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新章 青色の智姫
第41話 光で満たせ
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「はっ!」
「どうしたのですか、姉上」
村長の家に避難しているシアンが、何かを感じて顔を上げている。
「この気配って……」
転生したことですっかり魔法の勘が戻っているのか、なにやら感じ取っているようだった。
「この気配、お母様たちだけで大丈夫かしら……」
ずいぶんとよろしくない気配に、つい心配になってしまうシアンである。
「大丈夫ですよ。厄災の暗龍が出てきた時に比べれば、この気配の持つ魔力は弱いですからね。あの時よりも強くなっていますし、陛下もいらっしゃいます。私たちは信じて待ちましょう」
「え、ええ」
スミレが落ち着かせようとしてシアンに話し掛けているが、どうにも不安が消えないシアンだった。
そして、顔をその方向へと向けたシアンは、ロゼリアたちの無事を祈ったのだった。
「まったく、まるであの時のようですわ」
不気味にうぞうぞとうごめく瘴気だまり。あまりの気持ち悪さにペシエラも思わず声を上げてしまう。
ただ、今回があの時と違うのは、瘴気だまりができる理由がない事だ。
今は湖となっているあのくぼ地は、そもそもは地球から異世界転移してきた人物たちの暴走によってできたもの。その影響で定期的に瘴気が溜まるようになっていたのだ。
ところが、今回の場所はそこから離れていて、特につながりもないような場所だった。だというのに、目の前には紛れもなく瘴気だまりができていた。
「チュチュッ」
「あっ、ネズミが出入りしているわ」
チェリシアが瘴気に出入りするネズミを発見する。その向かう先はカイスのようである。
「ちっ、瘴気を持っているのなら余計に厄介だな。それっ!」
ペイルは風魔法を放ってネズミを倒す。鳴き声を上げて倒れたかと思うと、ぶわっと黒いもやのようなものが吹き出している。
「村に来ていたネズミからはそういったものが出ていなかったから、おそらくは瘴気を吐いた後なのでしょうね。となると、村の畑を浄化しないと……」
「そのようですわね。その前に大元を叩かなければなりませんわ」
「はあ、まったく困ったものね。ロゼリア、ここは任せてもいいかしら」
困っていると、チェリシアが突然動き出そうとする。当然ながら、驚いたロゼリアが意図を確認する。
「どうするのよ、チェリシア」
「もうそろそろ収穫の時期なのよ? 早めに浄化しておかなきゃ」
一人だけ離脱しようとするチェリシアだが、それをペシエラががっしりと捕まえて阻止する。
「そっちは、あとでも十分ですわ。それに、大丈夫な気がしますのよ」
ペシエラの根拠のない自信に、チェリシアは首を傾げている。
「なんて顔をしていますのよ。カイスにはレイニがいますのよ? 彼に任せておけばいいのですわ」
「あ、ああ、そういうことね」
ペシエラにきっぱりと言われて、どこか残念そうな表情をするチェリシア。
「……チェリシア、まさか逃げようなんて考えていなかった?」
「そそそ、そんな事ないわよ」
ロゼリアにまで指摘されて、声がどもるチェリシア。どうやら図星のようだった。
「わけの分からないことをしている場合か。来るぞ!」
どうやら瘴気がロゼリアたちに気が付いたようだ。おそらくは魔力に反応しているのだろう。
自分の中に取り込もうとして瘴気を広げて襲い掛かってくる。
「まったく、動きの遅いこと」
普通ならば恐怖に体がすくみそうなものだが、既に死の恐怖を何度も味わってきたペシエラにとって、瘴気なんてものは取るに足らないものらしい。
ペシエラたちの目の前に光の壁が出現して、瘴気の襲撃を防ぐ。
ところが、瘴気も一筋縄ではいかないようで、進めないのならと回り込むように広がっていく。
「往生際が悪いわね」
チェリシアはそれに加えるよう光の壁を瘴気を取り囲むように張り巡らしていく。転生者であるチェリシアの魔力は、ペシエラよりもさらに上なのである。
瘴気を二人に任せたロゼリアは足元を見る。うろついていたネズミが積み重なって、自分たちに迫ってきているではないか。
「正気に気を取られ過ぎましたね。ですが、ひとところに集まっているのは、逆に都合がいいわ」
ロゼリアは土魔法でネズミを取り囲むと、ペイルへと呼び掛ける。
「陛下、土の柱の中に風魔法を放って下さい」
「任せておけ」
ロゼリアに言われて、ペイルはでき上がった土の柱の中へと風の刃を放つ。すると、柱の中からネズミの叫び声が響き渡る。集まってくれたので一網打尽できたようである。
「ペシエラ、こっちも負けてられませんね」
「まったくですわ。わたくしたち姉妹の力を、十分に見せつけてやろうじゃありませんの!」
「もちろんよ!」
チェリシアとペシエラがこくりと頷きあう。
光の中でもがく瘴気の塊。だが、もはやそれは無駄な足掻きでしかなかった。
「さあ、消え去りなさい。悪しき思い出とともに!」
姉妹が気合いを込めると、光の壁の中が強い光で一気に満たされていく。
瘴気の塊は、強い思いのこもった光の前にあっさりと焼き尽くされてしまったのだった。
「どうしたのですか、姉上」
村長の家に避難しているシアンが、何かを感じて顔を上げている。
「この気配って……」
転生したことですっかり魔法の勘が戻っているのか、なにやら感じ取っているようだった。
「この気配、お母様たちだけで大丈夫かしら……」
ずいぶんとよろしくない気配に、つい心配になってしまうシアンである。
「大丈夫ですよ。厄災の暗龍が出てきた時に比べれば、この気配の持つ魔力は弱いですからね。あの時よりも強くなっていますし、陛下もいらっしゃいます。私たちは信じて待ちましょう」
「え、ええ」
スミレが落ち着かせようとしてシアンに話し掛けているが、どうにも不安が消えないシアンだった。
そして、顔をその方向へと向けたシアンは、ロゼリアたちの無事を祈ったのだった。
「まったく、まるであの時のようですわ」
不気味にうぞうぞとうごめく瘴気だまり。あまりの気持ち悪さにペシエラも思わず声を上げてしまう。
ただ、今回があの時と違うのは、瘴気だまりができる理由がない事だ。
今は湖となっているあのくぼ地は、そもそもは地球から異世界転移してきた人物たちの暴走によってできたもの。その影響で定期的に瘴気が溜まるようになっていたのだ。
ところが、今回の場所はそこから離れていて、特につながりもないような場所だった。だというのに、目の前には紛れもなく瘴気だまりができていた。
「チュチュッ」
「あっ、ネズミが出入りしているわ」
チェリシアが瘴気に出入りするネズミを発見する。その向かう先はカイスのようである。
「ちっ、瘴気を持っているのなら余計に厄介だな。それっ!」
ペイルは風魔法を放ってネズミを倒す。鳴き声を上げて倒れたかと思うと、ぶわっと黒いもやのようなものが吹き出している。
「村に来ていたネズミからはそういったものが出ていなかったから、おそらくは瘴気を吐いた後なのでしょうね。となると、村の畑を浄化しないと……」
「そのようですわね。その前に大元を叩かなければなりませんわ」
「はあ、まったく困ったものね。ロゼリア、ここは任せてもいいかしら」
困っていると、チェリシアが突然動き出そうとする。当然ながら、驚いたロゼリアが意図を確認する。
「どうするのよ、チェリシア」
「もうそろそろ収穫の時期なのよ? 早めに浄化しておかなきゃ」
一人だけ離脱しようとするチェリシアだが、それをペシエラががっしりと捕まえて阻止する。
「そっちは、あとでも十分ですわ。それに、大丈夫な気がしますのよ」
ペシエラの根拠のない自信に、チェリシアは首を傾げている。
「なんて顔をしていますのよ。カイスにはレイニがいますのよ? 彼に任せておけばいいのですわ」
「あ、ああ、そういうことね」
ペシエラにきっぱりと言われて、どこか残念そうな表情をするチェリシア。
「……チェリシア、まさか逃げようなんて考えていなかった?」
「そそそ、そんな事ないわよ」
ロゼリアにまで指摘されて、声がどもるチェリシア。どうやら図星のようだった。
「わけの分からないことをしている場合か。来るぞ!」
どうやら瘴気がロゼリアたちに気が付いたようだ。おそらくは魔力に反応しているのだろう。
自分の中に取り込もうとして瘴気を広げて襲い掛かってくる。
「まったく、動きの遅いこと」
普通ならば恐怖に体がすくみそうなものだが、既に死の恐怖を何度も味わってきたペシエラにとって、瘴気なんてものは取るに足らないものらしい。
ペシエラたちの目の前に光の壁が出現して、瘴気の襲撃を防ぐ。
ところが、瘴気も一筋縄ではいかないようで、進めないのならと回り込むように広がっていく。
「往生際が悪いわね」
チェリシアはそれに加えるよう光の壁を瘴気を取り囲むように張り巡らしていく。転生者であるチェリシアの魔力は、ペシエラよりもさらに上なのである。
瘴気を二人に任せたロゼリアは足元を見る。うろついていたネズミが積み重なって、自分たちに迫ってきているではないか。
「正気に気を取られ過ぎましたね。ですが、ひとところに集まっているのは、逆に都合がいいわ」
ロゼリアは土魔法でネズミを取り囲むと、ペイルへと呼び掛ける。
「陛下、土の柱の中に風魔法を放って下さい」
「任せておけ」
ロゼリアに言われて、ペイルはでき上がった土の柱の中へと風の刃を放つ。すると、柱の中からネズミの叫び声が響き渡る。集まってくれたので一網打尽できたようである。
「ペシエラ、こっちも負けてられませんね」
「まったくですわ。わたくしたち姉妹の力を、十分に見せつけてやろうじゃありませんの!」
「もちろんよ!」
チェリシアとペシエラがこくりと頷きあう。
光の中でもがく瘴気の塊。だが、もはやそれは無駄な足掻きでしかなかった。
「さあ、消え去りなさい。悪しき思い出とともに!」
姉妹が気合いを込めると、光の壁の中が強い光で一気に満たされていく。
瘴気の塊は、強い思いのこもった光の前にあっさりと焼き尽くされてしまったのだった。
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