逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第42話 騒動を終えて

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 瘴気の塊が消えた場所に降り立つロゼリアたち。
 辺りはただの荒野が広がるような何もないような場所だった。
「ちょっとロゼリア、ここを見てもらえるかしら」
「どうしたのかしら、ペシエラ」
 地面をじっと眺めるペシエラが指し示した場所には、ちょっと大きな穴が開いていた。
「この奥から何かを感じるわね。もしかしたらここから瘴気が漏れ出ていたのかもしれないわ」
 遅れて顔を覗かせたチェリシアが呟いている。
「だったから、完全に浄化してやらないと、また今回のようになるかもしれないな」
「そうですわね。お姉様、よろしいかしら」
「もちろん、ペシエラ」
 ペイルの言葉に頷いたペシエラは、チェリシアに呼び掛ける。すんなり了承したチェリシアは、ペシエラと一緒に穴に向かって浄化魔法を放つ。
 あれだけの瘴気の塊を浄化した後だというのに、まだまだ余裕がある感じだ。
 浄化魔法を流し込んだ後は、ロゼリアが土魔法を使って穴を塞いでおいた。これでもう外に瘴気が流れ出てくる事はないだろう。
「おそらくここは、ネズミの巣ですわね。おそらくはあのくぼ地に残っていた瘴気が、この穴を取って表に噴き出してきたのですわ。あの時から長い時間をかけて増殖しながらね」
「あの瘴気に汚染されたネズミが作物を食い荒らして、病気と飢餓が同時に起きていたのね。まったく、とんでもない話だわね」
 ペシエラもチェリシアも、なんともいえない感情で淡々と呟いていた。
「さあ、二人とも、もうひと息よ。村に戻って浄化すれば全部解決だわ」
 エアリアルボードを展開してロゼリアがペシエラたちに呼び掛ける。その様子を見たペシエラたちは無言でこくりと頷き、エアリアルボードに乗り込んでカイスへと急いで戻った。
 カイスの村まで戻ると、ペシエラとチェリシアが畑を浄化していく。あちこちにうっすらと漂っていた瘴気はたちまちすべて浄化されていった。
 その作業の中でネズミを見かけたのだが、万一があってはいけないと、ペイルとロゼリアの手によって一匹残らず駆逐されたのだった。
「これでもう大丈夫ですわね」
「ええ、そうね」
 額の汗を拭うペシエラ。
「そうだわ、ペシエラ。せっかくこっちに来たのなら、レイニに会っていかないかしら」
「あの光と水の精霊かしら」
 ロゼリアが話し掛けると、ペシエラは確認するように反応している。
「そうですわね。でも、それだったらわたくし一人で会いに行きますわ。ロゼリアたちは、子どもたちを早く迎えに行ってあげて下さいな」
 そして、少し悩んだかと思ったら一人でこっそり会ってくると答えていた。ロゼリアたちの事情を考えてのことだった。
 というわけで、ペシエラは一人エアリアルボードで湖の方へと向かっていった。
 ペシエラと別れたロゼリアたちは、シアンたちの待つ村長の家へと向かっていった。
「父上、母上」
 村長の家に姿を見せると、モーフが二人に抱きついてきた。
「お父様、お母様、それとチェリシア様。問題の解決、お疲れ様でございます」
 小さく頭を下げて両親とチェリシアを労うシアン。
「ああ、すんなり終わったぞ」
 ペイルは大した事ないと言い切っていた。まぁ、実際にほとんどは女性陣の活躍によるものだ。ペイルがやったのは、ネズミを退治したことくらいである。
「ええ、陛下は大活躍でしたよ」
 にっこりとしながらロゼリアがいうと、ペイルは照れたように目を少し泳がせていた。その顔を見て、つい笑ってしまうシアンである。
「ともかく、これでカイスの村に問題が起きることはないだろう。念のために今夜は泊まっていって、明日はモスグリネに向けて帰るからな」
「承知致しましたわ、お父様」
「えー、もう帰るの?」
 モーフは残念そうな反応をしているが、シアンは素直に受け入れていた。このあたりも年齢の差によるものだろうか。
 その日は残念がるモーフをしっかりと慰めながら、ゆっくりと休むロゼリアたちだった。

「さすがはお母様たちですわね。難なく解決してしまいました」
「ええ、まったくですね。今まで散々運命を変えてきたロゼリア様たちにとって、この程度の問題など些事だったようですね」
 夜のカイスの村。寝付けなかったシアンがスミレと一緒に夜風に当たっている。
 昼間にはネズミの騒ぎがあったなど疑いたくなるくらいに静まり返っている。
「私も、お母様たちに負けないくらい、強く生きていけるかしら……」
 つい考え込んでしまうシアン。
 状況が違うとはいえ、自分も転生をして人生をやり直している身である。
 自分たちの手によって問題を解決して今まで生きてきた自分の母親たちのように、シアンも生きていけるかどうかと不安になってしまうのだ。
「きっと大丈夫ですよ。そのために、私もついているのですから」
 不安そうに膝を抱えるシアンを、後ろからそっと優しく抱きしめるスミレである。
 幻獣としての力を封印されたとはいえ、一般人よりは魔法の使える女性には違いない。
「スミレ……」
 スミレの手に触れながら、シアンは小さく名前を呟く。
「ええ、そうね。不安になるよりも、あのお母様の娘だと、胸を張って前向きならないといけませんね」
「はい、その通りですよ」
 顔を見合わせたシアンとスミレは、しばらくそのまま星空を見上げていたのだった。
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