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番外編集
番外編 雪降る夜に その2
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料理に関しては、チェリシアがなんとかレシピを思い出して順調に進んでいた。しかし、チェリシアは何かが足りないと悩んでいた。
「お姉様、一体何を悩んでいますの?」
ペシエラが気になって声を掛ける。
「ん~、クリスマスといったら、何かが足りない気がしてね……。それを必死に思い出しているのよ」
チェリシアの言葉を聞いて、ペシエラは何を言っているのか理解できなかった。それも無理はない、チェリシアの前世の話なのだから、この世界で生まれ育ったペシエラに理解できるわけがないのである。
「……そうよ、クリスマスツリーだわ! ペシエラ! ライの、ライのところに行くわよ!」
「ちょっとお姉様、待って下さいませ」
ペシエラが止めるのも聞かず、チェリシアはライのところまでばたばたと走っていった。
この日のライはコーラル邸の庭に居た。ちらちらと舞い落ちる雪をただただ眺めている。
「ねえ、ライ。佇んでいるところ悪いんだけど、ちょっといいかしら」
「何でしょうか、チェリシア様」
チェリシアに声を掛けられて、驚きからかいつもより多めに瞬きをしているライ。
「あのね、もみの木って知ってるかしら?」
「ああ、それならこういう木の事ですよね。知ってますよ。それがどうかしましたか?」
「よかった、この世界でももみの木はもみの木なのね」
知っているといった反応が返ってきて、チェリシアはすごく安堵している。そして、すごく興奮した様子でライに話し掛けている。
「ライ、精霊たちの力で、ここに用意できないかしらね。年末のパーティーにシンボルとして置きたいのよ」
「そんな事してどうするんですか?」
「雪やアクセサリーなんかで飾りつけるのよ。光る魔石を取り付けてもきれいかもね」
チェリシアが暴走を続ける中、ライが衝撃的な事を告げる。
「何をしたいのか分かりませんけれども、もみの木なんて生やさなくても、ロゼリア様の領地にありますよ」
「……はい?」
ライの言葉に、チェリシアは固まった。
「ですから、あの氷山エリアに自生してるんですよ、もみの木は」
「えええっ?!」
ライから詳しく言われると、チェリシアは大声で叫んでいた。
「お姉様、うるさいですわよ」
追いかけてきたペシエラがようやく追いついて、叫び声を上げているチェリシアを叱っている。
「ペシエラ……。アイリス、アイリスに相談よ」
「今度は何なんですの……」
次から次に言う事が変わるチェリシアに、ペシエラもさすがに頭が痛くなってきたようだ。
「幻獣を通じてトム様に連絡ですか。先触れは出しておいた方がいいですものね」
「そう、それ。アイリスは蒼鱗魚を通じて神獣や幻獣たちと連絡を取り合えるもの。それを利用しない手はないわ」
「はあ……、お姉様で勝手にして下さい。私はロゼリアと一緒に料理の話をしてますから」
ライとチェリシアが話す中、ペシエラは頭を抑えながら首を左右に振っている。もう付き合い切れないと匙を投げたのである。
「やあ、実に面白そうな話をしているね」
「うわあっ!?」
そこに、唐突に招かざる客人が現れた。
「け、ケットシー?! どうしてここに居るんですか」
そう、いきなり姿を見せたのは、モスグリネの商業組合の組合長である幻獣ケットシーだった。彼も瞬間移動魔法を使えるので、こうやって神出鬼没に顔を出してくるのだ。まったく心臓に悪い話である。
「ははは、何やらお金のにおいがプンプンするのでね、商業組合の長としては見逃せないというわけだよ。分かるよね?」
ものすごくご機嫌に笑いながら、ケットシーはチェリシアの肩を叩いている。相変わらずのうさん臭さである。
「しかし、クリスマスというのかね、チェリシアくんが考えている奇妙なお祭りというのは」
「奇妙といえば奇妙ですかね。昔の偉人の生誕日と言われている日に、ケーキやチキンを食べてお祭り騒ぎって」
「ははは、そういうものでもないさ。こっちの世界でもそういう風習はあったりするからね。うん、実に面白そうだね」
ケットシーが目をキランと光らせる。これは完全に乗っかるつもりである。
「ボクはペシエラくんやロゼリアくんと話をしているから、君は氷山エリアからもみの木とやらを持って帰ってきなさい。ファントムにはボクが話をつけておいたからさ」
「い、いつの間に……」
この猫、まったく油断も隙もないものだった。しかし、今回はお言葉に甘えさせてもらう事にした。
「それじゃ行ってくるわね」
「気を付けて行ってらっしゃいませ、お姉様」
ペシエラとケットシーに見送られながら、チェリシアはマゼンダ領の氷山エリアへと転移したのだった。
すっかり開拓が進んで、スノールビーもずいぶんと街が発展してきていた。直接ではなく、一度領都へ跳んでトムと合流したチェリシアは、無事に氷山エリアにたどり着いたのだった。
「さーて、もみの木はどこかしらね」
ちらちらと雪が舞う中、スノールビーに着いたチェリシアはマイペースだった。
「それでしたら、麓の森がよいかと思います。さすがの私ももみの木は存じ上げませんので、お役に立てず申し訳ございません」
「大丈夫大丈夫。私が覚えているから」
トムの案内の下、根拠もない自信に空から森を見渡すチェリシア。しばらく飛んでいると、
「あっ、あったわ。あれがそうね」
見覚えのある木を見つけて、思わず声を上げてしまうチェリシアだった。
「ふむ、これがもみの木なのですな。覚えておきましょう」
騒ぐチェリシアをよそに、トムも実にマイペースだった。さすがは執事である。
「それじゃ、一本頂いていくわね。役目を終えたら、マゼンダ商会で処分しますから」
「はい、それでお願い致します」
トムから了承を得ると、次の瞬間、もみの木が一本宙に浮き、そのままふっと姿を消してしまったのだった。魔法で持ち上げて収納空間にしまい込んだからである。
「もみの木、ゲットだぜ♪」
チェリシアは、満面の笑みで言い放つのだった。
「お姉様、一体何を悩んでいますの?」
ペシエラが気になって声を掛ける。
「ん~、クリスマスといったら、何かが足りない気がしてね……。それを必死に思い出しているのよ」
チェリシアの言葉を聞いて、ペシエラは何を言っているのか理解できなかった。それも無理はない、チェリシアの前世の話なのだから、この世界で生まれ育ったペシエラに理解できるわけがないのである。
「……そうよ、クリスマスツリーだわ! ペシエラ! ライの、ライのところに行くわよ!」
「ちょっとお姉様、待って下さいませ」
ペシエラが止めるのも聞かず、チェリシアはライのところまでばたばたと走っていった。
この日のライはコーラル邸の庭に居た。ちらちらと舞い落ちる雪をただただ眺めている。
「ねえ、ライ。佇んでいるところ悪いんだけど、ちょっといいかしら」
「何でしょうか、チェリシア様」
チェリシアに声を掛けられて、驚きからかいつもより多めに瞬きをしているライ。
「あのね、もみの木って知ってるかしら?」
「ああ、それならこういう木の事ですよね。知ってますよ。それがどうかしましたか?」
「よかった、この世界でももみの木はもみの木なのね」
知っているといった反応が返ってきて、チェリシアはすごく安堵している。そして、すごく興奮した様子でライに話し掛けている。
「ライ、精霊たちの力で、ここに用意できないかしらね。年末のパーティーにシンボルとして置きたいのよ」
「そんな事してどうするんですか?」
「雪やアクセサリーなんかで飾りつけるのよ。光る魔石を取り付けてもきれいかもね」
チェリシアが暴走を続ける中、ライが衝撃的な事を告げる。
「何をしたいのか分かりませんけれども、もみの木なんて生やさなくても、ロゼリア様の領地にありますよ」
「……はい?」
ライの言葉に、チェリシアは固まった。
「ですから、あの氷山エリアに自生してるんですよ、もみの木は」
「えええっ?!」
ライから詳しく言われると、チェリシアは大声で叫んでいた。
「お姉様、うるさいですわよ」
追いかけてきたペシエラがようやく追いついて、叫び声を上げているチェリシアを叱っている。
「ペシエラ……。アイリス、アイリスに相談よ」
「今度は何なんですの……」
次から次に言う事が変わるチェリシアに、ペシエラもさすがに頭が痛くなってきたようだ。
「幻獣を通じてトム様に連絡ですか。先触れは出しておいた方がいいですものね」
「そう、それ。アイリスは蒼鱗魚を通じて神獣や幻獣たちと連絡を取り合えるもの。それを利用しない手はないわ」
「はあ……、お姉様で勝手にして下さい。私はロゼリアと一緒に料理の話をしてますから」
ライとチェリシアが話す中、ペシエラは頭を抑えながら首を左右に振っている。もう付き合い切れないと匙を投げたのである。
「やあ、実に面白そうな話をしているね」
「うわあっ!?」
そこに、唐突に招かざる客人が現れた。
「け、ケットシー?! どうしてここに居るんですか」
そう、いきなり姿を見せたのは、モスグリネの商業組合の組合長である幻獣ケットシーだった。彼も瞬間移動魔法を使えるので、こうやって神出鬼没に顔を出してくるのだ。まったく心臓に悪い話である。
「ははは、何やらお金のにおいがプンプンするのでね、商業組合の長としては見逃せないというわけだよ。分かるよね?」
ものすごくご機嫌に笑いながら、ケットシーはチェリシアの肩を叩いている。相変わらずのうさん臭さである。
「しかし、クリスマスというのかね、チェリシアくんが考えている奇妙なお祭りというのは」
「奇妙といえば奇妙ですかね。昔の偉人の生誕日と言われている日に、ケーキやチキンを食べてお祭り騒ぎって」
「ははは、そういうものでもないさ。こっちの世界でもそういう風習はあったりするからね。うん、実に面白そうだね」
ケットシーが目をキランと光らせる。これは完全に乗っかるつもりである。
「ボクはペシエラくんやロゼリアくんと話をしているから、君は氷山エリアからもみの木とやらを持って帰ってきなさい。ファントムにはボクが話をつけておいたからさ」
「い、いつの間に……」
この猫、まったく油断も隙もないものだった。しかし、今回はお言葉に甘えさせてもらう事にした。
「それじゃ行ってくるわね」
「気を付けて行ってらっしゃいませ、お姉様」
ペシエラとケットシーに見送られながら、チェリシアはマゼンダ領の氷山エリアへと転移したのだった。
すっかり開拓が進んで、スノールビーもずいぶんと街が発展してきていた。直接ではなく、一度領都へ跳んでトムと合流したチェリシアは、無事に氷山エリアにたどり着いたのだった。
「さーて、もみの木はどこかしらね」
ちらちらと雪が舞う中、スノールビーに着いたチェリシアはマイペースだった。
「それでしたら、麓の森がよいかと思います。さすがの私ももみの木は存じ上げませんので、お役に立てず申し訳ございません」
「大丈夫大丈夫。私が覚えているから」
トムの案内の下、根拠もない自信に空から森を見渡すチェリシア。しばらく飛んでいると、
「あっ、あったわ。あれがそうね」
見覚えのある木を見つけて、思わず声を上げてしまうチェリシアだった。
「ふむ、これがもみの木なのですな。覚えておきましょう」
騒ぐチェリシアをよそに、トムも実にマイペースだった。さすがは執事である。
「それじゃ、一本頂いていくわね。役目を終えたら、マゼンダ商会で処分しますから」
「はい、それでお願い致します」
トムから了承を得ると、次の瞬間、もみの木が一本宙に浮き、そのままふっと姿を消してしまったのだった。魔法で持ち上げて収納空間にしまい込んだからである。
「もみの木、ゲットだぜ♪」
チェリシアは、満面の笑みで言い放つのだった。
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