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新章 青色の智姫
第61話 剣術の講義に参加しよう
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シアンたちが剣術の講義に顔を出すと、そこには見知った顔があった。
「おや、君は確か初日に会った……」
シアンに気付くなり声を掛けてくる黒髪の男子学生。
だが、男子学生が近付いてくるとプルネとブランチェスカの二人がきっちりと間に入ってくる。
「お待ち下さい」
「安易に近寄らないで下さい」
酷いいいようである。思わず男子学生が止まってしまう。
「おいおい、挨拶をしようとしただけじゃないか。そこまで敵意を見せなくてもいいんじゃないかな」
男子学生が戸惑ってはいるものの、プルネとブランチェスカはまったく引くことはなかった。
「はぁ、調子が狂うな。まったくどうしてそこまで警戒されなきゃいけないんだ」
頭をぽりぽりとかく男子学生である。
驚いて反応が遅れたシアンだったが、ようやく我に返って二人に声を掛ける。
「二人とも、大丈夫ですから下がって下さい。この方は入学式の日にちょっとお世話になった方ですから」
「……シアン様がそう仰るのでしたら」
シアンの言葉に、ブランチェスカとプルネが警戒を解いた。
「シアン?」
「はい、私、モスグリネ王国王女、シアン・モスグリネと申します。先日は大変お世話になりました」
シアンは淑女の仕草で対応する。シアンの自己紹介に男子学生が驚いている。そして、すぐさまぴしっと直立すると自己紹介を始める。
「こ、これは失礼致しました。自分、ミドナイト男爵家嫡男、クライ・ミドナイトと申します。王女殿下の同級生とは、実に喜ばしく存じ上げます」
思ったよりも丁寧な挨拶である。
「入学式の日は、その、知らなかったとは失礼な態度を取って大変申し訳ございませんでした」
続けて謝罪まで入れてきた。あの時も王族だということは話していたのだが、さらりと流して記憶から消えていたらしい。
「いいのですよ。そこまで改まらなくても。あの時のように砕けて話をしてもらっても構いませんよ」
「はっ、痛み入ります」
入学式の日にずいぶんとラフな対応をしていたというのに、今日はまたかなり印象の違う対応をされてシアンは戸惑っていた。だからこそ、あの時と同じようで構わないと言っているのである。
しかし、話が中途半端だというのに講義が始まってしまう。やむなくシアンたちは話を切り上げて講義へと臨む。
よくよく思えば、シアンが剣を持つなど、シアン・アクアマリンの頃を含めても実は初めての経験である。
いざ剣を手に取ってみると、その重さに驚いたものである。
「ずしっとして重いですね」
シアンが手に取ったのは刃を潰した模擬剣だった。
「おいおい、そっちを手に取るには早いぞ」
クライが注意をしてくる。
「教官、なんで模擬剣を持ってきたんですか。木剣もあるでしょうに」
すぐさま教官に苦情を入れるクライ。
「ああ、すまなかった。この講義を受けるのは経験者ばかりと思い込んでしまったよ。すぐに持ってこよう」
学生たちが剣を選んでいる間に、助手に木剣を持ってこさせる教官。
「模擬剣が持てなかった者たちと持てた者たちで、内容をちょっと変えさせてもらおうか」
講義の場の様子を確認した教官は、そのように告げている。
ちなみに模擬剣をうまく持てなかった者たちは、シアン、プルネ、ブランチェスカたち以外にかなりいたようだ。中には男子学生も数名いたようだった。
「僕の家は文官系なのに、なんで剣を習わなくちゃいけないんだ」
そのうちの一人はこんな愚痴を漏らしていた。まったく困ったものである。
「あら、殿方でも模擬剣が持てないなんてあるのですね」
驚いて思わずこんな事を言ってしまうブランチェスカである。
「仕方ないでしょう。僕のおじい様は現役の宰相なんですからね」
「宰相……。ということはマルーン家の方ですか?」
「ああ、そうだよ。ココナス・マルーン侯爵令息とは僕のことだよ」
なんとも驚いたシアンである。どうやらチークウッドとブラッサの息子のようである。あの二人の性格を思うとずいぶんとわがままな感じに育ったようだ。
「父上と母上の方針で剣も習うことになったのだけど、今まで一切握らせてくれなかったのに、なんで急になんだよ」
「おそらく学園だからでしょうね。学園で習えば最低限の護身術くらいは身に付きますから」
愚痴を言いまくるココナスに、シアンがぽつりと呟く。
「ははっ、その通りだからなにも嘆くことはないぞ。俺も付き合ってやるし、いっちょ前に剣を振るえるくらいにはしてやるよ」
クライも混ざってくる。ココナスの背中をバンバンと叩きながら、陽気に声を掛けていた。
「おい、そこ。木剣が届いたから話をやめて剣を選んでくれないか」
しかし、教官から怒られて話は終了となる。言われてしぶしぶ木剣を選び始める。
実際に手に取ると、木剣ならば模擬剣に比べてかなり軽い。なので、シアンたちも無事に手に持った剣を振るうことができたようだった。ただし、かなりへなちょこである。
全員に剣が行き渡ったことを確認すると、いよいよ講義が始まる。
初めての剣の講義に、シアンはどことなく緊張と楽しみを覚えるのだった。
「おや、君は確か初日に会った……」
シアンに気付くなり声を掛けてくる黒髪の男子学生。
だが、男子学生が近付いてくるとプルネとブランチェスカの二人がきっちりと間に入ってくる。
「お待ち下さい」
「安易に近寄らないで下さい」
酷いいいようである。思わず男子学生が止まってしまう。
「おいおい、挨拶をしようとしただけじゃないか。そこまで敵意を見せなくてもいいんじゃないかな」
男子学生が戸惑ってはいるものの、プルネとブランチェスカはまったく引くことはなかった。
「はぁ、調子が狂うな。まったくどうしてそこまで警戒されなきゃいけないんだ」
頭をぽりぽりとかく男子学生である。
驚いて反応が遅れたシアンだったが、ようやく我に返って二人に声を掛ける。
「二人とも、大丈夫ですから下がって下さい。この方は入学式の日にちょっとお世話になった方ですから」
「……シアン様がそう仰るのでしたら」
シアンの言葉に、ブランチェスカとプルネが警戒を解いた。
「シアン?」
「はい、私、モスグリネ王国王女、シアン・モスグリネと申します。先日は大変お世話になりました」
シアンは淑女の仕草で対応する。シアンの自己紹介に男子学生が驚いている。そして、すぐさまぴしっと直立すると自己紹介を始める。
「こ、これは失礼致しました。自分、ミドナイト男爵家嫡男、クライ・ミドナイトと申します。王女殿下の同級生とは、実に喜ばしく存じ上げます」
思ったよりも丁寧な挨拶である。
「入学式の日は、その、知らなかったとは失礼な態度を取って大変申し訳ございませんでした」
続けて謝罪まで入れてきた。あの時も王族だということは話していたのだが、さらりと流して記憶から消えていたらしい。
「いいのですよ。そこまで改まらなくても。あの時のように砕けて話をしてもらっても構いませんよ」
「はっ、痛み入ります」
入学式の日にずいぶんとラフな対応をしていたというのに、今日はまたかなり印象の違う対応をされてシアンは戸惑っていた。だからこそ、あの時と同じようで構わないと言っているのである。
しかし、話が中途半端だというのに講義が始まってしまう。やむなくシアンたちは話を切り上げて講義へと臨む。
よくよく思えば、シアンが剣を持つなど、シアン・アクアマリンの頃を含めても実は初めての経験である。
いざ剣を手に取ってみると、その重さに驚いたものである。
「ずしっとして重いですね」
シアンが手に取ったのは刃を潰した模擬剣だった。
「おいおい、そっちを手に取るには早いぞ」
クライが注意をしてくる。
「教官、なんで模擬剣を持ってきたんですか。木剣もあるでしょうに」
すぐさま教官に苦情を入れるクライ。
「ああ、すまなかった。この講義を受けるのは経験者ばかりと思い込んでしまったよ。すぐに持ってこよう」
学生たちが剣を選んでいる間に、助手に木剣を持ってこさせる教官。
「模擬剣が持てなかった者たちと持てた者たちで、内容をちょっと変えさせてもらおうか」
講義の場の様子を確認した教官は、そのように告げている。
ちなみに模擬剣をうまく持てなかった者たちは、シアン、プルネ、ブランチェスカたち以外にかなりいたようだ。中には男子学生も数名いたようだった。
「僕の家は文官系なのに、なんで剣を習わなくちゃいけないんだ」
そのうちの一人はこんな愚痴を漏らしていた。まったく困ったものである。
「あら、殿方でも模擬剣が持てないなんてあるのですね」
驚いて思わずこんな事を言ってしまうブランチェスカである。
「仕方ないでしょう。僕のおじい様は現役の宰相なんですからね」
「宰相……。ということはマルーン家の方ですか?」
「ああ、そうだよ。ココナス・マルーン侯爵令息とは僕のことだよ」
なんとも驚いたシアンである。どうやらチークウッドとブラッサの息子のようである。あの二人の性格を思うとずいぶんとわがままな感じに育ったようだ。
「父上と母上の方針で剣も習うことになったのだけど、今まで一切握らせてくれなかったのに、なんで急になんだよ」
「おそらく学園だからでしょうね。学園で習えば最低限の護身術くらいは身に付きますから」
愚痴を言いまくるココナスに、シアンがぽつりと呟く。
「ははっ、その通りだからなにも嘆くことはないぞ。俺も付き合ってやるし、いっちょ前に剣を振るえるくらいにはしてやるよ」
クライも混ざってくる。ココナスの背中をバンバンと叩きながら、陽気に声を掛けていた。
「おい、そこ。木剣が届いたから話をやめて剣を選んでくれないか」
しかし、教官から怒られて話は終了となる。言われてしぶしぶ木剣を選び始める。
実際に手に取ると、木剣ならば模擬剣に比べてかなり軽い。なので、シアンたちも無事に手に持った剣を振るうことができたようだった。ただし、かなりへなちょこである。
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