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新章 青色の智姫
第18話 魔力の安定
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シアンは今日もショロクの指導の下、魔力の制御を身に付けるために必死になっていた。
五歳でありながら魔法に関する訓練をしているというのは、本来であればかなり過酷な事である。なにせ、魔法は十歳からが基本の世界なのだから、その半分の年齢での訓練は相当にきついはずである。
だが、魔法に関して造詣の深いシアンは、自分の中の魔力が危険な事を認識していた。だからこそ、ショロクの指導を受けているのである。
(せっかく再びこの世界に生を受けたんですもの。この程度でダメになるなんて嫌に決まっています!)
転生して最愛の人物の娘になったのだ。それなのに悲しませるような事があっては、何のために自分は頑張ってきたのか分からなくなる。
(そもそも転生させる事自体がどうかしているのです。あのまま消滅させてくれていれば、こんな苦労をせずにすんだといいますのに……)
自分という存在が消えてなくなることを覚悟して禁法を使用したのだ。だからこそ、シアンの気持ちは正直複雑なものだった。
「姫様、気が乱れておりますぞ!」
ショロクから大声で注意される。
「むぅ……」
子どもっぽく表情を不満げに歪めて力を入れるシアン。
(体が幼いせいもあって、なかなかうまく安定しませんね。ですが、私はアクアマリン子爵家マーリン・アクアマリンの妹です。この程度を御せなくてどうするのですか)
必死に魔力の制御に努めるシアンだが、やはり体が幼すぎてなかなかうまくいかなかった。
まだまだと力を入れようとしたシアンだが、ふらりと体がよろめいてしまう。
「あ……」
不意に力に体が入らなくなったせいで、思わぬ体勢で地面に倒れそうになってしまう。
だが、次の瞬間、ふわりと体が何かによって支えられたのだった。
「ふぅ……危なかったですね」
「おか、あさま?」
そこに現れたのはロゼリアだった。どうやら早く届けるために瞬間移動魔法で城に戻ってきたようだ。
「ショロク、少々無理をさせ過ぎなのでは?」
「いやはや、申し訳ございませんぞ。じゃが、姫様が少々気合いを入れ過ぎておるようでな、わしからは注意ができなんだ」
「そう……ですか」
ロゼリアはシアンへと視線を向ける。あまりに強い眼差しに、シアンの体がビクッと小さく震える。今は親子であるがために、母親に対する畏怖が発動しているのだ。
ロゼリアが自分に近付いてくる。
その現実に、シアンは思わず恐怖を感じてしまっていた。
目の前までやって来たロゼリアがシアンにした事。それはとても予想外な事だった。
「シアン、これを使ってみなさい」
「……お母様、これは?」
シアンの目の前には、小さな杖が差し出されていた。
「知り合いを通じて作ってもらったの。自分だけでどうにもできないのなら、道具を頼ってみてもいいんじゃないのかしらね」
「道具……」
魔法を制御するのに道具を使うというのは、アクアマリン家からすれば邪道のようなものだ。自分の体一つで強大な魔力を御せてこそアクアマリンの人間といえる。
シアンの中では、アクアマリンの教えというものがいまだにその考えを支配していた。
杖を見つめていたシアンは、ふと見上げてロゼリアの顔を見る。その表情は、娘を心配する母親の顔だった。
(そうか。今の私はもうアクアマリンの人間ではありませんでしたね……。それに、敬愛するロゼリア様からの贈り物です。となれば、私の行動はひとつ……)
吹っ切れたシアンは、ロゼリアが差し出してきた杖を受け取る。すると、握っただけで不思議な感覚に襲われた。
想像していなかった以上に、自分の手どころか魔力にもなじんでいるのだ。これならばと、シアンはしっかりとその杖を握りしめる。
杖を握ったシアンの姿に、ショロクは驚きを隠せなかった。
「おおお……、魔力がとても安定なさっておられる。これならば安心できそうでございますな」
さっきまでの不安定さはどこへやら。シアンの体の中で、魔力が見事なまでに安定していた。
「いやあ、実に危なかったですな。あのまま不安定な状態が続いていれば、体に激痛が走ったり、血は吐いたりといろいろ影響が出てくるところでしたからな」
「うわぁ……」
ショロクの言った内容に、思わず本気で嫌な顔をしてしまうシアンである。
「体に激痛……、ペシエラが陥っていた症状ね。強がりだからそんな様子は見せてなかったけれど、聞けばかなり危なかったらしいものね」
ついペシエラの事を思い出して怖くなるロゼリアだった。
「何にしても魔力が安定したのなら、ひと安心というものです。これでこの爺はお役御免ですかな?」
「何を仰っているのですか。これで当面魔法を使わなくてもいいとはいえ、使うにあたっての心構えなどをしっかりとお願いします」
「むむむっ、承知致しましたぞ」
どうやらショロクは、もうしばらくはシアンの魔法の先生として従事することになるようである。
何にしても、シアンの魔力の安定が行えたのは大きい。
シアンとしては、この杖の出所が気になるようだが、ロゼリアはまったく教えようとはしなかった。
そのためにせっかく魔力が安定したというものの、どうにもすっきりしないシアンなのであった。
五歳でありながら魔法に関する訓練をしているというのは、本来であればかなり過酷な事である。なにせ、魔法は十歳からが基本の世界なのだから、その半分の年齢での訓練は相当にきついはずである。
だが、魔法に関して造詣の深いシアンは、自分の中の魔力が危険な事を認識していた。だからこそ、ショロクの指導を受けているのである。
(せっかく再びこの世界に生を受けたんですもの。この程度でダメになるなんて嫌に決まっています!)
転生して最愛の人物の娘になったのだ。それなのに悲しませるような事があっては、何のために自分は頑張ってきたのか分からなくなる。
(そもそも転生させる事自体がどうかしているのです。あのまま消滅させてくれていれば、こんな苦労をせずにすんだといいますのに……)
自分という存在が消えてなくなることを覚悟して禁法を使用したのだ。だからこそ、シアンの気持ちは正直複雑なものだった。
「姫様、気が乱れておりますぞ!」
ショロクから大声で注意される。
「むぅ……」
子どもっぽく表情を不満げに歪めて力を入れるシアン。
(体が幼いせいもあって、なかなかうまく安定しませんね。ですが、私はアクアマリン子爵家マーリン・アクアマリンの妹です。この程度を御せなくてどうするのですか)
必死に魔力の制御に努めるシアンだが、やはり体が幼すぎてなかなかうまくいかなかった。
まだまだと力を入れようとしたシアンだが、ふらりと体がよろめいてしまう。
「あ……」
不意に力に体が入らなくなったせいで、思わぬ体勢で地面に倒れそうになってしまう。
だが、次の瞬間、ふわりと体が何かによって支えられたのだった。
「ふぅ……危なかったですね」
「おか、あさま?」
そこに現れたのはロゼリアだった。どうやら早く届けるために瞬間移動魔法で城に戻ってきたようだ。
「ショロク、少々無理をさせ過ぎなのでは?」
「いやはや、申し訳ございませんぞ。じゃが、姫様が少々気合いを入れ過ぎておるようでな、わしからは注意ができなんだ」
「そう……ですか」
ロゼリアはシアンへと視線を向ける。あまりに強い眼差しに、シアンの体がビクッと小さく震える。今は親子であるがために、母親に対する畏怖が発動しているのだ。
ロゼリアが自分に近付いてくる。
その現実に、シアンは思わず恐怖を感じてしまっていた。
目の前までやって来たロゼリアがシアンにした事。それはとても予想外な事だった。
「シアン、これを使ってみなさい」
「……お母様、これは?」
シアンの目の前には、小さな杖が差し出されていた。
「知り合いを通じて作ってもらったの。自分だけでどうにもできないのなら、道具を頼ってみてもいいんじゃないのかしらね」
「道具……」
魔法を制御するのに道具を使うというのは、アクアマリン家からすれば邪道のようなものだ。自分の体一つで強大な魔力を御せてこそアクアマリンの人間といえる。
シアンの中では、アクアマリンの教えというものがいまだにその考えを支配していた。
杖を見つめていたシアンは、ふと見上げてロゼリアの顔を見る。その表情は、娘を心配する母親の顔だった。
(そうか。今の私はもうアクアマリンの人間ではありませんでしたね……。それに、敬愛するロゼリア様からの贈り物です。となれば、私の行動はひとつ……)
吹っ切れたシアンは、ロゼリアが差し出してきた杖を受け取る。すると、握っただけで不思議な感覚に襲われた。
想像していなかった以上に、自分の手どころか魔力にもなじんでいるのだ。これならばと、シアンはしっかりとその杖を握りしめる。
杖を握ったシアンの姿に、ショロクは驚きを隠せなかった。
「おおお……、魔力がとても安定なさっておられる。これならば安心できそうでございますな」
さっきまでの不安定さはどこへやら。シアンの体の中で、魔力が見事なまでに安定していた。
「いやあ、実に危なかったですな。あのまま不安定な状態が続いていれば、体に激痛が走ったり、血は吐いたりといろいろ影響が出てくるところでしたからな」
「うわぁ……」
ショロクの言った内容に、思わず本気で嫌な顔をしてしまうシアンである。
「体に激痛……、ペシエラが陥っていた症状ね。強がりだからそんな様子は見せてなかったけれど、聞けばかなり危なかったらしいものね」
ついペシエラの事を思い出して怖くなるロゼリアだった。
「何にしても魔力が安定したのなら、ひと安心というものです。これでこの爺はお役御免ですかな?」
「何を仰っているのですか。これで当面魔法を使わなくてもいいとはいえ、使うにあたっての心構えなどをしっかりとお願いします」
「むむむっ、承知致しましたぞ」
どうやらショロクは、もうしばらくはシアンの魔法の先生として従事することになるようである。
何にしても、シアンの魔力の安定が行えたのは大きい。
シアンとしては、この杖の出所が気になるようだが、ロゼリアはまったく教えようとはしなかった。
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