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新章 青色の智姫
第25話 ハウライトにて
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アイヴォリー王国の首都ハウライト。白色を基調とした街並みは、今日も美しいまでに白い。
ペイルは十四年ぶり、ロゼリアは五年ぶり、シアンは十一年ぶりの王都ハウライトである。
「ここがアイヴォリー王国の王都ですか。ヴィフレアとはかなり違いますね」
馬車から顔を出して目を輝かせながら喋っているモーフである。
(懐かしいですね。お母様の侍女だった頃は、ほとんどが王都暮らしでしたからね)
シアンもちらりと外を見ながら懐かしく思っていた。当時はよくロゼリアにくっついてあちこち動いたものである。
ただ、そういった感傷に浸っている場合ではなかった。
さすがに戴冠式を間近に控えたハウライトの中は、多くの人たちが行き交っている。さすがにモスグリネの紋章がついていなければ、まともに馬車を通らせる事も叶わないような状況になっていた。
「さすがに新しい王の誕生ともなると、街の人は浮かれているし、商人どもはチャンスとばかりに集まっているな」
「ええ、そのようですね。ただ、ドール商会とマゼンダ商会という二大商会を相手に、どこまで太刀打ちできるかしら」
ペイルの言葉に頷きながらも、ロゼリアはくすくすと笑っていた。なにせマゼンダ商会の立ち上げを行ったのは、他でもないロゼリア自身なのだから。それだけ、自分の育ててきた商会に自信があるということである。
そのマゼンダ商会は、今はロゼリアの兄であるカーマイルとその妻となったチェリシアの二人が切り盛りしている。チェリシアだけなら不安はあっただろうが、カーマイルがいるからこそロゼリアは安心できるのだ。
いろいろと思うロゼリアたちを乗せて、馬車はアイヴォリー城の中へと入っていった。
馬車を降りると、ペイルたちは真っすぐ現国王たちと謁見をする。護衛の一人を先触れで向かわせておいたので、実にスムーズな謁見だった。
「遠いところをわざわざすまなかったな。ペイル・モスグリネ、それとロゼリア・マゼンダ・モスグリネ」
国王が声を掛ける。
この世界では結婚をすると、元の家名がミドルネームになる風習がある。つまり、名前が長くなると、相手の家に籍を移したということになるのだ。
「お久しゅうございます、アイヴォリー国王陛下」
ロゼリアが挨拶をする。
「後ろにいるのは、お前たちの子どもかしらね」
王妃がペイルとロゼリアの後ろに構えるシアンとモーフを見ている。
「はい、左様でございます。青髪の方が姉のシアン、緑髪の方が弟のモーフでございます」
ペイルが答える。
「そうかそうか。そちたちも二人の子どもに恵まれたか。我らと同じよな」
返答を聞いて、国王は楽しそうに笑っている。
「本当ならば、友人である我が子とその妻に会わせてやりたいものだが、戴冠式の前は面会は全面禁止なのでな。限られた人物しか会うことはできぬのだよ。そこはご了承願いたい」
「はい、存じております」
ロゼリアは淡々と答えているが、国王たちは首を傾げている。なぜなら、そういう話をロゼリアにはした事がないからだ。今回は最初から婚約者にもなっていなかったのだから、当然というものだろう。
ならば、ロゼリアがどこでそれを知ったかのか。
答えは逆行前だ。
その時のロゼリアはシルヴァノの婚約者であったために、一連の流れは聞いていたのである。その記憶があるために、ロゼリアはこう答えたのだ。
「どこで聞いたかは知らぬが、知っているのなら話は早い。ひとまずは客間に案内するので、そこでゆっくり旅の疲れを取るといい」
国王にこう言われて、頷くロゼリアたち。
国王と王妃が去ると、謁見の間を出て客間に案内される。
「うっかりしていましたわ」
客間に移動しながら、ロゼリアはぼそっとペイルに漏らしている。
「うん、何をだい?」
「戴冠式までに会う事が厳しいという話ですよ。うっかり逆行前の記憶で反応してしまいました」
「ああ、そういえばそんな事を話していたな」
ペイルはロゼリアたちの逆行の話を聞いていたので、すんなりとロゼリアの反省を受け入れていた。
「この分だと、ペシエラたちの子どもたちに会うのは戴冠式の後になりそうですね」
「えー、そうなの?」
モーフが話に割り込んでくる。シルヴァノとペシエラの間に子どもがいるという話は以前していたために、モーフは会えることを楽しみにしていたようである。そのために、残念そうな表情をしているようだった。
「しかも、戴冠式の顔合わせだけで終わりそうだから、遊ぶとなると厳しいかもしれないな」
「えー……」
ペイルが顎に手を当てながらいうと、モーフは残念そうに落ち込んでいた。
「私の方からペシエラに頼んで、どうにか遊べるようにしますよ。あちらは九歳の双子ですから、同じように遊びたい盛りでしょうからね」
「むぅ、約束ですよ、母上」
ロゼリアが慰めようとしていうと、口を尖らせながら訴えるモーフである。
そんな家族のやり取りを見ながら、思わず笑みをこぼしてしまうシアンであった。
アイヴォリー王国の新国王誕生まであと二日なのである。
ペイルは十四年ぶり、ロゼリアは五年ぶり、シアンは十一年ぶりの王都ハウライトである。
「ここがアイヴォリー王国の王都ですか。ヴィフレアとはかなり違いますね」
馬車から顔を出して目を輝かせながら喋っているモーフである。
(懐かしいですね。お母様の侍女だった頃は、ほとんどが王都暮らしでしたからね)
シアンもちらりと外を見ながら懐かしく思っていた。当時はよくロゼリアにくっついてあちこち動いたものである。
ただ、そういった感傷に浸っている場合ではなかった。
さすがに戴冠式を間近に控えたハウライトの中は、多くの人たちが行き交っている。さすがにモスグリネの紋章がついていなければ、まともに馬車を通らせる事も叶わないような状況になっていた。
「さすがに新しい王の誕生ともなると、街の人は浮かれているし、商人どもはチャンスとばかりに集まっているな」
「ええ、そのようですね。ただ、ドール商会とマゼンダ商会という二大商会を相手に、どこまで太刀打ちできるかしら」
ペイルの言葉に頷きながらも、ロゼリアはくすくすと笑っていた。なにせマゼンダ商会の立ち上げを行ったのは、他でもないロゼリア自身なのだから。それだけ、自分の育ててきた商会に自信があるということである。
そのマゼンダ商会は、今はロゼリアの兄であるカーマイルとその妻となったチェリシアの二人が切り盛りしている。チェリシアだけなら不安はあっただろうが、カーマイルがいるからこそロゼリアは安心できるのだ。
いろいろと思うロゼリアたちを乗せて、馬車はアイヴォリー城の中へと入っていった。
馬車を降りると、ペイルたちは真っすぐ現国王たちと謁見をする。護衛の一人を先触れで向かわせておいたので、実にスムーズな謁見だった。
「遠いところをわざわざすまなかったな。ペイル・モスグリネ、それとロゼリア・マゼンダ・モスグリネ」
国王が声を掛ける。
この世界では結婚をすると、元の家名がミドルネームになる風習がある。つまり、名前が長くなると、相手の家に籍を移したということになるのだ。
「お久しゅうございます、アイヴォリー国王陛下」
ロゼリアが挨拶をする。
「後ろにいるのは、お前たちの子どもかしらね」
王妃がペイルとロゼリアの後ろに構えるシアンとモーフを見ている。
「はい、左様でございます。青髪の方が姉のシアン、緑髪の方が弟のモーフでございます」
ペイルが答える。
「そうかそうか。そちたちも二人の子どもに恵まれたか。我らと同じよな」
返答を聞いて、国王は楽しそうに笑っている。
「本当ならば、友人である我が子とその妻に会わせてやりたいものだが、戴冠式の前は面会は全面禁止なのでな。限られた人物しか会うことはできぬのだよ。そこはご了承願いたい」
「はい、存じております」
ロゼリアは淡々と答えているが、国王たちは首を傾げている。なぜなら、そういう話をロゼリアにはした事がないからだ。今回は最初から婚約者にもなっていなかったのだから、当然というものだろう。
ならば、ロゼリアがどこでそれを知ったかのか。
答えは逆行前だ。
その時のロゼリアはシルヴァノの婚約者であったために、一連の流れは聞いていたのである。その記憶があるために、ロゼリアはこう答えたのだ。
「どこで聞いたかは知らぬが、知っているのなら話は早い。ひとまずは客間に案内するので、そこでゆっくり旅の疲れを取るといい」
国王にこう言われて、頷くロゼリアたち。
国王と王妃が去ると、謁見の間を出て客間に案内される。
「うっかりしていましたわ」
客間に移動しながら、ロゼリアはぼそっとペイルに漏らしている。
「うん、何をだい?」
「戴冠式までに会う事が厳しいという話ですよ。うっかり逆行前の記憶で反応してしまいました」
「ああ、そういえばそんな事を話していたな」
ペイルはロゼリアたちの逆行の話を聞いていたので、すんなりとロゼリアの反省を受け入れていた。
「この分だと、ペシエラたちの子どもたちに会うのは戴冠式の後になりそうですね」
「えー、そうなの?」
モーフが話に割り込んでくる。シルヴァノとペシエラの間に子どもがいるという話は以前していたために、モーフは会えることを楽しみにしていたようである。そのために、残念そうな表情をしているようだった。
「しかも、戴冠式の顔合わせだけで終わりそうだから、遊ぶとなると厳しいかもしれないな」
「えー……」
ペイルが顎に手を当てながらいうと、モーフは残念そうに落ち込んでいた。
「私の方からペシエラに頼んで、どうにか遊べるようにしますよ。あちらは九歳の双子ですから、同じように遊びたい盛りでしょうからね」
「むぅ、約束ですよ、母上」
ロゼリアが慰めようとしていうと、口を尖らせながら訴えるモーフである。
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アイヴォリー王国の新国王誕生まであと二日なのである。
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