逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
422 / 433
新章 青色の智姫

第53話 プルネからのお誘い

しおりを挟む
 ブランチェスカとプルネという友人ができて、ひとまず幸先の良い学園生活をスタートしたと思われるシアン。
 隣国モスグリネ王国の王女という立場にありながら、自分に対する取り巻きというのは面白いほどに存在しなかった。おそらくはプルネの名であるフューシャが原因だろう。
 先日の学食での一件で、頼りなさげなプルネとは対照的に、どことなく危険な香りが漂う感じがしたのだ。まぁ家の環境と長女という立場を考えれば、想像に難くはないかもしれない。
 そんな中、プルネからコーラル家に遊びに来てほしいという申し出を受けるシアン。
 どうしたものかと、誘われたその日に食事の席でシルヴァノとペシエラに相談を入れることにした。
 相談を受けた二人の反応は、思ったよりも淡白なものだった。
「護衛もつけるから行ってきなさい」
 ペシエラからはそう言われた。
「護衛ですか?」
 こくりと頷くペシエラ。
「あなたは隣国の王女なのです。何かあっては困るでしょう?」
「……そうでした」
 うっかり自分の立場を忘れかけていたシアンである。これにはペシエラも苦笑いだ。対面に座るライトとダイアもなんて反応していいのか困っている。
「でも、お茶会をするというのでしたら、正式に招待状を送って頂きませんとね。実家だからとはいえ、優遇するつもりはございませんわ」
 ペシエラははっきりとそう言い切っている。こういうところは厳しいのである。さすがは逆行前に厳しい人生を送ってきただけのことはあるというものだ。自分のやらかしで王国だけでなく自分の身まで滅ぼしただけに、かなり厳格な性格になっているのである。
「承知致しました。では、明日にでもプルネに話しておきますね」
「ええ、そうしてちょうだい。わたくしからもお父様に話しておきますわ」
 そんなこんなで、ペシエラとの間で話が決まってしまった。ペシエラの実家と話とあって、シルヴァノは終始静観を決め込んでいたらしく、一切話に絡んでこなかった。

 翌日、シアンは学園でプルネに話し掛ける。
「プルネ、ちょっとよろしいでしょうか」
「はい、シアン様、何でしょうか」
 シアンの呼び掛けに、プルネが反応する。その表情はちょっと緊張した様子だった。
「王妃様にお話したところ、招待状を送って下さいとのことでした。私も王族ですから、いろいろと面倒があるみたいです」
「あ……、分かりました。それでは、今夜にでも早速認めさせて頂きます」
 シアンから言われて、プルネはおとなしくそれに従うことにしたのだった。
 これで早ければ明日にでも城に招待状が届くだろう。正直言えば口約束でもいいのだろうけれど、お茶会となれば立派な社交。形式を守ってこその貴族社会というものなのである。
 そして、翌日の朝一に王城だけではなくクロッツ子爵家にも招待状が届いたようである。どうやら学園から帰ってからすぐに認め、朝一に届くように手配をしたらしい。よっぽどすぐに返事が欲しかったのだと思われる。
(うふふ、可愛らしいですね、プルネってば)
 届けられた手紙を確認して、口に当てながら笑うシアン。そんな姿を見てもスミレはすんとした真顔を見せている。さすがは幻獣、そういう感情には乏しいようだ。あれだけシアンの側で仕えているというのに、本質はまったく変わらないのである。
「スミレ」
「はい、シアン様」
「今度のお休みが楽しみですね」
「そうでございますね」
 にこやかな表情をするシアンに対し、スミレの表情は相変わらず無表情だった。
 学園でプルネに出会ったシアンは、直にお茶会の了承を伝える。すると、嬉しそうに飛び跳ねていた。まったく可愛らしい反応である。
 ちなみにだが、シアンは城を出る前に返事を認めて王都のコーラル伯爵邸に届けるように手配をしていた。なので、学園が終わって帰るとその知らせが届くようになっている。もちろん、プルネには内緒である。
 ブランチェスカともこっそり話をするシアンだったが、どうやらブランチェスカも同じ対応と取ったらしく、家に戻ったプルネの反応が楽しみで仕方ないようだった。まったく、妙なところで気の合う二人である。
「二人とも、どうしたのですか?」
 笑い合うシアンとブランチェスカの姿を見て、プルネは不思議そうに首を傾げている。
「内緒ですよ」
「内緒ですね」
 ピッタリ息の合うシアンとブランチェスカ。これにはプルネは困った表情を見せていた。まるで仲間外れのように感じたのだろうか。
「まぁそんなに怖い顔をしないで下さい。それよりも楽しみですね、今度のお休み」
「はい、そうですね」
 シアンに言葉を返されて、思わず頷いてしまうプルネである。
 その日も三人は、仲良くにこやかに一日を終えたのだった。

 そして、いよいよお休みの日。この日はコーラル伯爵邸でお茶会が行われる。
「さて、よく思えばアイヴォリー王国内で初めてのお茶会です。無事にこなしてみせますよ」
 シアンの姿にはかなり気合いが入っていた。
 侍女であるスミレの付き添いの下、シアンは馬車でコーラル伯爵邸を目指したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...