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番外編集
番外編 ルゼとグレイア(後編)
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グレイアの鍛冶の特訓に、ルゼは一か月間付き合わされた。
そもそものグレイアの鍛冶適性は高かったのか、めきめきと腕を上達させていった。さすがは王都でも著名な鍛冶職人であるリードの娘といったところだろうか。
「うん、このくらいなら騎士団に実戦用として卸す事もできそうだな。本当に見違えたぞ」
「えへへへ。お父さんにそういってもらえると嬉しいですね」
やけに子どもっぽく笑うグレイアである。これでも学園を卒業しているので18歳なのだ。
「それではグレイア様。仕上げとしてこれで剣を打ってもらいましょうか」
「いいわよ、ルゼ」
父親に褒められて緩んでいたグレイアの表情が引き締まる。
それを見たルゼは、最初に出していた魔法銀を再びインゴットとして目の前に出現させる。
「ペシエラ様は魔法も得意でらっしゃいますから、こういう魔法金属との相性はとてもよろしいのです。これを使って何を作られるかは、グレイア様にお任せ致しますね」
「はい、分かりました」
話がまとまったと思ったところに、外から何やらやかましい声が聞こえてくる。
「話は聞かせてもらったわよ!」
「ちぇ、チェリシア様?!」
工房に突然現れたのはチェリシアだった。ペシエラの本来の立ち位置を奪った物語のヒロインである。
チェリシアはルゼが手に持っている魔法銀のインゴットを見て、目を光らせる。
「ふうん、ずいぶんと面白そうな事をしているわね。混ぜなさいよ」
「ちょっとやめて下さい、チェリシア様。商会のお仕事はよろしいのですか」
「今日の仕事は既に終わらせているわ。あとはカーマイル様の領分だから、何も問題ないわ。さあ、教えなさい!」
「お、落ち着いて下さい、チェリシア様ーっ!」
突如として乱入したチェリシアのせいで一時的に騒々しくなる工房。グレイアが説明をした事で、ようやくチェリシアは落ち着いたのだった。
「ふんふん、なるほど。学園の間にお世話になったから、遅ればせながら結婚祝いに剣を贈ろうというわけね。事情は分かったわ」
すべてを聞いたチェリシアは、すっかり冷静になっていた。
「それでルゼってばこの工房に頻繁に行っていたのね。グレイアの方も急に剣を打ちたいなんて話を聞いてたから、なんでかなって思ってたんだけどね」
「申し訳ございません……」
しょぼくれながら謝るルゼである。
「いいのよ、別に。ロゼリアの事とか私自身の事もあってバタバタしてたせいで、商会からのお祝い品しか贈ってないからちょうどよかったわ」
「と、申されますと?」
ルゼが問い返すと、チェリシアはにやりと笑っていた。
「仕込み杖なんてどうかななんて思うのよね。あの子の魔法を増幅させつつ、剣としても振るえる杖よ。ああ、ペシエラがかっこよく戦う様が目に浮かぶわ」
「チェリシア様……」
うっとりとするチェリシアに、揃いも揃ってドン引きである。
それはそうだろう。リードは知らないが、グレイアとルゼはペシエラの魔法の恐ろしさを目の当たりにしている。あの魔法をさらに増幅させるとか、一体何を考えているのかと震えているのである。
「チェリシア様がそこまで仰られるのでしたら、俺が杖部分を作りましょう」
「いいわね、親子合作」
そんなこんなで、四人で寄ってたかって一本の仕込み杖を作ることになってしまったのだった。
途中で夕方を迎えたのでチェリシアはマゼンダ商会へと戻っていったが、アドバイスだけは置いていったものだから、リードとグレイアの親子とルゼで仕込み杖を仕上げたのだった。
そんなこんなで翌日の昼のことだった。
「で、できたわーっ!」
グレイアが喜びの声を上げていた。
そこにあったのは、今までで最高の出来ばえのサーベルの剣身だった。
「こっちもできたぞ。いやルゼの力はすごいな。こんなに簡単に金属の筒ができるとはな」
「当然です。金属の扱いならば私より優れたものは数える程度ですよ。それこそ鍛冶を司る方々くらいです」
ツンとすました表情で語るルゼ。そもそもが魔物とは思えないくらい表情も感情も豊かである。
「いやはや、まったくその通りだな」
これにはリードも苦笑いするしかなかった。
最後に杖部分と剣を合体させて、チェリシアがケットシーからもらったとかいう宝石をはめ込んで完成である。
「なんて魔力がに満ちた武器なのかしら。これならペシエラ様は喜ばれますね」
「これは早速献上致しませんと」
グレイアががばっと立ち上がって出ていこうとする。
「ちょっと待ちなさい。ペシエラ様は今は王太子妃殿下です。ちゃんと手順を踏まないと追い返されるだけですよ」
「はっ!」
ルゼに言われて動きを止めるグレイアである。まったく、喜びのあまりに短慮になっていたようだ。
結局この日は、門番に取り次いでもらうだけで終わったのだった。
「はあ……、私たちの作った杖、受け取ってもらえるかしら」
グレイアは心配そうに帰り道を歩く。
「大丈夫ですよ。ペシエラ様はご友人思いですから、きっと受け取って下さいます」
根拠のないルゼの言葉だが、どこか確信めいたものがあった。
「ですが、結果がどうあれ、今回の事でますますグレイア様の事に興味を持ちました。家業を継ぐ夢、お手伝いさせてもらいますよ」
「ふふっ、ありがとうルゼ」
二人はゆっくりと鍛冶工房まで戻っていった。
翌日、無事に仕込み杖をペシエラに献上できたグレイアたちなのであった。
これが後々に伝わるグレイア工房の始まりになるとは、この時誰も知らなかったのである。
そもそものグレイアの鍛冶適性は高かったのか、めきめきと腕を上達させていった。さすがは王都でも著名な鍛冶職人であるリードの娘といったところだろうか。
「うん、このくらいなら騎士団に実戦用として卸す事もできそうだな。本当に見違えたぞ」
「えへへへ。お父さんにそういってもらえると嬉しいですね」
やけに子どもっぽく笑うグレイアである。これでも学園を卒業しているので18歳なのだ。
「それではグレイア様。仕上げとしてこれで剣を打ってもらいましょうか」
「いいわよ、ルゼ」
父親に褒められて緩んでいたグレイアの表情が引き締まる。
それを見たルゼは、最初に出していた魔法銀を再びインゴットとして目の前に出現させる。
「ペシエラ様は魔法も得意でらっしゃいますから、こういう魔法金属との相性はとてもよろしいのです。これを使って何を作られるかは、グレイア様にお任せ致しますね」
「はい、分かりました」
話がまとまったと思ったところに、外から何やらやかましい声が聞こえてくる。
「話は聞かせてもらったわよ!」
「ちぇ、チェリシア様?!」
工房に突然現れたのはチェリシアだった。ペシエラの本来の立ち位置を奪った物語のヒロインである。
チェリシアはルゼが手に持っている魔法銀のインゴットを見て、目を光らせる。
「ふうん、ずいぶんと面白そうな事をしているわね。混ぜなさいよ」
「ちょっとやめて下さい、チェリシア様。商会のお仕事はよろしいのですか」
「今日の仕事は既に終わらせているわ。あとはカーマイル様の領分だから、何も問題ないわ。さあ、教えなさい!」
「お、落ち着いて下さい、チェリシア様ーっ!」
突如として乱入したチェリシアのせいで一時的に騒々しくなる工房。グレイアが説明をした事で、ようやくチェリシアは落ち着いたのだった。
「ふんふん、なるほど。学園の間にお世話になったから、遅ればせながら結婚祝いに剣を贈ろうというわけね。事情は分かったわ」
すべてを聞いたチェリシアは、すっかり冷静になっていた。
「それでルゼってばこの工房に頻繁に行っていたのね。グレイアの方も急に剣を打ちたいなんて話を聞いてたから、なんでかなって思ってたんだけどね」
「申し訳ございません……」
しょぼくれながら謝るルゼである。
「いいのよ、別に。ロゼリアの事とか私自身の事もあってバタバタしてたせいで、商会からのお祝い品しか贈ってないからちょうどよかったわ」
「と、申されますと?」
ルゼが問い返すと、チェリシアはにやりと笑っていた。
「仕込み杖なんてどうかななんて思うのよね。あの子の魔法を増幅させつつ、剣としても振るえる杖よ。ああ、ペシエラがかっこよく戦う様が目に浮かぶわ」
「チェリシア様……」
うっとりとするチェリシアに、揃いも揃ってドン引きである。
それはそうだろう。リードは知らないが、グレイアとルゼはペシエラの魔法の恐ろしさを目の当たりにしている。あの魔法をさらに増幅させるとか、一体何を考えているのかと震えているのである。
「チェリシア様がそこまで仰られるのでしたら、俺が杖部分を作りましょう」
「いいわね、親子合作」
そんなこんなで、四人で寄ってたかって一本の仕込み杖を作ることになってしまったのだった。
途中で夕方を迎えたのでチェリシアはマゼンダ商会へと戻っていったが、アドバイスだけは置いていったものだから、リードとグレイアの親子とルゼで仕込み杖を仕上げたのだった。
そんなこんなで翌日の昼のことだった。
「で、できたわーっ!」
グレイアが喜びの声を上げていた。
そこにあったのは、今までで最高の出来ばえのサーベルの剣身だった。
「こっちもできたぞ。いやルゼの力はすごいな。こんなに簡単に金属の筒ができるとはな」
「当然です。金属の扱いならば私より優れたものは数える程度ですよ。それこそ鍛冶を司る方々くらいです」
ツンとすました表情で語るルゼ。そもそもが魔物とは思えないくらい表情も感情も豊かである。
「いやはや、まったくその通りだな」
これにはリードも苦笑いするしかなかった。
最後に杖部分と剣を合体させて、チェリシアがケットシーからもらったとかいう宝石をはめ込んで完成である。
「なんて魔力がに満ちた武器なのかしら。これならペシエラ様は喜ばれますね」
「これは早速献上致しませんと」
グレイアががばっと立ち上がって出ていこうとする。
「ちょっと待ちなさい。ペシエラ様は今は王太子妃殿下です。ちゃんと手順を踏まないと追い返されるだけですよ」
「はっ!」
ルゼに言われて動きを止めるグレイアである。まったく、喜びのあまりに短慮になっていたようだ。
結局この日は、門番に取り次いでもらうだけで終わったのだった。
「はあ……、私たちの作った杖、受け取ってもらえるかしら」
グレイアは心配そうに帰り道を歩く。
「大丈夫ですよ。ペシエラ様はご友人思いですから、きっと受け取って下さいます」
根拠のないルゼの言葉だが、どこか確信めいたものがあった。
「ですが、結果がどうあれ、今回の事でますますグレイア様の事に興味を持ちました。家業を継ぐ夢、お手伝いさせてもらいますよ」
「ふふっ、ありがとうルゼ」
二人はゆっくりと鍛冶工房まで戻っていった。
翌日、無事に仕込み杖をペシエラに献上できたグレイアたちなのであった。
これが後々に伝わるグレイア工房の始まりになるとは、この時誰も知らなかったのである。
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