習に明け暮れたのだった。
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