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新章 青色の智姫
第46話 留学に向けて
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ガレンが帰り、部屋でくつろぐシアンの元にライトとダイアがやって来た。
「シアン様」
「シアンお姉様」
呼ぶ声が聞こえたシアンはくるりと振り返る。
「ライト殿下とダイアじゃないですか。どうなさったのですか」
疲れはあるものの、隣国の王子王女を相手にその様子を見せるわけにはいかない。シアンはにっこりと微笑んで見せている。
「私は飲み物を取って参りますね」
そう言って、スミレは早々に退室していく。
(うん、逃げましたね)
口角を引きつらせながら、笑顔で見送るシアン。
「どうなされたのですか、シアンお姉様」
引きつった笑顔のシアンを見て、ダイアが駆け寄ってくる。
「な、なんでもありません。それよりも二人はどうしてこちらへ?」
立ち上がってダイアを受け止めながら、シアンは二人に問い掛けている。
「謁見の間で顔は合わせましたが、やはり直に挨拶をした方がいいと思いましてね。疲れていらっしゃるだろうからと止めようと思いましたが、ダイアが見ての通りですのでね……」
ライトがダイアの方へと視線を向けている。
ダイアは嬉しそうに顔をうずめながら笑っている。この調子ではよっぽどシアンの事を気に入っているのだろう。
それにしても、あのペシエラの子どもだというのに、性格はシルヴァノの方に近いようだ。まあ、ペシエラのあの性格も逆行前の戦争のせいなわけなので、素直に育っていればこんな風だったかもしれない。
シアンはダイアの頭を撫でながら、とりあえず座るように促す。ダイアもこくりと頷いて、テーブルを囲むソファーに座っていた。
「紅茶をお持ちしました」
タイミングよくスミレが戻ってくる。そのスミレの姿を見て、シアンはある事に気が付いた。
「あら、ライト殿下もダイアも使用人を連れてらっしゃいませんね。お二人だけでこちらへ?」
シアンの指摘のとおりである。普通ならば使用人が常にくっついているはずなのだが、ライトもダイアも連れていないかったのだ。
「ええ、シアン様とお話をするだけですし、問題はないかと思って他の仕事をさせています」
ライトは柔らかな笑顔でしれっと答えていた。
シアンはちょっと驚いたものの、アイヴォリーの城の中なら問題ないかと気持ちを落ち着かせていた。
二人の話をシアンが聞いてみたところ、どうやら以前に会った時から今回の事を楽しみにしていたようだった。それは話す言葉どころか態度からも明らかで、シアンもついつい嬉しそうに話し込んでしまった。
しばらく話をしていると、部屋に二人の使用人が顔を出してきた。
「ライト様、ダイア様、そろそろお食事の時間でございます」
「おや、もうそんな時間でしたか」
使用人の声に驚いたように反応するライト。すぐにシアンへと顔を向けて声を掛ける。
「どうやら夕食のようですね。ここで話を打ち切るしかないみたいです」
ライトはなんだか残念そうな表情を浮かべていた。どれだけ話をしたかったのかがひしひしと伝わってくる。
しかし、食事となると両親であるシルヴァノとペシエラを待たせてしまうことになる。なので、ライトも渋々といった表情になっていたのだ。
食事の席にシアンたちが顔を出すと、ペシエラがいきなり話を切り出してきた。
「早速ですけれど、明日は仕立て屋が城へやって来ますわよ」
きょとんとした表情になるシアン。
シアンが反応するのは、ペシエラがシアンの顔を見て告げたからである。急な話にどう反応していいのか分からないというわけだ。
「年が明ければサンフレア学園に通うことになるのですから、制服を仕立てておかねばなりません。基本的な点を押さえておけば、ある程度のアレンジは許されておりますので、要望があれば仕立て屋に申し入れておきなさい」
「わ、分かりました」
どうやら学園に通うにあたって制服を用意するという話らしい。
そういえば、ロゼリアたちも入学前には制服を準備していたなと、使用人時代の事を思い出すシアン。なにせ二十年も前のことなので少々記憶があいまいになっているのだ。転生もしたのでなおさらである。
「お母様、私も同席してもよろしいですか?」
こう話すのはダイアだ。ペシエラの娘であるダイアはシアンの一つ下になる。なので、翌年には同じように制服を準備することになる。その時の参考にしようというわけである。
「ええ、構いませんよ」
「やったあ」
「ただし、静かに見学すること。よろしいですわね?」
「はぁい……」
ペシエラから優しい顔で厳しく言われると、ダイアはしょんぼりとした声で返事をしていた。許可が出た時の喜びようと対照的で、ついついシアンも笑ってしまうほどだった。
そのおかげか、シアンの緊張もすっかり解けてしまったようで、これからアイヴォリー王国に留学する三年間は楽しく過ごせそうだった。
父親ペイルも体験したサンフレア学園への三年間の留学。
はたしてシアンにはどのような出会いと体験が待っているのだろうか。ライトとダイアのおかげで、シアンにちょっとした期待感が生まれたようだった。
「シアン様」
「シアンお姉様」
呼ぶ声が聞こえたシアンはくるりと振り返る。
「ライト殿下とダイアじゃないですか。どうなさったのですか」
疲れはあるものの、隣国の王子王女を相手にその様子を見せるわけにはいかない。シアンはにっこりと微笑んで見せている。
「私は飲み物を取って参りますね」
そう言って、スミレは早々に退室していく。
(うん、逃げましたね)
口角を引きつらせながら、笑顔で見送るシアン。
「どうなされたのですか、シアンお姉様」
引きつった笑顔のシアンを見て、ダイアが駆け寄ってくる。
「な、なんでもありません。それよりも二人はどうしてこちらへ?」
立ち上がってダイアを受け止めながら、シアンは二人に問い掛けている。
「謁見の間で顔は合わせましたが、やはり直に挨拶をした方がいいと思いましてね。疲れていらっしゃるだろうからと止めようと思いましたが、ダイアが見ての通りですのでね……」
ライトがダイアの方へと視線を向けている。
ダイアは嬉しそうに顔をうずめながら笑っている。この調子ではよっぽどシアンの事を気に入っているのだろう。
それにしても、あのペシエラの子どもだというのに、性格はシルヴァノの方に近いようだ。まあ、ペシエラのあの性格も逆行前の戦争のせいなわけなので、素直に育っていればこんな風だったかもしれない。
シアンはダイアの頭を撫でながら、とりあえず座るように促す。ダイアもこくりと頷いて、テーブルを囲むソファーに座っていた。
「紅茶をお持ちしました」
タイミングよくスミレが戻ってくる。そのスミレの姿を見て、シアンはある事に気が付いた。
「あら、ライト殿下もダイアも使用人を連れてらっしゃいませんね。お二人だけでこちらへ?」
シアンの指摘のとおりである。普通ならば使用人が常にくっついているはずなのだが、ライトもダイアも連れていないかったのだ。
「ええ、シアン様とお話をするだけですし、問題はないかと思って他の仕事をさせています」
ライトは柔らかな笑顔でしれっと答えていた。
シアンはちょっと驚いたものの、アイヴォリーの城の中なら問題ないかと気持ちを落ち着かせていた。
二人の話をシアンが聞いてみたところ、どうやら以前に会った時から今回の事を楽しみにしていたようだった。それは話す言葉どころか態度からも明らかで、シアンもついつい嬉しそうに話し込んでしまった。
しばらく話をしていると、部屋に二人の使用人が顔を出してきた。
「ライト様、ダイア様、そろそろお食事の時間でございます」
「おや、もうそんな時間でしたか」
使用人の声に驚いたように反応するライト。すぐにシアンへと顔を向けて声を掛ける。
「どうやら夕食のようですね。ここで話を打ち切るしかないみたいです」
ライトはなんだか残念そうな表情を浮かべていた。どれだけ話をしたかったのかがひしひしと伝わってくる。
しかし、食事となると両親であるシルヴァノとペシエラを待たせてしまうことになる。なので、ライトも渋々といった表情になっていたのだ。
食事の席にシアンたちが顔を出すと、ペシエラがいきなり話を切り出してきた。
「早速ですけれど、明日は仕立て屋が城へやって来ますわよ」
きょとんとした表情になるシアン。
シアンが反応するのは、ペシエラがシアンの顔を見て告げたからである。急な話にどう反応していいのか分からないというわけだ。
「年が明ければサンフレア学園に通うことになるのですから、制服を仕立てておかねばなりません。基本的な点を押さえておけば、ある程度のアレンジは許されておりますので、要望があれば仕立て屋に申し入れておきなさい」
「わ、分かりました」
どうやら学園に通うにあたって制服を用意するという話らしい。
そういえば、ロゼリアたちも入学前には制服を準備していたなと、使用人時代の事を思い出すシアン。なにせ二十年も前のことなので少々記憶があいまいになっているのだ。転生もしたのでなおさらである。
「お母様、私も同席してもよろしいですか?」
こう話すのはダイアだ。ペシエラの娘であるダイアはシアンの一つ下になる。なので、翌年には同じように制服を準備することになる。その時の参考にしようというわけである。
「ええ、構いませんよ」
「やったあ」
「ただし、静かに見学すること。よろしいですわね?」
「はぁい……」
ペシエラから優しい顔で厳しく言われると、ダイアはしょんぼりとした声で返事をしていた。許可が出た時の喜びようと対照的で、ついついシアンも笑ってしまうほどだった。
そのおかげか、シアンの緊張もすっかり解けてしまったようで、これからアイヴォリー王国に留学する三年間は楽しく過ごせそうだった。
父親ペイルも体験したサンフレア学園への三年間の留学。
はたしてシアンにはどのような出会いと体験が待っているのだろうか。ライトとダイアのおかげで、シアンにちょっとした期待感が生まれたようだった。
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