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新章 青色の智姫
第16話 メタルゼリーのルゼ
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シアンが四苦八苦している間、ロゼリアはアイヴォリー王国内に出没していた。
向かった先はドール商会。ここにはちょっと変わった人物が出入りしているからだ。
「ロイエールはいらっしゃるかしら」
「これはこれは、……ってロゼリア様?!」
受付に姿を見せたロゼリアにものすごく驚く商会員。どたばたとして奥へと大声で叫びながら走っていく。
(あっ、こけましたわ)
慌ただしく消え去った受付は、次期商会長となるロイエールを連れて戻ってきた。
「ロゼリア王太子殿下?! モスグリネに嫁がれたはずでは……」
突然現れたロゼリアに、さすがのロイエールも面食らっているようだった。何せ隣国の王子のもとに嫁いだ女性が、護衛もなしに単独でアイヴォリーの一商会を訪ねてきているのだから。
「ええ、突然やってきて悪く思いますわよ。でも、緊急事態なのでご容赦願えますかしら」
「わ、分かりました……。とりあえず、奥でお話しましょう」
ロイエールは混乱した状態のまま、商会の応接室のひとつにロゼリアを案内した。
「それで、どんな用事なのでいらっしゃられるのでしょうか」
緊張した面持ちでロゼリアに問い掛けるロイエール。学園を卒業してから親の仕事を継ぐために勉強中の彼は、二十五歳の立派な青年となっている。
そんな彼ですら戸惑いを隠せないのが、目の前にいるロゼリア・マゼンダ・モスグリネ王太子妃なのである。
元々侯爵令嬢であったがためにロゼリアの威圧感は半端なかったのだが、王太子妃となって二児の母となったにもかかわらず、相変わらずの威圧感があるのである。だからこそ、ロイエールは緊張を隠せないのだ。
「こちらにまだ出入りしていると思うのですが、ルゼをしばらく貸してもらいたいのですよ」
「ルゼをですか?」
ロイエールは驚いていた。
「ええ、娘のためにちょっと必要が出てきましたのでね。よろしいでしょうか?」
「それは……」
「私は構わないわよ!」
ロイエールが渋る中、突然扉が開け放たれる。なんとそこにはルゼが立っていたのだ。
「ルゼ、聞いていたのですか」
「まぁ途中からですけれどね。ロゼリアの魔力を感じたから、慌てて飛んできましたよ」
ドヤ顔を精一杯決めた後は、いそいそと扉を閉めて中へと入ってくる。すっかり人間生活に慣れたメタルゼリーのルゼである。
「シアンちゃんに魔力制御用の何かが欲しいのですよね。ケットシーが急に来て伝えてきましたから知ってますよ」
「あの猫は……」
相変わらずの神出鬼没の食えない猫は、勝手に手を打っていたようだった。
とはいえ、今回は助かるので怒るに怒れないロゼリアだった。
「とりあえずなんですけれど、シアンのために杖を作ってもらってもいいかしら」
「もちろん了解ですよ。モスグリネについて行けばいいでしょうか」
ロイエールを無視してどんどんと話が進んでいく。
結局あっという間に、あっさりとルゼがモスグリネに行くことで話が決まってしまったのだった。ロイエールを無視して。
「ロイエール様、金属なら心配いりませんよ。下級金属はドール商会のそもそもの取り扱いですし、上級金属に関しても、それなりに在庫を持たせてあります。そうそうになくなりはしませんよ」
にっこりと微笑むルゼである。メタルゼリーという魔物ではあるが、こういうところには抜かりがないのである。
「はあ、しょうがないですね。隣国とはいえ王太子妃の命令には逆らえませんし……」
ロイエールにはもう手に負えない事態となっていた。なので、観念してくるりとロゼリアの方を向いた。
「ルゼをお貸しします。ですが、こちらの事情もございますので、できるだけ早くお返し頂けますでしょうか」
「ええ、もちろんですよ。マゼンダ商会とも懇意にさせて頂いてますしね」
そういって話がまとまったことで、ルゼはロゼリアと一緒にモスグリネへと跳ぶことになった。
ドール商会に迷惑をかけないということで、期間として短めになる予定である。
「帰りはケットシーにでも送ってきてもらいましょう。彼の瞬間移動もルゼくらいなら巻き込めるはずですからね」
「そうですね。私は金属のふりをすれば人数としてカウントされませし」
けらけらと明るく笑うルゼ。まったく、自分が人外だということをしっかり認識しているようだ。
「まったく、相変わらず食えない方ですね」
「そりゃまあ、金属ですからね」
そういって、ロゼリアとルゼは大声で笑ってしまう。
「それではロイエール様。私はモスグリネに行ってまいりますね」
「あ、ああ。気を付けて下さいね」
挨拶を交わした事で、ロゼリアは瞬間移動魔法を発動させてモスグリネへと跳ぶ。ロゼリアが姿を消した時には、同時にルゼも姿を消したのだった。
「やれやれ、簡単に話してはいるけれど、結構な重要な案件ですよ……」
ロイエールは落ち着こうとして紅茶を飲む。
「それにしても、杖が必要ということは、魔法の制御に関する話ですよね。シアン様ってまだ五歳だったはずなのでは?」
ふと思い出して疑問に思うロイエールである。
「……まさか、ね。でも、ロゼリア様のご息女であるのなら、ありえなくもないですかね……」
一人部屋に取り残されたロイエールは、しばらくそのまま現実逃避をしたのであった。
向かった先はドール商会。ここにはちょっと変わった人物が出入りしているからだ。
「ロイエールはいらっしゃるかしら」
「これはこれは、……ってロゼリア様?!」
受付に姿を見せたロゼリアにものすごく驚く商会員。どたばたとして奥へと大声で叫びながら走っていく。
(あっ、こけましたわ)
慌ただしく消え去った受付は、次期商会長となるロイエールを連れて戻ってきた。
「ロゼリア王太子殿下?! モスグリネに嫁がれたはずでは……」
突然現れたロゼリアに、さすがのロイエールも面食らっているようだった。何せ隣国の王子のもとに嫁いだ女性が、護衛もなしに単独でアイヴォリーの一商会を訪ねてきているのだから。
「ええ、突然やってきて悪く思いますわよ。でも、緊急事態なのでご容赦願えますかしら」
「わ、分かりました……。とりあえず、奥でお話しましょう」
ロイエールは混乱した状態のまま、商会の応接室のひとつにロゼリアを案内した。
「それで、どんな用事なのでいらっしゃられるのでしょうか」
緊張した面持ちでロゼリアに問い掛けるロイエール。学園を卒業してから親の仕事を継ぐために勉強中の彼は、二十五歳の立派な青年となっている。
そんな彼ですら戸惑いを隠せないのが、目の前にいるロゼリア・マゼンダ・モスグリネ王太子妃なのである。
元々侯爵令嬢であったがためにロゼリアの威圧感は半端なかったのだが、王太子妃となって二児の母となったにもかかわらず、相変わらずの威圧感があるのである。だからこそ、ロイエールは緊張を隠せないのだ。
「こちらにまだ出入りしていると思うのですが、ルゼをしばらく貸してもらいたいのですよ」
「ルゼをですか?」
ロイエールは驚いていた。
「ええ、娘のためにちょっと必要が出てきましたのでね。よろしいでしょうか?」
「それは……」
「私は構わないわよ!」
ロイエールが渋る中、突然扉が開け放たれる。なんとそこにはルゼが立っていたのだ。
「ルゼ、聞いていたのですか」
「まぁ途中からですけれどね。ロゼリアの魔力を感じたから、慌てて飛んできましたよ」
ドヤ顔を精一杯決めた後は、いそいそと扉を閉めて中へと入ってくる。すっかり人間生活に慣れたメタルゼリーのルゼである。
「シアンちゃんに魔力制御用の何かが欲しいのですよね。ケットシーが急に来て伝えてきましたから知ってますよ」
「あの猫は……」
相変わらずの神出鬼没の食えない猫は、勝手に手を打っていたようだった。
とはいえ、今回は助かるので怒るに怒れないロゼリアだった。
「とりあえずなんですけれど、シアンのために杖を作ってもらってもいいかしら」
「もちろん了解ですよ。モスグリネについて行けばいいでしょうか」
ロイエールを無視してどんどんと話が進んでいく。
結局あっという間に、あっさりとルゼがモスグリネに行くことで話が決まってしまったのだった。ロイエールを無視して。
「ロイエール様、金属なら心配いりませんよ。下級金属はドール商会のそもそもの取り扱いですし、上級金属に関しても、それなりに在庫を持たせてあります。そうそうになくなりはしませんよ」
にっこりと微笑むルゼである。メタルゼリーという魔物ではあるが、こういうところには抜かりがないのである。
「はあ、しょうがないですね。隣国とはいえ王太子妃の命令には逆らえませんし……」
ロイエールにはもう手に負えない事態となっていた。なので、観念してくるりとロゼリアの方を向いた。
「ルゼをお貸しします。ですが、こちらの事情もございますので、できるだけ早くお返し頂けますでしょうか」
「ええ、もちろんですよ。マゼンダ商会とも懇意にさせて頂いてますしね」
そういって話がまとまったことで、ルゼはロゼリアと一緒にモスグリネへと跳ぶことになった。
ドール商会に迷惑をかけないということで、期間として短めになる予定である。
「帰りはケットシーにでも送ってきてもらいましょう。彼の瞬間移動もルゼくらいなら巻き込めるはずですからね」
「そうですね。私は金属のふりをすれば人数としてカウントされませし」
けらけらと明るく笑うルゼ。まったく、自分が人外だということをしっかり認識しているようだ。
「まったく、相変わらず食えない方ですね」
「そりゃまあ、金属ですからね」
そういって、ロゼリアとルゼは大声で笑ってしまう。
「それではロイエール様。私はモスグリネに行ってまいりますね」
「あ、ああ。気を付けて下さいね」
挨拶を交わした事で、ロゼリアは瞬間移動魔法を発動させてモスグリネへと跳ぶ。ロゼリアが姿を消した時には、同時にルゼも姿を消したのだった。
「やれやれ、簡単に話してはいるけれど、結構な重要な案件ですよ……」
ロイエールは落ち着こうとして紅茶を飲む。
「それにしても、杖が必要ということは、魔法の制御に関する話ですよね。シアン様ってまだ五歳だったはずなのでは?」
ふと思い出して疑問に思うロイエールである。
「……まさか、ね。でも、ロゼリア様のご息女であるのなら、ありえなくもないですかね……」
一人部屋に取り残されたロイエールは、しばらくそのまま現実逃避をしたのであった。
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