逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第23話 アイヴォリー王太子夫妻

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 戴冠式を前にしながらも、いつものように過ごすペシエラ。すると、ドレスから赤色の光が漏れ始める。
「あら、確かこれは……」
 ごそごそとドレスのポケットから何かを取り出すペシエラ。
 これはチェリシアが作り出した、前世のスマートフォンを模した魔道具であるチャットフォンだった。
 これを持っているのはロゼリア、チェリシア、ペシエラ、シルヴァノ、ペイルの五人だけだった。追加でカーマイルとアイリスも持っているという、世界にたった数個という貴重な魔道具である。
 チャットフォンに手を触れて魔力を流すペシエラ。
「何かしら、ロゼリア」
『ああ、よかった。今は暇なのね』
 通話の相手はロゼリアだった。相手に合わせて光る色が変わるので、光だけでだいたい誰かは分かる。それでも思った通りの人物が相手だとほっと安心してしまうものである。
「何かしら。ちょうど準備の間の暇な時間でよかったけれど、できれば手短にすませてもらいたいわ」
『相変わらず元気そうでよかったわ。まあ、用件は手短に済ませるわね』
 互いの声を聞けて安心する二人。
『それで話だけれども、こちらはモスグリネを発ったわ。予定通りなら、戴冠式の二日前には着けると思うわよ』
「あら、そんなにぎりぎりになってしまいますのね」
 ロゼリアの話を聞いて、意外だなという反応を示すペシエラである。
『だいたいケットシーのせいですよ』
「またあの猫のせいですの? まったく飽きもしませんわね、フリーダムすぎませんこと?」
 ロゼリアの愚痴についつい声が大きくなってしまうペシエラである。
『とりあえずそういうことですので、待っていて下さいな。あと、お祝いの言葉は当日まで取っておきますからね』
「ええ、分かりましたわ。それで構いませんわよ」
『久しぶりの再会を楽しみにしているわ』
「私もですわよ、ロゼリア」
 話がちょうど終わったところで、通話を終えるペシエラ。
 近くの椅子に座って深くもたれ掛かる。
「……ああ、そうですわ。子どもたちが来るのか聞いていませんでしたわね。こちらも子どもたちと会わせる予定ですから、確かめたかったですわね」
 途中で話に出てきたケットシーの名前のせいで、すっかりそこを失念してしまっていたペシエラである。
「まあいいですわ。シルヴィに伝えておきませんとね、ロゼリアたちが無事にやって来ると」
 ペシエラは立ち上がって、シルヴァノに先程の通話の内容を伝えることにしたのだった。

 シルヴァノが居るはずの部屋の前までやって来たペシエラ。すると中からはなにやら騒がしい声が聞こえてくる。
(この声は、まさか……)
 心のあたりのあるペシエラだったが、ひとまずは普段通りを心掛ける。
 扉をノックして部屋の中のシルヴァノに声を掛ける。
「殿下、ペシエラでございます。お伝えする事がございますので、よろしいでしょうか」
「ああ、ペシエラか。入っておいで」
「では、失礼致します」
 ペシエラが部屋の中に入ると、二人の子どもがバタバタと落ち着きなく走り回っていた。
「あなたたち、殿下の邪魔をしてはいけませんよ」
「あっ、お母様」
「母上だ」
 子どもたちがバタバタとペシエラの走り寄ってくる。
 この子どもたちは、ペシエラとシルヴァノの間に生まれた双子である。男の子の方がライト、女の子の方がダイアである。
 ちなみにペシエラの年齢の関係上、逆行前より一年遅れており、双子の年齢は現在九歳である。元気真っ盛りだ。
「ペシエラ、話って何なんだい?」
 子どもたちに絡まれるペシエラに対して、用件を尋ねてくるシルヴァノ。ペシエラは部屋の中にいた使用人に子どもたちを任せると、シルヴァノに近付いていく。
「殿下の方には連絡はいっておりませんかしら」
「どんな連絡だい?」
 ペシエラの言葉に不思議そうな顔をするシルヴァノ。どうやら連絡がきていないらしい。
 正直な気持ち、ロゼリアに呆れてしまうペシエラである。
(はあ、ペイル殿下に連絡を入れるように進言すればよろしかったのに。あ、でも、彼だといろいろ余計なことを喋りそうですわね……)
 少し考えて首を横に振るペシエラ。思わず笑いそうになってしまうシルヴァノである。
「申し訳ございませんわね。では、用件をお伝え致しますわ」
「うん、どういう話なんだい?」
 シルヴァノが確認をしてくるので、ペシエラは姿勢を正す。
「先程、ロゼリアから連絡が入りましたわ。モスグリネを発った、つまり王都からこちらへ向かっているということですわね。戴冠式の二日前に到着予定との事ですわ」
「おお、そうかい。ペイルや二人の子どもとも会えるのだろうかな」
「ペイル殿下は間違いございませんわ。交流のある殿下の戴冠式ですもの。参加しない不義があってなるものかというものですわよ」
 厳しい性格のペシエラはちょっと言葉が厳しめのようである。
「ふふっ、事前に話ができるというのも少し問題かな」
 思わず笑ってしまうシルヴァノである。
「まぁ楽しみは当日まで取っておこうか」
「承知致しましたわ、殿下」
 シルヴァノに言われて、気持ちを落ち着けるペシエラである。
 戴冠式を目の前に控えた二人は、久しぶりに親友たちに会えることを楽しみに、慌ただしい準備をどうにかこなしていくのだった。
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