逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
411 / 531
新章 青色の智姫

第42話 騒動を終えて

しおりを挟む
 瘴気の塊が消えた場所に降り立つロゼリアたち。
 辺りはただの荒野が広がるような何もないような場所だった。
「ちょっとロゼリア、ここを見てもらえるかしら」
「どうしたのかしら、ペシエラ」
 地面をじっと眺めるペシエラが指し示した場所には、ちょっと大きな穴が開いていた。
「この奥から何かを感じるわね。もしかしたらここから瘴気が漏れ出ていたのかもしれないわ」
 遅れて顔を覗かせたチェリシアが呟いている。
「だったから、完全に浄化してやらないと、また今回のようになるかもしれないな」
「そうですわね。お姉様、よろしいかしら」
「もちろん、ペシエラ」
 ペイルの言葉に頷いたペシエラは、チェリシアに呼び掛ける。すんなり了承したチェリシアは、ペシエラと一緒に穴に向かって浄化魔法を放つ。
 あれだけの瘴気の塊を浄化した後だというのに、まだまだ余裕がある感じだ。
 浄化魔法を流し込んだ後は、ロゼリアが土魔法を使って穴を塞いでおいた。これでもう外に瘴気が流れ出てくる事はないだろう。
「おそらくここは、ネズミの巣ですわね。おそらくはあのくぼ地に残っていた瘴気が、この穴を取って表に噴き出してきたのですわ。あの時から長い時間をかけて増殖しながらね」
「あの瘴気に汚染されたネズミが作物を食い荒らして、病気と飢餓が同時に起きていたのね。まったく、とんでもない話だわね」
 ペシエラもチェリシアも、なんともいえない感情で淡々と呟いていた。
「さあ、二人とも、もうひと息よ。村に戻って浄化すれば全部解決だわ」
 エアリアルボードを展開してロゼリアがペシエラたちに呼び掛ける。その様子を見たペシエラたちは無言でこくりと頷き、エアリアルボードに乗り込んでカイスへと急いで戻った。
 カイスの村まで戻ると、ペシエラとチェリシアが畑を浄化していく。あちこちにうっすらと漂っていた瘴気はたちまちすべて浄化されていった。
 その作業の中でネズミを見かけたのだが、万一があってはいけないと、ペイルとロゼリアの手によって一匹残らず駆逐されたのだった。
「これでもう大丈夫ですわね」
「ええ、そうね」
 額の汗を拭うペシエラ。
「そうだわ、ペシエラ。せっかくこっちに来たのなら、レイニに会っていかないかしら」
「あの光と水の精霊かしら」
 ロゼリアが話し掛けると、ペシエラは確認するように反応している。
「そうですわね。でも、それだったらわたくし一人で会いに行きますわ。ロゼリアたちは、子どもたちを早く迎えに行ってあげて下さいな」
 そして、少し悩んだかと思ったら一人でこっそり会ってくると答えていた。ロゼリアたちの事情を考えてのことだった。
 というわけで、ペシエラは一人エアリアルボードで湖の方へと向かっていった。
 ペシエラと別れたロゼリアたちは、シアンたちの待つ村長の家へと向かっていった。
「父上、母上」
 村長の家に姿を見せると、モーフが二人に抱きついてきた。
「お父様、お母様、それとチェリシア様。問題の解決、お疲れ様でございます」
 小さく頭を下げて両親とチェリシアを労うシアン。
「ああ、すんなり終わったぞ」
 ペイルは大した事ないと言い切っていた。まぁ、実際にほとんどは女性陣の活躍によるものだ。ペイルがやったのは、ネズミを退治したことくらいである。
「ええ、陛下は大活躍でしたよ」
 にっこりとしながらロゼリアがいうと、ペイルは照れたように目を少し泳がせていた。その顔を見て、つい笑ってしまうシアンである。
「ともかく、これでカイスの村に問題が起きることはないだろう。念のために今夜は泊まっていって、明日はモスグリネに向けて帰るからな」
「承知致しましたわ、お父様」
「えー、もう帰るの?」
 モーフは残念そうな反応をしているが、シアンは素直に受け入れていた。このあたりも年齢の差によるものだろうか。
 その日は残念がるモーフをしっかりと慰めながら、ゆっくりと休むロゼリアたちだった。

「さすがはお母様たちですわね。難なく解決してしまいました」
「ええ、まったくですね。今まで散々運命を変えてきたロゼリア様たちにとって、この程度の問題など些事だったようですね」
 夜のカイスの村。寝付けなかったシアンがスミレと一緒に夜風に当たっている。
 昼間にはネズミの騒ぎがあったなど疑いたくなるくらいに静まり返っている。
「私も、お母様たちに負けないくらい、強く生きていけるかしら……」
 つい考え込んでしまうシアン。
 状況が違うとはいえ、自分も転生をして人生をやり直している身である。
 自分たちの手によって問題を解決して今まで生きてきた自分の母親たちのように、シアンも生きていけるかどうかと不安になってしまうのだ。
「きっと大丈夫ですよ。そのために、私もついているのですから」
 不安そうに膝を抱えるシアンを、後ろからそっと優しく抱きしめるスミレである。
 幻獣としての力を封印されたとはいえ、一般人よりは魔法の使える女性には違いない。
「スミレ……」
 スミレの手に触れながら、シアンは小さく名前を呟く。
「ええ、そうね。不安になるよりも、あのお母様の娘だと、胸を張って前向きならないといけませんね」
「はい、その通りですよ」
 顔を見合わせたシアンとスミレは、しばらくそのまま星空を見上げていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

処理中です...