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新章 青色の智姫
第56話 意外と……暇
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学園が始まってからは本当に平和なものだった。
モスグリネ王国の王女という立場が思ったよりも人を遠ざけ、なおかつ面倒も遠ざけてくれていた。そのために、交友関係はプルネとフューシャ、ブランチェスカの三人くらいである。それ以外では年がひとつ下になるアイヴォリーの王子王女くらいだった。
面倒はないけれども、それはそれで退屈らしく、シアンは休みの日は城の中でのんびりと過ごしている。
(何もないのが平和ですけれど、暇というのも困ったものですね)
今日も天気がいいので、庭に出て紅茶をたしなむシアン。さすがは城の庭園とあって色とりどりな花が咲いていて、目は楽しめているようだ。
「あら、シアンじゃないの。どうしたのかしら」
「王妃殿下」
くつろいでいるとペシエラがやって来る。
ごてごての王妃ドレスを着ているのに、動きはまったくもってスムーズ。さすがはドレスにヒール姿で剣を振り回していただけのことはある。
ペシエラが席に着くので、素早くスミレは紅茶を淹れてペシエラに差し出す。一口含むとシアンに話し掛けてきた。
「どうやら退屈といった感じですわね」
「はあ、まあ……」
的確に指摘されて反応に困るシアンである。
「わたくしの時はお姉様やロゼリアもいて楽しく過ごさせて頂きましたわね。そういう意味ではペイル陛下も、恵まれていたかしら」
当時を思い出してか、くすくすと笑うペシエラである。
やがて、紅茶を飲みほしたペシエラは立ち上がる。
「退屈な時は体を動かすに限りますわ。訓練場に参りましょうか」
「へっ?」
ペシエラの唐突な提案に、思わず変な声が出るシアンである。
「魔法の訓練もございますから、シアンくらいの年頃ならいい刺激になると思いますわよ」
にこりと微笑むペシエラにシアンは逆らえず、スミレと顔を見合わせた後、諦めたように後について行くことにしたのだった。
訓練場にやって来たシアン。今日も王国騎士たちが訓練に励んでおり、訓練場には熱気があふれかえっている。
「あれ、シアンじゃないですか」
「ライト殿下」
訓練場にいたライトに気付かれて、声を掛けられるシアン。
「もしかして、訓練を見に来てくれたのですか?」
「ライト、わたくしが誘ったのですわよ」
「は、母上!」
ペシエラが姿を見せると、ライトはものすごく驚いていた。
「さて、ライト。どのくらい強くなったのか、わたくしが直々に見てあげましょう」
「母上とですか?」
ペシエラの言葉に、思わず驚くライト。王妃のドレス姿なのだ、驚くのも無理はないというもの。
「この程度の服、今のあなたへのハンデとして十分ですわよ。剣を持ってきなさい」
「はっ!」
ペシエラが兵士に命令すると、弊社から木剣が運ばれてくる。ペシエラは受け取ると、久しぶりに握ったのか感触を確かめているようだった。
「さあ、始めましょうか」
ペシエラが剣を構えると、ライトを挑発している。
シアンも久しぶりに見るペシエラの戦う姿だ。ただシアン・アクアマリン時代の話なので、シアン・モスグリネとしては初めてである。
「やああっ!」
互いに見合っていたと思ったら、ライトの方から攻撃を仕掛けていく。だが、ペシエラはすんなりとその剣を弾いてしまう。
「剣筋が素直ですわね。では、今度はこちらから参りましょう」
剣を弾かれてよろめくライトがを体勢を持ち直したところに、ペシエラの攻撃が繰り出される。
その攻撃はとてもドレスとハイヒールから繰り出されるものとは思えないくらい鋭いものだった。ライトの攻撃を一撃で軽く的確に弾いていたのがさも当然のような状況である。
ライトはその攻撃に何とか対応してはいるものの、あまりにも激しい攻撃に徐々に耐え切れなくなっている。
「うっ!」
衝撃の強さに、思わず声を上げて剣を落としてしまうライト。足元に木剣が音を立てて転がっている。
王妃の強さを目の当たりにして、訓練中の騎士たちが動きを止めてしまう。そのくらいに圧倒的な強さだったのだ。
「公務の関係で少し離れてはいましたが、衰えていませんわね」
自分の剣技を確認して安心するペシエラ。ひと息つくとライトに向けて声を掛ける。
「さすがにまだまだ未熟ですわね。この姿のわたくし相手であれば、もう少しは粘って欲しかったですわ」
「は、母上は強すぎるのですよ」
不満そうな表情を見せるライト。
「わたくし相手ならそのように申しても構いませんが、あちらの姫君を前にいつまでもそのようでは困りますわよ」
「あっ……」
ペシエラに指摘されて、ライトはシアンの方へと振り返る。そう、ペシエラに気を取られ過ぎてシアンの事がすっぽりと頭から抜け落ちていたのだ。
「ふふっ、いいところを見せてあげませんとね」
「むぅ、母上は卑怯ですよ」
怒るライトを前にペシエラはからかうように笑っていた。その様子を見て思わず首を傾げてしまうシアンだった。状況が理解できないのである。
その様子を見ていたスミレも首を捻っている。スミレは幻獣とはいえ、この主従はどこか似た者同士である。
この日のシアンは、騎士たちの剣術訓練を眺めたり魔法訓練に参加をして暇をつぶしたのだった。
モスグリネ王国の王女という立場が思ったよりも人を遠ざけ、なおかつ面倒も遠ざけてくれていた。そのために、交友関係はプルネとフューシャ、ブランチェスカの三人くらいである。それ以外では年がひとつ下になるアイヴォリーの王子王女くらいだった。
面倒はないけれども、それはそれで退屈らしく、シアンは休みの日は城の中でのんびりと過ごしている。
(何もないのが平和ですけれど、暇というのも困ったものですね)
今日も天気がいいので、庭に出て紅茶をたしなむシアン。さすがは城の庭園とあって色とりどりな花が咲いていて、目は楽しめているようだ。
「あら、シアンじゃないの。どうしたのかしら」
「王妃殿下」
くつろいでいるとペシエラがやって来る。
ごてごての王妃ドレスを着ているのに、動きはまったくもってスムーズ。さすがはドレスにヒール姿で剣を振り回していただけのことはある。
ペシエラが席に着くので、素早くスミレは紅茶を淹れてペシエラに差し出す。一口含むとシアンに話し掛けてきた。
「どうやら退屈といった感じですわね」
「はあ、まあ……」
的確に指摘されて反応に困るシアンである。
「わたくしの時はお姉様やロゼリアもいて楽しく過ごさせて頂きましたわね。そういう意味ではペイル陛下も、恵まれていたかしら」
当時を思い出してか、くすくすと笑うペシエラである。
やがて、紅茶を飲みほしたペシエラは立ち上がる。
「退屈な時は体を動かすに限りますわ。訓練場に参りましょうか」
「へっ?」
ペシエラの唐突な提案に、思わず変な声が出るシアンである。
「魔法の訓練もございますから、シアンくらいの年頃ならいい刺激になると思いますわよ」
にこりと微笑むペシエラにシアンは逆らえず、スミレと顔を見合わせた後、諦めたように後について行くことにしたのだった。
訓練場にやって来たシアン。今日も王国騎士たちが訓練に励んでおり、訓練場には熱気があふれかえっている。
「あれ、シアンじゃないですか」
「ライト殿下」
訓練場にいたライトに気付かれて、声を掛けられるシアン。
「もしかして、訓練を見に来てくれたのですか?」
「ライト、わたくしが誘ったのですわよ」
「は、母上!」
ペシエラが姿を見せると、ライトはものすごく驚いていた。
「さて、ライト。どのくらい強くなったのか、わたくしが直々に見てあげましょう」
「母上とですか?」
ペシエラの言葉に、思わず驚くライト。王妃のドレス姿なのだ、驚くのも無理はないというもの。
「この程度の服、今のあなたへのハンデとして十分ですわよ。剣を持ってきなさい」
「はっ!」
ペシエラが兵士に命令すると、弊社から木剣が運ばれてくる。ペシエラは受け取ると、久しぶりに握ったのか感触を確かめているようだった。
「さあ、始めましょうか」
ペシエラが剣を構えると、ライトを挑発している。
シアンも久しぶりに見るペシエラの戦う姿だ。ただシアン・アクアマリン時代の話なので、シアン・モスグリネとしては初めてである。
「やああっ!」
互いに見合っていたと思ったら、ライトの方から攻撃を仕掛けていく。だが、ペシエラはすんなりとその剣を弾いてしまう。
「剣筋が素直ですわね。では、今度はこちらから参りましょう」
剣を弾かれてよろめくライトがを体勢を持ち直したところに、ペシエラの攻撃が繰り出される。
その攻撃はとてもドレスとハイヒールから繰り出されるものとは思えないくらい鋭いものだった。ライトの攻撃を一撃で軽く的確に弾いていたのがさも当然のような状況である。
ライトはその攻撃に何とか対応してはいるものの、あまりにも激しい攻撃に徐々に耐え切れなくなっている。
「うっ!」
衝撃の強さに、思わず声を上げて剣を落としてしまうライト。足元に木剣が音を立てて転がっている。
王妃の強さを目の当たりにして、訓練中の騎士たちが動きを止めてしまう。そのくらいに圧倒的な強さだったのだ。
「公務の関係で少し離れてはいましたが、衰えていませんわね」
自分の剣技を確認して安心するペシエラ。ひと息つくとライトに向けて声を掛ける。
「さすがにまだまだ未熟ですわね。この姿のわたくし相手であれば、もう少しは粘って欲しかったですわ」
「は、母上は強すぎるのですよ」
不満そうな表情を見せるライト。
「わたくし相手ならそのように申しても構いませんが、あちらの姫君を前にいつまでもそのようでは困りますわよ」
「あっ……」
ペシエラに指摘されて、ライトはシアンの方へと振り返る。そう、ペシエラに気を取られ過ぎてシアンの事がすっぽりと頭から抜け落ちていたのだ。
「ふふっ、いいところを見せてあげませんとね」
「むぅ、母上は卑怯ですよ」
怒るライトを前にペシエラはからかうように笑っていた。その様子を見て思わず首を傾げてしまうシアンだった。状況が理解できないのである。
その様子を見ていたスミレも首を捻っている。スミレは幻獣とはいえ、この主従はどこか似た者同士である。
この日のシアンは、騎士たちの剣術訓練を眺めたり魔法訓練に参加をして暇をつぶしたのだった。
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