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新章 青色の智姫
第28話 思い出された課題
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アイヴォリー王国から帰ってきたシアンは、数日後、ロゼリアに庭に呼び出されていた。
「何でしょうか、お母様」
急な呼び出しに戸惑いながらも、平静を装うシアン。
庭では優雅に紅茶をたしなむロゼリアの姿があった。
「十歳になったのですし、改めて魔法の状態を見ておこうと思ったのです。五歳で魔法を使ったのは驚きましたが、その後はろくに確認していませんでしたからね。学園に通う前に一度把握しておかないといけないと思いますよ」
ロゼリアの言い分に納得のいくシアンである。
ろくに把握せずに行くと、最初の授業で赤っ恥を書くのは確実なのだ。
シアンがアクアマリン子爵の四女として通っていた時も、ロゼリアたちが通っていた頃も、最初の方に魔力の確認が行われていたのは確かだからだ。
魔法は十歳から使えるとはいえ、初めてそこで自分の魔法の才能に気付く者もそれなりにいるのである。そうなると魔法に慣れるためにあたふたすることになるのだ。
その点、シアンは既に魔法の適性があることは分かっている。扱える属性はロゼリアと同じ水、風、土の三つであり、特に水に対して適性が高い。
これは五歳の頃にちょこちょこと調べた結果分かっている。ロゼリアも似たようなものなので、今回はロゼリアが出てきたというわけだ。ショロクの出番はない。
「なるほど。では、私が学園に通うまでは、お母様が私の魔法を見てくれるというわけでございますね」
ロゼリアに座るように促されて椅子に腰かけたシアンは、紅茶を飲みながら話をしている。
「ええ、そういうことよ。まさか娘が自分とまったく同じ魔法属性になるとは思ってもみなかったですね。おかげで、私と同じようなことができますから、かなり楽かと思いますよ」
「はあ、お手柔らかに……」
にこにこのロゼリアに対して、ちょっと困惑した表情を浮かべながら、シアンは逃げ腰になっていた。
そんなこんなで、ロゼリアによる魔法の特訓が始まった。
ただ、王太子妃としても忙しいので、毎日というわけにはいかないし、時間だって短い。それでも、自分の持てる技術はできる限りシアンに叩き込んでいくロゼリアである。
シアンの方もしっかりとついて行っている。元々は魔法の得意なアクアマリン子爵の家系なのだ。転生したからといって、その技術が廃れるわけではない。
シアンの方で不安があったとすれば、禁法を使って以降の魔法にまったく触れていない時期があった事だろう。魔力がすっかりなくなってしまっていたので、使いたくても使えなかったのだから。
こういった日々が二か月ほど繰り返されると、すっかりシアンの魔法の腕前は上達していた。
(久々にこれだけ魔法を使いまくったのは、一体いつぶりでしょうかね。おかげで、かなりあの頃の感覚を取り戻せましたよ)
すっかり魔力の制御もできてしまっていることに、シアン自身も驚いていた。
「ふふっ、さすがは私の娘ですね。ここまで魔法をしっかりと使いこなせるとは」
ロゼリアは満足そうに笑っている。
「ふふふふっ、はたしてそれだけかな?」
そこへ、唐突に変な声が聞こえてきた。
シアンとロゼリアが声の方向へと視線を向けると、そこにはもう見飽きた存在が立っていたのだ。
そう、いわずもがなケットシーである。このでかい二足歩行の猫は、本当に神出鬼没である。城の中であろうが気が付いたら姿を見せているのである。
のそりのそりと歩くケットシーに警戒をする二人。そのためか、ちょっと距離を取った位置でケットシーは立ち止まっていた。
「まったく傷付くなあ。シアンくんが魔法を使いこなせているのは、その髪飾りのおかげでもあるんだよ。それを言いに来ただけなのに、酷いものだなぁ」
「そのためだけに来るあなたもどうかと思いますけれどね」
冷静に指摘するロゼリアである。
「はっはっはっ、実にその通りだね」
背中で両手を組んだまま笑うケットシー。
「でもね、シアンくんの魔力は君たちが思っている以上のものだ。最初の水球の大きさを覚えているかい?」
ケットシーにこう言われて、険しい顔をするシアンである。
「少々コントロールを失っただけであれだ。だから、その髪飾りはリミッターだと思っておくれ。きっと君の助けになってくれる」
そう言いながら、ケットシーはシアンたちの前から姿を消したのだった。
本当に自由な猫の幻獣なのである。
その姿に呆れかえるロゼリアに対し、険しい表情が崩れないシアン。魔法に詳しいシアンだからこそ、ケットシーの言葉がかなり響いているというわけだ。
ケットシーが去った後、気を取り直して魔法の特訓を再開するロゼリア。シアンはケットシーの忠告を噛みしめながら、ロゼリアの特訓に臨む。
その中で、自分がどうしてロゼリアの娘として転生することになったのかを考え込むシアン。ただ、転生するだけならどこの誰でもよかったはずである。
「ほら、集中してないと危ないですよ」
「ごめんなさい、お母様」
しかし、魔法の特訓中に考えことは危険だったようで、ひとまず特訓に集中するシアン。
ロゼリアとの特訓だけでは足りないと感じたシアンは、しっかりとした魔力のコントロールを身に付けるべく、一人の間も努力を重ねるのであった。
「何でしょうか、お母様」
急な呼び出しに戸惑いながらも、平静を装うシアン。
庭では優雅に紅茶をたしなむロゼリアの姿があった。
「十歳になったのですし、改めて魔法の状態を見ておこうと思ったのです。五歳で魔法を使ったのは驚きましたが、その後はろくに確認していませんでしたからね。学園に通う前に一度把握しておかないといけないと思いますよ」
ロゼリアの言い分に納得のいくシアンである。
ろくに把握せずに行くと、最初の授業で赤っ恥を書くのは確実なのだ。
シアンがアクアマリン子爵の四女として通っていた時も、ロゼリアたちが通っていた頃も、最初の方に魔力の確認が行われていたのは確かだからだ。
魔法は十歳から使えるとはいえ、初めてそこで自分の魔法の才能に気付く者もそれなりにいるのである。そうなると魔法に慣れるためにあたふたすることになるのだ。
その点、シアンは既に魔法の適性があることは分かっている。扱える属性はロゼリアと同じ水、風、土の三つであり、特に水に対して適性が高い。
これは五歳の頃にちょこちょこと調べた結果分かっている。ロゼリアも似たようなものなので、今回はロゼリアが出てきたというわけだ。ショロクの出番はない。
「なるほど。では、私が学園に通うまでは、お母様が私の魔法を見てくれるというわけでございますね」
ロゼリアに座るように促されて椅子に腰かけたシアンは、紅茶を飲みながら話をしている。
「ええ、そういうことよ。まさか娘が自分とまったく同じ魔法属性になるとは思ってもみなかったですね。おかげで、私と同じようなことができますから、かなり楽かと思いますよ」
「はあ、お手柔らかに……」
にこにこのロゼリアに対して、ちょっと困惑した表情を浮かべながら、シアンは逃げ腰になっていた。
そんなこんなで、ロゼリアによる魔法の特訓が始まった。
ただ、王太子妃としても忙しいので、毎日というわけにはいかないし、時間だって短い。それでも、自分の持てる技術はできる限りシアンに叩き込んでいくロゼリアである。
シアンの方もしっかりとついて行っている。元々は魔法の得意なアクアマリン子爵の家系なのだ。転生したからといって、その技術が廃れるわけではない。
シアンの方で不安があったとすれば、禁法を使って以降の魔法にまったく触れていない時期があった事だろう。魔力がすっかりなくなってしまっていたので、使いたくても使えなかったのだから。
こういった日々が二か月ほど繰り返されると、すっかりシアンの魔法の腕前は上達していた。
(久々にこれだけ魔法を使いまくったのは、一体いつぶりでしょうかね。おかげで、かなりあの頃の感覚を取り戻せましたよ)
すっかり魔力の制御もできてしまっていることに、シアン自身も驚いていた。
「ふふっ、さすがは私の娘ですね。ここまで魔法をしっかりと使いこなせるとは」
ロゼリアは満足そうに笑っている。
「ふふふふっ、はたしてそれだけかな?」
そこへ、唐突に変な声が聞こえてきた。
シアンとロゼリアが声の方向へと視線を向けると、そこにはもう見飽きた存在が立っていたのだ。
そう、いわずもがなケットシーである。このでかい二足歩行の猫は、本当に神出鬼没である。城の中であろうが気が付いたら姿を見せているのである。
のそりのそりと歩くケットシーに警戒をする二人。そのためか、ちょっと距離を取った位置でケットシーは立ち止まっていた。
「まったく傷付くなあ。シアンくんが魔法を使いこなせているのは、その髪飾りのおかげでもあるんだよ。それを言いに来ただけなのに、酷いものだなぁ」
「そのためだけに来るあなたもどうかと思いますけれどね」
冷静に指摘するロゼリアである。
「はっはっはっ、実にその通りだね」
背中で両手を組んだまま笑うケットシー。
「でもね、シアンくんの魔力は君たちが思っている以上のものだ。最初の水球の大きさを覚えているかい?」
ケットシーにこう言われて、険しい顔をするシアンである。
「少々コントロールを失っただけであれだ。だから、その髪飾りはリミッターだと思っておくれ。きっと君の助けになってくれる」
そう言いながら、ケットシーはシアンたちの前から姿を消したのだった。
本当に自由な猫の幻獣なのである。
その姿に呆れかえるロゼリアに対し、険しい表情が崩れないシアン。魔法に詳しいシアンだからこそ、ケットシーの言葉がかなり響いているというわけだ。
ケットシーが去った後、気を取り直して魔法の特訓を再開するロゼリア。シアンはケットシーの忠告を噛みしめながら、ロゼリアの特訓に臨む。
その中で、自分がどうしてロゼリアの娘として転生することになったのかを考え込むシアン。ただ、転生するだけならどこの誰でもよかったはずである。
「ほら、集中してないと危ないですよ」
「ごめんなさい、お母様」
しかし、魔法の特訓中に考えことは危険だったようで、ひとまず特訓に集中するシアン。
ロゼリアとの特訓だけでは足りないと感じたシアンは、しっかりとした魔力のコントロールを身に付けるべく、一人の間も努力を重ねるのであった。
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