逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
430 / 433
新章 青色の智姫

第61話 剣術の講義に参加しよう

しおりを挟む
 シアンたちが剣術の講義に顔を出すと、そこには見知った顔があった。
「おや、君は確か初日に会った……」
 シアンに気付くなり声を掛けてくる黒髪の男子学生。
 だが、男子学生が近付いてくるとプルネとブランチェスカの二人がきっちりと間に入ってくる。
「お待ち下さい」
「安易に近寄らないで下さい」
 酷いいいようである。思わず男子学生が止まってしまう。
「おいおい、挨拶をしようとしただけじゃないか。そこまで敵意を見せなくてもいいんじゃないかな」
 男子学生が戸惑ってはいるものの、プルネとブランチェスカはまったく引くことはなかった。
「はぁ、調子が狂うな。まったくどうしてそこまで警戒されなきゃいけないんだ」
 頭をぽりぽりとかく男子学生である。
 驚いて反応が遅れたシアンだったが、ようやく我に返って二人に声を掛ける。
「二人とも、大丈夫ですから下がって下さい。この方は入学式の日にちょっとお世話になった方ですから」
「……シアン様がそう仰るのでしたら」
 シアンの言葉に、ブランチェスカとプルネが警戒を解いた。
「シアン?」
「はい、私、モスグリネ王国王女、シアン・モスグリネと申します。先日は大変お世話になりました」
 シアンは淑女の仕草で対応する。シアンの自己紹介に男子学生が驚いている。そして、すぐさまぴしっと直立すると自己紹介を始める。
「こ、これは失礼致しました。自分、ミドナイト男爵家嫡男、クライ・ミドナイトと申します。王女殿下の同級生とは、実に喜ばしく存じ上げます」
 思ったよりも丁寧な挨拶である。
「入学式の日は、その、知らなかったとは失礼な態度を取って大変申し訳ございませんでした」
 続けて謝罪まで入れてきた。あの時も王族だということは話していたのだが、さらりと流して記憶から消えていたらしい。
「いいのですよ。そこまで改まらなくても。あの時のように砕けて話をしてもらっても構いませんよ」
「はっ、痛み入ります」
 入学式の日にずいぶんとラフな対応をしていたというのに、今日はまたかなり印象の違う対応をされてシアンは戸惑っていた。だからこそ、あの時と同じようで構わないと言っているのである。
 しかし、話が中途半端だというのに講義が始まってしまう。やむなくシアンたちは話を切り上げて講義へと臨む。
 よくよく思えば、シアンが剣を持つなど、シアン・アクアマリンの頃を含めても実は初めての経験である。
 いざ剣を手に取ってみると、その重さに驚いたものである。
「ずしっとして重いですね」
 シアンが手に取ったのは刃を潰した模擬剣だった。
「おいおい、そっちを手に取るには早いぞ」
 クライが注意をしてくる。
「教官、なんで模擬剣を持ってきたんですか。木剣もあるでしょうに」
 すぐさま教官に苦情を入れるクライ。
「ああ、すまなかった。この講義を受けるのは経験者ばかりと思い込んでしまったよ。すぐに持ってこよう」
 学生たちが剣を選んでいる間に、助手に木剣を持ってこさせる教官。
「模擬剣が持てなかった者たちと持てた者たちで、内容をちょっと変えさせてもらおうか」
 講義の場の様子を確認した教官は、そのように告げている。
 ちなみに模擬剣をうまく持てなかった者たちは、シアン、プルネ、ブランチェスカたち以外にかなりいたようだ。中には男子学生も数名いたようだった。
「僕の家は文官系なのに、なんで剣を習わなくちゃいけないんだ」
 そのうちの一人はこんな愚痴を漏らしていた。まったく困ったものである。
「あら、殿方でも模擬剣が持てないなんてあるのですね」
 驚いて思わずこんな事を言ってしまうブランチェスカである。
「仕方ないでしょう。僕のおじい様は現役の宰相なんですからね」
「宰相……。ということはマルーン家の方ですか?」
「ああ、そうだよ。ココナス・マルーン侯爵令息とは僕のことだよ」
 なんとも驚いたシアンである。どうやらチークウッドとブラッサの息子のようである。あの二人の性格を思うとずいぶんとわがままな感じに育ったようだ。
「父上と母上の方針で剣も習うことになったのだけど、今まで一切握らせてくれなかったのに、なんで急になんだよ」
「おそらく学園だからでしょうね。学園で習えば最低限の護身術くらいは身に付きますから」
 愚痴を言いまくるココナスに、シアンがぽつりと呟く。
「ははっ、その通りだからなにも嘆くことはないぞ。俺も付き合ってやるし、いっちょ前に剣を振るえるくらいにはしてやるよ」
 クライも混ざってくる。ココナスの背中をバンバンと叩きながら、陽気に声を掛けていた。
「おい、そこ。木剣が届いたから話をやめて剣を選んでくれないか」
 しかし、教官から怒られて話は終了となる。言われてしぶしぶ木剣を選び始める。
 実際に手に取ると、木剣ならば模擬剣に比べてかなり軽い。なので、シアンたちも無事に手に持った剣を振るうことができたようだった。ただし、かなりへなちょこである。
 全員に剣が行き渡ったことを確認すると、いよいよ講義が始まる。
 初めての剣の講義に、シアンはどことなく緊張と楽しみを覚えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...