逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第24話 移動は退屈でした

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「母上、それは何ですか?」
 ガタガタと馬車に揺られながらアイヴォリー王国を目指するペイルやロゼリアたち。
 そんな中、モーフがロゼリアの使っていた魔道具が気になったようで声を掛けてきた。
「ああ、これね。私たちの絆のようなものよ。ね、殿下」
「うむ、そうだな」
 ロゼリアが話し掛けると、どこか驚いたような表情をしていた。その表情に、思わず笑ってしまうロゼリア。
「あなた、忘れていましたね?」
「そ、そんな事はないぞ。それが証拠にこうやって持ってきている」
 慌てたようにポケットからスマホもどきを取り出すペイル。確かに、ロゼリアの持っているものと同じような薄い板のようなものが出てきた。
「全然使ってらっしゃらないではないですか」
「何に使えというんだ。変に他国と連絡を取っていては、周りからどう思われるか分かったものじゃない」
「私も持っていますけれど、私とは話して下さらないのですね」
「ぐっ!」
 ロゼリアに痛いところを突かれて、ぐうの音も出ないペイルである。
 そのやり取りと姿に、モーフどころかシアンもついつい笑ってしまうほどだった。
(やれやれ、お父様とお母様の仲は相変わらずよさそうですね。国内でも有名な仲良し夫婦なだけはありますよ)
 笑いながらそんな事を思っているシアンである。大体情報の出所はケットシーである。
 実はあれからも、シアンの元には結構ケットシーがちょっかいを掛けにやってきていた。クロノスとクロノア親子がちょっかいを掛けた相手として興味津々だからだ。
 だが、それでいろいろ絡まれるシアンからすれば迷惑以外のなにものではない。とはいえ、今のシアンの知見は大体このケットシーによるものなので、正直複雑な気持ちである。
「ふふっ、初めて城から出ての旅は楽しみです。お父様、お母様」
 ひとまずは無邪気な娘のふりをしておくシアン。とはいえ、アイヴォリー王国の地に足を踏み入れるのは、消滅前以来なので実に十一年ぶりである。楽しみでないといったらうそになる。
 ガタンガタンと揺られながら、シアンたちは一路アイヴォリーの王都を目指してゆっくりと進んでいった。

 ところが、さすがは王族の馬車行列。普通の馬車よりも進みが遅い。
 そういったことを含んで、ロゼリアはペシエラに到着は戴冠式の二日前の予定と伝えていたのだ。
 これくらい進みが遅いと、子どもというのは退屈に文句を言い始めるものだ。
 転生者であるシアンも、中身は大人とはいえ、さすがにこの遅さには退屈になってきていた。
(はあ、ようやく国境を越えましたか……。大人ですとこのくらいなんともないのですが、子どもの体に引っ張られているのか、退屈に耐えられませんね……)
 シアンはアイヴォリー王国に入って外の景色をはしゃいで見ているモーフを眺めながら、思わずため息をついていた。
(モーフは元気そうにしていますが、どれくらい続くでしょうかね)
 シアンは退屈そうにあくびをして、そのままこてりと眠ってしまったのだった。
 それにしても、ここまで来る間、ずっと特に何も問題は起きていなかった。
 それなりに治安の悪くなることもあるだろうが、魔物も盗賊もその一切が姿を見せなかったのである。
 国内情勢の安定にはアイヴォリー王国もモスグリネ王国も力を入れており、特に今移動しているメインの街道の治安はこの上ないレベルで安全に保たれている。
 いつぞやの魔物氾濫で配下になったトルフとラルクの二体の魔物が、特にその治安維持に尽力してくれている。彼らはそもそも上位の魔物であり、名持ちとなったことでたいていの魔物は敵わなくなってしまった。それによって街道の安全は保たれているのである。

「昔を思うと、本当に何事もなく移動できるというのはいい事だ」
「そうですね。護衛の騎士たちが仰々しく思えてしまいますね」
 あまりにも安全な旅に、ペイルもロゼリアも笑ってしまうくらいである。
「俺がアイヴォリーの学園に留学した頃が懐かしくなるな。あの頃の治安は本当によくなくて、魔物の襲撃は国境付近では当たり前のように起きていたからな」
「よくそれで無事でしたね」
 ペイルの証言に思わず慌ててしまうロゼリアである。
「モスグリネ王国の精霊の加護のある国。たいていの魔物は相手にならんよ。ふふふ」
「まったく、当時はあなたの配下の騎士たちではなかったでしょうに……」
「王子たる俺を守るのは当然だろうが」
 自慢げに話すペイルだったが、ロゼリアの思わぬ反応につい声を荒げてしまう。その姿に思わず笑ってしまうロゼリアとシアンである。
「そうだわ。退屈ですから、お父様とお母様の初対面の頃のお話が聞きたいです」
「僕も興味あります。父上、母上、お願いします」
 子どもたちにせがまれてしまっては、ペイルとロゼリアはついつい顔を見合わせてしまう。
 なんとも気まずく感じてしまう二人だったが、子どもたちが目を輝かせているものだから、渋々なれそめをはじめとした昔話を始めたのだった。
 そして、そんな話をしている間に、一行はアイヴォリー王国の王都に到着したのである。
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