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新章 青色の智姫
第48話 学園初日
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(まったく、いきなり変な学生に絡まれてしまったわ……)
教室までやって来たシアンは不機嫌気味になっていた。
(黒っぽい髪色をしていので、ノワール伯爵家の子どもでしょうか。だとしたら、オフライト様とシェイディア様、どちらのご子息でしょうかね……)
ほかに考えることがなかったので、ついついさっきの男子学生の事を考え込んでしまうシアンだった。
「ねえ、どうしたの。難しい顔をしているけれど」
突然声を掛けられて、シアンは思わず反応して顔を上げる。そこには、茶色の髪をハーフアップにした少女が立っていた。
「えと? どちら様でしょうか」
思わず首を傾げて訪ねてしまう。
「私はブランチェスカ・クロッツと申します。クロッツ子爵家の長女です。お初にお目にかかります、シアン・モスグリネ王女殿下。ブランチェスカとお呼び下さい」
ブランチェスカと名乗った少女は、さわやかな笑顔をシアンへと向けてくる。急に話し掛けられたので驚いていたシアンだったが、落ち着いて挨拶をし返す。
「これはご丁寧に。ご指摘の通り、私はモスグリネ王国王女シアン・モスグリネでございます。三年間、よろしくお願いしますわ、ブランチェスカ」
「こちらこそよろしくお願いします」
地味に緊張が解けたのか、シアンはブランチェスカと笑顔を向け合っている。
「あー、いました。本当にいらっしゃるとは思いませんでした」
和やかな雰囲気をぶち壊すかのように、騒がしい声が近付いてきた。声に反応して振り返ると、そこには紫髪の少女が立っていた。
「あの、急に何なのでしょうか……」
立て続けに突然話しかけられたものだから、シアンは反応に困っている。
「失礼しました。お父様、お母様からお話を伺っていましたので、同じクラスになって喜びのあまりに声を掛けてしまいました」
肩にかかる波打ったロングヘアをふわりとさせながら、紫髪の少女はシアンの目の前までやってくる。そして、軽く淑女の挨拶をする。
「私はコーラル伯爵家の次女でプルネと申します。お会いできて光栄でございます」
顔を上げて名乗ると、にこりと微笑んでいた。
(コーラル伯爵家。つまり、アイリスとニーズヘッグの娘というわけですか。顔立ちと性格は、ニーズヘッグの方に近い感じですね。それにしても、幻獣との子どもとは不思議なものですね)
シアンは挨拶をしながらいろいろと考え込んでいた。なにぶん前世の知識があると、妙な先入観を抱いてしまうのだ。
シアンが知る限り、アイリスは控えめな感じで、ニーズヘッグはアイリスにべた惚れながらもかなり乱暴な性格だったと記憶している。そのために、ニーズヘッグに近いと感じて少し心の中で構えてしまったのだ。
「シアン様?」
プルネが不思議そうな顔をしながらシアンの顔を覗き込んでくる。少し下を見たシアンの視界に急に入り込んできたものだから、シアンはびっくりして少し後退ってしまった。
すると、プルネの方も驚いた表情を見せていた。
「あ、ごめんなさい。ちょっといろいろ考え込んでしまったので、驚いてしまいました」
「あっいえ。こちらこそ驚かせてしまうとは失礼しました」
シアンが謝ると、プルネも頭を下げて謝ってきた。こういう素直さはアイリスの性格を受け継いでいると感じるシアンだった。
「おほん、せっかく同じクラスになって知り合いになれたのですし仲良くしましょう」
少しつり目の目を閉じてにこにこと笑っているブランチェスカ。
「え、ええ。そうですね、仲良く致しましょう」
あまりの満面の笑みに少し引いてしまうシアンだったが、気を取り直して対応している。
シアンがここまで引いた反応をしているのは、ここまでの友人がいなかったというのが大きい。
アクアマリン子爵家の四女として生まれてから、膨大な魔力と真面目な性格が災いして、あまり友人というものができなかったからだ。いないことはなかったのだが。
真面目なせいで冷たい性格に思われたらしく、周りから距離を取られたというのもある。そんな状況だったので、家督を継ぐ事はさっさと放棄して、使用人となる道を選んだのだった。
(それにしても、まさかいきなり話しかけられて友人を作ることになるとは……。前世を思うと、信じられませんね)
にこにこと笑う少女が自分の両隣に座っているかと思うと、どこか落ち着かない気持ちになるシアン。過去の経験上、現実が受け止められないようだった。
「ほら、シアン様。そんな硬い表情をしてないで、笑いましょう」
「そうですよ。おきれいなのですから、笑顔はきっと素敵ですわよ」
「え、ええ……」
二人からの攻勢に、戸惑いっぱなしのシアン。
どうしたらいいのか迷っていると、教室の前方に一人の男性が現れた。
「お待たせしました。これより話を始めますから、静かにして下さいね」
少し白髪の混ざった赤みがかった茶髪の男性、それは先日城で見たガレンだった。
どうやらガレンがシアンたちのクラスの担任を務めるようだった。
なんとも初日から、意外な事が続く。
一体どんな学園生活になるのだろうか。シアンはまったく落ち着かなかった。
教室までやって来たシアンは不機嫌気味になっていた。
(黒っぽい髪色をしていので、ノワール伯爵家の子どもでしょうか。だとしたら、オフライト様とシェイディア様、どちらのご子息でしょうかね……)
ほかに考えることがなかったので、ついついさっきの男子学生の事を考え込んでしまうシアンだった。
「ねえ、どうしたの。難しい顔をしているけれど」
突然声を掛けられて、シアンは思わず反応して顔を上げる。そこには、茶色の髪をハーフアップにした少女が立っていた。
「えと? どちら様でしょうか」
思わず首を傾げて訪ねてしまう。
「私はブランチェスカ・クロッツと申します。クロッツ子爵家の長女です。お初にお目にかかります、シアン・モスグリネ王女殿下。ブランチェスカとお呼び下さい」
ブランチェスカと名乗った少女は、さわやかな笑顔をシアンへと向けてくる。急に話し掛けられたので驚いていたシアンだったが、落ち着いて挨拶をし返す。
「これはご丁寧に。ご指摘の通り、私はモスグリネ王国王女シアン・モスグリネでございます。三年間、よろしくお願いしますわ、ブランチェスカ」
「こちらこそよろしくお願いします」
地味に緊張が解けたのか、シアンはブランチェスカと笑顔を向け合っている。
「あー、いました。本当にいらっしゃるとは思いませんでした」
和やかな雰囲気をぶち壊すかのように、騒がしい声が近付いてきた。声に反応して振り返ると、そこには紫髪の少女が立っていた。
「あの、急に何なのでしょうか……」
立て続けに突然話しかけられたものだから、シアンは反応に困っている。
「失礼しました。お父様、お母様からお話を伺っていましたので、同じクラスになって喜びのあまりに声を掛けてしまいました」
肩にかかる波打ったロングヘアをふわりとさせながら、紫髪の少女はシアンの目の前までやってくる。そして、軽く淑女の挨拶をする。
「私はコーラル伯爵家の次女でプルネと申します。お会いできて光栄でございます」
顔を上げて名乗ると、にこりと微笑んでいた。
(コーラル伯爵家。つまり、アイリスとニーズヘッグの娘というわけですか。顔立ちと性格は、ニーズヘッグの方に近い感じですね。それにしても、幻獣との子どもとは不思議なものですね)
シアンは挨拶をしながらいろいろと考え込んでいた。なにぶん前世の知識があると、妙な先入観を抱いてしまうのだ。
シアンが知る限り、アイリスは控えめな感じで、ニーズヘッグはアイリスにべた惚れながらもかなり乱暴な性格だったと記憶している。そのために、ニーズヘッグに近いと感じて少し心の中で構えてしまったのだ。
「シアン様?」
プルネが不思議そうな顔をしながらシアンの顔を覗き込んでくる。少し下を見たシアンの視界に急に入り込んできたものだから、シアンはびっくりして少し後退ってしまった。
すると、プルネの方も驚いた表情を見せていた。
「あ、ごめんなさい。ちょっといろいろ考え込んでしまったので、驚いてしまいました」
「あっいえ。こちらこそ驚かせてしまうとは失礼しました」
シアンが謝ると、プルネも頭を下げて謝ってきた。こういう素直さはアイリスの性格を受け継いでいると感じるシアンだった。
「おほん、せっかく同じクラスになって知り合いになれたのですし仲良くしましょう」
少しつり目の目を閉じてにこにこと笑っているブランチェスカ。
「え、ええ。そうですね、仲良く致しましょう」
あまりの満面の笑みに少し引いてしまうシアンだったが、気を取り直して対応している。
シアンがここまで引いた反応をしているのは、ここまでの友人がいなかったというのが大きい。
アクアマリン子爵家の四女として生まれてから、膨大な魔力と真面目な性格が災いして、あまり友人というものができなかったからだ。いないことはなかったのだが。
真面目なせいで冷たい性格に思われたらしく、周りから距離を取られたというのもある。そんな状況だったので、家督を継ぐ事はさっさと放棄して、使用人となる道を選んだのだった。
(それにしても、まさかいきなり話しかけられて友人を作ることになるとは……。前世を思うと、信じられませんね)
にこにこと笑う少女が自分の両隣に座っているかと思うと、どこか落ち着かない気持ちになるシアン。過去の経験上、現実が受け止められないようだった。
「ほら、シアン様。そんな硬い表情をしてないで、笑いましょう」
「そうですよ。おきれいなのですから、笑顔はきっと素敵ですわよ」
「え、ええ……」
二人からの攻勢に、戸惑いっぱなしのシアン。
どうしたらいいのか迷っていると、教室の前方に一人の男性が現れた。
「お待たせしました。これより話を始めますから、静かにして下さいね」
少し白髪の混ざった赤みがかった茶髪の男性、それは先日城で見たガレンだった。
どうやらガレンがシアンたちのクラスの担任を務めるようだった。
なんとも初日から、意外な事が続く。
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