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新章 青色の智姫
第45話 ハウライトにて
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「久しぶりですね、ハウライト」
ペイルの王位継承後の旅行以来のアイヴォリー王国である。ちょっとした懐かしさに、シアンは馬車の窓から外をじっと眺めていた。
「よかったですよ、窓から身を乗り出そうとしなくて」
「もう、私はそこまでおてんばではありませんよ」
スミレの言葉に少々不機嫌になるシアン。その様子にスミレはくすくすと笑っていた。
「分かってはおりますよ。ただ、懐かしさに我を忘れないか心配になっただけです」
「もう、スミレってば……」
専属メイドであるスミレの言い分に、複雑な表情をするシアン。そろそろアイヴォリーの城に到着するとなると、姿勢を正して座り直していた。
城に到着して警備の騎士が扉を開けると、スミレが降りて、その手を引かれるようにシアンが降りる。
「ようこそおいで下さいました、シアン・モスグリネ王女殿下」
出迎えたのはヴァミリオ・マゼンダ。ロゼリアの父親、つまり今のシアンにとっての祖父である。今では家督をカーマイルに譲り、アイヴォリー王国の重鎮を務めている。そのためにシアンを出迎える役目を任されたらしい。
「お出迎えご苦労様です」
小さく頭を下げるシアン。久しぶりに見たヴァミリオに驚きはしたものの、王女らしく堂々と振る舞っている。
ヴァミリオの案内で、謁見の間に通されるシアン。向かった先にはシルヴァノとペシエラはもちろん、その子どもであるライトとダイアも待っていた。特に子どもの二人はとてもにこやかな表情をしており、シアンの到着を心待ちにしていたようだ。
「よく来たね、シアン・モスグリネ」
さわやかな表情で名前を呼ぶシルヴァノ。王家のお坊ちゃまだったシルヴァノも、今やすっかり立派な国王である。ロゼリア付きの侍女だった頃を思い出して、ちょっと涙ぐみそうになるシアンである。
「お久しぶりでございます、シルヴァノ・アイヴォリー陛下」
気持ちをぐっと堪えて王女らしく挨拶をするシアン。後ろでは騎士たちが跪き、スミレも深く頭を下げている。
「うむ、約束通り、アイヴォリーの学園に通うことを嬉しく思う。学園に通う間はできる限りその身の安全は保障しよう」
「ええ、危ない目になんて遭わせませんわよ」
シルヴァノとペシエラが約束を口にする。
なにぶん隣国から王族を受け入れるのだ。その身を守れなくては、信頼関係に影響が出てしまう。当然の配慮といえよう。
「お気遣い、とてもありがたく存じます」
シアンも淡々と言葉を返していた。
「うむ。今日からはここを我が家だと思って過ごしてほしい。あとで学園の関係者が部屋を訪れると思うので、それまで旅の疲れを取っていてくれ」
「畏まりました」
シルヴァノの挨拶が終わると、案内役の兵士がやって来る。謁見の間を去ろうとするシアンに対して、ライトとダイアが笑顔で小さく手を振っていた。それに気が付いたシアンは、軽く手を振って挨拶を返していた。
アイヴォリー王国での自室用に用意された客間に案内されたシアンは、スミレとともに椅子に座って羽を伸ばしている。
シアン・アクアマリン時代は城に入ることもまれだったので、こうやって城の中をじっくり見たのは何気に初めてである。
アイヴォリーの使用人が用意した紅茶とお菓子を頬張っていると、唐突に部屋の扉が叩かれる。
「シアン・モスグリネ王女殿下、お休みのところ失礼致します。学園より説明にやって参りました」
「どうぞ、お入り下さい」
聞こえてきた声に反応するシアン。部屋に通すと、赤茶色の髪の男性が入ってきた。
「まあ、オリジンではないですか」
「その声は、クロノアか。罰で人間にされたとは聞いていたが、こんなところで会うとはね。それと今の私はオリジンではなく学園の一教師のガレンだ。その名前で呼ぶんじゃないぞ」
そう、シアンの母親であるロゼリアも世話になった教師ガレンだった。彼の正体はモスグリネの精霊の森の主である精霊王オリジンである。そんな彼も見た目はすっかり五十を越えたお爺さんとなっていた。
「まったく、人間のように年を取るだなんて、器用な事をされていますね」
「人間のふりをしているのだから、若々しくいられるわけないだろう。そんな事よりも、私はシアンに学園の説明をしに来たのだ。無駄話はやめてもらおうか」
「これは失礼しました」
ガレンに怒られてスミレはふてぶてしく謝っていた。
「まあ、シアンくんは一度学園に通っているから、その頃との違いくらいの説明で十分かな」
「あら、私の事情を把握されているのですね」
ガレンの言葉に驚くシアン。その反応に困惑の表情を浮かべるガレン。
「あのな。私とて精霊王という立場にあるのだぞ? その程度が見抜けなくてどうする。……そもそもケットシーのやつが絡みに来てたからな」
「あの猫は……」
ガレンから出た名前に、頭が痛くなるシアンとスミレだった。
いろいろと思うところはあるものの、ガレンからひと通りの説明を受けるシアン。現在の学園の状況は大体つかめたようである。
「それでは、これで失礼するよ。学園で教える日を楽しみにしている」
「ええ、よろしくお願いします」
学園での再会を楽しみに、ガレンはおとなしく去っていったのだった。
ペイルの王位継承後の旅行以来のアイヴォリー王国である。ちょっとした懐かしさに、シアンは馬車の窓から外をじっと眺めていた。
「よかったですよ、窓から身を乗り出そうとしなくて」
「もう、私はそこまでおてんばではありませんよ」
スミレの言葉に少々不機嫌になるシアン。その様子にスミレはくすくすと笑っていた。
「分かってはおりますよ。ただ、懐かしさに我を忘れないか心配になっただけです」
「もう、スミレってば……」
専属メイドであるスミレの言い分に、複雑な表情をするシアン。そろそろアイヴォリーの城に到着するとなると、姿勢を正して座り直していた。
城に到着して警備の騎士が扉を開けると、スミレが降りて、その手を引かれるようにシアンが降りる。
「ようこそおいで下さいました、シアン・モスグリネ王女殿下」
出迎えたのはヴァミリオ・マゼンダ。ロゼリアの父親、つまり今のシアンにとっての祖父である。今では家督をカーマイルに譲り、アイヴォリー王国の重鎮を務めている。そのためにシアンを出迎える役目を任されたらしい。
「お出迎えご苦労様です」
小さく頭を下げるシアン。久しぶりに見たヴァミリオに驚きはしたものの、王女らしく堂々と振る舞っている。
ヴァミリオの案内で、謁見の間に通されるシアン。向かった先にはシルヴァノとペシエラはもちろん、その子どもであるライトとダイアも待っていた。特に子どもの二人はとてもにこやかな表情をしており、シアンの到着を心待ちにしていたようだ。
「よく来たね、シアン・モスグリネ」
さわやかな表情で名前を呼ぶシルヴァノ。王家のお坊ちゃまだったシルヴァノも、今やすっかり立派な国王である。ロゼリア付きの侍女だった頃を思い出して、ちょっと涙ぐみそうになるシアンである。
「お久しぶりでございます、シルヴァノ・アイヴォリー陛下」
気持ちをぐっと堪えて王女らしく挨拶をするシアン。後ろでは騎士たちが跪き、スミレも深く頭を下げている。
「うむ、約束通り、アイヴォリーの学園に通うことを嬉しく思う。学園に通う間はできる限りその身の安全は保障しよう」
「ええ、危ない目になんて遭わせませんわよ」
シルヴァノとペシエラが約束を口にする。
なにぶん隣国から王族を受け入れるのだ。その身を守れなくては、信頼関係に影響が出てしまう。当然の配慮といえよう。
「お気遣い、とてもありがたく存じます」
シアンも淡々と言葉を返していた。
「うむ。今日からはここを我が家だと思って過ごしてほしい。あとで学園の関係者が部屋を訪れると思うので、それまで旅の疲れを取っていてくれ」
「畏まりました」
シルヴァノの挨拶が終わると、案内役の兵士がやって来る。謁見の間を去ろうとするシアンに対して、ライトとダイアが笑顔で小さく手を振っていた。それに気が付いたシアンは、軽く手を振って挨拶を返していた。
アイヴォリー王国での自室用に用意された客間に案内されたシアンは、スミレとともに椅子に座って羽を伸ばしている。
シアン・アクアマリン時代は城に入ることもまれだったので、こうやって城の中をじっくり見たのは何気に初めてである。
アイヴォリーの使用人が用意した紅茶とお菓子を頬張っていると、唐突に部屋の扉が叩かれる。
「シアン・モスグリネ王女殿下、お休みのところ失礼致します。学園より説明にやって参りました」
「どうぞ、お入り下さい」
聞こえてきた声に反応するシアン。部屋に通すと、赤茶色の髪の男性が入ってきた。
「まあ、オリジンではないですか」
「その声は、クロノアか。罰で人間にされたとは聞いていたが、こんなところで会うとはね。それと今の私はオリジンではなく学園の一教師のガレンだ。その名前で呼ぶんじゃないぞ」
そう、シアンの母親であるロゼリアも世話になった教師ガレンだった。彼の正体はモスグリネの精霊の森の主である精霊王オリジンである。そんな彼も見た目はすっかり五十を越えたお爺さんとなっていた。
「まったく、人間のように年を取るだなんて、器用な事をされていますね」
「人間のふりをしているのだから、若々しくいられるわけないだろう。そんな事よりも、私はシアンに学園の説明をしに来たのだ。無駄話はやめてもらおうか」
「これは失礼しました」
ガレンに怒られてスミレはふてぶてしく謝っていた。
「まあ、シアンくんは一度学園に通っているから、その頃との違いくらいの説明で十分かな」
「あら、私の事情を把握されているのですね」
ガレンの言葉に驚くシアン。その反応に困惑の表情を浮かべるガレン。
「あのな。私とて精霊王という立場にあるのだぞ? その程度が見抜けなくてどうする。……そもそもケットシーのやつが絡みに来てたからな」
「あの猫は……」
ガレンから出た名前に、頭が痛くなるシアンとスミレだった。
いろいろと思うところはあるものの、ガレンからひと通りの説明を受けるシアン。現在の学園の状況は大体つかめたようである。
「それでは、これで失礼するよ。学園で教える日を楽しみにしている」
「ええ、よろしくお願いします」
学園での再会を楽しみに、ガレンはおとなしく去っていったのだった。
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