逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第12話 久しぶりの顔合わせ

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 そんなこんなでケットシーとともに城にやってきたチェリシア。
 モスグリネの城は一体何年ぶりだろうか。
「相変わらず緑に包まれたきれいなお城ね」
「まあそうだね。モスグリネの城には植物の扱いに長けた土魔法使い手がいるからね。彼らのおかげで無造作に伸び放題っていうことはないよ。はっはっはっ」
 ケットシーはモスグリネの城の美しさを語りながら笑っている。
 門番も顔パスで済ませて城へと入り、ロゼリアが控えている部屋へとやってきた。
「ロゼリアくん、入るよ」
「あら、ケットシーですのね。ええ、お入りになって下さい」
 ノックに反応したロゼリアの声。久しぶりに聞いた声に思わず懐かしく思ってしまうチェリシアだった。
「やあ、事務処理かい。ペイルくんも忙しいからね。君に手伝ってもらって結構助かっているんじゃないのかな」
「相変わらずいやみったらしい猫ですわね。さっさと用件を仰って下さいませんか、忙しいんですから」
 にやにやと笑っているケットシーを邪険に扱うロゼリア。相変わらずの厳しさを持っているようだ。特にシアンが消えてしまった日から、より一層強くなった感じすらある。
「というわけだ。どうする、チェリシアくん」
「チェリシアですって?!」
 ケットシーがぼそりというと、大げさというくらいに反応するロゼリア。すると、さっきまでと打って変わった対応を見せるようになった。
「チェリシアが来ているなら早く言いなさいよ。ちょっと待っててちょうだい、すぐに終わらせるから」
 侍女に命令を出しながら、しばばばと書類に目を通していくロゼリア。侯爵令嬢としての実力がいかんなく発揮されているようだ。
「それじゃ、ここに座って待たせてもらうよ。チェリシアくんも来なさい」
「お邪魔するわね、ロゼリア」
「ええ、ごめんなさいね、怒鳴っちゃって悪かったわね」
「まったく、ボクの時と態度が違うじゃないか。やれやれだね……」
 自分とチェリシアへの態度の違いに、ついつい文句を言うケットシーなのであった。

 しばらくすると、ようやく仕事に一段落がついたロゼリアが、チェリシアたちのところへやってきた。
「お待たせしちゃったわね。どうしたのよ、急にやってきて」
 一口紅茶を含みながら尋ねるロゼリアである。
「先日アイリスがこっちに訪れた際に、ちょっと気になる事があったっていうものだからね。それで、大豆の話のついでに来てみたのよ」
「あら、一体何なのかしら」
 チェリシアの話に、つい興味を示すロゼリア。
「ロゼリアの娘であるシアンちゃんの事よ」
「ああ、シアンの事なのね」
 ロゼリアは冷静にチェリシアの話に対応している。
「で、アイリスは一体どういう風に話をしていたのかしら」
 ロゼリアの質問に、チェリシアはアイリスから聞いた話をそのまま伝える。すると、ロゼリアはちょっと考え込み始めていた。
「……そう。アイヴォリー王国の事を気に掛けていたのね」
「五歳にしてはちょっとおかしな話だしね。ロゼリアだった、アイヴォリー王国の話なんてしてないでしょう?」
 そう言いながらケットシーに怪訝な視線を向けるチェリシア。ケットシーはとぼけたようにちびちびと紅茶を飲んでいる。
 それと合わせるように、ロゼリアからも疑惑の視線を向けられるケットシー。それでもケットシーは動じない。
「ケットシーが何らかの意図を持って話を振ったというのが実際でしょうね。となると、シアンちゃんってやっぱり、そうなるんじゃないかしらね」
「……私たちと同じだといいたいのかしらね、チェリシア」
 ロゼリアの言葉に、こくりと頷くチェリシアである。
 だが、ロゼリア自身は否定的だった。
「結婚してからだけど、アクアマリン子爵を呼び出して話を聞かせてもらったわよ。例の禁法についてね」
 静かにカップを置いロゼリアが語り出す。
「『時渡りの秘法』は、時間を移動する代わりに使用者は魔力を失うのよ。そして、その禁法を使ったことが知られるか目的を果たすかすると、使用者は歴史と記憶から完全に消滅するという話なのよ」
 ロゼリアは、アクアマリン子爵から聞いた説明を話し始める。
「魂すらも消滅するから、私たちのように時間を巻き戻ったり、別人として生まれ変わったりっていうことはないという結論だったわ」
「その理論でいけばそうだけどね……」
 最終的な結論を聞いて、チェリシアも納得している。
「だけど、どうしてロゼリアは生まれた青髪の子を見て、シアンって名付けたのかしらね。生まれ変わりとでも思わないと、普通はそんな事を思わないじゃないのかしら」
「それは……」
 確かにチェリシアの指摘の通りである。
 緑髪のペイルと赤髪のロゼリアの間に生まれたとなると、青髪になることは普通はありえない。だけど、二人の子どもとして生まれたのは青い髪色だった。
 運命的なものを感じたロゼリアは、自分の侍女だった女性から取って『シアン』と名付けて、それを押し通したのだった。
「ある意味ペシエラみたいな存在だと思うわよ。逆行に巻き込まれた上に、私にまで本来の立ち位置を奪われた奇跡のあの子みたいな……ね」
 チェリシアがそう言うと、部屋の中はしばらく沈黙に包まれたのだった。
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