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新章 青色の智姫
第58話 魔法の講義
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怪しい動きが見られる中、肝心のシアンたちはというと……。
「水よ!」
シアンから放たれた水は、勢いよく的へ目がけて飛んでいく。水の球がぶつかると的は割れ、水の球は同時に大きく弾けた。
「ふぅ、こんなものですかね」
「はい、シアン・モスグリネさん。見事なお手本でしたね」
学生たちから拍手が起きる。
シアンたちは魔法の授業の真っ最中である。
この世界では十歳から魔法を使うことが許されるため、学園に入る十三歳の段階では魔法に慣れていない学生がたくさんいるのである。
そんな状況下であるため、王族であるシアンが代表として魔法の実演をしているのだ。
しかし、シアン自体は正直言ってやりたくはなかった。シアンの使える属性はロゼリア譲りで水・風・土の三属性なのだから。
だいたい初めての魔法として見たがるのは、ど派手な火魔法である。それがゆえに水魔法では満足しない学生が多かったのだ。
そこでシアンは考えた。どうやれば火魔法に負けない派手さを演出できるか。それが、最後に大きく弾けるという挙動だった。
(本気を出してしまえば、あの程度の的で弾けることなんてないんですよね。後ろの壁まで抉ってしまいます)
そう、シアンの魔力は思ったより高いので、普通にやったのでは威力が出過ぎてしまうのだ。なので、みんなよりもちょっと強いくらいだよと思わせるために、水の球をタイミングよく弾けさせているというわけなのである。
さすがは前世が水魔法を得意とするアクアマリン子爵家というだけあるのである。
「魔法にはあのようにイメージが重要ですからね。自分の属性に囚われず、自由に発想して下さいね」
「はい」
教官の言葉で、各自で魔法の練習を始める。
シアンはブランチェスカとプルネと一緒に練習を始める。
ブランチェスカは髪色の影響か土属性を得意としているようだ。だが、そのせいでうまくイメージできていないのか苦戦しているようだ。
プルネの方はコーラル伯爵家ではあるものの、母親のアイリスより父親のニーズヘッグの方が強く出ているらしく、闇属性の魔法を得意としている模様。
どうやら、二人揃って難儀なようである。
「むぅ、何を思い浮かべたらいいのかしら……」
揃って同じ言葉で唸っている。これにはシアンも苦笑いである。
「どちらの属性でも基本は球体でしょうかね。こういう丸い形を考えてみるとどうでしょうか」
シアンはさっきも出していた水の球を目の前に浮かべる。相変わらず細やかな魔力操作で、目の前に水の球がずっと浮かんでいる。かと思ったら右に左に動いたり、ボールのように地面で弾んでみたりといろいろやってみせている。
「シアン様、すごい……」
感心しきりの二人である。
「さすがにここまでとなると大変でしょうけれど、まずは基本となる球体を作るところから始めましょう」
「はい」
ブランチェスカとプルネが苦戦する横で、シアンは三属性同時に球体を作り出して魔力お手玉をし始める。
水の球、土の球、風の球をぽんぽんと放り投げている様は、なんとも異様な光景である。
「おいおい、なんだよあれ……」
「さすが王女様ですわ」
「あそこまでできるようになるには、どれだけ頑張ればいいんだ……」
シアンの様子を見ていた学生たちは、様々な反応を見せている。そのくらいにシアンのやっていることはとんでもないことなのだ。
大体、魔法の属性はなしから二属性が一般的である。だというのに三属性を一度に扱うというのは稀なのだ。マゼンダ侯爵家はそれだけに特殊だし、チェリシアとペシエラのような全属性型なんて奇跡のような存在だ。
そんなこんなで魔法の講義の時間は過ぎていく。
魔法でお手玉なんて非常識なことをやらかしたシアンは、ブランチェスカとプルネ以外からも相談される始末で、なかなかに忙しい時間を過ごしたようだった。
「はあ、おば様たちみたいにエアリアルボードを使ってみたいな」
そう呟くのはプルネである。
エアリアルボードはチェリシアが使い始めて、今では比較的一般技能化してきた特殊な風魔法だ。
風の渦を集めてその上に人や物を載せて空中を移動する魔法で、魔力量によってその積載量が変わるというものである。
今のシアンの母親であるロゼリアも楽に使うことができ、六人くらい同時に乗せて移動ができるほどである。シアンも使ってみたいとは思う魔法のひとつだ。
ただ、シアンの場合は水魔法の適性が一番高く、両親が共通して持っている風魔法の適性が思ったより高くない。とはいえ、水魔法比べればというだけであり、一般人に比べれば適性は高い方だった。
(はあ、私がお母様に追いつくにはどのくらい頑張ればいいのかしらね)
周りからは尊敬を集めるシアンではあるが、自分が目標とするロゼリアには到底届いていないのが悔しいようだった。それぞれに向上心があるのはいい事ではあるものの、それがなんとも微妙なずれを引き起こしそうである。
そこそこいい滑り出しを見せたシアンの学園生活ではあるものの、そこには同時に問題もいろいろ転がっているようだった。
「水よ!」
シアンから放たれた水は、勢いよく的へ目がけて飛んでいく。水の球がぶつかると的は割れ、水の球は同時に大きく弾けた。
「ふぅ、こんなものですかね」
「はい、シアン・モスグリネさん。見事なお手本でしたね」
学生たちから拍手が起きる。
シアンたちは魔法の授業の真っ最中である。
この世界では十歳から魔法を使うことが許されるため、学園に入る十三歳の段階では魔法に慣れていない学生がたくさんいるのである。
そんな状況下であるため、王族であるシアンが代表として魔法の実演をしているのだ。
しかし、シアン自体は正直言ってやりたくはなかった。シアンの使える属性はロゼリア譲りで水・風・土の三属性なのだから。
だいたい初めての魔法として見たがるのは、ど派手な火魔法である。それがゆえに水魔法では満足しない学生が多かったのだ。
そこでシアンは考えた。どうやれば火魔法に負けない派手さを演出できるか。それが、最後に大きく弾けるという挙動だった。
(本気を出してしまえば、あの程度の的で弾けることなんてないんですよね。後ろの壁まで抉ってしまいます)
そう、シアンの魔力は思ったより高いので、普通にやったのでは威力が出過ぎてしまうのだ。なので、みんなよりもちょっと強いくらいだよと思わせるために、水の球をタイミングよく弾けさせているというわけなのである。
さすがは前世が水魔法を得意とするアクアマリン子爵家というだけあるのである。
「魔法にはあのようにイメージが重要ですからね。自分の属性に囚われず、自由に発想して下さいね」
「はい」
教官の言葉で、各自で魔法の練習を始める。
シアンはブランチェスカとプルネと一緒に練習を始める。
ブランチェスカは髪色の影響か土属性を得意としているようだ。だが、そのせいでうまくイメージできていないのか苦戦しているようだ。
プルネの方はコーラル伯爵家ではあるものの、母親のアイリスより父親のニーズヘッグの方が強く出ているらしく、闇属性の魔法を得意としている模様。
どうやら、二人揃って難儀なようである。
「むぅ、何を思い浮かべたらいいのかしら……」
揃って同じ言葉で唸っている。これにはシアンも苦笑いである。
「どちらの属性でも基本は球体でしょうかね。こういう丸い形を考えてみるとどうでしょうか」
シアンはさっきも出していた水の球を目の前に浮かべる。相変わらず細やかな魔力操作で、目の前に水の球がずっと浮かんでいる。かと思ったら右に左に動いたり、ボールのように地面で弾んでみたりといろいろやってみせている。
「シアン様、すごい……」
感心しきりの二人である。
「さすがにここまでとなると大変でしょうけれど、まずは基本となる球体を作るところから始めましょう」
「はい」
ブランチェスカとプルネが苦戦する横で、シアンは三属性同時に球体を作り出して魔力お手玉をし始める。
水の球、土の球、風の球をぽんぽんと放り投げている様は、なんとも異様な光景である。
「おいおい、なんだよあれ……」
「さすが王女様ですわ」
「あそこまでできるようになるには、どれだけ頑張ればいいんだ……」
シアンの様子を見ていた学生たちは、様々な反応を見せている。そのくらいにシアンのやっていることはとんでもないことなのだ。
大体、魔法の属性はなしから二属性が一般的である。だというのに三属性を一度に扱うというのは稀なのだ。マゼンダ侯爵家はそれだけに特殊だし、チェリシアとペシエラのような全属性型なんて奇跡のような存在だ。
そんなこんなで魔法の講義の時間は過ぎていく。
魔法でお手玉なんて非常識なことをやらかしたシアンは、ブランチェスカとプルネ以外からも相談される始末で、なかなかに忙しい時間を過ごしたようだった。
「はあ、おば様たちみたいにエアリアルボードを使ってみたいな」
そう呟くのはプルネである。
エアリアルボードはチェリシアが使い始めて、今では比較的一般技能化してきた特殊な風魔法だ。
風の渦を集めてその上に人や物を載せて空中を移動する魔法で、魔力量によってその積載量が変わるというものである。
今のシアンの母親であるロゼリアも楽に使うことができ、六人くらい同時に乗せて移動ができるほどである。シアンも使ってみたいとは思う魔法のひとつだ。
ただ、シアンの場合は水魔法の適性が一番高く、両親が共通して持っている風魔法の適性が思ったより高くない。とはいえ、水魔法比べればというだけであり、一般人に比べれば適性は高い方だった。
(はあ、私がお母様に追いつくにはどのくらい頑張ればいいのかしらね)
周りからは尊敬を集めるシアンではあるが、自分が目標とするロゼリアには到底届いていないのが悔しいようだった。それぞれに向上心があるのはいい事ではあるものの、それがなんとも微妙なずれを引き起こしそうである。
そこそこいい滑り出しを見せたシアンの学園生活ではあるものの、そこには同時に問題もいろいろ転がっているようだった。
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