412 / 544
新章 青色の智姫
第43話 幻獣と精霊の雑談
しおりを挟む
「やあ、レイニ」
カイス近くの湖にとある人物が顔を見せていた。
「誰かと思えば、君かい」
呼び掛けに応えて姿を見せるレイニ。その表情は少しばかり困ったような感じに眉が歪んでいる。
「おいおい、君までそういう反応をしてくれるのかい? まったく、みんなしてボクの扱いが酷くないかね」
「そんな事はないよ。普段の行いというものさ、ケットシー」
そう、姿を見せた人物は幻獣ケットシーだった。
モスグリネ王国のヴィフレアに居るはずの彼が、なぜ遠く離れたこんな場所に姿を見せたのだろうか。
「それにしても、普段の君の活動場所からすれば、ここはかなり遠いと思うんだけど?」
当然ながらレイニだって気になる。精霊である以上基本的に気まぐれだが、レイニだってほとんどこの場所から動く事はないのだ。
「はっはっはっ、ボクをそこんじゅそこらの連中と一緒にしてもらっては困るよ。ボクは商業組合の組合長だからね。カイスの生産物だって扱うから、気になったというのじゃダメかい」
指を一本立てて、舌打ちとともに左右に揺らすケットシー。猫の脚なものだから、指を立ててもあまり目立たなかった。
「ははっ、君もあれを感じたっていうのかい? まったく、忘れた頃に出てくるとは困ったものだよ」
「瘴気だまりだろう?」
「やれやれ、君をごまかすのは難しいね」
すっぱりと言い当てられて、レイニは観念した顔をしながら首を左右に振っている。本当にこのケットシーは面倒な存在だ。
「ボクは君より上位の幻獣だよ? いくら二属性持ちの君だからといっても、根本的な能力では太刀打ちできないというものだよ。それこそオリジンくんくらいじゃないとね」
「おいおい、そこで精霊王様の名前を出すのは卑怯というものじゃないのかな」
「ボクは現実を言ったまでだよ」
レイニが両手を腰に当てて苦言を呈すると、ケットシーはすました表情で返していた。
「まあそれは置いといて、だ。シアンくんが面白いことになりそうだね」
「あの青髪の少女かい?」
「そうそう、その青髪の少女だよ。君も気付いているだろう、彼女の特殊な状態に」
ケットシーが話題を振ると、レイニは少々怒ったような表情になる。ケットシー相手だと精霊ですら対処に困るようだ。
「まぁね。魔力が二人分ってやつだね。かつてここで瘴気だまりを吹き飛ばしたあの三人も同じ状態だった。となると、彼女も同じような状態ってことだね」
「そうそう。彼女は禁法を使って消えたはずのシアン・アクアマリンの生まれ変わりだからね」
ケットシーの発言に、レイニが表情を歪めている。
「……ありえないことが起きているんだね」
「まぁ普通の感覚ならそう感じるだろうさ。なにせ、神獣クロノスがこの件には関わっている。彼ならこの程度わけないさ」
ケットシーが不気味に笑って話すと、レイニはその恐ろしさに黙り込んでしまった。
「ふふふっ、君を黙らせられるとは、ボクもすごいものだね」
今度は得意げに笑い始めるケットシー。
しばらく笑っていたかと思うと、今度は真面目な表情をしてカイスを眺める。
「今はまだ彼らがいるから、ボクは顔を出す時じゃないね。帰ったら村長さんたちに挨拶をして、状態を確認させてもらうとしようかな」
しばらくカイスを眺めていたケットシーは、レイニの方へ向き直るとそんな事を話している。
その時の表情を見て、レイニは顔を引きつらせて少し後方へと引いた。
「げっ。ってことはしばらくここにいるつもりかい?」
「げっ、とはいってくれるね。少し君には説教が必要かい?」
「やめておくれ。まったく、君を前にするとボクらの気ままさが可愛くなってしまうよ」
「可愛い方がいいじゃないか、精霊は。はっはっはっはっ」
顔を押さえて下を向くレイニを見ながら、ケットシーは自慢げに笑っている。
さすが幼馴染みのライですら付き合いに困惑するケットシーだ。レイニも余裕で遊ばれてしまう。
「まぁそれはそれとして、シアンくんの三年後が楽しみだね」
「三年後?」
いきなりのケットシーの話に、眉をひそめるレイニ。
「そう、三年後さ」
「何があるっていうのさ」
まったく理解できないので、ケットシーに聞き返す。
「君は把握してないのかい? 十三歳になるとシアンくんはアイヴォリーの学園に通うことになるのさ」
「そうなんだね。それがどうかしたのかい?」
今度は頭を捻り始めるレイニである。
「学園にはオリジンくんがいるんだ。彼の教鞭を受けることになるんだから、楽しみになって来ないかい?」
「何をやってるんだ、精霊王様は……」
「ガレンという名を名乗っていたかな。まぁ、また彼にも会っておくかな」
ごろごろと顔を洗うケットシー。その様子をレイニは黙って眺めていた。
「はっはっはっ、どうやら来客のようだよ。どれどれ、ボクも同席させてもらうとしようか」
空を見上げるケットシー。そこには緑色の円盤状の物体が近付いてくるのが見えた。
「やれやれ。彼女も歳なんだな、君と顔を合わせることになるなんてさ……」
「失敬だなぁ、君は」
ケットシーはレイニと漫才をしながら、ペシエラを迎えたのだった。
カイス近くの湖にとある人物が顔を見せていた。
「誰かと思えば、君かい」
呼び掛けに応えて姿を見せるレイニ。その表情は少しばかり困ったような感じに眉が歪んでいる。
「おいおい、君までそういう反応をしてくれるのかい? まったく、みんなしてボクの扱いが酷くないかね」
「そんな事はないよ。普段の行いというものさ、ケットシー」
そう、姿を見せた人物は幻獣ケットシーだった。
モスグリネ王国のヴィフレアに居るはずの彼が、なぜ遠く離れたこんな場所に姿を見せたのだろうか。
「それにしても、普段の君の活動場所からすれば、ここはかなり遠いと思うんだけど?」
当然ながらレイニだって気になる。精霊である以上基本的に気まぐれだが、レイニだってほとんどこの場所から動く事はないのだ。
「はっはっはっ、ボクをそこんじゅそこらの連中と一緒にしてもらっては困るよ。ボクは商業組合の組合長だからね。カイスの生産物だって扱うから、気になったというのじゃダメかい」
指を一本立てて、舌打ちとともに左右に揺らすケットシー。猫の脚なものだから、指を立ててもあまり目立たなかった。
「ははっ、君もあれを感じたっていうのかい? まったく、忘れた頃に出てくるとは困ったものだよ」
「瘴気だまりだろう?」
「やれやれ、君をごまかすのは難しいね」
すっぱりと言い当てられて、レイニは観念した顔をしながら首を左右に振っている。本当にこのケットシーは面倒な存在だ。
「ボクは君より上位の幻獣だよ? いくら二属性持ちの君だからといっても、根本的な能力では太刀打ちできないというものだよ。それこそオリジンくんくらいじゃないとね」
「おいおい、そこで精霊王様の名前を出すのは卑怯というものじゃないのかな」
「ボクは現実を言ったまでだよ」
レイニが両手を腰に当てて苦言を呈すると、ケットシーはすました表情で返していた。
「まあそれは置いといて、だ。シアンくんが面白いことになりそうだね」
「あの青髪の少女かい?」
「そうそう、その青髪の少女だよ。君も気付いているだろう、彼女の特殊な状態に」
ケットシーが話題を振ると、レイニは少々怒ったような表情になる。ケットシー相手だと精霊ですら対処に困るようだ。
「まぁね。魔力が二人分ってやつだね。かつてここで瘴気だまりを吹き飛ばしたあの三人も同じ状態だった。となると、彼女も同じような状態ってことだね」
「そうそう。彼女は禁法を使って消えたはずのシアン・アクアマリンの生まれ変わりだからね」
ケットシーの発言に、レイニが表情を歪めている。
「……ありえないことが起きているんだね」
「まぁ普通の感覚ならそう感じるだろうさ。なにせ、神獣クロノスがこの件には関わっている。彼ならこの程度わけないさ」
ケットシーが不気味に笑って話すと、レイニはその恐ろしさに黙り込んでしまった。
「ふふふっ、君を黙らせられるとは、ボクもすごいものだね」
今度は得意げに笑い始めるケットシー。
しばらく笑っていたかと思うと、今度は真面目な表情をしてカイスを眺める。
「今はまだ彼らがいるから、ボクは顔を出す時じゃないね。帰ったら村長さんたちに挨拶をして、状態を確認させてもらうとしようかな」
しばらくカイスを眺めていたケットシーは、レイニの方へ向き直るとそんな事を話している。
その時の表情を見て、レイニは顔を引きつらせて少し後方へと引いた。
「げっ。ってことはしばらくここにいるつもりかい?」
「げっ、とはいってくれるね。少し君には説教が必要かい?」
「やめておくれ。まったく、君を前にするとボクらの気ままさが可愛くなってしまうよ」
「可愛い方がいいじゃないか、精霊は。はっはっはっはっ」
顔を押さえて下を向くレイニを見ながら、ケットシーは自慢げに笑っている。
さすが幼馴染みのライですら付き合いに困惑するケットシーだ。レイニも余裕で遊ばれてしまう。
「まぁそれはそれとして、シアンくんの三年後が楽しみだね」
「三年後?」
いきなりのケットシーの話に、眉をひそめるレイニ。
「そう、三年後さ」
「何があるっていうのさ」
まったく理解できないので、ケットシーに聞き返す。
「君は把握してないのかい? 十三歳になるとシアンくんはアイヴォリーの学園に通うことになるのさ」
「そうなんだね。それがどうかしたのかい?」
今度は頭を捻り始めるレイニである。
「学園にはオリジンくんがいるんだ。彼の教鞭を受けることになるんだから、楽しみになって来ないかい?」
「何をやってるんだ、精霊王様は……」
「ガレンという名を名乗っていたかな。まぁ、また彼にも会っておくかな」
ごろごろと顔を洗うケットシー。その様子をレイニは黙って眺めていた。
「はっはっはっ、どうやら来客のようだよ。どれどれ、ボクも同席させてもらうとしようか」
空を見上げるケットシー。そこには緑色の円盤状の物体が近付いてくるのが見えた。
「やれやれ。彼女も歳なんだな、君と顔を合わせることになるなんてさ……」
「失敬だなぁ、君は」
ケットシーはレイニと漫才をしながら、ペシエラを迎えたのだった。
1
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説

かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-
牛一/冬星明
ファンタジー
神様に気に入られた悪女令嬢が好きな少女は眷属神にされた。
どう見ても人の言う事を聞かなそうな神様の下で働くなって絶対嫌だった。
少女は過労死で死んだ記憶がある。
働くなら絶対にホワイトな職場だ。
神様のスカウトを断った少女だったが、人の話を聞かない神様が許す訳もない。
少女は眷属神の卵として転生を繰り返す。
そいて、ジュリアーナ・マジク・アラルンガルはこの世界に転生された。
だが、神々の加護を貰えないジュリアーナはすぐに捨てられた。
この可哀想な神様の卵に幸はあるのだろうか?

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。
よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる