421 / 473
新章 青色の智姫
第52話 常にある”たたかい”
しおりを挟む
学園は二日目にしてそれなりに派閥のようなものができ上がっていた。国内の有力な貴族を頂点として、そこに巻かれるようにして弱い貴族令息令嬢たちが従う。実に誰が実力者か分かりやすい構図が形成される。
ここ最近は公爵家や侯爵家の子女が入学していなかった事で、頂点に君臨するのは伯爵家の子女だった。
早速ながら、伯爵令嬢であるプルネの周りに人が集まってくるという現象が起きている。ところが、プルネ自身はあまり相手にするような様子はなかった。
プルネの母親であるアイリスはパープリア男爵家を抜けた後は、どちらかといえば調和を重視した性格だったのだが、子どもの性格は父親であるニーズヘッグの方に寄っている。孤高を貫くために群がられるのは嫌なようなのだ。
ところがどっこい、そういう姿が受けてかえって人が集まってくる始末で、プルネは困っているようだった。
「フューシャお姉様」
「プルネ、どうしたのですか」
一つ年上になるフューシャ・コーラル。つまりはアイリスの学園卒業の翌年には生まれた少女である。現状では、彼女が学園のトップみたいなものだ。血のつながりはないとはいえど、現王妃ペシエラ・コーラル・アイヴォリーの実家であるコーラル家の令嬢なのだから。
昼食になって学食に顔を出したところで、対応に困ったプルネはフューシャに助けを求めたようだ。
「お姉様、私、取り巻きができて困っています。どうしたらよいでしょうか」
「あらあら、それは困りましたね」
フューシャはプルネの相談を受けながら、微笑みを周りに向ける。すると、周りにいた学生たちは何かを感じ取ったのか、ぴたりと動きを止めた。
なんといっても母親であるアイリスは、やむを得ないとはいえど裏家業に手を出していた人間だ。それに、その侍女であるキャノルも裏家業の人間。そんな環境で育ってきたフューシャもまた、影響を受けないわけがなかったのである。
コーラル伯爵家の長女としての自覚が、自然と両親たちや侍女たちの持つ技量というものを身に付けさせてしまったようだった。
「うふふ、ペシエラおば様が知ったらなんて仰られるでしょうかしらね。楽しみでなりませんわね」
頬に手を当てて笑うその顔は確かに笑顔なのだが、言い知れぬ恐怖を感じさせる。プルネについて来ていた取り入ろうとする貴族子女たちは、フューシャの笑顔にすごすごと退散していった。
「さあ、もう安心ですよ、プルネ」
「ありがとうございます、フューシャお姉様」
抱きつくプルネの頭を優しく撫でるフューシャ。
「あら、どちら様たちかしら」
顔を上げたフューシャは、プルネと一緒に食事をしに来ていたシアンとブランチェスカに気が付いた。
「これはプルネのご親族の方でしたか。私、モスグリネ王国王女のシアン・モスグリネと申します。プルネとは同じクラスになりまして、お付き合いをさせて頂くことになりました」
「まあ、これはシアン王女殿下でございますか。お母様やおば様からお話はお伺いしております」
シアンの挨拶を受けて、立ち上がって淑女の挨拶をするフューシャである。さすがというか、その所作はとてもきれいだった。
「フューシャ様、お初にお目にかかります。私、ブランチェスカ・クロッツと申します。父の爵位は子爵でございます。プルネ様とは仲良くさせて頂いております」
シアンに続いてブランチェスカも挨拶をする。一応フューシャの方が家の爵位が上なので、挨拶はかなり丁寧である。
「うふふ、プルネったらいきなりいい友だちができましたね。王女殿下はさすがに驚きましたけれど」
フューシャはにこにことした笑顔で話している。ずっと崩れないだけに少し怖い感じがする。
「ささっ、早く食事にしてしまいましょう。プルネ、ここで待っていて下さいね。私が食事を運んできます、同じのでよかったですかね」
「お姉様、さすがに悪いです」
「ふふっ、可愛い妹のために頑張るのが姉というのではなくて?」
フューシャは有無を言わさずにプルネを席に着かせていた。
「プルネ、今は我慢しましょう。それに席に座っていないと、今の状況では場所が確保できませんからね」
シアンに言われて慌てて周りを見るプルネ。昼食の時間とあって、みんな座る席を探して必死になっている。つまり、席を空けてしまえば取られてしまう可能性が高かったのだ。フューシャがプルネを制して座らせていたのはそのためである。
しばらくすると、フューシャが三人分の料理を持って戻ってきた。
「お待たせしましたわ。それでは食事に致しましょう」
平然とした顔でシアンとプルネの分の料理を置いていくフューシャ。少し遅れてブランチェスカも戻ってきた。
「しょ、食事って戦いですね……」
「ええ、そうですよ。早くしないと売り切れてしまいますからね」
よく見るとブランチェスカの髪が乱れていた。どうやら料理の注文の際にもみくちゃにされたようだった。
こうして無事に学食デビューを果たしたシアンたちである。
(学食の戦いは、今も変わらないのですね……)
つい昔を思い出したシアンは、食事をしながらついつい笑ってしまっていたのだった。
ここ最近は公爵家や侯爵家の子女が入学していなかった事で、頂点に君臨するのは伯爵家の子女だった。
早速ながら、伯爵令嬢であるプルネの周りに人が集まってくるという現象が起きている。ところが、プルネ自身はあまり相手にするような様子はなかった。
プルネの母親であるアイリスはパープリア男爵家を抜けた後は、どちらかといえば調和を重視した性格だったのだが、子どもの性格は父親であるニーズヘッグの方に寄っている。孤高を貫くために群がられるのは嫌なようなのだ。
ところがどっこい、そういう姿が受けてかえって人が集まってくる始末で、プルネは困っているようだった。
「フューシャお姉様」
「プルネ、どうしたのですか」
一つ年上になるフューシャ・コーラル。つまりはアイリスの学園卒業の翌年には生まれた少女である。現状では、彼女が学園のトップみたいなものだ。血のつながりはないとはいえど、現王妃ペシエラ・コーラル・アイヴォリーの実家であるコーラル家の令嬢なのだから。
昼食になって学食に顔を出したところで、対応に困ったプルネはフューシャに助けを求めたようだ。
「お姉様、私、取り巻きができて困っています。どうしたらよいでしょうか」
「あらあら、それは困りましたね」
フューシャはプルネの相談を受けながら、微笑みを周りに向ける。すると、周りにいた学生たちは何かを感じ取ったのか、ぴたりと動きを止めた。
なんといっても母親であるアイリスは、やむを得ないとはいえど裏家業に手を出していた人間だ。それに、その侍女であるキャノルも裏家業の人間。そんな環境で育ってきたフューシャもまた、影響を受けないわけがなかったのである。
コーラル伯爵家の長女としての自覚が、自然と両親たちや侍女たちの持つ技量というものを身に付けさせてしまったようだった。
「うふふ、ペシエラおば様が知ったらなんて仰られるでしょうかしらね。楽しみでなりませんわね」
頬に手を当てて笑うその顔は確かに笑顔なのだが、言い知れぬ恐怖を感じさせる。プルネについて来ていた取り入ろうとする貴族子女たちは、フューシャの笑顔にすごすごと退散していった。
「さあ、もう安心ですよ、プルネ」
「ありがとうございます、フューシャお姉様」
抱きつくプルネの頭を優しく撫でるフューシャ。
「あら、どちら様たちかしら」
顔を上げたフューシャは、プルネと一緒に食事をしに来ていたシアンとブランチェスカに気が付いた。
「これはプルネのご親族の方でしたか。私、モスグリネ王国王女のシアン・モスグリネと申します。プルネとは同じクラスになりまして、お付き合いをさせて頂くことになりました」
「まあ、これはシアン王女殿下でございますか。お母様やおば様からお話はお伺いしております」
シアンの挨拶を受けて、立ち上がって淑女の挨拶をするフューシャである。さすがというか、その所作はとてもきれいだった。
「フューシャ様、お初にお目にかかります。私、ブランチェスカ・クロッツと申します。父の爵位は子爵でございます。プルネ様とは仲良くさせて頂いております」
シアンに続いてブランチェスカも挨拶をする。一応フューシャの方が家の爵位が上なので、挨拶はかなり丁寧である。
「うふふ、プルネったらいきなりいい友だちができましたね。王女殿下はさすがに驚きましたけれど」
フューシャはにこにことした笑顔で話している。ずっと崩れないだけに少し怖い感じがする。
「ささっ、早く食事にしてしまいましょう。プルネ、ここで待っていて下さいね。私が食事を運んできます、同じのでよかったですかね」
「お姉様、さすがに悪いです」
「ふふっ、可愛い妹のために頑張るのが姉というのではなくて?」
フューシャは有無を言わさずにプルネを席に着かせていた。
「プルネ、今は我慢しましょう。それに席に座っていないと、今の状況では場所が確保できませんからね」
シアンに言われて慌てて周りを見るプルネ。昼食の時間とあって、みんな座る席を探して必死になっている。つまり、席を空けてしまえば取られてしまう可能性が高かったのだ。フューシャがプルネを制して座らせていたのはそのためである。
しばらくすると、フューシャが三人分の料理を持って戻ってきた。
「お待たせしましたわ。それでは食事に致しましょう」
平然とした顔でシアンとプルネの分の料理を置いていくフューシャ。少し遅れてブランチェスカも戻ってきた。
「しょ、食事って戦いですね……」
「ええ、そうですよ。早くしないと売り切れてしまいますからね」
よく見るとブランチェスカの髪が乱れていた。どうやら料理の注文の際にもみくちゃにされたようだった。
こうして無事に学食デビューを果たしたシアンたちである。
(学食の戦いは、今も変わらないのですね……)
つい昔を思い出したシアンは、食事をしながらついつい笑ってしまっていたのだった。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる