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新章 青色の智姫
第84話 久しぶりのアイヴォリー王城
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馬車で一週間をかけてようやく王都に戻ってきたシアンたち。
「はぁ、ようやく夏季休暇本番ですね。合宿のせいで半分が潰れて大変ですよ」
城に戻るなり、愚痴をぶちまけながら脱力している。
「こんなシアン様は初めて見ますね」
スミレもこの言いっぷりである。そのくらい、今のシアンは力を抜き切ってだらけているのである。
今のシアンの姿を、スミレが見た事ないというのも当然だろう。なにせスミレとシアンの付き合いは、シアンが既にロゼリアの専属侍女となっていた時からなのだ。
アクアマリン子爵家の四女として真面目に生きてきたシアンは、それこそ何事にも一生懸命な真面目人間だった。どんな時でも弱音は吐かず、主であるロゼリアに尽くしてきた。
そんなシアンも、今は十三歳の少女である。そうなると体の年齢に引っ張られて、相応の態度が出てしまうというものなのだ。
その結果が、目の前のだらけたシアンなのである。
「今のシアン様は王女殿下なのです。いくら私しかいないとはいっても、そんな事では困りますよ。いつライト殿下やダイア王女殿下が来られてもいいように、しゃんとしておきませんと」
今居る場所がアイヴォリー王城だということを踏まえて、スミレはお小言を言っておく。
「……それもそうですね。年長者として、しっかりと見本を見せませんと」
シアンはごそごそと姿勢を正していた。まったく、根は真面目なシアンらしいというものだ。
だが、その直後だった。
「お帰りなさい、シアン様」
ダイアが部屋に乱入してきた。
ペシエラの娘でシアンのひとつ下になるダイア。来年には同じように合宿に参加することになるので、シアンが戻ってくるのを楽しみしていたようだった。
「わとと……。もう、ダイアったら。部屋に入る前にはちゃんとノックをして挨拶をするものですよ」
「はっ! ご、ごめんなさい……」
シアンに咎められて、ダイアはしゅんと下を向いてしまった。さすがは現在十二歳の少女である。こういった仕草が可愛くて仕方がない。
「次からは気をつけなさいね」
「はい、シアン様」
シアンが優しく諭すと、ダイアは反省した様子で頭を下げていた。
シアンはスミレとダイアの侍女に目を遣って、お茶菓子の用意を促す。スミレが侍女を連れて外へ行くと、シアンは立ち上がってダイアをテーブルまで連れていく。
「ふふっ、合宿がどんなものだったか、お話してあげますわよ」
「は、はい、シアン様。お願いします」
にこやかに笑うシアンではあるものの、ダイアは緊張した様子でじっとシアンを見ていた。
しばらくして、お菓子と紅茶を持ってスミレたちが帰ってくる。お菓子を食べながら、シアンはスミレにも報告するような形で、学園の夏合宿の様子を話し始めたのだった。
長々と話をしていると、疲れてしまったのかダイアがこくりこくりと舟をこぎ始める。
その姿を見たダイアの侍女は、すぐにダイアに駆け寄っていた。そして、シアンたちに断りを入れて、眠たそうなダイアの手を引いて部屋を出ていった。
「まだまだダイアは子どもですね」
「あなたも今は子どもでしょうに。一歳しか違わないんですよ?」
「ふふっ、そうでしたね」
にこやかに笑うシアンである。
だが、すぐさまシアンは表情を引き締めていた。ここから本題といわんばかりの表情だ。
「さて、スミレはここから感じ取っていたかは知りませんが、今回の合宿では久しぶりにアレが使われたようですよ」
「なんですか、アレって」
指示代名詞でいうものだから、スミレが困惑した表情を見せている。
「デーモンハートですよ。ペシエラ様が遣わされたライたちが発見したみたいで、すでに破壊したそうですが」
「デーモンハートですって?!」
さすがのスミレも声を荒げる。これには思わずシアンが口を塞ぎにかかる。
「し、失礼致しました。久しぶりにその不快なものの名を聞いたので取り乱してしまいした」
落ち着いた様子で反省の弁を述べるスミレである。
「でも、それが何かを知る者からすれば、そういう反応になりますよね」
「その通りでございます。魔石同様に魔物から生成されるとはいえ、その入手は困難を極めるという魔性の石。そんなものが再び出てきたということは、私が処罰したあいつらの残党がまだ存在していると……」
ぎりっと爪を噛む勢いで、露骨なまでに嫌な表情を浮かべるスミレ。幻獣である彼女がここまで感情を露わにするというのも、なかなかに珍しい話だ。
「シアン様に危害を加えようなど、言語道断。ああ、幻獣としての力が使えないのがもどかしいわ」
「スミレ、さすがに怖いわよ」
両手をわなわなと震わせて怒るスミレの姿に、シアンは呆れながら注意を入れておく。一応王女の侍女であるという立場を忘れられては困るのだ。
「まぁ、ケットシーも動いていますし、そちらは任せておいていいかと思います。見た目も態度も胡散くささしかありませんが、頼りになる幻獣ですからね」
「ぐぬぬぬ、ケットシーめ……」
同じ幻獣として屈辱の表情の浮かべるスミレである。その説明しづらい表情を見ながら、シアンは優雅にお茶をたしなんでいたのだった。
「はぁ、ようやく夏季休暇本番ですね。合宿のせいで半分が潰れて大変ですよ」
城に戻るなり、愚痴をぶちまけながら脱力している。
「こんなシアン様は初めて見ますね」
スミレもこの言いっぷりである。そのくらい、今のシアンは力を抜き切ってだらけているのである。
今のシアンの姿を、スミレが見た事ないというのも当然だろう。なにせスミレとシアンの付き合いは、シアンが既にロゼリアの専属侍女となっていた時からなのだ。
アクアマリン子爵家の四女として真面目に生きてきたシアンは、それこそ何事にも一生懸命な真面目人間だった。どんな時でも弱音は吐かず、主であるロゼリアに尽くしてきた。
そんなシアンも、今は十三歳の少女である。そうなると体の年齢に引っ張られて、相応の態度が出てしまうというものなのだ。
その結果が、目の前のだらけたシアンなのである。
「今のシアン様は王女殿下なのです。いくら私しかいないとはいっても、そんな事では困りますよ。いつライト殿下やダイア王女殿下が来られてもいいように、しゃんとしておきませんと」
今居る場所がアイヴォリー王城だということを踏まえて、スミレはお小言を言っておく。
「……それもそうですね。年長者として、しっかりと見本を見せませんと」
シアンはごそごそと姿勢を正していた。まったく、根は真面目なシアンらしいというものだ。
だが、その直後だった。
「お帰りなさい、シアン様」
ダイアが部屋に乱入してきた。
ペシエラの娘でシアンのひとつ下になるダイア。来年には同じように合宿に参加することになるので、シアンが戻ってくるのを楽しみしていたようだった。
「わとと……。もう、ダイアったら。部屋に入る前にはちゃんとノックをして挨拶をするものですよ」
「はっ! ご、ごめんなさい……」
シアンに咎められて、ダイアはしゅんと下を向いてしまった。さすがは現在十二歳の少女である。こういった仕草が可愛くて仕方がない。
「次からは気をつけなさいね」
「はい、シアン様」
シアンが優しく諭すと、ダイアは反省した様子で頭を下げていた。
シアンはスミレとダイアの侍女に目を遣って、お茶菓子の用意を促す。スミレが侍女を連れて外へ行くと、シアンは立ち上がってダイアをテーブルまで連れていく。
「ふふっ、合宿がどんなものだったか、お話してあげますわよ」
「は、はい、シアン様。お願いします」
にこやかに笑うシアンではあるものの、ダイアは緊張した様子でじっとシアンを見ていた。
しばらくして、お菓子と紅茶を持ってスミレたちが帰ってくる。お菓子を食べながら、シアンはスミレにも報告するような形で、学園の夏合宿の様子を話し始めたのだった。
長々と話をしていると、疲れてしまったのかダイアがこくりこくりと舟をこぎ始める。
その姿を見たダイアの侍女は、すぐにダイアに駆け寄っていた。そして、シアンたちに断りを入れて、眠たそうなダイアの手を引いて部屋を出ていった。
「まだまだダイアは子どもですね」
「あなたも今は子どもでしょうに。一歳しか違わないんですよ?」
「ふふっ、そうでしたね」
にこやかに笑うシアンである。
だが、すぐさまシアンは表情を引き締めていた。ここから本題といわんばかりの表情だ。
「さて、スミレはここから感じ取っていたかは知りませんが、今回の合宿では久しぶりにアレが使われたようですよ」
「なんですか、アレって」
指示代名詞でいうものだから、スミレが困惑した表情を見せている。
「デーモンハートですよ。ペシエラ様が遣わされたライたちが発見したみたいで、すでに破壊したそうですが」
「デーモンハートですって?!」
さすがのスミレも声を荒げる。これには思わずシアンが口を塞ぎにかかる。
「し、失礼致しました。久しぶりにその不快なものの名を聞いたので取り乱してしまいした」
落ち着いた様子で反省の弁を述べるスミレである。
「でも、それが何かを知る者からすれば、そういう反応になりますよね」
「その通りでございます。魔石同様に魔物から生成されるとはいえ、その入手は困難を極めるという魔性の石。そんなものが再び出てきたということは、私が処罰したあいつらの残党がまだ存在していると……」
ぎりっと爪を噛む勢いで、露骨なまでに嫌な表情を浮かべるスミレ。幻獣である彼女がここまで感情を露わにするというのも、なかなかに珍しい話だ。
「シアン様に危害を加えようなど、言語道断。ああ、幻獣としての力が使えないのがもどかしいわ」
「スミレ、さすがに怖いわよ」
両手をわなわなと震わせて怒るスミレの姿に、シアンは呆れながら注意を入れておく。一応王女の侍女であるという立場を忘れられては困るのだ。
「まぁ、ケットシーも動いていますし、そちらは任せておいていいかと思います。見た目も態度も胡散くささしかありませんが、頼りになる幻獣ですからね」
「ぐぬぬぬ、ケットシーめ……」
同じ幻獣として屈辱の表情の浮かべるスミレである。その説明しづらい表情を見ながら、シアンは優雅にお茶をたしなんでいたのだった。
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