394 / 524
新章 青色の智姫
第25話 ハウライトにて
しおりを挟む
アイヴォリー王国の首都ハウライト。白色を基調とした街並みは、今日も美しいまでに白い。
ペイルは十四年ぶり、ロゼリアは五年ぶり、シアンは十一年ぶりの王都ハウライトである。
「ここがアイヴォリー王国の王都ですか。ヴィフレアとはかなり違いますね」
馬車から顔を出して目を輝かせながら喋っているモーフである。
(懐かしいですね。お母様の侍女だった頃は、ほとんどが王都暮らしでしたからね)
シアンもちらりと外を見ながら懐かしく思っていた。当時はよくロゼリアにくっついてあちこち動いたものである。
ただ、そういった感傷に浸っている場合ではなかった。
さすがに戴冠式を間近に控えたハウライトの中は、多くの人たちが行き交っている。さすがにモスグリネの紋章がついていなければ、まともに馬車を通らせる事も叶わないような状況になっていた。
「さすがに新しい王の誕生ともなると、街の人は浮かれているし、商人どもはチャンスとばかりに集まっているな」
「ええ、そのようですね。ただ、ドール商会とマゼンダ商会という二大商会を相手に、どこまで太刀打ちできるかしら」
ペイルの言葉に頷きながらも、ロゼリアはくすくすと笑っていた。なにせマゼンダ商会の立ち上げを行ったのは、他でもないロゼリア自身なのだから。それだけ、自分の育ててきた商会に自信があるということである。
そのマゼンダ商会は、今はロゼリアの兄であるカーマイルとその妻となったチェリシアの二人が切り盛りしている。チェリシアだけなら不安はあっただろうが、カーマイルがいるからこそロゼリアは安心できるのだ。
いろいろと思うロゼリアたちを乗せて、馬車はアイヴォリー城の中へと入っていった。
馬車を降りると、ペイルたちは真っすぐ現国王たちと謁見をする。護衛の一人を先触れで向かわせておいたので、実にスムーズな謁見だった。
「遠いところをわざわざすまなかったな。ペイル・モスグリネ、それとロゼリア・マゼンダ・モスグリネ」
国王が声を掛ける。
この世界では結婚をすると、元の家名がミドルネームになる風習がある。つまり、名前が長くなると、相手の家に籍を移したということになるのだ。
「お久しゅうございます、アイヴォリー国王陛下」
ロゼリアが挨拶をする。
「後ろにいるのは、お前たちの子どもかしらね」
王妃がペイルとロゼリアの後ろに構えるシアンとモーフを見ている。
「はい、左様でございます。青髪の方が姉のシアン、緑髪の方が弟のモーフでございます」
ペイルが答える。
「そうかそうか。そちたちも二人の子どもに恵まれたか。我らと同じよな」
返答を聞いて、国王は楽しそうに笑っている。
「本当ならば、友人である我が子とその妻に会わせてやりたいものだが、戴冠式の前は面会は全面禁止なのでな。限られた人物しか会うことはできぬのだよ。そこはご了承願いたい」
「はい、存じております」
ロゼリアは淡々と答えているが、国王たちは首を傾げている。なぜなら、そういう話をロゼリアにはした事がないからだ。今回は最初から婚約者にもなっていなかったのだから、当然というものだろう。
ならば、ロゼリアがどこでそれを知ったかのか。
答えは逆行前だ。
その時のロゼリアはシルヴァノの婚約者であったために、一連の流れは聞いていたのである。その記憶があるために、ロゼリアはこう答えたのだ。
「どこで聞いたかは知らぬが、知っているのなら話は早い。ひとまずは客間に案内するので、そこでゆっくり旅の疲れを取るといい」
国王にこう言われて、頷くロゼリアたち。
国王と王妃が去ると、謁見の間を出て客間に案内される。
「うっかりしていましたわ」
客間に移動しながら、ロゼリアはぼそっとペイルに漏らしている。
「うん、何をだい?」
「戴冠式までに会う事が厳しいという話ですよ。うっかり逆行前の記憶で反応してしまいました」
「ああ、そういえばそんな事を話していたな」
ペイルはロゼリアたちの逆行の話を聞いていたので、すんなりとロゼリアの反省を受け入れていた。
「この分だと、ペシエラたちの子どもたちに会うのは戴冠式の後になりそうですね」
「えー、そうなの?」
モーフが話に割り込んでくる。シルヴァノとペシエラの間に子どもがいるという話は以前していたために、モーフは会えることを楽しみにしていたようである。そのために、残念そうな表情をしているようだった。
「しかも、戴冠式の顔合わせだけで終わりそうだから、遊ぶとなると厳しいかもしれないな」
「えー……」
ペイルが顎に手を当てながらいうと、モーフは残念そうに落ち込んでいた。
「私の方からペシエラに頼んで、どうにか遊べるようにしますよ。あちらは九歳の双子ですから、同じように遊びたい盛りでしょうからね」
「むぅ、約束ですよ、母上」
ロゼリアが慰めようとしていうと、口を尖らせながら訴えるモーフである。
そんな家族のやり取りを見ながら、思わず笑みをこぼしてしまうシアンであった。
アイヴォリー王国の新国王誕生まであと二日なのである。
ペイルは十四年ぶり、ロゼリアは五年ぶり、シアンは十一年ぶりの王都ハウライトである。
「ここがアイヴォリー王国の王都ですか。ヴィフレアとはかなり違いますね」
馬車から顔を出して目を輝かせながら喋っているモーフである。
(懐かしいですね。お母様の侍女だった頃は、ほとんどが王都暮らしでしたからね)
シアンもちらりと外を見ながら懐かしく思っていた。当時はよくロゼリアにくっついてあちこち動いたものである。
ただ、そういった感傷に浸っている場合ではなかった。
さすがに戴冠式を間近に控えたハウライトの中は、多くの人たちが行き交っている。さすがにモスグリネの紋章がついていなければ、まともに馬車を通らせる事も叶わないような状況になっていた。
「さすがに新しい王の誕生ともなると、街の人は浮かれているし、商人どもはチャンスとばかりに集まっているな」
「ええ、そのようですね。ただ、ドール商会とマゼンダ商会という二大商会を相手に、どこまで太刀打ちできるかしら」
ペイルの言葉に頷きながらも、ロゼリアはくすくすと笑っていた。なにせマゼンダ商会の立ち上げを行ったのは、他でもないロゼリア自身なのだから。それだけ、自分の育ててきた商会に自信があるということである。
そのマゼンダ商会は、今はロゼリアの兄であるカーマイルとその妻となったチェリシアの二人が切り盛りしている。チェリシアだけなら不安はあっただろうが、カーマイルがいるからこそロゼリアは安心できるのだ。
いろいろと思うロゼリアたちを乗せて、馬車はアイヴォリー城の中へと入っていった。
馬車を降りると、ペイルたちは真っすぐ現国王たちと謁見をする。護衛の一人を先触れで向かわせておいたので、実にスムーズな謁見だった。
「遠いところをわざわざすまなかったな。ペイル・モスグリネ、それとロゼリア・マゼンダ・モスグリネ」
国王が声を掛ける。
この世界では結婚をすると、元の家名がミドルネームになる風習がある。つまり、名前が長くなると、相手の家に籍を移したということになるのだ。
「お久しゅうございます、アイヴォリー国王陛下」
ロゼリアが挨拶をする。
「後ろにいるのは、お前たちの子どもかしらね」
王妃がペイルとロゼリアの後ろに構えるシアンとモーフを見ている。
「はい、左様でございます。青髪の方が姉のシアン、緑髪の方が弟のモーフでございます」
ペイルが答える。
「そうかそうか。そちたちも二人の子どもに恵まれたか。我らと同じよな」
返答を聞いて、国王は楽しそうに笑っている。
「本当ならば、友人である我が子とその妻に会わせてやりたいものだが、戴冠式の前は面会は全面禁止なのでな。限られた人物しか会うことはできぬのだよ。そこはご了承願いたい」
「はい、存じております」
ロゼリアは淡々と答えているが、国王たちは首を傾げている。なぜなら、そういう話をロゼリアにはした事がないからだ。今回は最初から婚約者にもなっていなかったのだから、当然というものだろう。
ならば、ロゼリアがどこでそれを知ったかのか。
答えは逆行前だ。
その時のロゼリアはシルヴァノの婚約者であったために、一連の流れは聞いていたのである。その記憶があるために、ロゼリアはこう答えたのだ。
「どこで聞いたかは知らぬが、知っているのなら話は早い。ひとまずは客間に案内するので、そこでゆっくり旅の疲れを取るといい」
国王にこう言われて、頷くロゼリアたち。
国王と王妃が去ると、謁見の間を出て客間に案内される。
「うっかりしていましたわ」
客間に移動しながら、ロゼリアはぼそっとペイルに漏らしている。
「うん、何をだい?」
「戴冠式までに会う事が厳しいという話ですよ。うっかり逆行前の記憶で反応してしまいました」
「ああ、そういえばそんな事を話していたな」
ペイルはロゼリアたちの逆行の話を聞いていたので、すんなりとロゼリアの反省を受け入れていた。
「この分だと、ペシエラたちの子どもたちに会うのは戴冠式の後になりそうですね」
「えー、そうなの?」
モーフが話に割り込んでくる。シルヴァノとペシエラの間に子どもがいるという話は以前していたために、モーフは会えることを楽しみにしていたようである。そのために、残念そうな表情をしているようだった。
「しかも、戴冠式の顔合わせだけで終わりそうだから、遊ぶとなると厳しいかもしれないな」
「えー……」
ペイルが顎に手を当てながらいうと、モーフは残念そうに落ち込んでいた。
「私の方からペシエラに頼んで、どうにか遊べるようにしますよ。あちらは九歳の双子ですから、同じように遊びたい盛りでしょうからね」
「むぅ、約束ですよ、母上」
ロゼリアが慰めようとしていうと、口を尖らせながら訴えるモーフである。
そんな家族のやり取りを見ながら、思わず笑みをこぼしてしまうシアンであった。
アイヴォリー王国の新国王誕生まであと二日なのである。
8
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~
月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―
“賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。
だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。
当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。
ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?
そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?
彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?
力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる