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新章 青色の智姫
第47話 入学を迎えて
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年越しのパーティーを終えると年が明ける。
いよいよ学園に入学する時が来た。
「スミレ、これで問題ないでしょうか」
「はい、大丈夫でございます。よく似合いですよ、シアン様」
真新しい制服に袖を通し、シアンは戸惑いながら姿見を見ている。
「まさか、これに再び袖を通す時が来るとは思ってもみませんでした」
「そういえば、シアン・アクアマリンの時にも制服を着られてたのですよね」
シアンの独り言に、スミレが反応している。これにシアンはこくりと頷いていた。
「この制服は、その時のデザインを思い出しながら仕立てて頂いたのです。我ながら、少し舞い上がってしまったかもしれませんね」
制服のデザインに関して、昔を思い出して注文を出してしまったことを後悔するシアンである。ちなみにそのデザインであるが、ロゼリアが着る制服にも応用していたので、親子そろってほぼ同じ服装という状況になっていた。
額を押さえながらため息を吐くシアンの姿に、思わず笑いをこぼしてしまうスミレだった。
「ですが、今は後悔なさっている時ではございませんよ。そろそろ入学式でございます。覚悟を決めましょう」
「そうですね……」
スミレに言われて、もう一度大きくため息を吐くシアンだった。
王家の馬車に揺られながら、シアンはスミレに付き添われて学園へと向かっていく。
ただ、それは学園に到着するまで。学生でなければ中に入ることはできない。
ペシエラの侍女であったアイリスがその代表例だ。もっとも、学生だった後での立場変更だったという背景があるわけなのだが。
学園の入口に到着すると、スミレに手を引かれてシアンは馬車を降りる。
地面に足をつけ、顔を上げたシアンは、目の前の光景に思わず声が漏れてしまう。
「……懐かしいですね」
かつてはシアン・アクアマリンとして通い、ロゼリアの侍女となってからもたびたび訪れた事のある場所だ。自然と当時の事を思い出してしまうのだ。
「シアン様?」
立ち止まって動かなくなったシアンに、スミレが声を掛ける。
シアンの顔を確認すると、呆然としたような表情で、瞳からあふれ出すものを止められずにいたようだった。
その姿を確認したスミレは、黙ってポケットからハンカチを取り出していた。
「やれやれ、先が思いやられますね。……私には人間の感情というのはいまいち理解はできませんが、不思議とあなたの気持ちは分かりそうで困ります」
スミレが優しくシアンの頬を拭う。すると、シアンはようやく現実に戻ってきたようだ。
「スミレ……?」
「はい、スミレでございますよ。なんとなくお気持ちは察しますが、校門の前で止まられますと、他の方の迷惑になると存じます。今は抑えて下さいますように」
「そ、そうですね」
スミレが持っているハンカチをそっと奪うと、瞳からあふれるものをしっかりとふき取っていた。
「ありがとう、スミレ」
「メイドとして当然のことでございます」
淡々と受け答えをするスミレである。
「では、帰る頃になりましたらお迎えに上がります。シアン様、お気をつけていってらっしゃいませ」
「ええ、ありがとう」
スミレに見送られながら、シアンは学園の中へと元気に駆けていった。
入学式は講堂で行われる。学園でのパーティーなども行われる大きな建物だ。
一応クラス分けは確認してはいるものの、シアンは教室にはいっていない。母親であるロゼリア譲りなのか、収納魔法持ちである。そのために荷物を置いてくる必要がないというわけだ。
ちなみに、シアン・アクアマリン時代には一度も習得できなかった魔法でもある。
(アクアマリンの血筋の魔力ですらできなかった事ができるとは……。これも時間を遡ったお母様の影響でしょうかね)
だらだらと長い学園長の挨拶を聞きながら、シアンは自分の持っている魔法の数々を思い返していた。
ぼーっとしていれば怒られそうなものだが、入学する子女の人数がそこそこいるし、平然とあくびをしている学生もいるのであんまり目立たないのである。
いろいろと考え事をしている間に、学園長の挨拶が終わり、そのまま入学式も終わってしまった。
多くの学生たちが退屈そうに背伸びをしたりあくびをしたりしている中、シアンは平然と歩いている。
「お前さ、あのかったるい挨拶を聞いて平気でいられるな」
誰か知らないが、男子学生がシアンに声を掛けてきた。
「当然です。私は王族ですから、みなさまの規範とならなければなりません。気を抜いてなんていられないのです」
「へえ……。そっか、お前がモスグリネからの留学生か。意外な髪色をしているんだな、分からなかったぜ」
「失礼な殿方ですね。私は教室へ急いでいるのです。構っている暇などありません」
シアンは軽く睨むような視線を送ると、そのまま足早に男子学生から離れていく。その態度を見た男子学生は、頭の後ろに両手を回して面白そうに笑っていた。
「へえ、面白そうな子じゃんか。これは思ったより学園が楽しめそうだな」
好奇心バリバリな目でシアンの姿を見送る男子学生。一度大きく背伸びをすると、彼もまた教室へ向かって歩き出したのだった。
いよいよ学園に入学する時が来た。
「スミレ、これで問題ないでしょうか」
「はい、大丈夫でございます。よく似合いですよ、シアン様」
真新しい制服に袖を通し、シアンは戸惑いながら姿見を見ている。
「まさか、これに再び袖を通す時が来るとは思ってもみませんでした」
「そういえば、シアン・アクアマリンの時にも制服を着られてたのですよね」
シアンの独り言に、スミレが反応している。これにシアンはこくりと頷いていた。
「この制服は、その時のデザインを思い出しながら仕立てて頂いたのです。我ながら、少し舞い上がってしまったかもしれませんね」
制服のデザインに関して、昔を思い出して注文を出してしまったことを後悔するシアンである。ちなみにそのデザインであるが、ロゼリアが着る制服にも応用していたので、親子そろってほぼ同じ服装という状況になっていた。
額を押さえながらため息を吐くシアンの姿に、思わず笑いをこぼしてしまうスミレだった。
「ですが、今は後悔なさっている時ではございませんよ。そろそろ入学式でございます。覚悟を決めましょう」
「そうですね……」
スミレに言われて、もう一度大きくため息を吐くシアンだった。
王家の馬車に揺られながら、シアンはスミレに付き添われて学園へと向かっていく。
ただ、それは学園に到着するまで。学生でなければ中に入ることはできない。
ペシエラの侍女であったアイリスがその代表例だ。もっとも、学生だった後での立場変更だったという背景があるわけなのだが。
学園の入口に到着すると、スミレに手を引かれてシアンは馬車を降りる。
地面に足をつけ、顔を上げたシアンは、目の前の光景に思わず声が漏れてしまう。
「……懐かしいですね」
かつてはシアン・アクアマリンとして通い、ロゼリアの侍女となってからもたびたび訪れた事のある場所だ。自然と当時の事を思い出してしまうのだ。
「シアン様?」
立ち止まって動かなくなったシアンに、スミレが声を掛ける。
シアンの顔を確認すると、呆然としたような表情で、瞳からあふれ出すものを止められずにいたようだった。
その姿を確認したスミレは、黙ってポケットからハンカチを取り出していた。
「やれやれ、先が思いやられますね。……私には人間の感情というのはいまいち理解はできませんが、不思議とあなたの気持ちは分かりそうで困ります」
スミレが優しくシアンの頬を拭う。すると、シアンはようやく現実に戻ってきたようだ。
「スミレ……?」
「はい、スミレでございますよ。なんとなくお気持ちは察しますが、校門の前で止まられますと、他の方の迷惑になると存じます。今は抑えて下さいますように」
「そ、そうですね」
スミレが持っているハンカチをそっと奪うと、瞳からあふれるものをしっかりとふき取っていた。
「ありがとう、スミレ」
「メイドとして当然のことでございます」
淡々と受け答えをするスミレである。
「では、帰る頃になりましたらお迎えに上がります。シアン様、お気をつけていってらっしゃいませ」
「ええ、ありがとう」
スミレに見送られながら、シアンは学園の中へと元気に駆けていった。
入学式は講堂で行われる。学園でのパーティーなども行われる大きな建物だ。
一応クラス分けは確認してはいるものの、シアンは教室にはいっていない。母親であるロゼリア譲りなのか、収納魔法持ちである。そのために荷物を置いてくる必要がないというわけだ。
ちなみに、シアン・アクアマリン時代には一度も習得できなかった魔法でもある。
(アクアマリンの血筋の魔力ですらできなかった事ができるとは……。これも時間を遡ったお母様の影響でしょうかね)
だらだらと長い学園長の挨拶を聞きながら、シアンは自分の持っている魔法の数々を思い返していた。
ぼーっとしていれば怒られそうなものだが、入学する子女の人数がそこそこいるし、平然とあくびをしている学生もいるのであんまり目立たないのである。
いろいろと考え事をしている間に、学園長の挨拶が終わり、そのまま入学式も終わってしまった。
多くの学生たちが退屈そうに背伸びをしたりあくびをしたりしている中、シアンは平然と歩いている。
「お前さ、あのかったるい挨拶を聞いて平気でいられるな」
誰か知らないが、男子学生がシアンに声を掛けてきた。
「当然です。私は王族ですから、みなさまの規範とならなければなりません。気を抜いてなんていられないのです」
「へえ……。そっか、お前がモスグリネからの留学生か。意外な髪色をしているんだな、分からなかったぜ」
「失礼な殿方ですね。私は教室へ急いでいるのです。構っている暇などありません」
シアンは軽く睨むような視線を送ると、そのまま足早に男子学生から離れていく。その態度を見た男子学生は、頭の後ろに両手を回して面白そうに笑っていた。
「へえ、面白そうな子じゃんか。これは思ったより学園が楽しめそうだな」
好奇心バリバリな目でシアンの姿を見送る男子学生。一度大きく背伸びをすると、彼もまた教室へ向かって歩き出したのだった。
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