371 / 433
新章 青色の智姫
第2話 置かれた境遇
しおりを挟む
モスグリネ王国。
その国は緑色を基調とした国づくりをしており、自然との調和を重視している。そのために、幻獣や精霊といった存在も多く見られる。
王都の北側には、精霊の森と呼ばれる聖域が存在しているくらいには、精霊というものへの信仰が存在しているのだ。
そのモスグリネ王国の王子であるペイル・モスグリネの元に、一人の女性が嫁いできた。
隣国であるアイヴォリー王国のマゼンダ侯爵家の長女であるロゼリア・マゼンダだった。
美しいまでの紅色の長髪をなびかせた彼女を、王国の民は歓喜の声で迎え入れた。
だが、それが続いたのは、彼女が第一子を産むまでだった。
緑色の髪を持つペイル王子と、紅色の髪を持つロゼリアの間に生まれた第一子は、なんと青色の髪を持っていた。
それがシアン・モスグリネである。
両親とはまったく違う髪色と持って生まれたがために、国民の中には不義を疑う声すら上がるほどだった。
それはもう、城の中も対応に追われるくらいの一大事だった。親であるペイルとロゼリアがまったく騒いでいないというのに、周りが勝手に騒ぎ立てて大騒動に発展していたのだ。
だが、この騒動は、とある人物の一声でぴたりと止んだ。
モスグリネ王国の商業組合の組合長であるケットシー。彼の声で騒動はひとまずの終焉を迎えたのだ。なにせ彼は幻獣である。幻獣のいうことであれば間違いないということで、鎮静化したというわけだった。
だが、それは再燃した。
二年後に、二人の間に第二子が誕生したのだ。
髪色は緑で、瞳が赤色の王子だった。モーフ・モスグリネと名付けられた、シアンの弟である。
第一王子であること、両親の特徴をしっかりと受け継いでいる事から、城の中の関心もすっかりモーフに集中してしまったのだった。
―――
「うーん、今までの自分の境遇を思い出しましたが、ずいぶんとよろしくないですね」
思わず眉間にしわを寄せて考え込んでしまうシアン。その姿はとても5歳児には見えない姿だった。
その様子を見かねて、スミレは声を掛ける。
「はい。髪色はおろか瞳の色も両親にはまったくない青色ですから、それは国王陛下たちですらかなり疎ましく思われている状態です。とはいえ、離宮ではない王城内で過ごせているのは、ペイル様とロゼリア様が必死に訴えられたからです」
「はあ……。なまじ転生してしまったがゆえに、お嬢様たちに苦労をかけさせてしまっているとは……。なんともいたたまれないですね」
シアンは大きなため息をついて、両腕を組んで右足でタンタンと床を叩いている。その真剣に悩む姿は、とても幼児とは思えなかった。
「シアン様は、魔法の才能は素晴らしいものがあるのですけれどね。ご両親の魔法の腕前を引き継いでられます上に、シアン・アクアマリンの頃の魔力もすっかり戻ってらっしゃいますからね」
「ああ、それで体の中が騒がしかったのね」
シアンはそう言うと、両手を体の前に差し出す。そして、アクアマリン時代の得意とする魔法を発動させる。
すると、シアンの両手のひらから水がぼこぼこと湧き出していた。
「さすがはアクアマリン次期当主を約束されていただけはありますね。純粋に魔力だけであるなら、兄君のマーリン・アクアマリンを上回りますからね」
「でも、私は政に関してはさっぱりだったわ。それなら、やっぱりお兄様にお任せした方がいいというもの。あの時は仕方なかったのよ」
そうはいうものの、シアンはどこか寂しそうな表情をしていた。家を飛び出したり、禁法にまで手を出したりと、不義を働いてきたがゆえだろう。
だが、今はそういう時ではないとシアンは気持ちを切り替える。
「アクアマリン子爵家の事はとりあえず置いておいて、現状をどう変えていくかですね。この分だと、私の付き人はスミレだけですか」
「そうでございますね。ロゼリア様はちゃんとした教育をさせようとはしてらっしゃいますが、大臣あたりがシアン様を不義の子だと騒ぎ立てて教育を止めているようです」
スミレは頬に手を当てて大きなため息をついている。
「そうですか。やっぱり両親に似ていないというのは、それほどまでに疎まれるものなのですね」
くるりと窓へと向かって歩いていくシアン。
窓の外には緑にあふれたヴィフレアの街が広がっている。
「こんなに美しい国だというのに、人の心は、どこへ行っても変わらないのですね……」
こつりと、窓に額を当てるシアン。
「うん、まったくだね。酷いものだよ」
突然、部屋の中に声が響き渡る。
「ケットシー、一体何の用ですか」
スミレが声を張り上げる。
すると、部屋の中にゆらりと巨大な猫のが姿を現した。モスグリネ王国の中で堂々と商業組合の長として過ごす幻獣ケットシーである。
「はっはっはっ、そんなに警戒しないでくれないかクロノア。いや、今は厳罰の真っ只中のスミレくんだったね」
さすが幻獣。どこにでもふらりと現れる。普通に入城するのであれば手続きが面倒だが、幻獣であるからそんなものを平気で無視できるのだ。
「本来なら中立なのだけどね、ロゼリア君にはいろいろとお世話になっているから、ボクもできる限り手伝わせてもらおうじゃないか」
胡散臭い猫の言葉に、シアンの部屋の中の空気が一気に凍り付いたのだった。
その国は緑色を基調とした国づくりをしており、自然との調和を重視している。そのために、幻獣や精霊といった存在も多く見られる。
王都の北側には、精霊の森と呼ばれる聖域が存在しているくらいには、精霊というものへの信仰が存在しているのだ。
そのモスグリネ王国の王子であるペイル・モスグリネの元に、一人の女性が嫁いできた。
隣国であるアイヴォリー王国のマゼンダ侯爵家の長女であるロゼリア・マゼンダだった。
美しいまでの紅色の長髪をなびかせた彼女を、王国の民は歓喜の声で迎え入れた。
だが、それが続いたのは、彼女が第一子を産むまでだった。
緑色の髪を持つペイル王子と、紅色の髪を持つロゼリアの間に生まれた第一子は、なんと青色の髪を持っていた。
それがシアン・モスグリネである。
両親とはまったく違う髪色と持って生まれたがために、国民の中には不義を疑う声すら上がるほどだった。
それはもう、城の中も対応に追われるくらいの一大事だった。親であるペイルとロゼリアがまったく騒いでいないというのに、周りが勝手に騒ぎ立てて大騒動に発展していたのだ。
だが、この騒動は、とある人物の一声でぴたりと止んだ。
モスグリネ王国の商業組合の組合長であるケットシー。彼の声で騒動はひとまずの終焉を迎えたのだ。なにせ彼は幻獣である。幻獣のいうことであれば間違いないということで、鎮静化したというわけだった。
だが、それは再燃した。
二年後に、二人の間に第二子が誕生したのだ。
髪色は緑で、瞳が赤色の王子だった。モーフ・モスグリネと名付けられた、シアンの弟である。
第一王子であること、両親の特徴をしっかりと受け継いでいる事から、城の中の関心もすっかりモーフに集中してしまったのだった。
―――
「うーん、今までの自分の境遇を思い出しましたが、ずいぶんとよろしくないですね」
思わず眉間にしわを寄せて考え込んでしまうシアン。その姿はとても5歳児には見えない姿だった。
その様子を見かねて、スミレは声を掛ける。
「はい。髪色はおろか瞳の色も両親にはまったくない青色ですから、それは国王陛下たちですらかなり疎ましく思われている状態です。とはいえ、離宮ではない王城内で過ごせているのは、ペイル様とロゼリア様が必死に訴えられたからです」
「はあ……。なまじ転生してしまったがゆえに、お嬢様たちに苦労をかけさせてしまっているとは……。なんともいたたまれないですね」
シアンは大きなため息をついて、両腕を組んで右足でタンタンと床を叩いている。その真剣に悩む姿は、とても幼児とは思えなかった。
「シアン様は、魔法の才能は素晴らしいものがあるのですけれどね。ご両親の魔法の腕前を引き継いでられます上に、シアン・アクアマリンの頃の魔力もすっかり戻ってらっしゃいますからね」
「ああ、それで体の中が騒がしかったのね」
シアンはそう言うと、両手を体の前に差し出す。そして、アクアマリン時代の得意とする魔法を発動させる。
すると、シアンの両手のひらから水がぼこぼこと湧き出していた。
「さすがはアクアマリン次期当主を約束されていただけはありますね。純粋に魔力だけであるなら、兄君のマーリン・アクアマリンを上回りますからね」
「でも、私は政に関してはさっぱりだったわ。それなら、やっぱりお兄様にお任せした方がいいというもの。あの時は仕方なかったのよ」
そうはいうものの、シアンはどこか寂しそうな表情をしていた。家を飛び出したり、禁法にまで手を出したりと、不義を働いてきたがゆえだろう。
だが、今はそういう時ではないとシアンは気持ちを切り替える。
「アクアマリン子爵家の事はとりあえず置いておいて、現状をどう変えていくかですね。この分だと、私の付き人はスミレだけですか」
「そうでございますね。ロゼリア様はちゃんとした教育をさせようとはしてらっしゃいますが、大臣あたりがシアン様を不義の子だと騒ぎ立てて教育を止めているようです」
スミレは頬に手を当てて大きなため息をついている。
「そうですか。やっぱり両親に似ていないというのは、それほどまでに疎まれるものなのですね」
くるりと窓へと向かって歩いていくシアン。
窓の外には緑にあふれたヴィフレアの街が広がっている。
「こんなに美しい国だというのに、人の心は、どこへ行っても変わらないのですね……」
こつりと、窓に額を当てるシアン。
「うん、まったくだね。酷いものだよ」
突然、部屋の中に声が響き渡る。
「ケットシー、一体何の用ですか」
スミレが声を張り上げる。
すると、部屋の中にゆらりと巨大な猫のが姿を現した。モスグリネ王国の中で堂々と商業組合の長として過ごす幻獣ケットシーである。
「はっはっはっ、そんなに警戒しないでくれないかクロノア。いや、今は厳罰の真っ只中のスミレくんだったね」
さすが幻獣。どこにでもふらりと現れる。普通に入城するのであれば手続きが面倒だが、幻獣であるからそんなものを平気で無視できるのだ。
「本来なら中立なのだけどね、ロゼリア君にはいろいろとお世話になっているから、ボクもできる限り手伝わせてもらおうじゃないか」
胡散臭い猫の言葉に、シアンの部屋の中の空気が一気に凍り付いたのだった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。
とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。
…‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。
「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」
これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め)
小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる