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番外編集
番外編 雪降る夜に その4
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「ロゼリア、ここに居たのか」
「お兄様」
ロゼリアの兄のカーマイルがやって来た。
「お兄様は今までどちらに?」
「なに、商会の代表としてあいさつして回っていたんだ。大体は私の婚約者のせいで面倒な事になっていたけどね」
カーマイルの言葉を受けて、ロゼリアはチェリシアをじろっと睨む。その視線に気が付いたチェリシアは、ふいっと視線を逸らしてとぼけていた。
「ぺ、ペシエラ。ちょっとクリスマスツリーを見ていかない?」
「何を仰ってますの、お姉様。雪が降っているのに外に出るなんて何を考えてますのよ!」
ペシエラは必死に抵抗していたが、チェリシアも必死だったのでずるずると引き摺られてしまっていた。
「……逃げましたね」
「ああ、逃げたな」
外に出ていくチェリシアたちの姿に、ロゼリアとカーマイルは言葉を失っていた。
「お兄様、あの子の手綱、うまく取れる自信はあるかしら」
「多分、無理だろうな」
カーマイルに早々に諦められるくらいに、チェリシアは何かと問題のある人物だった。これでも乙女ゲームのヒロインだというのに、中身の転生者が残念過ぎたのだった。これでカーマイルと無事に結婚できるのか、ロゼリアにとって相当に頭の痛くなる問題なのだった。
さてさて、ペシエラを引っ張って中庭へと出てきたチェリシア。そこにはマゼンダ領のスノールビー近郊から運んできた大きなもみの木が置かれていた。ルゼに頼んで作らせた飾りに、マゼンダ商会の工房で作り上げた光を放つ魔石。それらで飾り付けられたもみの木は、魔石の放つ光によってその存在感を強く主張している。日が暮れ、辺りが暗くなっていく中、深々と降り積もっていく雪が魔石の光に照らされて、城の中庭に幻想的な雰囲気を作り出していた。
「……意外ときれいですのね」
その光景に思わずペシエラは見とれてしまい、言葉を漏らしてしまう。その言葉を聞いて、チェリシアはにやりと笑っている。
「私が頑張ってきたかいがあるってものでしょ?」
「……そうですわね。悔しいですけれど、見入ってしまう不思議な光景ですわね」
ペシエラはその頬を不満げに膨らませていた。十三歳という年齢だからこそ、まだ可愛げのある表情だった。
「というわけで、ペシエラ」
「なんですの、お姉様」
チェリシアが改まって声を掛けると、ペシエラは斜に構えたように反応する。
「どうか、私と踊ってくれませんか?」
「はあ?」
ドレスのスカート部分の裾をつまんで、ちょこんとお辞儀をするチェリシア。チェリシアからの予想外な要求に、ペシエラの表情が複雑になってしまった。ものすごく困惑しているのである。
「もう、ペシエラったら、なんて顔しているのよ」
さすがにチェリシアが怒る。その様子を見たペシエラは、
「仕方ないわね。今回だけですわよ」
という感じに、嫌々ながらもチェリシアの手を取ったのだった。
雪の降る中、不安定なかかとの高い靴を履いているものの、チェリシアとペシエラは何の問題もなく踊っている。ペシエラのバランス感覚はそもそもかなりおかしいくらいにすごいし、チェリシアは転生者らしいふざけた魔力量で魔法を使って安定させている。そりゃ何の問題もなく踊れるというものである。
ところが、キラキラと光る雪が舞う中で踊るチェリシアとペシエラの姿というのは、他の人たちからは妖精が踊っているように見えたらしい。最初に気が付いた人物から口伝てに、気が付いたらかなりの人数の見物人に見られている状態になっていたのだった。
ちょうど曲が終わると、チェリシアたちも踊り終える。
「はあ、楽しかった」
「まったく、二度とは踊りませんわよ」
そう言ってお互いに笑い合う二人だったが、次の瞬間ものすごく驚いてしまう。それというのも、見物人たちから拍手が巻き起こったからだ。
「ありゃ、一体いつの間にこんなに人が居たのかな?」
「まったく気が付きませんでしたわね」
そう言いながら、二人は向かい合って笑顔になる。
「まったく、ペシエラ。こんな所に居たのか」
「シルヴァノ殿下ではございませんの。一体どうされたのですか?」
「どうしたも何も、君と踊ろうとして探し回っていたに決まっているじゃないか。そしたらなんで、こんな屋外に出ているんだ?」
シルヴァノの質問に、ペシエラはチェリシアと顔を向き合わせる。すると、チェリシアは無言でペシエラをシルヴァノの方へと押し付けた。
「ちょ、ちょっとお姉様?」
ペシエラが慌てると、チェリシアは唇に人差し指を当ててウィンクしていた。それを見てペシエラは悟った。『シルヴァノとここで踊れ』というメッセージを。
というわけで、ペシエラは仕方なくシルヴァノへと近付いていき、その手を取った。
「殿下、今ここで踊って頂けませんか?」
「ここでかい?」
「ええ、地面はお姉様の魔法で安全になっていますし、光り輝く雪の中で踊るなんて、幻想的じゃありません?」
ペシエラの言葉に、シルヴァノは辺りを見回す。もみの木に吊るされた魔石の光を浴びて、舞い降りる雪がキラキラと輝いていた。
「ふむ、それも悪くないかな」
シルヴァノは空と地面とを眺めながら、ペシエラの要求を了承したのだった。
この日、シルヴァノとペシエラが踊る様は、後々まで語り継がれるとても印象的な出来事となって人々の目に焼き付けられた。
そして、その時の姿は額縁入りの写真として、王家とコーラル伯爵家に残されたのである。
――
これにて「逆行令嬢と転生ヒロイン」の更新を一旦終わります。
続編の構想は進めておりますが、更新作品数の数に加えて体力が追いついていませんので、執筆を始めるのはまだ先になりそうです。
それでは、またお会いできる日まで、私の他の作品をお楽しみ下さい。
「お兄様」
ロゼリアの兄のカーマイルがやって来た。
「お兄様は今までどちらに?」
「なに、商会の代表としてあいさつして回っていたんだ。大体は私の婚約者のせいで面倒な事になっていたけどね」
カーマイルの言葉を受けて、ロゼリアはチェリシアをじろっと睨む。その視線に気が付いたチェリシアは、ふいっと視線を逸らしてとぼけていた。
「ぺ、ペシエラ。ちょっとクリスマスツリーを見ていかない?」
「何を仰ってますの、お姉様。雪が降っているのに外に出るなんて何を考えてますのよ!」
ペシエラは必死に抵抗していたが、チェリシアも必死だったのでずるずると引き摺られてしまっていた。
「……逃げましたね」
「ああ、逃げたな」
外に出ていくチェリシアたちの姿に、ロゼリアとカーマイルは言葉を失っていた。
「お兄様、あの子の手綱、うまく取れる自信はあるかしら」
「多分、無理だろうな」
カーマイルに早々に諦められるくらいに、チェリシアは何かと問題のある人物だった。これでも乙女ゲームのヒロインだというのに、中身の転生者が残念過ぎたのだった。これでカーマイルと無事に結婚できるのか、ロゼリアにとって相当に頭の痛くなる問題なのだった。
さてさて、ペシエラを引っ張って中庭へと出てきたチェリシア。そこにはマゼンダ領のスノールビー近郊から運んできた大きなもみの木が置かれていた。ルゼに頼んで作らせた飾りに、マゼンダ商会の工房で作り上げた光を放つ魔石。それらで飾り付けられたもみの木は、魔石の放つ光によってその存在感を強く主張している。日が暮れ、辺りが暗くなっていく中、深々と降り積もっていく雪が魔石の光に照らされて、城の中庭に幻想的な雰囲気を作り出していた。
「……意外ときれいですのね」
その光景に思わずペシエラは見とれてしまい、言葉を漏らしてしまう。その言葉を聞いて、チェリシアはにやりと笑っている。
「私が頑張ってきたかいがあるってものでしょ?」
「……そうですわね。悔しいですけれど、見入ってしまう不思議な光景ですわね」
ペシエラはその頬を不満げに膨らませていた。十三歳という年齢だからこそ、まだ可愛げのある表情だった。
「というわけで、ペシエラ」
「なんですの、お姉様」
チェリシアが改まって声を掛けると、ペシエラは斜に構えたように反応する。
「どうか、私と踊ってくれませんか?」
「はあ?」
ドレスのスカート部分の裾をつまんで、ちょこんとお辞儀をするチェリシア。チェリシアからの予想外な要求に、ペシエラの表情が複雑になってしまった。ものすごく困惑しているのである。
「もう、ペシエラったら、なんて顔しているのよ」
さすがにチェリシアが怒る。その様子を見たペシエラは、
「仕方ないわね。今回だけですわよ」
という感じに、嫌々ながらもチェリシアの手を取ったのだった。
雪の降る中、不安定なかかとの高い靴を履いているものの、チェリシアとペシエラは何の問題もなく踊っている。ペシエラのバランス感覚はそもそもかなりおかしいくらいにすごいし、チェリシアは転生者らしいふざけた魔力量で魔法を使って安定させている。そりゃ何の問題もなく踊れるというものである。
ところが、キラキラと光る雪が舞う中で踊るチェリシアとペシエラの姿というのは、他の人たちからは妖精が踊っているように見えたらしい。最初に気が付いた人物から口伝てに、気が付いたらかなりの人数の見物人に見られている状態になっていたのだった。
ちょうど曲が終わると、チェリシアたちも踊り終える。
「はあ、楽しかった」
「まったく、二度とは踊りませんわよ」
そう言ってお互いに笑い合う二人だったが、次の瞬間ものすごく驚いてしまう。それというのも、見物人たちから拍手が巻き起こったからだ。
「ありゃ、一体いつの間にこんなに人が居たのかな?」
「まったく気が付きませんでしたわね」
そう言いながら、二人は向かい合って笑顔になる。
「まったく、ペシエラ。こんな所に居たのか」
「シルヴァノ殿下ではございませんの。一体どうされたのですか?」
「どうしたも何も、君と踊ろうとして探し回っていたに決まっているじゃないか。そしたらなんで、こんな屋外に出ているんだ?」
シルヴァノの質問に、ペシエラはチェリシアと顔を向き合わせる。すると、チェリシアは無言でペシエラをシルヴァノの方へと押し付けた。
「ちょ、ちょっとお姉様?」
ペシエラが慌てると、チェリシアは唇に人差し指を当ててウィンクしていた。それを見てペシエラは悟った。『シルヴァノとここで踊れ』というメッセージを。
というわけで、ペシエラは仕方なくシルヴァノへと近付いていき、その手を取った。
「殿下、今ここで踊って頂けませんか?」
「ここでかい?」
「ええ、地面はお姉様の魔法で安全になっていますし、光り輝く雪の中で踊るなんて、幻想的じゃありません?」
ペシエラの言葉に、シルヴァノは辺りを見回す。もみの木に吊るされた魔石の光を浴びて、舞い降りる雪がキラキラと輝いていた。
「ふむ、それも悪くないかな」
シルヴァノは空と地面とを眺めながら、ペシエラの要求を了承したのだった。
この日、シルヴァノとペシエラが踊る様は、後々まで語り継がれるとても印象的な出来事となって人々の目に焼き付けられた。
そして、その時の姿は額縁入りの写真として、王家とコーラル伯爵家に残されたのである。
――
これにて「逆行令嬢と転生ヒロイン」の更新を一旦終わります。
続編の構想は進めておりますが、更新作品数の数に加えて体力が追いついていませんので、執筆を始めるのはまだ先になりそうです。
それでは、またお会いできる日まで、私の他の作品をお楽しみ下さい。
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