396 / 431
新章 青色の智姫
第27話 戴冠式の翌日
しおりを挟む
戴冠式の翌日も、当日に捌き切れなかった国内外の貴族からの挨拶が絶えないとあって、シルヴァノとペシエラは忙しそうにしていた。
そこにあの男もやって来ていた。
「あら、ニーズヘッグではありませんの。あなたも挨拶に来たのかしら?」
「久しぶりだな、ペシエラ……王妃殿下」
「いいですわよ、今は呼び捨てでも。部屋の中に入れるのは限られていますもの」
コーラル領内のカイス付近で暴れまわるはずだった厄災の暗竜ことニーズヘッグである。滅びをもたらすと恐れられたドラゴンだが、その正体は幻獣の一体。今は神獣使いベルの子孫であるアイリスの夫となり、コーラル伯爵を継ぐ予定になっている。
「アイリスは来られておりませんのね」
「ああ、今は身重だからな」
「あら、もう四人目ですの?」
「……ノーコメントだ」
驚いて質問をするペシエラに、ニーズヘッグはあからさまに不機嫌な顔をしていた。ロゼリアとチェリシアの協力があったとはいえ、まだ幼いペシエラに神聖魔法で焼かれたトラウマがあるので、正直ニーズヘッグはペシエラが苦手なのである。
「それはそれとして、お前が王妃とは正直驚いたな」
「そうですわね。ロゼリアは譲ってくれましたし、お姉様は最初から興味ありませんでしたもの。となれば、逆行前に一度経験のあるわたくしがやらざると得ないというわけですわ」
「なるほどなぁ……」
得意げな表情をするペシエラに、ニーズヘッグは苦笑いをしていた。
「正直、ペシエラの相手は大変かもしれないが、まあ頑張ってくれ」
「ああ、そのための努力はしてきたつもりだからね。新しいアイヴォリーの国王として成し遂げてみせるよ」
シルヴァノは笑顔でニーズヘッグに返していた。
「そうか。幻獣の一体としてこの国の行く末を見守らせてもらうぞ」
ニーズヘッグはそういって、挨拶を終えて部屋を出ていった。
その間のシアンたちは、シルヴァノとペシエラの子どもの相手をしていた。
ちょうどシアンとモーフの間に挟まるとあって、年の近い三人はとても仲がよさそうにしている。
(ロゼ……お母様の子どもの頃より元気ですね)
アイヴォリーの王子ライトと王女ダイアの相手をしていたシアンは、中身の年齢がずば抜けて離れていることもあって、その相手に苦戦をしているようである。
なにぶん、シアンの実年齢を考えれば孫みたいなものである。見た目の年齢が近いとはいえ、子ども同士という感覚にはまったくならなかった。
「ふふ、なかなか元気がいいですね」
「ああ、シルヴァノというよりは、ペシエラの方の性格を引き継いでいるかな」
ロゼリアとペイルは相手をしながらそのように思っているようだ。ペシエラが居たら間違いなくツッコミが飛んできただろう。だが、そのペシエラは現在貴族たちの挨拶を受けている真っ最中である。
「子どもたちのこの様子なら、十三歳でアイヴォリーの学園に通わせても問題なさそうですね」
「俺のように留学をさせるつもりなのか?」
ロゼリアの言葉に、ペイルが反応する。その質問に対して、ロゼリアは無言で頷いていた。
モスグリネ王国にも、一応貴族が通う学園はある。だが、ペイルの時にはアイヴォリー王国との間の取り決めで、学園に通う六年間の前半三年間をアイヴォリー王国内の学園に通わせる事になっていたのだ。
ロゼリアの提案は、自分たちの子どもにもそれをしようというわけである。
「悪くはないとは思うが、父上たちにも意見を求めないと、俺たちだけでは決められないな」
ペイルがこう言うので、この話は一度保留となったのだった。
お昼頃にはようやく挨拶が一段落をして、シルヴァノたちと一緒に食事をする事となったペイルたち。
その席で、ロゼリアは先程の提案を言い出していた。
「それでしたら、わたくしたちも賛成ですわよ。せっかくですから、後半の三年間はそちらに留学させたいですわね」
すると、ペシエラからは思わぬ反応が返ってきた。
「そうだね。お互いに友好国であるということを印象付けるのであるならば、この留学生制度をいっその事、定着させてしまってもいいかもしれないね」
シルヴァノの方も乗り気である。これは実に意外な話だった。
「ということは、王族だけじゃなくて、一般貴族にも広げるってことでいいわけかな」
「そういうことだね。他国の教育を受けることでお互いいい刺激にはなるだろうしね」
「まぁそれは納得するな。唯一の経験者である俺が言うんだからな」
ロゼリアの提案に他のみんなも乗り気らしく、あれよあれという間に留学の話がまとまっていく。どうやらシアンは将来的にアイヴォリー王国の学園で三年間は学ぶことになりそうだった。
極めつけは、シアン以外の子どもたちも楽しみな反応をしている事だ。こうあっては、シアン一人が異を唱えたところでどうにもならないだろう。
モスグリネ王国の方はまだ国王の承認が得られていないが、ペイルの留学という実績がある以上は受け入れられるのは間違いない。
どうやらシアンは、アイヴォリー王国の学園に二度目の入学をする事が確実なりそうだった。
そこにあの男もやって来ていた。
「あら、ニーズヘッグではありませんの。あなたも挨拶に来たのかしら?」
「久しぶりだな、ペシエラ……王妃殿下」
「いいですわよ、今は呼び捨てでも。部屋の中に入れるのは限られていますもの」
コーラル領内のカイス付近で暴れまわるはずだった厄災の暗竜ことニーズヘッグである。滅びをもたらすと恐れられたドラゴンだが、その正体は幻獣の一体。今は神獣使いベルの子孫であるアイリスの夫となり、コーラル伯爵を継ぐ予定になっている。
「アイリスは来られておりませんのね」
「ああ、今は身重だからな」
「あら、もう四人目ですの?」
「……ノーコメントだ」
驚いて質問をするペシエラに、ニーズヘッグはあからさまに不機嫌な顔をしていた。ロゼリアとチェリシアの協力があったとはいえ、まだ幼いペシエラに神聖魔法で焼かれたトラウマがあるので、正直ニーズヘッグはペシエラが苦手なのである。
「それはそれとして、お前が王妃とは正直驚いたな」
「そうですわね。ロゼリアは譲ってくれましたし、お姉様は最初から興味ありませんでしたもの。となれば、逆行前に一度経験のあるわたくしがやらざると得ないというわけですわ」
「なるほどなぁ……」
得意げな表情をするペシエラに、ニーズヘッグは苦笑いをしていた。
「正直、ペシエラの相手は大変かもしれないが、まあ頑張ってくれ」
「ああ、そのための努力はしてきたつもりだからね。新しいアイヴォリーの国王として成し遂げてみせるよ」
シルヴァノは笑顔でニーズヘッグに返していた。
「そうか。幻獣の一体としてこの国の行く末を見守らせてもらうぞ」
ニーズヘッグはそういって、挨拶を終えて部屋を出ていった。
その間のシアンたちは、シルヴァノとペシエラの子どもの相手をしていた。
ちょうどシアンとモーフの間に挟まるとあって、年の近い三人はとても仲がよさそうにしている。
(ロゼ……お母様の子どもの頃より元気ですね)
アイヴォリーの王子ライトと王女ダイアの相手をしていたシアンは、中身の年齢がずば抜けて離れていることもあって、その相手に苦戦をしているようである。
なにぶん、シアンの実年齢を考えれば孫みたいなものである。見た目の年齢が近いとはいえ、子ども同士という感覚にはまったくならなかった。
「ふふ、なかなか元気がいいですね」
「ああ、シルヴァノというよりは、ペシエラの方の性格を引き継いでいるかな」
ロゼリアとペイルは相手をしながらそのように思っているようだ。ペシエラが居たら間違いなくツッコミが飛んできただろう。だが、そのペシエラは現在貴族たちの挨拶を受けている真っ最中である。
「子どもたちのこの様子なら、十三歳でアイヴォリーの学園に通わせても問題なさそうですね」
「俺のように留学をさせるつもりなのか?」
ロゼリアの言葉に、ペイルが反応する。その質問に対して、ロゼリアは無言で頷いていた。
モスグリネ王国にも、一応貴族が通う学園はある。だが、ペイルの時にはアイヴォリー王国との間の取り決めで、学園に通う六年間の前半三年間をアイヴォリー王国内の学園に通わせる事になっていたのだ。
ロゼリアの提案は、自分たちの子どもにもそれをしようというわけである。
「悪くはないとは思うが、父上たちにも意見を求めないと、俺たちだけでは決められないな」
ペイルがこう言うので、この話は一度保留となったのだった。
お昼頃にはようやく挨拶が一段落をして、シルヴァノたちと一緒に食事をする事となったペイルたち。
その席で、ロゼリアは先程の提案を言い出していた。
「それでしたら、わたくしたちも賛成ですわよ。せっかくですから、後半の三年間はそちらに留学させたいですわね」
すると、ペシエラからは思わぬ反応が返ってきた。
「そうだね。お互いに友好国であるということを印象付けるのであるならば、この留学生制度をいっその事、定着させてしまってもいいかもしれないね」
シルヴァノの方も乗り気である。これは実に意外な話だった。
「ということは、王族だけじゃなくて、一般貴族にも広げるってことでいいわけかな」
「そういうことだね。他国の教育を受けることでお互いいい刺激にはなるだろうしね」
「まぁそれは納得するな。唯一の経験者である俺が言うんだからな」
ロゼリアの提案に他のみんなも乗り気らしく、あれよあれという間に留学の話がまとまっていく。どうやらシアンは将来的にアイヴォリー王国の学園で三年間は学ぶことになりそうだった。
極めつけは、シアン以外の子どもたちも楽しみな反応をしている事だ。こうあっては、シアン一人が異を唱えたところでどうにもならないだろう。
モスグリネ王国の方はまだ国王の承認が得られていないが、ペイルの留学という実績がある以上は受け入れられるのは間違いない。
どうやらシアンは、アイヴォリー王国の学園に二度目の入学をする事が確実なりそうだった。
10
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる