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新章 青色の智姫
第38話 夜のカイスで
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カイスの村はてんやわんやとなった。
前触れもなしにモスグリネの王族が泊まりに来たとなったら、慌てない方がおかしな話である。
「気にしないでくれ。いきなり押し掛けたこちらが悪いのだからな」
「そうは参りません。ただでさえ村の救い主であるロゼリア様とチェリシア様がいらしているのです。モスグリネの王族に失礼を働いたなど、末代までの恥ですじゃあ!」
取り乱す村長である。
仕方ないので、調うまで適当なところで食事をして時間を潰して待つこととなった。
「ロゼリア、チェリシア。村の救い主とは、ずいぶん尊大な扱いをされているな」
その食事の席で、ペイルが二人に問い掛けている。
「ええ、まあ。村の環境を大激変させましたからね」
「今の状況しか知らないのなら分からないかな。ここって昔は不毛の大地だったからね」
「不毛の大地?」
二人の言葉に思わず疑問を感じるペイルである。
その反応にロゼリアとチェリシアは思わず顔を見合わせる。
「先程のレイニとの話では、その辺は抜けてましたものね」
「そうそう、魔物氾濫を抑え込んで厄災の暗龍であるニーズヘッグを倒した事しか話してなかったものね」
ロゼリアは落ち着いて、チェリシアは得意げに、当時のカイスに何があったのかを話し始めた。
「それはまたずいぶんな様変わりだな。今の状態を思うと想像がつかないものだ」
「レイニのいるあの湖も、レイニが復活したことで現れたものね。水源が出現したことで、この村は一気に息を吹き返したのですよ」
「それだけじゃないわ。外の環境の変化の影響を受けにくい畑を作ったことで、作物の生産が安定したからね。ええ、作ったのは私よ、えっへん」
チェリシアが自慢げに胸を張っている。ないものを張られても困るというものだ。
この自慢話は、村長たちが呼びに来るまで続けられたそうで、チェリシアはとても満足げだった。
真夜中、みんなが寝静まっている中、シアンがむくりと起き上がる。
(なんだか落ち着きませんね。少し、夜風に当たってきますか……)
寝床から抜け出したシアンは、建物の外へと出ていった。
外へと出ると辺りは真っ暗で、空にはキラキラと星が輝いている。
秋の時期とあって、外の風は少しひんやりとしていて心地よいものだった。
「本当にここは平和なものですね。過去にいろいろあったとは思えない場所ですよ」
シアンは近くにあった切り株に腰を掛けている。
考え事をしながら空を見上げていると、ふと妙な魔力に気が付く。
(この気配は魔物ですかね。なんだってこんな時に……)
真夜中なので念のために発動させていた感知魔法が何かを捉えたのだ。
切り株から飛び降りると、シアンはまだ小さな体を一生懸命走らせてその場へと急ぐ。
駆けつけた場所は村の畑。明かり取りの魔法で照らし出すと、意外と大きなネズミがそこで収穫前の作物に手を出していた。
「まったく、なんだってこんな時期に」
考えるのは後だと、シアンはネズミに向けて魔法を放つ。
だが、ネズミは素早く魔法を躱してしまう。そして、突然の攻撃で退却するかと思いきや、逆にシアンに狙いを定めてきた。
「ひっ、まさか襲い掛かってくる選択を取るとは……」
予想外の行動に、シアンは身構える。
(落ち着きなさい、シアン・モスグリネ。私は、魔法のエキスパートでしょう)
自分に言い聞かせるシアン。そこへ周りからたくさんのネズミが襲い掛かってくる。
「風よ、穿て!」
そこへ、どこからともなく魔法が飛んでくる。
「シアン様、何をなさっているのですか。それにこの状況は?!」
スミレだった。どうやらシアンがいないことに気が付いて探しに出てきたようだった。
「スミレ、ちょうどいいところに。ネズミたちを退治しますよ」
「承知、ってどこからこんなにネズミが!」
「話はあと、倒しますよ」
「分かりましたよ」
シアンとスミレは襲い来るネズミの群れを必死に叩き潰していった。
そして、どのくらい戦っただろうか。ようやくネズミたちは恐れをなして退却していったのだった。
「はあはあ、なんて数……」
「予想外でしたね。これはレイニに言っておかなければなりませんね」
危うく攻撃を食らいそうになったものの、うまく回避した二人。なんとか無傷で撃退したのだった。
「そういえば、ペシエラ様が逆行前に三十歳で飢え死にしたという話でしたね。来年がちょうどその時ですから、それの再現のために魔物が湧いたのでしょうかね」
落ち着いたところでシアンが聞いた話を思い出していた。
「十分にあり得ますね。時間軸が違っても、共通で発生する事象というのは時々ありますから、その再現を狙って魔物が発生した可能性があります」
立ち上がって埃を払うスミレ。
「叱られるのは必至ですけれど、これはペイル様たちに報告しなければなりませんね」
「ええ、そうですね。まったく、寝付けなくて夜風に当たりに来ただけなのに、どうしてこんなことになったのでしょうか……」
顔に手を当てて左右に振るシアン。
変な運命のいたずらに振り回されて精神的に疲れたシアンは、その日は昼までぐっすりとなってしまったのだった。
前触れもなしにモスグリネの王族が泊まりに来たとなったら、慌てない方がおかしな話である。
「気にしないでくれ。いきなり押し掛けたこちらが悪いのだからな」
「そうは参りません。ただでさえ村の救い主であるロゼリア様とチェリシア様がいらしているのです。モスグリネの王族に失礼を働いたなど、末代までの恥ですじゃあ!」
取り乱す村長である。
仕方ないので、調うまで適当なところで食事をして時間を潰して待つこととなった。
「ロゼリア、チェリシア。村の救い主とは、ずいぶん尊大な扱いをされているな」
その食事の席で、ペイルが二人に問い掛けている。
「ええ、まあ。村の環境を大激変させましたからね」
「今の状況しか知らないのなら分からないかな。ここって昔は不毛の大地だったからね」
「不毛の大地?」
二人の言葉に思わず疑問を感じるペイルである。
その反応にロゼリアとチェリシアは思わず顔を見合わせる。
「先程のレイニとの話では、その辺は抜けてましたものね」
「そうそう、魔物氾濫を抑え込んで厄災の暗龍であるニーズヘッグを倒した事しか話してなかったものね」
ロゼリアは落ち着いて、チェリシアは得意げに、当時のカイスに何があったのかを話し始めた。
「それはまたずいぶんな様変わりだな。今の状態を思うと想像がつかないものだ」
「レイニのいるあの湖も、レイニが復活したことで現れたものね。水源が出現したことで、この村は一気に息を吹き返したのですよ」
「それだけじゃないわ。外の環境の変化の影響を受けにくい畑を作ったことで、作物の生産が安定したからね。ええ、作ったのは私よ、えっへん」
チェリシアが自慢げに胸を張っている。ないものを張られても困るというものだ。
この自慢話は、村長たちが呼びに来るまで続けられたそうで、チェリシアはとても満足げだった。
真夜中、みんなが寝静まっている中、シアンがむくりと起き上がる。
(なんだか落ち着きませんね。少し、夜風に当たってきますか……)
寝床から抜け出したシアンは、建物の外へと出ていった。
外へと出ると辺りは真っ暗で、空にはキラキラと星が輝いている。
秋の時期とあって、外の風は少しひんやりとしていて心地よいものだった。
「本当にここは平和なものですね。過去にいろいろあったとは思えない場所ですよ」
シアンは近くにあった切り株に腰を掛けている。
考え事をしながら空を見上げていると、ふと妙な魔力に気が付く。
(この気配は魔物ですかね。なんだってこんな時に……)
真夜中なので念のために発動させていた感知魔法が何かを捉えたのだ。
切り株から飛び降りると、シアンはまだ小さな体を一生懸命走らせてその場へと急ぐ。
駆けつけた場所は村の畑。明かり取りの魔法で照らし出すと、意外と大きなネズミがそこで収穫前の作物に手を出していた。
「まったく、なんだってこんな時期に」
考えるのは後だと、シアンはネズミに向けて魔法を放つ。
だが、ネズミは素早く魔法を躱してしまう。そして、突然の攻撃で退却するかと思いきや、逆にシアンに狙いを定めてきた。
「ひっ、まさか襲い掛かってくる選択を取るとは……」
予想外の行動に、シアンは身構える。
(落ち着きなさい、シアン・モスグリネ。私は、魔法のエキスパートでしょう)
自分に言い聞かせるシアン。そこへ周りからたくさんのネズミが襲い掛かってくる。
「風よ、穿て!」
そこへ、どこからともなく魔法が飛んでくる。
「シアン様、何をなさっているのですか。それにこの状況は?!」
スミレだった。どうやらシアンがいないことに気が付いて探しに出てきたようだった。
「スミレ、ちょうどいいところに。ネズミたちを退治しますよ」
「承知、ってどこからこんなにネズミが!」
「話はあと、倒しますよ」
「分かりましたよ」
シアンとスミレは襲い来るネズミの群れを必死に叩き潰していった。
そして、どのくらい戦っただろうか。ようやくネズミたちは恐れをなして退却していったのだった。
「はあはあ、なんて数……」
「予想外でしたね。これはレイニに言っておかなければなりませんね」
危うく攻撃を食らいそうになったものの、うまく回避した二人。なんとか無傷で撃退したのだった。
「そういえば、ペシエラ様が逆行前に三十歳で飢え死にしたという話でしたね。来年がちょうどその時ですから、それの再現のために魔物が湧いたのでしょうかね」
落ち着いたところでシアンが聞いた話を思い出していた。
「十分にあり得ますね。時間軸が違っても、共通で発生する事象というのは時々ありますから、その再現を狙って魔物が発生した可能性があります」
立ち上がって埃を払うスミレ。
「叱られるのは必至ですけれど、これはペイル様たちに報告しなければなりませんね」
「ええ、そうですね。まったく、寝付けなくて夜風に当たりに来ただけなのに、どうしてこんなことになったのでしょうか……」
顔に手を当てて左右に振るシアン。
変な運命のいたずらに振り回されて精神的に疲れたシアンは、その日は昼までぐっすりとなってしまったのだった。
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