逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第54話 コーラル邸でお茶会を

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 コーラル伯爵邸へとやって来たシアン。そこでは、まさかの家族総出の出迎えを受けることになった。
「ようこそおいで下さいました、シアン・モスグリネ王女殿下」
 丁寧に挨拶をするアイリスである。
 現在の王都のコーラル伯爵邸には、ニーズヘッグ、アイリスと四人の子どもたちが住んでいる。チェリシアとペシエラの両親たちは自領の経営に専念するために王都にはいなかった。
「丁寧にお出迎えありがとうございます。えっと、コーラル伯爵夫人でよろしかったかしら」
「はい、アイリス・コーラル伯爵夫人で間違いないでございます、シアン王女殿下」
 やんわりと笑うアイリスである。シアンの記憶にある笑顔は今も変わっていないようだ。
 それにしても、今のアイリスの姿は四人も子どもを産んだとは思えないくらいものだった。若々しくも美しいもので、ロゼリアと同い年というのが信じられないくらいだ。二十代でも通用しそうである。
「さぁ、プルネ。案内するのですよ」
「はい、お母様」
 アイリスが声を掛けると、プルネは元気に返事をしていた。
「それでは、本日はごゆるりとお過ごし下さいませ」
 頭を下げると、プルネとフューシャ以外は全員が屋敷へと引き上げていった。その際にアイリスがもう一度柔らかい笑顔を見せていた。
(あの表情、私とスミレの事に気が付いてますね)
 そのアイリスの表情に、ついつい驚いてしまうシアンなのだった。
「では、シアン様。こちらへどうぞ」
 プルネが淑女の挨拶をして、シアンの案内を始める。フューシャはブランチェスカが来るといけないからとその場で待機していた。
 プルネに案内されて歩くコーラル伯爵邸。屋敷の敷地の中は、シアンの記憶にあるそのままのようだった。
(チェリシア様の手によってだいぶ変えられていましたけど、今はその状態が維持されているようですね)
 左右をきょろきょろと見るシアンは、ロゼリアと一緒に来ていた頃のことを思い出していた。あの頃はしょっちゅう互いの家を行き来していたので、鮮明に記憶に残るくらいに覚えているのだ。
 庭の四阿もそのままだった。
 今日は天気がいいのでここでお茶会をするらしく、既に使用人たちがセッティングを始めていた。
「では、シアン様どうぞ」
 どういうわけかプルネが自らシアンの席の椅子を引いている。
「ええ、すみませんね」
 戸惑いながら反応するシアン。椅子に腰を掛けると、プルネが動作に合わせて椅子を入れていた。
「使用人の仕事でございますでしょう?」
「そうですけれど、ちょっとやってみたかったのです」
 照れ笑いのプルネに、思わず笑ってしまうシアンだった。
 席に着いてしばらく談笑をしていると、ようやくブランチェスカも侍女を伴ってやって来た。ついでにフューシャもいる。
「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」
 丁寧に淑女の挨拶を行うブランチェスカである。
 四人揃ってテーブルを囲むと、いろいろと話を始めるシアンたち。
「マゼンダ商会の魔道具は本当に便利ですよね。我が家でも活用させて頂いておりますわ」
「お褒め頂きありがとうございます。魔道具の開発は大体チェリシアおば様がされてらっしゃいます。本当におば様の発想は柔軟で、尊敬しております」
 ブランチェスカが魔道具の話題を振ると、プルネは丁寧に反応している。
「チェリシアおば様はマゼンダ侯爵家に嫁がれて向こうの方になられてしまいましたが、相変わらずこちらにも時々顔を出してらっしゃいますよ。こんなの作ったとか、こういうのどうとか、私たちにもいろいろとお話なさるのですよ」
 フューシャも話に混ざってくる。シアンも転生してから何度か顔を合わせたのだが、チェリシアは相変わらずのようだった。さすがは異世界からの転生者である。
「おば様の話はこれくらいにして、私はモスグリネの話が聞きたいですね」
 フューシャがシアンに話を振る。すると、これにはプルネもブランチェスカも興味津々のようである。行った事のない他国の話なので、当然といえば当然だろう。
「どんな話を致しましょうか」
 少し戸惑いはしたものの、落ち着いて反応を示すシアン。王女たる者、落ち着きがなくてはいけない。心の中で平常心と唱えながら対応している。
「おば様から聞きましたよ。でかい猫が商売を取り仕切っていらっしゃるそうですね」
「ああ、ケットシーの事ですね。彼には困ったものですよ」
 つい表情を歪ませてしまうシアンとスミレ。幻獣でありながらも人の社会で平然と暮らすあの猫には、二人していろいろと振り回されたからだ。
 正直なところ、あまり話をしたくないシアン。しかし、プルネたちが興味を示している以上、話をせざるを得ない。悩んだものの、結局は簡単ながらにも話をする事にした。
「不思議なところなのですね、モスグリネ王国というのは」
「ぜひとも行ってみたいですわ」
 ケットシーの話をそこそこに、精霊の話や自然が豊かだという話をすると、プルネやブランチェスカはもちろん、フューシャもかなり興味を示したようだった。
 そんなこんなでいろいろ盛り上がりを見せたお茶会。まぁ成功と言っていいのではないだろうか。
 無事に終わらせる事ができたシアンは、ほっと安心した様子で城へと戻っていったのだった。
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