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新章 青色の智姫
第10話 暴走ピンク
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アイヴォリー王国。
モスグリネ王国の隣国であり、王太子ペイルが三年間留学していた国である。また、王太子妃ロゼリアの出身地でもある。
その日、モスグリネ王国から戻ってきたアイリスは、マゼンダ商会に顔を出していた。
「ただいま戻りました。チェリシアお姉様」
「あら、おかえりなさい、アイリス」
忙しそうに魔道具の調整を行っているチェリシアは、手を止めてアイリスを出迎えていた。
「どうだったかしら、モスグリネの商業組合との交渉は」
魔道具の調整を職員たちに任せて、チェリシアはアイリスと話を始める。
「チェリシア様、お部屋を変えられては?」
そのまま話をしようとするチェリシアに、そう進言するのはアイリスの母親であるアメジスタだ。すっかり商会の職員として馴染んでおり、商会長カーマイル、その夫人チェリシアの片腕として日々奮闘している。
「そうですね、お母様。お姉様、商会長室でよろしいでしょうか」
「私はここでもいいんだけど、交渉ごとの報告だから仕方ないかな」
親子そろって部屋を変えるように進言してくるので、チェリシアは渋々それを受け入れていた。商会の実質的な支配人なのだから、その辺はもうちょっとしっかりしてほしいものである。
商会長室に移動したチェリシアたちは、テーブルを囲んで座る。
カーマイルはマゼンダ侯爵を継ぐという意志があるので、領地に向かって不在になっている。
「さて、早速報告を聞こうかしらね、アイリス」
アメジスタが紅茶とお菓子を用意してきたので、それをつまみながらの報告である。
ひとまず、ケットシーとのやり取りの話をするアイリス。その話を聞いたチェリシアはやっぱりかというような表情をしていた。
「モスグリネの限界は分かってたからなぁ……。まぁしょうがないわね、スノールビーで育てられるか、カーマイル様と相談しますか」
頭を掻きながら、ため息をつくチェリシアである。
「確かに、あそこでしたら地熱を利用して温かい場所の作物を作れますものね」
アメジスタも納得している様子である。
「うん、方針も決まったし、そういう方向にしましょうか。暇を見てケットシーのところに行ってみますか」
話も終わったことで、チェリシアはやることを決めたのだった。
一度紅茶を飲んでひと息つくと、チェリシアはアイリスを見る。
「それで、他には何か面白い事なかったかしら」
アイリスはチェリシアに尋ねられて、少し考え込んだ。その時のことを思い出そうとしているのである。
そして、アイリスはポンと手を叩く。
「そうだ。ロゼリア様の娘であるシアン王女殿下にお会いしました」
「あら、シアン様って外に出てこられたのね」
アイリスの話にチェリシアにあまり驚いていないようだ。自分が少々おてんばだったからだろうか。
「シアン様って髪や目の色が両親と違うからって、一部の人から良く思われていないみたいな話を聞くんだけど、よく商業組合に出てこられてわね」
「ケットシーが連れて出てきたみたいですよ。ほら、彼ってかなり自由気ままですからね」
アイリスは苦笑いをしていた。
ケットシーは幻獣ではあるものの、神獣使いであるアイリスとは契約していない自由な存在なのである。
「それで、シアン様ってどんな感じだったのかしら」
チェリシアが尋ねると、アイリスは腕を組んで考え始めた。
「うーん、見た目は確かに五歳の子どもなんですけれど、なんだか不思議な感じでしたね。私たちの話を真剣に聞いてましたし」
「アイリスの話?」
「ええ、ケットシーが振ってきたんですけれど、アイヴォリー王国の近況を聞かれましたね」
アイリスが思い出した話を聞いて、チェリシアは黙って訝しんでいるようだった。
「おかしいわね。ちょっと会ってみたいわね」
「本気ですか、お姉様」
「ええ、本気。どうせ大豆の栽培方法を聞きにモスグリネに行かなきゃいけないもの。そのついでにシアン様の様子を見てくるわ」
アイリスの反応に、結構あっさりと言葉を返すチェリシア。
「前世で農大出てるとはいっても、大豆の育て方があっちと一緒とは限らないし、細かい調整もいるだろうしなぁ……」
そして、今度は腕を組んでうんうんと唸り始めた。まったく忙しい限りである。
「よし、アメジスタさん。モスグリネに行くことにするから、その間はアイリスと一緒に商会の事をお願いしますね」
「決断がお早いですね、チェリシア様」
さっきの今でやることを決めたチェリシアに、アメジスタはちょっと呆れながら感心していた。
「善は急げよ。味噌に醤油に豆腐におから、大豆の出番は多いんだから」
突然立ち上がって叫ぶチェリシア。本当にかなり大豆にご執心のようである。
「それに、今のアイリスの報告でちょっと気になったから、そっちも確かめに行ってくるわ」
チェリシアはやる気に満ちあふれていた。
アイリスの報告を聞き終えたチェリシアは、早速忙しく動き始める。
あれやこれやと荷物をまとめると、収納空間へとどんどんと無造作に押し込んでいく。
「それじゃ、早速行ってくるからあとはお願いね」
そうとだけ言い残すと、チェリシアはその場からすっと掻き消えたのだった。
モスグリネ王国の隣国であり、王太子ペイルが三年間留学していた国である。また、王太子妃ロゼリアの出身地でもある。
その日、モスグリネ王国から戻ってきたアイリスは、マゼンダ商会に顔を出していた。
「ただいま戻りました。チェリシアお姉様」
「あら、おかえりなさい、アイリス」
忙しそうに魔道具の調整を行っているチェリシアは、手を止めてアイリスを出迎えていた。
「どうだったかしら、モスグリネの商業組合との交渉は」
魔道具の調整を職員たちに任せて、チェリシアはアイリスと話を始める。
「チェリシア様、お部屋を変えられては?」
そのまま話をしようとするチェリシアに、そう進言するのはアイリスの母親であるアメジスタだ。すっかり商会の職員として馴染んでおり、商会長カーマイル、その夫人チェリシアの片腕として日々奮闘している。
「そうですね、お母様。お姉様、商会長室でよろしいでしょうか」
「私はここでもいいんだけど、交渉ごとの報告だから仕方ないかな」
親子そろって部屋を変えるように進言してくるので、チェリシアは渋々それを受け入れていた。商会の実質的な支配人なのだから、その辺はもうちょっとしっかりしてほしいものである。
商会長室に移動したチェリシアたちは、テーブルを囲んで座る。
カーマイルはマゼンダ侯爵を継ぐという意志があるので、領地に向かって不在になっている。
「さて、早速報告を聞こうかしらね、アイリス」
アメジスタが紅茶とお菓子を用意してきたので、それをつまみながらの報告である。
ひとまず、ケットシーとのやり取りの話をするアイリス。その話を聞いたチェリシアはやっぱりかというような表情をしていた。
「モスグリネの限界は分かってたからなぁ……。まぁしょうがないわね、スノールビーで育てられるか、カーマイル様と相談しますか」
頭を掻きながら、ため息をつくチェリシアである。
「確かに、あそこでしたら地熱を利用して温かい場所の作物を作れますものね」
アメジスタも納得している様子である。
「うん、方針も決まったし、そういう方向にしましょうか。暇を見てケットシーのところに行ってみますか」
話も終わったことで、チェリシアはやることを決めたのだった。
一度紅茶を飲んでひと息つくと、チェリシアはアイリスを見る。
「それで、他には何か面白い事なかったかしら」
アイリスはチェリシアに尋ねられて、少し考え込んだ。その時のことを思い出そうとしているのである。
そして、アイリスはポンと手を叩く。
「そうだ。ロゼリア様の娘であるシアン王女殿下にお会いしました」
「あら、シアン様って外に出てこられたのね」
アイリスの話にチェリシアにあまり驚いていないようだ。自分が少々おてんばだったからだろうか。
「シアン様って髪や目の色が両親と違うからって、一部の人から良く思われていないみたいな話を聞くんだけど、よく商業組合に出てこられてわね」
「ケットシーが連れて出てきたみたいですよ。ほら、彼ってかなり自由気ままですからね」
アイリスは苦笑いをしていた。
ケットシーは幻獣ではあるものの、神獣使いであるアイリスとは契約していない自由な存在なのである。
「それで、シアン様ってどんな感じだったのかしら」
チェリシアが尋ねると、アイリスは腕を組んで考え始めた。
「うーん、見た目は確かに五歳の子どもなんですけれど、なんだか不思議な感じでしたね。私たちの話を真剣に聞いてましたし」
「アイリスの話?」
「ええ、ケットシーが振ってきたんですけれど、アイヴォリー王国の近況を聞かれましたね」
アイリスが思い出した話を聞いて、チェリシアは黙って訝しんでいるようだった。
「おかしいわね。ちょっと会ってみたいわね」
「本気ですか、お姉様」
「ええ、本気。どうせ大豆の栽培方法を聞きにモスグリネに行かなきゃいけないもの。そのついでにシアン様の様子を見てくるわ」
アイリスの反応に、結構あっさりと言葉を返すチェリシア。
「前世で農大出てるとはいっても、大豆の育て方があっちと一緒とは限らないし、細かい調整もいるだろうしなぁ……」
そして、今度は腕を組んでうんうんと唸り始めた。まったく忙しい限りである。
「よし、アメジスタさん。モスグリネに行くことにするから、その間はアイリスと一緒に商会の事をお願いしますね」
「決断がお早いですね、チェリシア様」
さっきの今でやることを決めたチェリシアに、アメジスタはちょっと呆れながら感心していた。
「善は急げよ。味噌に醤油に豆腐におから、大豆の出番は多いんだから」
突然立ち上がって叫ぶチェリシア。本当にかなり大豆にご執心のようである。
「それに、今のアイリスの報告でちょっと気になったから、そっちも確かめに行ってくるわ」
チェリシアはやる気に満ちあふれていた。
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あれやこれやと荷物をまとめると、収納空間へとどんどんと無造作に押し込んでいく。
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