448 / 543
新章 青色の智姫
第79話 合宿最終日
しおりを挟む
夏合宿の最終日、シアンたちは実戦を積むためにサファイア湖の近くの森に出向いていた。この実地訓練はロゼリアたちも行ったものであり、万一の事態に慣れるために行われているのである。
シアンたちはというと、よりにもよってクライたちの班と合同となった。クライの班には浮かない表情のココナスと知らない学生が数名一緒にいた。物理タイプの学生たちばかりで集まったようではなかったようだ。
「クライ様、ココナス様、本日はよろしくお願い致します」
ブランチェスカとプルネが丁寧に挨拶をしている。
「いやぁ、同じ班とは奇遇だな。こっちこそよろしく頼むぞ」
クライも気さくに挨拶をしている。
だが、この班を見て不安に思うことはあるシアン。誰が料理をできるのかということだ。
この実地訓練では、昼食は自分たちで調理をしなければならない。道具は何も渡されないし、食材すらも現地調達だ。
ちなみにシアンやプルネの両親たちはというと、チェリシアやペシエラのおかげで特に何も問題がなかった。だが、自分たちにはそういった特殊な存在はいないので、シアンには不安しかなかった。
そう思うシアンではあるものの、ロゼリア付きのメイドだった頃の経験があるので、多少の調理はできる。野宿だってできる。ただ、現在は王族であるがために、できたとしてどう事情を説明するかという悩みが同時に浮かんでくる。
だが、シアンが悩む横で、プルネがすっと名乗りを上げた。
「料理なら任せて下さい。キャノルから教えてもらったことがありますので、そこそこできる自信があります」
「よし、なら獲物は俺たちの役目だな。しっかりやってやるぞ、ココナス、ゴーエン」
「任せておけ」
「僕まで勝手に数に入れないでくれませんかね?!」
プルネの言葉を受けて、やる気十分のクライである。ゴーエンと呼ばれた男子学生も同調しているのかやる気十分だが、ココナスは悲鳴を上げていた。体力のなさは以前披露した通りなので、この悲鳴を上げる気持ちは分からなくはなかった。
「ま、まあ、お手柔らかに頼みますね」
この様子にはシアンも困惑せざるを得なかった。
さて、オリエンテーリングが始まる。学生たちが渡されたのは地図のみ。これでサファイア湖の近くの森の中に設置されたチェックポイントを巡って、出発地点へと帰ってくるのだ。
森の中にはそれほど強くはないものの、魔物たちが生息している。戦うも逃げるも自由だが、逃げると食事は間違いなく逃すことになる。
魔法タイプと武術タイプで班は組み合わせてあるし、魔物の解体の仕方は講義も行っている。後は学生たちのやる気次第なのだ。
「さて、魔物との実戦とは腕が鳴るな」
クライはやる気満々でどんどんと突き進んでいく。当然ながら、そんな足についていけるのはゴーエンくらいだ。シアンたちはどんどんと置いていかれてしまう。
「クライ、速すぎます。少しは他の方にも気を配って下さいな」
「ああ、すまない。魔物との戦闘が楽しみすぎて、気が逸ってしまったな。がははははっ」
シアンの苦言を受けて、謝罪をしながらも大口を上げて笑うクライ。まったく反省していないようである。
しばらく進んでいると、がさがさと茂みが揺れる。
「おっ、早速お出ましか?」
クライが剣を構える。学園の講義の最中に実戦の剣を握るのは初めてのはずだが、まったくもって躊躇がない。
「グルルルル……」
「これは、ウルフですね」
森の魔物として定番のウルフだった。
「へっ、ウルフ程度、俺の敵じゃないぜ。おとなしく俺たちの昼飯になりなっ!」
「それには同意だな。シアン王女たちはサポートを頼みます」
「はい、分かりました」
ゴーエンの方はかなり落ち着いていたようで、シアンたちに一声掛けてからウルフの群れへと向かっていった。
「一、二、三……、全部で六匹ですね。これならそう苦戦はしないでしょう。プルネ、念のために周りを警戒して下さい」
「しょ、承知しました」
ブランチェスカとココナスはおそらく初めての対魔物の実戦。なので、キャノルから教えを受けたというプルネに周囲の警戒を任せるシアン。
そのシアンはというと、クライとゴーエン、それと敵であるウルフの動きをじっくりと観察している。危なそうならば効果的に支援をするためだ。
シアンの扱う属性は地水風の三属性。攻防ともにそれなりに役に立つ属性である。ただ、少々癖があるので扱いには慣れが必要である。
ウルフと戦うクライとゴーエンだが、二人の攻撃タイプはかなり違っている。クライは力任せなタイプで、攻撃は比較的大振り。対するゴーエンの方は敵に合わせ、小さな動きで的確に敵をいなして反撃するタイプのようだ。
「シャットミスト!」
「おっ、ナイスタイミング」
シアンは動きを見ながらウルフの視界を遮る霧を発生させる。うまく二人がウルフの注意を引きつけてくれているので、安心してタイミングを合わせられるというもの。
こうして、クライとゴーエン、それとシアンの連携でウルフは着実にその数を減らしていったのだった。
シアンたちはというと、よりにもよってクライたちの班と合同となった。クライの班には浮かない表情のココナスと知らない学生が数名一緒にいた。物理タイプの学生たちばかりで集まったようではなかったようだ。
「クライ様、ココナス様、本日はよろしくお願い致します」
ブランチェスカとプルネが丁寧に挨拶をしている。
「いやぁ、同じ班とは奇遇だな。こっちこそよろしく頼むぞ」
クライも気さくに挨拶をしている。
だが、この班を見て不安に思うことはあるシアン。誰が料理をできるのかということだ。
この実地訓練では、昼食は自分たちで調理をしなければならない。道具は何も渡されないし、食材すらも現地調達だ。
ちなみにシアンやプルネの両親たちはというと、チェリシアやペシエラのおかげで特に何も問題がなかった。だが、自分たちにはそういった特殊な存在はいないので、シアンには不安しかなかった。
そう思うシアンではあるものの、ロゼリア付きのメイドだった頃の経験があるので、多少の調理はできる。野宿だってできる。ただ、現在は王族であるがために、できたとしてどう事情を説明するかという悩みが同時に浮かんでくる。
だが、シアンが悩む横で、プルネがすっと名乗りを上げた。
「料理なら任せて下さい。キャノルから教えてもらったことがありますので、そこそこできる自信があります」
「よし、なら獲物は俺たちの役目だな。しっかりやってやるぞ、ココナス、ゴーエン」
「任せておけ」
「僕まで勝手に数に入れないでくれませんかね?!」
プルネの言葉を受けて、やる気十分のクライである。ゴーエンと呼ばれた男子学生も同調しているのかやる気十分だが、ココナスは悲鳴を上げていた。体力のなさは以前披露した通りなので、この悲鳴を上げる気持ちは分からなくはなかった。
「ま、まあ、お手柔らかに頼みますね」
この様子にはシアンも困惑せざるを得なかった。
さて、オリエンテーリングが始まる。学生たちが渡されたのは地図のみ。これでサファイア湖の近くの森の中に設置されたチェックポイントを巡って、出発地点へと帰ってくるのだ。
森の中にはそれほど強くはないものの、魔物たちが生息している。戦うも逃げるも自由だが、逃げると食事は間違いなく逃すことになる。
魔法タイプと武術タイプで班は組み合わせてあるし、魔物の解体の仕方は講義も行っている。後は学生たちのやる気次第なのだ。
「さて、魔物との実戦とは腕が鳴るな」
クライはやる気満々でどんどんと突き進んでいく。当然ながら、そんな足についていけるのはゴーエンくらいだ。シアンたちはどんどんと置いていかれてしまう。
「クライ、速すぎます。少しは他の方にも気を配って下さいな」
「ああ、すまない。魔物との戦闘が楽しみすぎて、気が逸ってしまったな。がははははっ」
シアンの苦言を受けて、謝罪をしながらも大口を上げて笑うクライ。まったく反省していないようである。
しばらく進んでいると、がさがさと茂みが揺れる。
「おっ、早速お出ましか?」
クライが剣を構える。学園の講義の最中に実戦の剣を握るのは初めてのはずだが、まったくもって躊躇がない。
「グルルルル……」
「これは、ウルフですね」
森の魔物として定番のウルフだった。
「へっ、ウルフ程度、俺の敵じゃないぜ。おとなしく俺たちの昼飯になりなっ!」
「それには同意だな。シアン王女たちはサポートを頼みます」
「はい、分かりました」
ゴーエンの方はかなり落ち着いていたようで、シアンたちに一声掛けてからウルフの群れへと向かっていった。
「一、二、三……、全部で六匹ですね。これならそう苦戦はしないでしょう。プルネ、念のために周りを警戒して下さい」
「しょ、承知しました」
ブランチェスカとココナスはおそらく初めての対魔物の実戦。なので、キャノルから教えを受けたというプルネに周囲の警戒を任せるシアン。
そのシアンはというと、クライとゴーエン、それと敵であるウルフの動きをじっくりと観察している。危なそうならば効果的に支援をするためだ。
シアンの扱う属性は地水風の三属性。攻防ともにそれなりに役に立つ属性である。ただ、少々癖があるので扱いには慣れが必要である。
ウルフと戦うクライとゴーエンだが、二人の攻撃タイプはかなり違っている。クライは力任せなタイプで、攻撃は比較的大振り。対するゴーエンの方は敵に合わせ、小さな動きで的確に敵をいなして反撃するタイプのようだ。
「シャットミスト!」
「おっ、ナイスタイミング」
シアンは動きを見ながらウルフの視界を遮る霧を発生させる。うまく二人がウルフの注意を引きつけてくれているので、安心してタイミングを合わせられるというもの。
こうして、クライとゴーエン、それとシアンの連携でウルフは着実にその数を減らしていったのだった。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説

かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-
牛一/冬星明
ファンタジー
神様に気に入られた悪女令嬢が好きな少女は眷属神にされた。
どう見ても人の言う事を聞かなそうな神様の下で働くなって絶対嫌だった。
少女は過労死で死んだ記憶がある。
働くなら絶対にホワイトな職場だ。
神様のスカウトを断った少女だったが、人の話を聞かない神様が許す訳もない。
少女は眷属神の卵として転生を繰り返す。
そいて、ジュリアーナ・マジク・アラルンガルはこの世界に転生された。
だが、神々の加護を貰えないジュリアーナはすぐに捨てられた。
この可哀想な神様の卵に幸はあるのだろうか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。
よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる