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新章 青色の智姫
第78話 異物回収
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ぽちゃんと宝珠が湖に沈んでいく。
計画した通りならば、これでサファイア湖から大量の魔物が湧き出してくるはずだった。
ところがだ、いくら待てども魔物が湧き出してくる気配がない。あまりにも何も起こらな過ぎて、アッサギーは表情を激しく歪ませた。
(なぜだ。なぜ、何も起きない!)
激しい怒りの表情で歯を思い切り食いしばる。
湖を見てまったく動かないアッサギーに、他の学生たちが襲い掛かる。
「特訓中によそ見とは余裕だな、アッサギー・オニオール!」
「ちぃっ!」
声に反応して、アッサギーは間一髪攻撃を受け止める。回避するには時間が足りなかった。それでもきちんと受け止められるとは、アッサギーも技量自体は普通にあるようだった。
「ははっ、そうこなくっちゃなぁ」
「不意を打つのは騎士のやることか? カシス・オベルジーヌさんよぉ」
「名前を知ってもらえているとは光栄だな。さぁ、打ち合え。俺を楽しませろ」
「おい、ワッケギー。お前も手伝え」
「わ、分かった」
アッサギーに呼ばれて、ワッケギーもカシスとの打ち合いに参加する。
魔法タイプの学生も加わって、実に楽しそうに打ち合いをする学生たちだった。
―――
学生たちの訓練を見守るキャノルとライは、先程の光景を一部始終見ていた。
「おい、見たか今の」
「はい、湖に何か投げ込みましたね」
どうやらアッサギーの行動は、少し離れた場所からシアンたちを見守るキャノルたちから丸見えだったようである。
「しっかし、あの青緑の髪の連中って誰だっけか」
キャノルは誰なのか分からずに首を傾げている。アイリスの侍女を務めているとはいえ、貴族たちの顔にはいまいち知らない者も多いのである。
「あれは、オニオール子爵の嫡男のワッケギー・オニオールですね。先程何かを投げ込む仕草をしていた方は知りませんが、ワッケギーの名前を呼んでいたことから知り合いで間違いないでしょうね」
ライの方がまだ詳しかった。それでもモスグリネの貴族であるアッサギーのことは分からなかったようである。
「オニオール子爵家のことは書物で見た程度ですけれど存じ上げています。昔、何かの罪を犯して辺境に流された一族だとかで。ただ、辺境防衛の功績を称えられて子爵位に返り咲いたとかだそうですよ」
「へぇ、そんな一族とかかわりがあるってことは、あっちはなんかにおうな……」
キャノルがぺろりと舌を出しながら笑う。まるで昔の暗殺者稼業をしていた頃の表情だ。それにはライも少し驚いていた。久しぶりに見た顔だったのだから。
「先程投げ込んだ何かは後で回収するとしましょう。放っておくと間違いなく先日のデーモンハート同様に面倒なことになります」
「だな。とりあえず今はこのまま監視ってことでいいか」
「ですね」
というわけで、キャノルとライはこの日の訓練を日が沈むまでじっと観察し続けたのだった。
日が暮れると、キャノルとライは月明かりに照らされたサファイア湖の前に立つ。
キャノルの服装は暗殺者時代の服装に戻っているし、ライの服装も精霊の姿である。
「それじゃ、キャノルは周りの警戒をよろしく」
「任せとけって。これでもまだまだ腕は鈍っちゃいねえからな」
力こぶを作ってにかっと笑うキャノル。その姿につい笑ってしまうライである。
先日のデーモンハート捜索の時同様に、風魔法で自分の周りを包み込み、湖の中へと飛び込んでいく。
本来月明かりだけではそれほど見えたものではないが、暗殺者経験のあるキャノルや精霊であるライにとってはあまり関係はなかった。
ごぽごぽと湖に潜っていくライの頭の中に、突如として声が響く。
『おやおや、またどうしたんだい』
『蒼鱗魚。変なものを湖に投げ込んだやつがいたから、確認しに来たのよ』
『まぁ、そいつはご苦労だねぇ』
蒼鱗魚は驚いているようだが、相変わらずののんびり具合だ。
『まぁ、デーモンハートないから脅威ではないだろうけど、念のために蒼鱗魚たちは離れていてね』
『もちろんだとも。頼んだよ』
念話による会話を終えると、ライは投げ込まれただろう位置の湖底を調べ始める。
サファイア湖の中は流れがほとんどなく、蒼鱗魚から漏れ出した魔力の関係で夜でもほんのり明るい。そのために真夜中であっても湖の中がよく見えるというものだ。
ライがデーモンハートがあった辺りに差し掛かると、固定がきらりと光っているのが見えた。
(うん、あれは?)
慌てて近寄るライ。すると、そこには不気味な紫色の宝珠が転がっていたのだった。
(うっわぁ……、見るからに不気味な色じゃないの。禍々しすぎてすぐ分かるわ)
デーモンハートが転がっていたまさにその場所に、アッサギーの投げ込んだ宝珠が転がっていたのだった。
ライはものすごくためらいながらも、大事な証拠品として宝珠を拾い上げる。そして、収納魔法付きの鞄に素早くしまい込んだ。
(あとで誰かに鑑定してもらいましょう)
無事に宝珠を回収したライは、さっさと地上へと浮かび上がっていったのだった。
計画した通りならば、これでサファイア湖から大量の魔物が湧き出してくるはずだった。
ところがだ、いくら待てども魔物が湧き出してくる気配がない。あまりにも何も起こらな過ぎて、アッサギーは表情を激しく歪ませた。
(なぜだ。なぜ、何も起きない!)
激しい怒りの表情で歯を思い切り食いしばる。
湖を見てまったく動かないアッサギーに、他の学生たちが襲い掛かる。
「特訓中によそ見とは余裕だな、アッサギー・オニオール!」
「ちぃっ!」
声に反応して、アッサギーは間一髪攻撃を受け止める。回避するには時間が足りなかった。それでもきちんと受け止められるとは、アッサギーも技量自体は普通にあるようだった。
「ははっ、そうこなくっちゃなぁ」
「不意を打つのは騎士のやることか? カシス・オベルジーヌさんよぉ」
「名前を知ってもらえているとは光栄だな。さぁ、打ち合え。俺を楽しませろ」
「おい、ワッケギー。お前も手伝え」
「わ、分かった」
アッサギーに呼ばれて、ワッケギーもカシスとの打ち合いに参加する。
魔法タイプの学生も加わって、実に楽しそうに打ち合いをする学生たちだった。
―――
学生たちの訓練を見守るキャノルとライは、先程の光景を一部始終見ていた。
「おい、見たか今の」
「はい、湖に何か投げ込みましたね」
どうやらアッサギーの行動は、少し離れた場所からシアンたちを見守るキャノルたちから丸見えだったようである。
「しっかし、あの青緑の髪の連中って誰だっけか」
キャノルは誰なのか分からずに首を傾げている。アイリスの侍女を務めているとはいえ、貴族たちの顔にはいまいち知らない者も多いのである。
「あれは、オニオール子爵の嫡男のワッケギー・オニオールですね。先程何かを投げ込む仕草をしていた方は知りませんが、ワッケギーの名前を呼んでいたことから知り合いで間違いないでしょうね」
ライの方がまだ詳しかった。それでもモスグリネの貴族であるアッサギーのことは分からなかったようである。
「オニオール子爵家のことは書物で見た程度ですけれど存じ上げています。昔、何かの罪を犯して辺境に流された一族だとかで。ただ、辺境防衛の功績を称えられて子爵位に返り咲いたとかだそうですよ」
「へぇ、そんな一族とかかわりがあるってことは、あっちはなんかにおうな……」
キャノルがぺろりと舌を出しながら笑う。まるで昔の暗殺者稼業をしていた頃の表情だ。それにはライも少し驚いていた。久しぶりに見た顔だったのだから。
「先程投げ込んだ何かは後で回収するとしましょう。放っておくと間違いなく先日のデーモンハート同様に面倒なことになります」
「だな。とりあえず今はこのまま監視ってことでいいか」
「ですね」
というわけで、キャノルとライはこの日の訓練を日が沈むまでじっと観察し続けたのだった。
日が暮れると、キャノルとライは月明かりに照らされたサファイア湖の前に立つ。
キャノルの服装は暗殺者時代の服装に戻っているし、ライの服装も精霊の姿である。
「それじゃ、キャノルは周りの警戒をよろしく」
「任せとけって。これでもまだまだ腕は鈍っちゃいねえからな」
力こぶを作ってにかっと笑うキャノル。その姿につい笑ってしまうライである。
先日のデーモンハート捜索の時同様に、風魔法で自分の周りを包み込み、湖の中へと飛び込んでいく。
本来月明かりだけではそれほど見えたものではないが、暗殺者経験のあるキャノルや精霊であるライにとってはあまり関係はなかった。
ごぽごぽと湖に潜っていくライの頭の中に、突如として声が響く。
『おやおや、またどうしたんだい』
『蒼鱗魚。変なものを湖に投げ込んだやつがいたから、確認しに来たのよ』
『まぁ、そいつはご苦労だねぇ』
蒼鱗魚は驚いているようだが、相変わらずののんびり具合だ。
『まぁ、デーモンハートないから脅威ではないだろうけど、念のために蒼鱗魚たちは離れていてね』
『もちろんだとも。頼んだよ』
念話による会話を終えると、ライは投げ込まれただろう位置の湖底を調べ始める。
サファイア湖の中は流れがほとんどなく、蒼鱗魚から漏れ出した魔力の関係で夜でもほんのり明るい。そのために真夜中であっても湖の中がよく見えるというものだ。
ライがデーモンハートがあった辺りに差し掛かると、固定がきらりと光っているのが見えた。
(うん、あれは?)
慌てて近寄るライ。すると、そこには不気味な紫色の宝珠が転がっていたのだった。
(うっわぁ……、見るからに不気味な色じゃないの。禍々しすぎてすぐ分かるわ)
デーモンハートが転がっていたまさにその場所に、アッサギーの投げ込んだ宝珠が転がっていたのだった。
ライはものすごくためらいながらも、大事な証拠品として宝珠を拾い上げる。そして、収納魔法付きの鞄に素早くしまい込んだ。
(あとで誰かに鑑定してもらいましょう)
無事に宝珠を回収したライは、さっさと地上へと浮かび上がっていったのだった。
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