逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
414 / 431
新章 青色の智姫

第45話 ハウライトにて

しおりを挟む
「久しぶりですね、ハウライト」
 ペイルの王位継承後の旅行以来のアイヴォリー王国である。ちょっとした懐かしさに、シアンは馬車の窓から外をじっと眺めていた。
「よかったですよ、窓から身を乗り出そうとしなくて」
「もう、私はそこまでおてんばではありませんよ」
 スミレの言葉に少々不機嫌になるシアン。その様子にスミレはくすくすと笑っていた。
「分かってはおりますよ。ただ、懐かしさに我を忘れないか心配になっただけです」
「もう、スミレってば……」
 専属メイドであるスミレの言い分に、複雑な表情をするシアン。そろそろアイヴォリーの城に到着するとなると、姿勢を正して座り直していた。

 城に到着して警備の騎士が扉を開けると、スミレが降りて、その手を引かれるようにシアンが降りる。
「ようこそおいで下さいました、シアン・モスグリネ王女殿下」
 出迎えたのはヴァミリオ・マゼンダ。ロゼリアの父親、つまり今のシアンにとっての祖父である。今では家督をカーマイルに譲り、アイヴォリー王国の重鎮を務めている。そのためにシアンを出迎える役目を任されたらしい。
「お出迎えご苦労様です」
 小さく頭を下げるシアン。久しぶりに見たヴァミリオに驚きはしたものの、王女らしく堂々と振る舞っている。
 ヴァミリオの案内で、謁見の間に通されるシアン。向かった先にはシルヴァノとペシエラはもちろん、その子どもであるライトとダイアも待っていた。特に子どもの二人はとてもにこやかな表情をしており、シアンの到着を心待ちにしていたようだ。
「よく来たね、シアン・モスグリネ」
 さわやかな表情で名前を呼ぶシルヴァノ。王家のお坊ちゃまだったシルヴァノも、今やすっかり立派な国王である。ロゼリア付きの侍女だった頃を思い出して、ちょっと涙ぐみそうになるシアンである。
「お久しぶりでございます、シルヴァノ・アイヴォリー陛下」
 気持ちをぐっと堪えて王女らしく挨拶をするシアン。後ろでは騎士たちが跪き、スミレも深く頭を下げている。
「うむ、約束通り、アイヴォリーの学園に通うことを嬉しく思う。学園に通う間はできる限りその身の安全は保障しよう」
「ええ、危ない目になんて遭わせませんわよ」
 シルヴァノとペシエラが約束を口にする。
 なにぶん隣国から王族を受け入れるのだ。その身を守れなくては、信頼関係に影響が出てしまう。当然の配慮といえよう。
「お気遣い、とてもありがたく存じます」
 シアンも淡々と言葉を返していた。
「うむ。今日からはここを我が家だと思って過ごしてほしい。あとで学園の関係者が部屋を訪れると思うので、それまで旅の疲れを取っていてくれ」
「畏まりました」
 シルヴァノの挨拶が終わると、案内役の兵士がやって来る。謁見の間を去ろうとするシアンに対して、ライトとダイアが笑顔で小さく手を振っていた。それに気が付いたシアンは、軽く手を振って挨拶を返していた。

 アイヴォリー王国での自室用に用意された客間に案内されたシアンは、スミレとともに椅子に座って羽を伸ばしている。
 シアン・アクアマリン時代は城に入ることもまれだったので、こうやって城の中をじっくり見たのは何気に初めてである。
 アイヴォリーの使用人が用意した紅茶とお菓子を頬張っていると、唐突に部屋の扉が叩かれる。
「シアン・モスグリネ王女殿下、お休みのところ失礼致します。学園より説明にやって参りました」
「どうぞ、お入り下さい」
 聞こえてきた声に反応するシアン。部屋に通すと、赤茶色の髪の男性が入ってきた。
「まあ、オリジンではないですか」
「その声は、クロノアか。罰で人間にされたとは聞いていたが、こんなところで会うとはね。それと今の私はオリジンではなく学園の一教師のガレンだ。その名前で呼ぶんじゃないぞ」
 そう、シアンの母親であるロゼリアも世話になった教師ガレンだった。彼の正体はモスグリネの精霊の森の主である精霊王オリジンである。そんな彼も見た目はすっかり五十を越えたお爺さんとなっていた。
「まったく、人間のように年を取るだなんて、器用な事をされていますね」
「人間のふりをしているのだから、若々しくいられるわけないだろう。そんな事よりも、私はシアンに学園の説明をしに来たのだ。無駄話はやめてもらおうか」
「これは失礼しました」
 ガレンに怒られてスミレはふてぶてしく謝っていた。
「まあ、シアンくんは一度学園に通っているから、その頃との違いくらいの説明で十分かな」
「あら、私の事情を把握されているのですね」
 ガレンの言葉に驚くシアン。その反応に困惑の表情を浮かべるガレン。
「あのな。私とて精霊王という立場にあるのだぞ? その程度が見抜けなくてどうする。……そもそもケットシーのやつが絡みに来てたからな」
「あの猫は……」
 ガレンから出た名前に、頭が痛くなるシアンとスミレだった。
 いろいろと思うところはあるものの、ガレンからひと通りの説明を受けるシアン。現在の学園の状況は大体つかめたようである。
「それでは、これで失礼するよ。学園で教える日を楽しみにしている」
「ええ、よろしくお願いします」
 学園での再会を楽しみに、ガレンはおとなしく去っていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...