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新章 青色の智姫
第75話 シアンたちの推測
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結局、シアンがガレンと話をできたのは夕方だった。一日のスケジュールを終えた後の自由時間である。
「それで、ガレン先生は、辺り一帯の魔力が澄んだ理由が分かっているのですか?」
単刀直入に尋ねるシアンに、ガレンは黙った大きく頷く。
「どういうことなのですか。お話し願えますでしょうか」
ずいっと迫っていくシアンに、ガレンは落ち着くように声を掛ける。そして、ひとつ呼吸を整えて昨夜のことを話し始めた。
「まぁ、そんな事が……」
「ああ、デーモンハートが出てきた以上、おそらくはパープリアの残党か同じような勢力が動いているのは間違いない。学園を狙ったのは、おそらくはシルヴァノたちが襲われたのと同じ理由だろう」
ガレンの話に驚くシアン。その様子を見ながらも、淡々と話をするガレンである。温度差が激しい。
「それにしてもだ。これだけやられたい放題では魔法の一族としてどうなのかね、アクアマリン子爵は」
「……申し開きもできませんね。私が出ていったのが一番の原因でしょうか」
ガレンの指摘にしょんぼりとするシアンである。
「それは結果論だが、影響はあるだろうな。アクアマリン子爵家は魔力が最も強い者が家を継ぐのだろう?」
「ええ、その通りでございます」
そう、アクアマリン子爵家は魔法に秀でた一族である。そのため、魔力が最も強い者が当主を引き継ぐということになっている。
シアンがいた頃のアクアマリン子爵家は、四女であるシアンが最も魔力が強かった。今の当主であるマーリンはその次である。
しかし、そのシアンは家を飛び出して家督を相続せず、どういうわけかマゼンダ侯爵家で令嬢付侍女となっていた。その令嬢こそが、今のシアンの母親であるロゼリアである。
ところが、シアンが家を飛び出した後のアクアマリン子爵家は産業こそ好調なものの、魔法の権威としては凋落の一途だった。それでもどうにか学園の合宿の地としての威厳を保っていられるのは、長年の重用あってこそである。
「それなんですけどね、シアン様」
「うわぁっ!」
ガレンとの話の最中に考え込んでいたシアンは、突然の声に思わず声を出してしまう。
「ら、ら、ら、ライじゃないですか。どうしたのですか、こんなところに」
そう、ガレンの後ろから突如として姿を見せたのはライだった。
「いやぁ、精霊王様と話をしているってことは、多分、私たちのことも知られてると思ってね。ちょうど言いたい事もあったから、顔を出したというわけですよ」
「それはいいですけれど、もうちょっと穏便な登場の仕方はありませんかね」
きょとんとした表情のライに、心臓をバクバクさせながらシアンは文句を言っていた。まったく、精霊というのは心臓に悪い登場の仕方をするものである。
「まぁまぁ、それはさておき。アクアマリン子爵領は魔力のバランスが崩れているのが問題かもしれないわ」
「バランス?」
突然何を言い出すんだという顔のシアンとガレンである。
「そもそもこのアクアマリンの土地は魔力に満ちているわ。その原因があのサファイア湖なのよ。今回中に潜ってみてよく分かったわ」
「えっ、潜ったんですか、あの中に」
「そうよ。問題のデーモンハートは湖底に沈められていたんだもの」
「なんですって?!」
急に大声を出して剣幕が険しくなるシアン。
「……お母様の時だって召喚の用の宝珠を沈めてくれてたし、パープリアの一族は……。はっ、それでプルネに違和感を感じたのね」
「どういうことだ?」
シアンが過去の事を思い出して何かに気がついたらしい。
「プルネはアイリスの娘ですよ? つまりはパープリアの子孫です。ならば、デーモンハートで何らかの影響を受けてもおかしくないんです。その姉のフューシャも」
「なるほどな……」
「ここアクアマリンの地が連中に利用されるのは、サファイア湖からあふれ出る魔力が原因といってもいいわね。ただ、今のアクアマリン子爵家に悪用を封じるだけの力がないということになるわ」
「うっ、うう……」
ライからの指摘で、思わず困り顔になってしまうシアンである。
「私が家を飛び出したのが悪かったのでしょうかね」
「それを今さら言っても仕方ないでしょうけど、影響はあったと見てもいいんじゃないかしら。ただ、その制御を可能にできるのはアクアマリン子爵家じゃなくて、蒼鱗魚と契約したアイリス様でしょうね」
「やっぱり、蒼鱗魚の影響なのか」
「ええ、間違いなく。幻獣はその存在だけで影響が大きいもの。それこそケットシーが異常としか言いようがないわ。普通あんなに堂々としてたら、周りに魔力の影響が出てしまうもの」
ライがぶつぶつという中、シアンがライの後ろを指差して慌てた様子でいる。ガレンも呆れた様子で額に手を当てて顔を背けていた。
「うん? どうしたのよ」
「ほほう、ボクの悪口とはいい度胸だね、ライ」
「げげっ、ケットシー!」
後ろから聞こえてきた声に、驚愕の表情とともに勢いよく飛び跳ねるライ。なんとそこには、モスグリネに居るはずのケットシーが立っていたのだった。
「それで、ガレン先生は、辺り一帯の魔力が澄んだ理由が分かっているのですか?」
単刀直入に尋ねるシアンに、ガレンは黙った大きく頷く。
「どういうことなのですか。お話し願えますでしょうか」
ずいっと迫っていくシアンに、ガレンは落ち着くように声を掛ける。そして、ひとつ呼吸を整えて昨夜のことを話し始めた。
「まぁ、そんな事が……」
「ああ、デーモンハートが出てきた以上、おそらくはパープリアの残党か同じような勢力が動いているのは間違いない。学園を狙ったのは、おそらくはシルヴァノたちが襲われたのと同じ理由だろう」
ガレンの話に驚くシアン。その様子を見ながらも、淡々と話をするガレンである。温度差が激しい。
「それにしてもだ。これだけやられたい放題では魔法の一族としてどうなのかね、アクアマリン子爵は」
「……申し開きもできませんね。私が出ていったのが一番の原因でしょうか」
ガレンの指摘にしょんぼりとするシアンである。
「それは結果論だが、影響はあるだろうな。アクアマリン子爵家は魔力が最も強い者が家を継ぐのだろう?」
「ええ、その通りでございます」
そう、アクアマリン子爵家は魔法に秀でた一族である。そのため、魔力が最も強い者が当主を引き継ぐということになっている。
シアンがいた頃のアクアマリン子爵家は、四女であるシアンが最も魔力が強かった。今の当主であるマーリンはその次である。
しかし、そのシアンは家を飛び出して家督を相続せず、どういうわけかマゼンダ侯爵家で令嬢付侍女となっていた。その令嬢こそが、今のシアンの母親であるロゼリアである。
ところが、シアンが家を飛び出した後のアクアマリン子爵家は産業こそ好調なものの、魔法の権威としては凋落の一途だった。それでもどうにか学園の合宿の地としての威厳を保っていられるのは、長年の重用あってこそである。
「それなんですけどね、シアン様」
「うわぁっ!」
ガレンとの話の最中に考え込んでいたシアンは、突然の声に思わず声を出してしまう。
「ら、ら、ら、ライじゃないですか。どうしたのですか、こんなところに」
そう、ガレンの後ろから突如として姿を見せたのはライだった。
「いやぁ、精霊王様と話をしているってことは、多分、私たちのことも知られてると思ってね。ちょうど言いたい事もあったから、顔を出したというわけですよ」
「それはいいですけれど、もうちょっと穏便な登場の仕方はありませんかね」
きょとんとした表情のライに、心臓をバクバクさせながらシアンは文句を言っていた。まったく、精霊というのは心臓に悪い登場の仕方をするものである。
「まぁまぁ、それはさておき。アクアマリン子爵領は魔力のバランスが崩れているのが問題かもしれないわ」
「バランス?」
突然何を言い出すんだという顔のシアンとガレンである。
「そもそもこのアクアマリンの土地は魔力に満ちているわ。その原因があのサファイア湖なのよ。今回中に潜ってみてよく分かったわ」
「えっ、潜ったんですか、あの中に」
「そうよ。問題のデーモンハートは湖底に沈められていたんだもの」
「なんですって?!」
急に大声を出して剣幕が険しくなるシアン。
「……お母様の時だって召喚の用の宝珠を沈めてくれてたし、パープリアの一族は……。はっ、それでプルネに違和感を感じたのね」
「どういうことだ?」
シアンが過去の事を思い出して何かに気がついたらしい。
「プルネはアイリスの娘ですよ? つまりはパープリアの子孫です。ならば、デーモンハートで何らかの影響を受けてもおかしくないんです。その姉のフューシャも」
「なるほどな……」
「ここアクアマリンの地が連中に利用されるのは、サファイア湖からあふれ出る魔力が原因といってもいいわね。ただ、今のアクアマリン子爵家に悪用を封じるだけの力がないということになるわ」
「うっ、うう……」
ライからの指摘で、思わず困り顔になってしまうシアンである。
「私が家を飛び出したのが悪かったのでしょうかね」
「それを今さら言っても仕方ないでしょうけど、影響はあったと見てもいいんじゃないかしら。ただ、その制御を可能にできるのはアクアマリン子爵家じゃなくて、蒼鱗魚と契約したアイリス様でしょうね」
「やっぱり、蒼鱗魚の影響なのか」
「ええ、間違いなく。幻獣はその存在だけで影響が大きいもの。それこそケットシーが異常としか言いようがないわ。普通あんなに堂々としてたら、周りに魔力の影響が出てしまうもの」
ライがぶつぶつという中、シアンがライの後ろを指差して慌てた様子でいる。ガレンも呆れた様子で額に手を当てて顔を背けていた。
「うん? どうしたのよ」
「ほほう、ボクの悪口とはいい度胸だね、ライ」
「げげっ、ケットシー!」
後ろから聞こえてきた声に、驚愕の表情とともに勢いよく飛び跳ねるライ。なんとそこには、モスグリネに居るはずのケットシーが立っていたのだった。
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