402 / 488
新章 青色の智姫
第33話 ペイルの戴冠式
しおりを挟む
緑の木々にあふれる国、モスグリネ。
その王都たるヴィフレアも自然豊かな王都だ。モスグリネ城も当然ながら木々に覆われた緑あふれる城である。
木漏れ日の暖かなその城の中で、ペイルの戴冠式が行われる。
半年前に同じように王位を継承したアイヴォリー王国のシルヴァノとその妻ペシエラも参列しており、会場にはより一層の緊張感が漂っている。
会場に訪れた貴族たちは、かなり緊張している。
それは、王位継承式の厳かさからくるものではない。
王位を継いだ王子たちの妻が原因である。
なにせ、魔物の反乱をことごとく押さえ込んできたという子どもの頃の話が伝わっている。下手な事をすれば潰されてしまうという恐怖感で緊張しているのである。
緊張に包まれる中、モスグリネの国王ダルグと王妃ライムが登場する。
「皆の者、よくぞ本日は集まってくれた」
国王が発言すると、会場は一気にしんと静まり返る。
「王位継承というこの節目を皆の者とともに迎えられたことを、喜ばしく思う」
ここでわずかながらに拍手が起きる。国王が咳払いをすると、拍手はぴたりと止んだ。
「我がモスグリネ王国は精霊に祝福された土地だ。精霊に認められし国王によって、この国はさらに豊かになることだろう」
国王が発言すると、大臣に対して視線を向ける。こくりと頷いた大臣は、背筋とぴしりと伸ばし、腕を後ろで組んで息を大きく吸い込んだ。
「王太子殿下ペイル、並びに王太子妃ロゼリア、ご両名の入場でございます」
大臣が大きな声で発言すると、ラッパの音が響き渡る。
その音が鳴り終わると、ペイルとロゼリアがゆっくりと壇上に姿を現した。それと同時に、二人の子どもであるシアンとモーフも舞台袖に現れる。
両親の晴れ舞台とあって、モーフは緊張した様子で立っている。ところが、シアンの方はさすがに落ち着いてモーフを落ち着かせている。
壇上に上がったペイルとロゼリアは現在の国王と王妃の前で跪いている。
その様子を、シアンたちの反対側からシルヴァノとペシエラ、それとチェリシアがじっと見つめている。中でもチェリシアは既に感動で泣き始めていた。
「王太子ペイルよ」
「はい!」
国王が名前を呼ぶと、ペイルは大きな声で返事をする。元気の良さに思わずにこりと微笑んでしまう国王である。
「精霊の祝福を受けし王子よ、現モスグリネ国王ダルグ・モスグリネの名において、ペイル・モスグリネを新たな国王に任命する」
「はっ、不肖ペイル、先王に恥じぬよう、新たな国王として精進して参ることを誓います」
「うむ」
ペイルの返答を受けると、王冠と王笏、それとマントが運ばれてくる。
国王がマントを羽織らせ、王冠をかぶせ、最後に王笏を渡せば、王位継承は完了となる。
続いて、ロゼリアの方もマント、ティアラ、短い杖を王妃から引き継ぐ。
それが終わると二人揃って立ち上がり、その場に集まった者たちの方を振り向いて一礼をする。
「おお、新国王ペイル様、万歳!」
「新王妃ロゼリア様~」
その場に集まった貴族たちから祝福の声を受けるペイルとロゼリア。
二人はちらりとシルヴァノたちの方を向くと、シルヴァノとペシエラは小さくこくりと頷いていた。
その隣ではチェリシアが大声で泣いていた。鼻水まで流してだらしがない姿なので、ペシエラがハンカチを差し出す。すると、それを奪うように受け取って鼻をかんでいた。
その姿に思わず驚くペシエラたちである。
貴族たちの祝福を受けながら、ペイルとロゼリアは城門の上に移動し、ヴィフレアの住民たちにその姿を見せていた。
集まった民衆からも盛大な祝福を受け、そのお祭り騒ぎは夜まで続いたのだった。
翌日から数日間は、改めて貴族たちからの祝福の挨拶が行われ、継承式から五日後、ようやく旅行に出かけられる状態となった。
「さあ、半年ぶりのアイヴォリー王国ですね」
「ああ、そうだな。行きがけにアクアマリン領に立ち寄れるとはな。確か、学園の夏合宿以来か」
「確かにそうでしたね。あの時はアイリスが事件を起こしてくれましたわね」
「懐かしいな。命を狙われたっていうのに、そんな風に思うのもおかしいかもしれないけれどね」
ついつい昔を思い出して笑い合うペイルたちである。
わくわくとした表情のモーフに対し、シアンの方はなんとも神妙な面持ちになっている。
「シアン、どうしたの? 行きたいって言っていたのにそんな顔をして」
気になったロゼリアが声を掛ける。その声にはっとしたシアンは、慌ててロゼリアの顔を見る。
「何でしょうか、お母様」
にっこりと笑うシアン。
「表情が硬かったからどうしたのかと思ったのだけど、大丈夫?」
「はい、まったく問題ございません。私は元気ですよ。ちょっと楽しみになり過ぎてしまったみたいです」
シアンは笑ってごまかしておく。
「そう。具合が悪くなったらすぐに言ってちょうだいね」
「はい、分かりました」
にこにことしているシアンに、ロゼリアはついつい首を捻っていた。
(ふぅ、危なかったですね。今ならまだお兄様が生きていらっしゃるはずですし、もし会うとなると緊張してしまいますね)
シアンは、前世の家族に会うことに緊張しているようだった。
シアンのちょっとした希望で実現したアイヴォリー王国への旅行。その緊張の旅が、今始まるのだった。
その王都たるヴィフレアも自然豊かな王都だ。モスグリネ城も当然ながら木々に覆われた緑あふれる城である。
木漏れ日の暖かなその城の中で、ペイルの戴冠式が行われる。
半年前に同じように王位を継承したアイヴォリー王国のシルヴァノとその妻ペシエラも参列しており、会場にはより一層の緊張感が漂っている。
会場に訪れた貴族たちは、かなり緊張している。
それは、王位継承式の厳かさからくるものではない。
王位を継いだ王子たちの妻が原因である。
なにせ、魔物の反乱をことごとく押さえ込んできたという子どもの頃の話が伝わっている。下手な事をすれば潰されてしまうという恐怖感で緊張しているのである。
緊張に包まれる中、モスグリネの国王ダルグと王妃ライムが登場する。
「皆の者、よくぞ本日は集まってくれた」
国王が発言すると、会場は一気にしんと静まり返る。
「王位継承というこの節目を皆の者とともに迎えられたことを、喜ばしく思う」
ここでわずかながらに拍手が起きる。国王が咳払いをすると、拍手はぴたりと止んだ。
「我がモスグリネ王国は精霊に祝福された土地だ。精霊に認められし国王によって、この国はさらに豊かになることだろう」
国王が発言すると、大臣に対して視線を向ける。こくりと頷いた大臣は、背筋とぴしりと伸ばし、腕を後ろで組んで息を大きく吸い込んだ。
「王太子殿下ペイル、並びに王太子妃ロゼリア、ご両名の入場でございます」
大臣が大きな声で発言すると、ラッパの音が響き渡る。
その音が鳴り終わると、ペイルとロゼリアがゆっくりと壇上に姿を現した。それと同時に、二人の子どもであるシアンとモーフも舞台袖に現れる。
両親の晴れ舞台とあって、モーフは緊張した様子で立っている。ところが、シアンの方はさすがに落ち着いてモーフを落ち着かせている。
壇上に上がったペイルとロゼリアは現在の国王と王妃の前で跪いている。
その様子を、シアンたちの反対側からシルヴァノとペシエラ、それとチェリシアがじっと見つめている。中でもチェリシアは既に感動で泣き始めていた。
「王太子ペイルよ」
「はい!」
国王が名前を呼ぶと、ペイルは大きな声で返事をする。元気の良さに思わずにこりと微笑んでしまう国王である。
「精霊の祝福を受けし王子よ、現モスグリネ国王ダルグ・モスグリネの名において、ペイル・モスグリネを新たな国王に任命する」
「はっ、不肖ペイル、先王に恥じぬよう、新たな国王として精進して参ることを誓います」
「うむ」
ペイルの返答を受けると、王冠と王笏、それとマントが運ばれてくる。
国王がマントを羽織らせ、王冠をかぶせ、最後に王笏を渡せば、王位継承は完了となる。
続いて、ロゼリアの方もマント、ティアラ、短い杖を王妃から引き継ぐ。
それが終わると二人揃って立ち上がり、その場に集まった者たちの方を振り向いて一礼をする。
「おお、新国王ペイル様、万歳!」
「新王妃ロゼリア様~」
その場に集まった貴族たちから祝福の声を受けるペイルとロゼリア。
二人はちらりとシルヴァノたちの方を向くと、シルヴァノとペシエラは小さくこくりと頷いていた。
その隣ではチェリシアが大声で泣いていた。鼻水まで流してだらしがない姿なので、ペシエラがハンカチを差し出す。すると、それを奪うように受け取って鼻をかんでいた。
その姿に思わず驚くペシエラたちである。
貴族たちの祝福を受けながら、ペイルとロゼリアは城門の上に移動し、ヴィフレアの住民たちにその姿を見せていた。
集まった民衆からも盛大な祝福を受け、そのお祭り騒ぎは夜まで続いたのだった。
翌日から数日間は、改めて貴族たちからの祝福の挨拶が行われ、継承式から五日後、ようやく旅行に出かけられる状態となった。
「さあ、半年ぶりのアイヴォリー王国ですね」
「ああ、そうだな。行きがけにアクアマリン領に立ち寄れるとはな。確か、学園の夏合宿以来か」
「確かにそうでしたね。あの時はアイリスが事件を起こしてくれましたわね」
「懐かしいな。命を狙われたっていうのに、そんな風に思うのもおかしいかもしれないけれどね」
ついつい昔を思い出して笑い合うペイルたちである。
わくわくとした表情のモーフに対し、シアンの方はなんとも神妙な面持ちになっている。
「シアン、どうしたの? 行きたいって言っていたのにそんな顔をして」
気になったロゼリアが声を掛ける。その声にはっとしたシアンは、慌ててロゼリアの顔を見る。
「何でしょうか、お母様」
にっこりと笑うシアン。
「表情が硬かったからどうしたのかと思ったのだけど、大丈夫?」
「はい、まったく問題ございません。私は元気ですよ。ちょっと楽しみになり過ぎてしまったみたいです」
シアンは笑ってごまかしておく。
「そう。具合が悪くなったらすぐに言ってちょうだいね」
「はい、分かりました」
にこにことしているシアンに、ロゼリアはついつい首を捻っていた。
(ふぅ、危なかったですね。今ならまだお兄様が生きていらっしゃるはずですし、もし会うとなると緊張してしまいますね)
シアンは、前世の家族に会うことに緊張しているようだった。
シアンのちょっとした希望で実現したアイヴォリー王国への旅行。その緊張の旅が、今始まるのだった。
1
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。
そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる