逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第44話 学園へ

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 それから、二年の月日が一気に流れた。
 頭の蒼鱗魚の髪飾りもすっかりと馴染んだシアンは、ついにアイヴォリー王国の学園へと通うことになる。
 今日はその出発の日だ。
「忘れ物はないでしょうか、スミレ」
「大丈夫ですよ、姫様」
「もう、名前で呼んで下さい。私たちの仲ではないですか」
 姫様なんてよそよそしい呼ばれ方をして、シアンがスミレを叱っている。
 シアンの反応を見て、スミレがくすくすと笑っている。どうやらからかってわざと呼んだようだった。
「シアンもついに学園に通う時が来たか」
「私たちの母校だから、大丈夫だとは思うけれど……。気を付けてらっしゃいね、シアン」
「はい、お父様、お母様」
 城門まで移動したところで、シアンは両親から見送りをされている。
 両親の後ろでモーフは寂しそうにひょっこりと顔を出している。
「モーフ。もう十歳なんですから、そんな寂しそうにするんじゃありませんよ」
「は、はい、姉上……」
 シアンに言われて、モーフは弱々しく返事をしていた。
 これで二年後には同じようにアイヴォリー王国の学園に留学するのだから、先が思いやられるというものである。
 シアンは困った顔で両親の顔を見る。その視線に、ペイルもロゼリアも困った表情を見せていた。甘やかしたつもりはないようだ。
「まあ、モーフの事は心配しないでちょうだい。シアンはシアンの事を頑張ればいいのよ」
「はい、お母様」
 ロゼリアの呼び掛けに、元気よく返事をするシアンである。
「姫様、そろそろ出発致しましょう」
「はい、分かりました」
 兵士が呼ぶので、シアンは元気に返事をする。
「にゃっはっはっはっ、もう出発かい? 間に合ったようだね、ストロア」
「はい、ケットシー様」
 出発しようとするシアンたちの前に、モスグリネの商業組合の組合長のケットシーとその部下のストロアが姿を見せた。
「何をしに来たのですか、ケットシー」
 ものすごく邪険な目で見るロゼリア。だいたいケットシーが現れてまともに終わった事がないからだ。
 ケットシーもさすがに少し表情が曇っている。
「はははっ、まったく手厳しいね。ボクだって意地悪をするわけじゃないんだからね」
 眉をひそめて笑うケットシーである。
「それはそれとして、シアンくんに贈り物をしに来ただけだよ。両親の時に何かといろいろあったからね。保護者でなくても幻獣のボクは気にしてしまうんだよ」
「いろいろあったことは認めますけれどもね」
「別に俺たちが原因じゃないだろうが」
 ケットシーの物言いに怒るペイルとロゼリアである。その反応を見て大笑いするケットシーだった。
「まぁ冗談はさておき、ストロア、あれを出しておくれ」
「畏まりました」
 ケットシーに命じられて、ストロアが何かを取り出す。それは、どうやら宝石のようだった。
「アクアマリンだね。これをシアンくんに贈らせてもらうよ」
 ペイルはただ珍しそうに見ているだけだが、ロゼリアはケットシーの顔と視線を往復させながら注意深く見ている。
「ケットシー……」
「何かな、ロゼリアくん」
 ロゼリアに声をかけられれば、いつものようにニコニコとしながら反応するケットシー。
「どうしてこの宝石を選んだのかしら」
「なに、前に贈らせてもらった髪飾りに合わせさせてもらっただけだよ。深い意味はないさ」
 堂々と答えるケットシーである。
「それに、そのアクアマリンはただの宝石じゃない。ほら、チェリシアくんたちが作っていただろう、写真が撮れるとかいう魔道具を」
「ああ、カメラですね」
「そうそう、そのカメラだ。ボクが今シアンくんに私たアクアマリンにも、同じ機能を持たせてある。枚数無制限に二年間の画像を残しておけるよ」
 ケットシーはそう言いながら、シアンに使い方を教える。
「シアンくんの魔力に反応して撮影ができるから、自分を撮影する事もできるよ。普段は制服の胸にでもつけておいて、いざという時は風魔法で浮かせてやるといい」
 こう言われて、シアンがアクアマリンに風の魔力を繰り込むと、ふわりとアクアマリンは宙に浮いていた。
 水の属性と相性のいいアクアマリンが風魔法で浮いているのである。それはなんとも不思議な光景だった。
「うん、ロゼリアくんと同じ水・土・風の三属性だから、うまく作動しているね」
 ケットシーも満足そうである。
「せっかくだから試し撮りをしてみるといい。写し出すための紙もあるからね」
 ケットシーがぐいぐいとくるものだから、シアンも仕方なくそれに応じる。
「風の魔力で位置を固定して、水の魔力で満たすんだ。そうすれば、シアンくんが見た景色をそのままに写し取ることができるよ」
 モスグリネ王家の四人が固まって立ち、シアンがアクアマリンに魔力を送る。風魔法で自分の目の前にアクアマリンを浮かせる。すると、不思議な事が起きたのだ。
「えっ、景色が切り替わった?」
 アクアマリンに風の魔力が満ちると、シアンの目の前の景色がアクアマリン視点に切り替わったのである。
「どうだい、自分たちを見ている感想は」
「とても不思議でしかないですよ」
「はっはっはっ。それじゃ、水の魔力を満たして撮影といこうじゃないか」
「まったく、この猫ってばとんでもないですね」
 シアンはため息をつきながら、言われた通りにアクアマリンに水の魔力を満たす。すると、アクアマリンが淡い光を放つ。
「うん、よく撮れているね」
 ケットシーが紙にさっき撮影した景色を写し取っている。作った張本人である幻獣だからこそできるのだ。
「それじゃ、うまく使っておくれよ、シアンくん」
「ありがとうございます、ケットシー」
 こうして、ケットシーからの贈り物を受け取って、シアンはアイヴォリー王国に向けて出発したのだった。
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