逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第72話 青の湖底

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 闇夜に照らされたサファイア湖。
 月明かりに水面がキラキラと輝いている。
『ふむ、妙な魔力が混ざっておるようじゃな』
『まったく、誰でしょうかね。このきれいな魔力の土地を汚そうだなんて、今回はさすがに許せませんよ』
 湖底を漂いながら、蒼鱗魚は話をしている。
 蒼鱗魚とは幻獣『サファイアフィッシュ』といい、二匹で対となる夫婦の幻獣である。水魔法を操り、他の神獣や幻獣と、距離を無視して念話で会話のできる能力を持っている。
『蒼鱗魚、聞こえてますか?』
『おお、この声はライとかいったかな?』
 水中で泳ぐ蒼鱗魚に突如として声が響き渡る。秘密裏の護衛の任務を請け負ったライの声である。ライは元妖精ではあるが、アイリスと契約を結んでいることで蒼鱗魚の念話の対象になっているのである。
『おやおや、あんたも来てたのかい』
『はい、ペシエラ様とアイリス様のご命令でね。そちらの様子はどうでしょうかね』
 蒼鱗魚の質問に答えながら、質問を返すライ。外からだけでは分からないことがあるからだ。
 実際、ペシエラたちが学生時代の一年次の夏合宿では、魔物を呼び出すための宝珠が湖底から発見された。それを踏まえてライは蒼鱗魚に質問しているのである。
『特に変わった様子はないねぇ。妙な魔力を感じたくらいだ』
『妙な魔力?』
 蒼鱗魚からの報告に、大きな反応を見せるライ。
『やっぱりなのね。私もちょっと引っ掛かる魔力を感じるけど、あまりにも小さくて自信がなかったからね』
 ライの話を聞いても蒼鱗魚は動じなかった。なにせかなり老齢の幻獣なせいか、その辺りの感情がどうも鈍ってしまっているのだ。
『わしらの感じた魔力によれば、おそらく湖の中じゃろうな。外からでは感じにくいのも無理はない。このサファイア湖の水は魔力を含んでおるからな』
『そうそう。ある程度強い魔力でも、包まれて感じ取りにくくなってしまうのよ』
『それは初耳だな』
 蒼鱗魚の話に急に割り込む男性の声。この声にライがものすごく驚いている。
『精霊王?!』
 そう、他でもない精霊王オリジンである。彼はサンフレア学園の教官ガレンとしてこの合宿に参加しているので、反応してしまったのである。
 精霊王も幻獣に近しい存在であるので、こうやって蒼鱗魚の念話に割り込めるのである。
『大体の場所は分かるか?』
 ライの驚きを無視してガレンが話を続ける。
『そうねぇ、サファイア湖の南の方だね。その湖底に妙な魔力が漂っているのが感じられるねぇ』
『南か』
 蒼鱗魚の答えに動こうとするガレン。だが、ライがそこに割り込んでガレンを止めようとする。
『精霊王様、デーモンハートの可能性があります。ここは私に任せて下さい』
『デーモンハートだと?!』
 人の心を狂わせる魔の石、それがデーモンハートである。色としては赤黒いものが多いが、それ以外の色も存在する。また魔石の方にも赤黒いものは存在するので、見た目に区別はほぼ不可能。魔力も相当通じていないと感じ分けるのは厳しいという代物である。
 しかし、魔石とデーモンハートを区別できたとしても、それに触れるのはまた別問題。大抵の者は触れた途端にその魔力のとりこにされてしまう。そのせいでライだってハイスプライトに堕ちたのだ。厄介極まりない。
『しょうがないな。ライ、回収を頼めるか?』
『お任せ下さい。キャノルに見張りを任せて、回収に向かいます』
 ライは早速デーモンハートがあるだろう地点へと向かう。サファイア湖に近付くと、岸近くの湖面に青白い光が見える。
「なんだい、あれ」
「サファイア湖に棲む蒼鱗魚の光よ。さて、キャノル、周辺を警戒しておいてちょうだいね」
「ああ、任せておきな」
 会話を終えると、ライは得意とする風魔法を使って自分を包み込む。こうでもしないと、いくら妖精とはいえずぶ濡れになってしまう。それこそ光と水の精霊であるレイニくらいじゃないと、そのまま水には入れないのだ。
 自身を空気の膜で包み込んだライは、静かに着水する。そして、そのまま湖中へとゆっくりと沈んでいく。
 蒼鱗魚の放つ光が湖中でくるくると旋回している。いくら幻獣とはいえ耐性があるとは限らないので、不用意に近付けないのだ。
 しかし、蒼鱗魚がほぼ固定の位置で泳ぐということは、その近くに何かがあるのは間違いなかった。
(ううっ……、この気持ち悪い魔力は、間違いないわね……)
 沈んでいくと同時に、悪寒を強く感じ始めるライ。さすが二度もデーモンハートの脅威にさらされただけあるというもの。体はしっかりとデーモンハートの不快な魔力を覚えていたのだ。
 サファイア湖の水は魔力を含んでいるためか、ほんのりと明るい感じに光っている。その状況の中、ライの前に明らかに異質な空間が出現していた。
(あれね、おそらくは)
 深い青色の広がる空間の中に、どす黒く変色している部分がものすごく目立っている。これを見る限り、ライたちが感じ取っていた不穏な魔力は、間違いなくデーモンハートによるもののようだった。
 広がる不快な魔力を前に、ライは一体どう動くのだろうか。緊張のあまり、ライはごくりと息を飲み込んだ。
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