逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第83話 モスグリネ王城でのやり取り

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 姿を消したケットシーは、モスグリネの王城に姿を見せていた。
「やあ、ペイルくん、ロゼリアくん。今は暇かい?」
 にこやかに手を振りながら執務室に乗り込んでくるケットシー。
「どう見たら暇なように見えるんだ」
「まったくですね。糸目だからよく見えないのかしら」
「はっはっはっ、二人とも相変わらず辛らつだね。いやぁ、いつも通りで安心したよ」
 ところが、ペイルとロゼリアから冷たくあしらわれてしまう。それでも笑っているのはさすがケットシーといったところだろう。
「で、何の用なんだ。お前は商業組合の仕事で忙しいはずだろ」
「はっはっはっ、ボクの部下は有能だからね。特にストロアは十分ボクの代わりになれる逸材だ。そしてなにより、このボクを縛り付けるなど、誰にもできないからね」
 ペイルの愚痴に、ケットシーはのんきに笑いながら話している。これには二人ともまともに相手をする気を失うというものだ。
 だが、ケットシーは二人に対してにやにやと笑いながら話を始める。
「いいのかね、そんな態度で。今日ボクが来たのは、二人の娘であるシアンくんに関連した話なんだよ」
「なんだと?!」
 ケットシーの言葉に、ペイルとロゼリアが揃ってケットシーへと顔を向ける。二人の分かりやすい反応に、さっきよりもいい笑顔を見せるケットシーである。
「はっはっはっはっ。それでは、報告させてもらうよ」
 ケットシーは室内のソファーに腰を掛けると、ゆっくりと報告を始めた。

「デーモンハート、まだそんな危険なものが転がっているのか」
「まあね。魔物さえいればいくらでも作り出せるよ。ただし、とても根気がいる作業だけどね。あちっ」
 ひと通り説明を終えたケットシーは紅茶を飲んでいる。だが、猫舌なのを忘れていたようで、その熱さに思わず困惑した表情を浮かべていた。
「それにしても、オニオール男爵家ですか。嫁いできてから国内の貴族は把握したつもりでしたが、初耳の貴族ですね」
「仕方がない。オニオール男爵家は、男爵自身も身内もほとんど公式の場に姿を見せないからな。籍だけがあるような状態だ」
 ロゼリアが深く考え込むと、ペイルはそのようにフォローを入れていた。
「そのようなことは許されるのですかね」
「普通は無理だろうな。だが、奴らは俺たちの結婚式にも即位式にも姿を見せなかった。辺境なのをいいことに、かなり自由気ままに行っているようだ」
「まあ……」
 ペイルの話を聞いて、驚きを隠せないロゼリアだった。
「そんなオニオール家だが、最近になってこの王都に姿を見せた」
「それはいつですか?」
「去年の秋だ。自分のところの息子も留学させろと直談判しに来たんだ」
「まあ、私がチェリシアと一緒に大豆の視察に出ていた頃ではないですか」
 話を聞いて、再び驚くロゼリアである。
「アイヴォリー出身の君と遭遇するのを避けての行動だろうな。留学自体は正当な権利なのですぐに了承されたよ」
 ペイルの話に黙り込んでしまうロゼリアだった。
「まぁそんなオニオール家だけど、どうやらサンフレア学園の合宿で少々やらかしてくれたらしい。本人はバレていないと思っているだろうが、ペシエラくんとアイリスくんが監視を送っていてね。そこで発覚したことなんだ」
「まぁ、さすがペシエラね」
 ケットシーの話を聞いて、おかしそうに笑うロゼリアである。
 もうすっかり昔のわだかまりなどなくなっているので、ペシエラの行動に素直に感心しているのである。
 ケットシーはそれ以外にも、監視をしていたキャノルとライの二人の報告をペイルとロゼリアに行う。
 途中から割り込んでいたくせに、まるで最初からいたようにすべてを話すケットシー。相変わらず神出鬼没でつかみどころのない幻獣なのだ。
「デーモンハートと宝珠か。また面倒な組み合わせだな」
「私たちの時は宝珠単独で魔物氾濫を起こしていましたけど、デーモンハートまで持ち出したということは、明確な殺意があったということですね」
「まぁそうだね。でも、そのデーモンハートはライくんが砕いてくれたし、その出処は分からない。証拠はあの宝珠と監視二人の証言だけだ。しらを切られれば、処罰をするとしても軽微なものになるだろうね」
「うーむ、確かにそうだな……」
 ケットシーの意見に、真剣に悩むペイルである。
 パープリア男爵の時は、ライの報告とアイリスの母親であるアメジスタの証言もあったからこそ、どうにか極刑までもっていけたようなものだ。
 今回はデーモンハートを先に壊してしまったことで計画は不発。王族を狙ったとはいえど確固たる証拠はなくなってしまった。これでは裁くに裁けないのだ。
「はぁ、仕方ないな。調査員を密かに送るしかないだろう。いくら辺境とはいえども、少々特別扱いが過ぎたな」
 ペイルはどうやらやる気のようである。
「王国にあだ名す可能性のある者だ。徹底的に監視して調べ上げてやろうじゃないか」
「そうですね。私たちの娘に手を出そうとしたのですから、それはもう無慈悲なくらいにやってやりましょう」
 ペイルもロゼリアもものすごい気迫である。あのケットシーですらも気圧されるくらいだった。
「まぁ、必要なものがあったらボクに相談をしておくれ。これでも精霊の森出身の幻獣だからね。ある程度のものの調達は可能だよ」
「必要になったらな」
 きっぱりと断るような言い方をするペイルである。自分の娘に危険を及ぼうとした存在なのだから、自分たちの手で下したいのだろう。
 こうして、ロゼリアたちは新たなる脅威との戦いに臨むことになったのだった。
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