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新章 青色の智姫
第60話 春の一の月が過ぎて
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クロッツ子爵家でのお茶会からというもの、特に何もなく時間が過ぎていく。
春の一の月の間は、学生たちの適性を調べるような講義があったりしたものだが、シアンたちには魔法への適性くらいしか見出すことはできなかった。
「やっぱり魔法系の講義しか取れませんでしたね」
「仕方ありませんよ。剣術とかさっぱりですから」
シアンとブランチェスカは残念そうに話をしている。ただ、プルネだけは違っていた。
「私は剣術系が一応取れるんですけれど、取った方がいいですかね」
そう、剣術適性ありということで講義を受けることができるようだったのだ。
「取っておいても損はないと思いますよ。護身術程度のものだとしても、コーラル伯爵家には必要かもしれませんし」
「そうですね。今の王妃ペシエラ様のご実家ですものね。王妃様は剣の腕前もかなり立ちますから、コーラル伯爵家ならできて当然と思われてそうですものね」
「やっぱりそうですか……」
シアンとブランチェスカから言われて、眉間にしわを寄せるプルネである。
ただ、プルネに剣術適性が見出されたのはペシエラはまったく関係なかった。母親であるアイリスが暗殺系の技術を持つので、その影響が出たのである。性格としてはまったくそんな事は感じられないのだが……。
とはいえ、コーラル伯爵家への視線というものは、確かにそういうところはあるのだ。アイリスもニーズヘッグもコーラル家の実質の血はまったく引いていないのに、あのペシエラの生まれ育った家なのだからという目で見られているのだ。
「うーん……。私にはお姉様ほどの適性があるとは思えないのですけれどね」
「あら、フューシャも剣の適性が?」
「はい、どうもそうみたいです」
シアンたちはちょっと驚いていた。見た感じはお嬢様といった風貌なのだが、人は見かけによらないとはこの事だろうか。
「ですけれど、覚えておいて損はないと思います。身を守る手立ては多いに越した事はありません。今はだいぶ平和になりましたが、場所によっては魔物に襲われる事だってありますからね」
「そ、そうですね」
シアンの話に、プルネは焦ったような感じで反応をしていた。一体どうしたというのだろうか。
「私、頑張ってみます」
ちょっと悩んだプルネは、結局剣に関する講義を取ることに決めたようだった。
その姿を見たシアンは、突然妙なことを言い始める。
「私も受けてみようかしら、剣の講義」
「シアン様?!」
ブランチェスカとプルネが驚く。
「私とて王族です。お父様は学生時代に武術大会でいいところまで勝ち進んだとも聞いていますからね。その娘である私も、ちょっとくらいたしなんでもいいかと思いましてね」
「な、なるほど……」
シアンの言い分に納得してしまう二人である。
「そうですね。受けるだけなら特に問題はありませんものね。半年ごとに受けたい講義は変更できますから、私も受けてみようかしら」
ブランチェスカまでそんなことを言い出す始末である。
結局、三人揃って一年生の前半は剣の講義を受けることになった。
シアンが城に戻ってスミレに話すと、スミレにはしっかりと驚かれてしまっていた。
「剣を振るおうと思われるとは、ずいぶんと思い切りましたね」
「ええ。ダメでしたらこの半年で諦めますよ。いわばお試しです」
「シアン様がそう決められたのであるなら、私は何も言いません」
シアンが唇に指を当てながら話すと、呆れたように反応を返すスミレである。
「ですが、あまり無茶をして私に負担をかけないで下さいよ。あなたを守ることも、私の課題なんですから」
額に指先を当てながらぼやくスミレの姿に、シアンは黙って微笑んでいた。
「まぁ、シアン様の人生ですからね。私は止めませんよ。ですが、くれぐれも無茶はほどほどにして下さいね」
「分かっています。私とてお母様たちに心配をかけるつもりはありませんからね」
スミレのお小言に落ち着いて答えるシアンなのであった。
その日の夕食の席で、シアンはそのことを話す。しかし、スミレのように驚く反応は特になく、むしろペシエラが目を光らせたような気がした。
それもそうだろう。ペシエラだって剣の適性はなく、血のにじむような努力でもってあの剣技を身に付けたかこがあるのだから。だからこそ、シアンの姿勢に興味を持ったのだ。
そのペシエラの反応を見て、シアンは思わず後悔をしてしまう。とはいえ、話を振られたからには答えないわけにはいかなかった。せめて隠しておけばよかったのに、真面目な性格がここにきてあだとなったのだった。
(はあ、これは覚悟を決めるしかありませんね)
後悔先に立たずのシアンは、苦笑いをしながら夕食を済ませたのだった。
こうして春の一の月が終わり、二の月を迎える。
学園の生活に慣れるための一か月が過ぎ、いよいよ本格的な学園生活がスタートするのだ。はたしてどのような出来事が待ち受けているのか、シアンたちは無事に学園生活を終えることができるのか、それは誰にも分からない話なのである。
春の一の月の間は、学生たちの適性を調べるような講義があったりしたものだが、シアンたちには魔法への適性くらいしか見出すことはできなかった。
「やっぱり魔法系の講義しか取れませんでしたね」
「仕方ありませんよ。剣術とかさっぱりですから」
シアンとブランチェスカは残念そうに話をしている。ただ、プルネだけは違っていた。
「私は剣術系が一応取れるんですけれど、取った方がいいですかね」
そう、剣術適性ありということで講義を受けることができるようだったのだ。
「取っておいても損はないと思いますよ。護身術程度のものだとしても、コーラル伯爵家には必要かもしれませんし」
「そうですね。今の王妃ペシエラ様のご実家ですものね。王妃様は剣の腕前もかなり立ちますから、コーラル伯爵家ならできて当然と思われてそうですものね」
「やっぱりそうですか……」
シアンとブランチェスカから言われて、眉間にしわを寄せるプルネである。
ただ、プルネに剣術適性が見出されたのはペシエラはまったく関係なかった。母親であるアイリスが暗殺系の技術を持つので、その影響が出たのである。性格としてはまったくそんな事は感じられないのだが……。
とはいえ、コーラル伯爵家への視線というものは、確かにそういうところはあるのだ。アイリスもニーズヘッグもコーラル家の実質の血はまったく引いていないのに、あのペシエラの生まれ育った家なのだからという目で見られているのだ。
「うーん……。私にはお姉様ほどの適性があるとは思えないのですけれどね」
「あら、フューシャも剣の適性が?」
「はい、どうもそうみたいです」
シアンたちはちょっと驚いていた。見た感じはお嬢様といった風貌なのだが、人は見かけによらないとはこの事だろうか。
「ですけれど、覚えておいて損はないと思います。身を守る手立ては多いに越した事はありません。今はだいぶ平和になりましたが、場所によっては魔物に襲われる事だってありますからね」
「そ、そうですね」
シアンの話に、プルネは焦ったような感じで反応をしていた。一体どうしたというのだろうか。
「私、頑張ってみます」
ちょっと悩んだプルネは、結局剣に関する講義を取ることに決めたようだった。
その姿を見たシアンは、突然妙なことを言い始める。
「私も受けてみようかしら、剣の講義」
「シアン様?!」
ブランチェスカとプルネが驚く。
「私とて王族です。お父様は学生時代に武術大会でいいところまで勝ち進んだとも聞いていますからね。その娘である私も、ちょっとくらいたしなんでもいいかと思いましてね」
「な、なるほど……」
シアンの言い分に納得してしまう二人である。
「そうですね。受けるだけなら特に問題はありませんものね。半年ごとに受けたい講義は変更できますから、私も受けてみようかしら」
ブランチェスカまでそんなことを言い出す始末である。
結局、三人揃って一年生の前半は剣の講義を受けることになった。
シアンが城に戻ってスミレに話すと、スミレにはしっかりと驚かれてしまっていた。
「剣を振るおうと思われるとは、ずいぶんと思い切りましたね」
「ええ。ダメでしたらこの半年で諦めますよ。いわばお試しです」
「シアン様がそう決められたのであるなら、私は何も言いません」
シアンが唇に指を当てながら話すと、呆れたように反応を返すスミレである。
「ですが、あまり無茶をして私に負担をかけないで下さいよ。あなたを守ることも、私の課題なんですから」
額に指先を当てながらぼやくスミレの姿に、シアンは黙って微笑んでいた。
「まぁ、シアン様の人生ですからね。私は止めませんよ。ですが、くれぐれも無茶はほどほどにして下さいね」
「分かっています。私とてお母様たちに心配をかけるつもりはありませんからね」
スミレのお小言に落ち着いて答えるシアンなのであった。
その日の夕食の席で、シアンはそのことを話す。しかし、スミレのように驚く反応は特になく、むしろペシエラが目を光らせたような気がした。
それもそうだろう。ペシエラだって剣の適性はなく、血のにじむような努力でもってあの剣技を身に付けたかこがあるのだから。だからこそ、シアンの姿勢に興味を持ったのだ。
そのペシエラの反応を見て、シアンは思わず後悔をしてしまう。とはいえ、話を振られたからには答えないわけにはいかなかった。せめて隠しておけばよかったのに、真面目な性格がここにきてあだとなったのだった。
(はあ、これは覚悟を決めるしかありませんね)
後悔先に立たずのシアンは、苦笑いをしながら夕食を済ませたのだった。
こうして春の一の月が終わり、二の月を迎える。
学園の生活に慣れるための一か月が過ぎ、いよいよ本格的な学園生活がスタートするのだ。はたしてどのような出来事が待ち受けているのか、シアンたちは無事に学園生活を終えることができるのか、それは誰にも分からない話なのである。
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