逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
397 / 431
新章 青色の智姫

第28話 思い出された課題

しおりを挟む
 アイヴォリー王国から帰ってきたシアンは、数日後、ロゼリアに庭に呼び出されていた。
「何でしょうか、お母様」
 急な呼び出しに戸惑いながらも、平静を装うシアン。
 庭では優雅に紅茶をたしなむロゼリアの姿があった。
「十歳になったのですし、改めて魔法の状態を見ておこうと思ったのです。五歳で魔法を使ったのは驚きましたが、その後はろくに確認していませんでしたからね。学園に通う前に一度把握しておかないといけないと思いますよ」
 ロゼリアの言い分に納得のいくシアンである。
 ろくに把握せずに行くと、最初の授業で赤っ恥を書くのは確実なのだ。
 シアンがアクアマリン子爵の四女として通っていた時も、ロゼリアたちが通っていた頃も、最初の方に魔力の確認が行われていたのは確かだからだ。
 魔法は十歳から使えるとはいえ、初めてそこで自分の魔法の才能に気付く者もそれなりにいるのである。そうなると魔法に慣れるためにあたふたすることになるのだ。
 その点、シアンは既に魔法の適性があることは分かっている。扱える属性はロゼリアと同じ水、風、土の三つであり、特に水に対して適性が高い。
 これは五歳の頃にちょこちょこと調べた結果分かっている。ロゼリアも似たようなものなので、今回はロゼリアが出てきたというわけだ。ショロクの出番はない。
「なるほど。では、私が学園に通うまでは、お母様が私の魔法を見てくれるというわけでございますね」
 ロゼリアに座るように促されて椅子に腰かけたシアンは、紅茶を飲みながら話をしている。
「ええ、そういうことよ。まさか娘が自分とまったく同じ魔法属性になるとは思ってもみなかったですね。おかげで、私と同じようなことができますから、かなり楽かと思いますよ」
「はあ、お手柔らかに……」
 にこにこのロゼリアに対して、ちょっと困惑した表情を浮かべながら、シアンは逃げ腰になっていた。
 そんなこんなで、ロゼリアによる魔法の特訓が始まった。
 ただ、王太子妃としても忙しいので、毎日というわけにはいかないし、時間だって短い。それでも、自分の持てる技術はできる限りシアンに叩き込んでいくロゼリアである。
 シアンの方もしっかりとついて行っている。元々は魔法の得意なアクアマリン子爵の家系なのだ。転生したからといって、その技術が廃れるわけではない。
 シアンの方で不安があったとすれば、禁法を使って以降の魔法にまったく触れていない時期があった事だろう。魔力がすっかりなくなってしまっていたので、使いたくても使えなかったのだから。
 こういった日々が二か月ほど繰り返されると、すっかりシアンの魔法の腕前は上達していた。
(久々にこれだけ魔法を使いまくったのは、一体いつぶりでしょうかね。おかげで、かなりあの頃の感覚を取り戻せましたよ)
 すっかり魔力の制御もできてしまっていることに、シアン自身も驚いていた。
「ふふっ、さすがは私の娘ですね。ここまで魔法をしっかりと使いこなせるとは」
 ロゼリアは満足そうに笑っている。
「ふふふふっ、はたしてそれだけかな?」
 そこへ、唐突に変な声が聞こえてきた。
 シアンとロゼリアが声の方向へと視線を向けると、そこにはもう見飽きた存在が立っていたのだ。
 そう、いわずもがなケットシーである。このでかい二足歩行の猫は、本当に神出鬼没である。城の中であろうが気が付いたら姿を見せているのである。
 のそりのそりと歩くケットシーに警戒をする二人。そのためか、ちょっと距離を取った位置でケットシーは立ち止まっていた。
「まったく傷付くなあ。シアンくんが魔法を使いこなせているのは、その髪飾りのおかげでもあるんだよ。それを言いに来ただけなのに、酷いものだなぁ」
「そのためだけに来るあなたもどうかと思いますけれどね」
 冷静に指摘するロゼリアである。
「はっはっはっ、実にその通りだね」
 背中で両手を組んだまま笑うケットシー。
「でもね、シアンくんの魔力は君たちが思っている以上のものだ。最初の水球の大きさを覚えているかい?」
 ケットシーにこう言われて、険しい顔をするシアンである。
「少々コントロールを失っただけであれだ。だから、その髪飾りはリミッターだと思っておくれ。きっと君の助けになってくれる」
 そう言いながら、ケットシーはシアンたちの前から姿を消したのだった。
 本当に自由な猫の幻獣なのである。
 その姿に呆れかえるロゼリアに対し、険しい表情が崩れないシアン。魔法に詳しいシアンだからこそ、ケットシーの言葉がかなり響いているというわけだ。
 ケットシーが去った後、気を取り直して魔法の特訓を再開するロゼリア。シアンはケットシーの忠告を噛みしめながら、ロゼリアの特訓に臨む。
 その中で、自分がどうしてロゼリアの娘として転生することになったのかを考え込むシアン。ただ、転生するだけならどこの誰でもよかったはずである。
「ほら、集中してないと危ないですよ」
「ごめんなさい、お母様」
 しかし、魔法の特訓中に考えことは危険だったようで、ひとまず特訓に集中するシアン。
 ロゼリアとの特訓だけでは足りないと感じたシアンは、しっかりとした魔力のコントロールを身に付けるべく、一人の間も努力を重ねるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...