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新章 青色の智姫
第7話 水に流せない失敗
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アイリスとの話で、アイヴォリー王国内の心配がなさそうなことを確信したシアン。この事には少し安心したようである。
ケットシーに送られて城の中を歩いていると、周りからの反応がいささか冷たいように思われた。
普通に接してくれる兵士や使用人の方が多いものの、視線を外したり、ひそひそと話をしたりと、よろしくない反応を見せる者もそれなりに居るようだった。
(うーん、やっぱり両親と髪色や瞳の色が違うというのは、相当に問題視されているようですね)
そうは思いながらも、出会う人たちにとりあえず笑顔を送っておくシアンである。ロゼリアを小さい頃から見ていただけに、子どもの笑顔の破壊力は十分理解しているのだ。
それでも、普通に接してくれる人ならメロメロになってくれるが、よく思っていない人たちは舌打ちをしながら去っていった。
(仮にも王女相手にあの態度は、どうかと思いますね)
そう思って難しい顔をするシアンであった。
翌日、いつものようにすっきりと目覚めたシアンは、とあることを確認するために朝は建物の外へとやって来ていた。
モスグリネは緑の国というだけあって、城の中にも緑があふれかえっている。
今シアンが居るのは、複数ある庭園のうちのひとつである。
「シアン様、一体何をなさるおつもりですか」
付き合っているスミレが、念のために確認をする。
「なにって、私の魔力がどこまで回復しているのか確認するためですよ。シアン・アクアマリンの頃は、禁法を使ったがために魔力を失っていたのですからね。10年以上魔法を使っていないから、気になってしまうのです」
両手を腰に当てて、ため息をつきながら説明をするシアン。
たしかに、長い間使っていなかったのであれば、その点はとても気になるというものだった。
「今のシアン様は、ご両親であるペイル様とロゼリア様の魔力を受け継いでおります。その際に自身の魔力も取り戻してらっしゃいますから、相当な魔力がありますよ。幻獣の力を失っていてもそのくらい分かります」
「そうは言われてもね。確かに感じはするけれど、使えるかどうかは別問題なのよ」
苦言を呈するスミレに対して、どうしても魔法を使いたいシアンは文句を言いつつ強行するつもりのようだ。
「はあ、少し体の状態に引っ張られてるようですね。分かりました、止めても無駄でしょうからお好きにどうぞ」
シアンが強情だったので、スミレは投げた。
「ペイル様が風、お嬢様が水、土、風。それで、前世の私が水。だったら、水魔法がいいかしら」
何を使うのか決めたシアンは、両手を目の前に突き出して意識を集中させる。
(イメージは、私の握り拳くらいの大きさの水の玉。うまくいってちょうだい)
すっと目を閉じたシアンが、手のひら、指先に意識を集中させる。
(なんだか腕の中がぞわぞわするわ。これが、魔法を使っていた時の感覚かしら)
シアン・アクアマリンは、アイヴォリー王国の中で最も魔法を得意とするアクアマリン子爵家の四女として生まれた。
幼少時から魔法を使うことが当たり前な環境下にいたために、魔法をそこまで意識することもなく使えていた。
そのために、シアン・モスグリネとして魔法を使うこのタイミングで、初めて魔法に対して意識を向けることになったのだ。
なにせ、あの『時渡りの秘法』ですらも、呼吸をするように使っていたのだから。
「シアン様!」
スミレの大声にはっとするシアン。
「えっ……?!」
すると、自分の目の前にでき上がっていたものに、目を丸くしてしまっていた。
「ちょっと、なんでこんなに大きのよ……」
そう、シアンが目にしたものは、自分の握り拳をはるかに超えた大きさの水の玉だった。自分の体なんてすっぽり入ってしまいそうなくらいのとんでもない大きさだった。
「わわわっ、なんでこんなに大きくなっているのですか!」
「私が聞きたいですよ!」
慌てるシアン。スミレの方も叫ぶばかりでどう対処したらいいのか分からない。
「もう、時を扱えるのなら止めてどうにかできるのに!」
幻獣クロノアとしての力を封じられてしまっているために、右往左往するスミレである。
「シアン様、とりあえず上に放り投げて下さい。もう魔力に耐え切れなくなって弾けそうですから!」
「わ、分かりました」
スミレの声に、落ち着いて手を回転させて手のひらを上に向けるシアン。そして、そのまま腕を上へと振り上げる。
「ええーいっ!」
すると、大きくなりすぎた水の玉は上空へと放り投げられ、ある程度上昇したところで弾け飛んだ。
当然ながら、その弾けた水は辺り一帯にバケツをひっくり返したような雨として降り注いだのだった。
「な、何事だーっ!」
突然の大雨に、城の中が騒がしくなる。
だが、その場に居たシアンとスミレはおかしそうに笑うばかりだった。
その直後の昼食の席で、事情を聞いたロゼリアから二人揃って叱られたのは言うまでもないことだった。
そして、シアンには魔法の才能があるということで、魔法の講師を呼び寄せることとなったのだった。
ケットシーに送られて城の中を歩いていると、周りからの反応がいささか冷たいように思われた。
普通に接してくれる兵士や使用人の方が多いものの、視線を外したり、ひそひそと話をしたりと、よろしくない反応を見せる者もそれなりに居るようだった。
(うーん、やっぱり両親と髪色や瞳の色が違うというのは、相当に問題視されているようですね)
そうは思いながらも、出会う人たちにとりあえず笑顔を送っておくシアンである。ロゼリアを小さい頃から見ていただけに、子どもの笑顔の破壊力は十分理解しているのだ。
それでも、普通に接してくれる人ならメロメロになってくれるが、よく思っていない人たちは舌打ちをしながら去っていった。
(仮にも王女相手にあの態度は、どうかと思いますね)
そう思って難しい顔をするシアンであった。
翌日、いつものようにすっきりと目覚めたシアンは、とあることを確認するために朝は建物の外へとやって来ていた。
モスグリネは緑の国というだけあって、城の中にも緑があふれかえっている。
今シアンが居るのは、複数ある庭園のうちのひとつである。
「シアン様、一体何をなさるおつもりですか」
付き合っているスミレが、念のために確認をする。
「なにって、私の魔力がどこまで回復しているのか確認するためですよ。シアン・アクアマリンの頃は、禁法を使ったがために魔力を失っていたのですからね。10年以上魔法を使っていないから、気になってしまうのです」
両手を腰に当てて、ため息をつきながら説明をするシアン。
たしかに、長い間使っていなかったのであれば、その点はとても気になるというものだった。
「今のシアン様は、ご両親であるペイル様とロゼリア様の魔力を受け継いでおります。その際に自身の魔力も取り戻してらっしゃいますから、相当な魔力がありますよ。幻獣の力を失っていてもそのくらい分かります」
「そうは言われてもね。確かに感じはするけれど、使えるかどうかは別問題なのよ」
苦言を呈するスミレに対して、どうしても魔法を使いたいシアンは文句を言いつつ強行するつもりのようだ。
「はあ、少し体の状態に引っ張られてるようですね。分かりました、止めても無駄でしょうからお好きにどうぞ」
シアンが強情だったので、スミレは投げた。
「ペイル様が風、お嬢様が水、土、風。それで、前世の私が水。だったら、水魔法がいいかしら」
何を使うのか決めたシアンは、両手を目の前に突き出して意識を集中させる。
(イメージは、私の握り拳くらいの大きさの水の玉。うまくいってちょうだい)
すっと目を閉じたシアンが、手のひら、指先に意識を集中させる。
(なんだか腕の中がぞわぞわするわ。これが、魔法を使っていた時の感覚かしら)
シアン・アクアマリンは、アイヴォリー王国の中で最も魔法を得意とするアクアマリン子爵家の四女として生まれた。
幼少時から魔法を使うことが当たり前な環境下にいたために、魔法をそこまで意識することもなく使えていた。
そのために、シアン・モスグリネとして魔法を使うこのタイミングで、初めて魔法に対して意識を向けることになったのだ。
なにせ、あの『時渡りの秘法』ですらも、呼吸をするように使っていたのだから。
「シアン様!」
スミレの大声にはっとするシアン。
「えっ……?!」
すると、自分の目の前にでき上がっていたものに、目を丸くしてしまっていた。
「ちょっと、なんでこんなに大きのよ……」
そう、シアンが目にしたものは、自分の握り拳をはるかに超えた大きさの水の玉だった。自分の体なんてすっぽり入ってしまいそうなくらいのとんでもない大きさだった。
「わわわっ、なんでこんなに大きくなっているのですか!」
「私が聞きたいですよ!」
慌てるシアン。スミレの方も叫ぶばかりでどう対処したらいいのか分からない。
「もう、時を扱えるのなら止めてどうにかできるのに!」
幻獣クロノアとしての力を封じられてしまっているために、右往左往するスミレである。
「シアン様、とりあえず上に放り投げて下さい。もう魔力に耐え切れなくなって弾けそうですから!」
「わ、分かりました」
スミレの声に、落ち着いて手を回転させて手のひらを上に向けるシアン。そして、そのまま腕を上へと振り上げる。
「ええーいっ!」
すると、大きくなりすぎた水の玉は上空へと放り投げられ、ある程度上昇したところで弾け飛んだ。
当然ながら、その弾けた水は辺り一帯にバケツをひっくり返したような雨として降り注いだのだった。
「な、何事だーっ!」
突然の大雨に、城の中が騒がしくなる。
だが、その場に居たシアンとスミレはおかしそうに笑うばかりだった。
その直後の昼食の席で、事情を聞いたロゼリアから二人揃って叱られたのは言うまでもないことだった。
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