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新章 青色の智姫
第29話 王位を継ぐために
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そんな折、精霊の森に向かう話が持ち上がる。
それというのも、ペイルの王位継承が遅れているからだ。やはり、精霊に正式に認めてもらうことが一番早いために、ペイルは再び森へと向かうことを決めた。
ロゼリアとシアン、モーフも同行している。
十四歳の時以来なので、実に十四年ぶりといったところだ。
「久しぶりだな、この森も」
「そうですね。相変わらず不思議な感じがしますね」
王族四人だけで、護衛もなしに進んでいく。
モスグリネの王家は精霊に好かれなければ意味はない。なので、護衛がいなくても無事に最奥にたどり着けるのはひとつの条件である。
「周りには、ふわふわと精霊がたくさん居ますわね」
「ああ、そうだな。ただ、ちょっと様子がおかしくないか?」
「そうかしら」
ロゼリアとは違い、精霊の様子に異変を感じるペイルである。
これは、シアンも同じだった。どうにも精霊たちが落ち着いていないように思える。原因は分からない。
「懐かしい広場ですね。ここでペシエラのために戦いをしたのでしたっけか」
開けた場所へと出たところで、ロゼリアはついそのように呟いてしまう。
ロゼリアと同様に時間を逆行したペシエラは、本来は逆行前の自分の体に戻るはずだった。だが、そこには先客がいた。
現在のチェリシアである。元の体に戻れなくなったペシエラは、行き場を失い消滅するはずが、奇跡的に体を得てペシエラとして生まれ変わった。
その存在が不安定になり、消滅の危機を迎えた時に一抹の望みをかけた場所こそ、この精霊の森だったのだ。
あの時とは違って今日は静かだ。
懐かしさをかみしめたペイルとロゼリアは、さらに奥へと進んでいく。
意外とあっさりとたどり着いたことに、ちょっと拍子抜けしたようである。
「……何も起きなかったな」
「そうですね。一度やって来ていたというのも、大きいのでしょうかね」
お互いの顔を見て話をするペイルとロゼリア。
その時だった。
「お父様、お母様、何か来ます!」
シアンが叫んだ。
ペイルとロゼリアはその声に反応する。
急激に目の前で魔力が集まり出し、何かが突然現れた。
「私、参上!」
ポンッと現れたのは、商会の手伝いをしているはずのハイスプライトのライだった。
「ら、ライ?!」
「ええ、そうよ。オリジン様の命令で、私が出向いてきたの」
精霊王たるオリジンに言われてやって来たらしい。どうやらライは、すっかり精霊としての地位を取り戻しているようだ。
「ええ、メイドさん?!」
その姿にものすごく驚いていたのはモーフである。
「あら、ペイル殿下とロゼリアの子どもなのね。ふふっ、可愛いわね。またアイヴォリーに来た時にはマゼンダ商会に寄ってね。普段はそこにいるから」
「うん、分かった」
すぐさま反応するライである。精霊というか妖精はいたずら好きなので、波長の近い子どもは特に気に入る傾向があるのだ。
モーフに笑顔で手を振ったライは、改めてペイルに向き合う。
「さて、王位継承のための試練だったわね。オリジン様の命令はちゃんと守らないとね」
ライはそう言うと魔法を使って姿を変える。いたずら妖精だった時の姿とは違う、進化した姿なのである。
「さあ、私と戦って無事に勝利することね。そしたら、証であるこの精霊の羽をあげるわ」
「それってライの背中の羽じゃないのでは?」
「失礼ね。本物の私の羽よ。放っておいても回復するけど、今回は急だったから回復魔法を使って再生したわよ」
なんともまあ、精霊の羽というのは再び生えるらしい。あとで聞いた話、個体差はあるようだ。
「本気で暴れるなんて久しぶりね。あの時の魔物氾濫以来だけど、ペイル殿下は単独で私に勝てるかしらね」
煽りを入れてくるライに対して、ペイルは余裕の表情である。
「やってやるさ。俺はこのモスグリネの王子だ。民を導くためにも、どんな困難だって乗り越えてみせる!」
「ふふん、意気込みだけは十分なようね。ロゼリアたちは手出しは無用よ。これはあくまでもペイル殿下の戦いなんだから。ちゃんと見てなさいよ、父親の雄姿というものを」
ライはそう言うと、ロゼリアたちに被害が及ばないように防護魔法を使う。
これを合図として、ペイルとライの戦いが始まる。
ペイルは確実にライを目がけて剣を振るうものの、精霊王ほどとまではいかずとも、かなりの力をつけたライには軽く躱されてしまう。
「おのれ、ちょこまかと……」
「モスグリネの王位に就くんでしょ? だったら、しっかりとその力を見せてもらいたいわね。ちなみにペシエラ相手だったら、一瞬で終わってるわよ、私が」
「あの規格外と一緒にしないでくれ」
ペシエラを引き合いに出されて、ペイルは思わずツッコミを入れてしまう。
ライも自分で言いながら笑っている。
「さあ、私を十分に楽しませてちょうだい。私を倒すか満足させるのが、あなたの勝利条件よ」
「やってやるさ」
気を取り直して、戦いを再開させる。
ペイルは無事にライから精霊の羽を獲得することができるのだろうか。
シアンたちも力を込めてその戦いを見守るのだった。
それというのも、ペイルの王位継承が遅れているからだ。やはり、精霊に正式に認めてもらうことが一番早いために、ペイルは再び森へと向かうことを決めた。
ロゼリアとシアン、モーフも同行している。
十四歳の時以来なので、実に十四年ぶりといったところだ。
「久しぶりだな、この森も」
「そうですね。相変わらず不思議な感じがしますね」
王族四人だけで、護衛もなしに進んでいく。
モスグリネの王家は精霊に好かれなければ意味はない。なので、護衛がいなくても無事に最奥にたどり着けるのはひとつの条件である。
「周りには、ふわふわと精霊がたくさん居ますわね」
「ああ、そうだな。ただ、ちょっと様子がおかしくないか?」
「そうかしら」
ロゼリアとは違い、精霊の様子に異変を感じるペイルである。
これは、シアンも同じだった。どうにも精霊たちが落ち着いていないように思える。原因は分からない。
「懐かしい広場ですね。ここでペシエラのために戦いをしたのでしたっけか」
開けた場所へと出たところで、ロゼリアはついそのように呟いてしまう。
ロゼリアと同様に時間を逆行したペシエラは、本来は逆行前の自分の体に戻るはずだった。だが、そこには先客がいた。
現在のチェリシアである。元の体に戻れなくなったペシエラは、行き場を失い消滅するはずが、奇跡的に体を得てペシエラとして生まれ変わった。
その存在が不安定になり、消滅の危機を迎えた時に一抹の望みをかけた場所こそ、この精霊の森だったのだ。
あの時とは違って今日は静かだ。
懐かしさをかみしめたペイルとロゼリアは、さらに奥へと進んでいく。
意外とあっさりとたどり着いたことに、ちょっと拍子抜けしたようである。
「……何も起きなかったな」
「そうですね。一度やって来ていたというのも、大きいのでしょうかね」
お互いの顔を見て話をするペイルとロゼリア。
その時だった。
「お父様、お母様、何か来ます!」
シアンが叫んだ。
ペイルとロゼリアはその声に反応する。
急激に目の前で魔力が集まり出し、何かが突然現れた。
「私、参上!」
ポンッと現れたのは、商会の手伝いをしているはずのハイスプライトのライだった。
「ら、ライ?!」
「ええ、そうよ。オリジン様の命令で、私が出向いてきたの」
精霊王たるオリジンに言われてやって来たらしい。どうやらライは、すっかり精霊としての地位を取り戻しているようだ。
「ええ、メイドさん?!」
その姿にものすごく驚いていたのはモーフである。
「あら、ペイル殿下とロゼリアの子どもなのね。ふふっ、可愛いわね。またアイヴォリーに来た時にはマゼンダ商会に寄ってね。普段はそこにいるから」
「うん、分かった」
すぐさま反応するライである。精霊というか妖精はいたずら好きなので、波長の近い子どもは特に気に入る傾向があるのだ。
モーフに笑顔で手を振ったライは、改めてペイルに向き合う。
「さて、王位継承のための試練だったわね。オリジン様の命令はちゃんと守らないとね」
ライはそう言うと魔法を使って姿を変える。いたずら妖精だった時の姿とは違う、進化した姿なのである。
「さあ、私と戦って無事に勝利することね。そしたら、証であるこの精霊の羽をあげるわ」
「それってライの背中の羽じゃないのでは?」
「失礼ね。本物の私の羽よ。放っておいても回復するけど、今回は急だったから回復魔法を使って再生したわよ」
なんともまあ、精霊の羽というのは再び生えるらしい。あとで聞いた話、個体差はあるようだ。
「本気で暴れるなんて久しぶりね。あの時の魔物氾濫以来だけど、ペイル殿下は単独で私に勝てるかしらね」
煽りを入れてくるライに対して、ペイルは余裕の表情である。
「やってやるさ。俺はこのモスグリネの王子だ。民を導くためにも、どんな困難だって乗り越えてみせる!」
「ふふん、意気込みだけは十分なようね。ロゼリアたちは手出しは無用よ。これはあくまでもペイル殿下の戦いなんだから。ちゃんと見てなさいよ、父親の雄姿というものを」
ライはそう言うと、ロゼリアたちに被害が及ばないように防護魔法を使う。
これを合図として、ペイルとライの戦いが始まる。
ペイルは確実にライを目がけて剣を振るうものの、精霊王ほどとまではいかずとも、かなりの力をつけたライには軽く躱されてしまう。
「おのれ、ちょこまかと……」
「モスグリネの王位に就くんでしょ? だったら、しっかりとその力を見せてもらいたいわね。ちなみにペシエラ相手だったら、一瞬で終わってるわよ、私が」
「あの規格外と一緒にしないでくれ」
ペシエラを引き合いに出されて、ペイルは思わずツッコミを入れてしまう。
ライも自分で言いながら笑っている。
「さあ、私を十分に楽しませてちょうだい。私を倒すか満足させるのが、あなたの勝利条件よ」
「やってやるさ」
気を取り直して、戦いを再開させる。
ペイルは無事にライから精霊の羽を獲得することができるのだろうか。
シアンたちも力を込めてその戦いを見守るのだった。
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