逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
361 / 473
番外編集

番外編 ある日のケットシー

しおりを挟む
 やあ、ボクはケットシーだよ。これでもモスグリネという国で商業組合の組合長をしている猫だよ。
 えっ? 猫が組合長なんてできるかって?
 それができるんだよね。何と言ってもボクは幻獣だからね。はっはっはっはっ。見た目は確かに猫そのものだが、図体は人間並みにあるからね。それに長生きもしているから、そこらの人間より博識だよ、感心したかな?
 いやはや、最近のボクはだいぶ忙しくさせてもらっているよ。なぜかって? 最近嫁いで来られたロゼリアくんの友人であるチェリシアくんのせいさ。彼女が大豆を所望してくれた事で、かなりその関連の取引が増えたんだよ。隣国のアイヴォリー王国では、最近はおめでたい食べ物として豆腐を味わっているのだかと聞くよ。いやー、あんな豆にそんな使い道があったとはね。味噌と醤油と言っていた調味料くらいだけかと思ってたよ、はっはっはっ。
 そのアイヴォリーの方からは、魚関連のものが届くようになったね。塩漬けだとか酢漬けだとか干物だとか、よくもまああんなにいろいろ作ってくれるものだね。さすがは世界の渡り子というものかな。

「ちょっと、ケットシー組合長。何をぶつぶつと独り言を仰ってられるのですか?」
 おっと、小うるさい副組合長のストロアが入ってきてしまったよ。うーん、それじゃボクによる語り口はこれくらいでおしまいかな。いやー、地の文とやらを乗っ取ってみるのは楽しいものだね。それじゃ、語り部くんに地の文をお返しするとしようか。

 この猫の幻獣、地の文にまで干渉してきた。相変わらずの自由奔放っぷりである。
 とまあ、こんな感じに自由気ままな生活を送るのが幻獣ケットシーというものである。元々はただの猫でありながらも、魔力を得て幻獣へと昇華した選ばれた猫なのである。
 そんなケットシーも、今や忙しい日々を送るようになっていた。それというもの本人が言っていた通り、チェリシア・コーラルのせいである。チェリシアは異世界からやって来た人間であり、彼女によってまた異世界の知識が放り込まれたのである。
 このモスグリネ王国でもチェリシアはいろいろとやらかしてくれていた。そのひとつこそ、大豆だった。醤油や味噌という調味料としては利用されていた大豆だが、チェリシアによって豆腐とおからという新たな利用法がもたらされたのである。それによって、アイヴォリーからの大豆の買い付けが増えて、大豆農家がてんてこ舞いになっているのである。
 そんなケットシーを支えているのが、元々アイヴォリー王国の住民で、先程名前の出たチェリシア・コーラルの妹であるペシエラ・コーラルの侍女だったストロアである。
 そのストロアは元々はカイスの村の出身で、ペシエラの侍女として召し抱えられていた。だが、パープリアに脅されていた背景があって、主であるペシエラに毒を盛ろうとして国外追放になったのだ。それを拾ったのがケットシーであり、以降はケットシーの片腕として働いている。商人適性が高かったのか、ほんの数年で副組合長にまで上り詰めてしまったのだから。ケットシーからすれば思わぬ拾いものである。
「さっきから気持ち悪いですね、ケットシー組合長」
 座って仕事をしているケットシーがにやにやと笑っているものだから、その補佐をしているストロアが苦言を呈していた。
「いやあ、なに。君の元主人たちの事を思い出していただけさ。いや本当に、彼女たちがもたらしたものは大きすぎる。君もその中のひとつだよ、ストロアくん」
 手を止めてにやにやと笑いながら発言するケットシー。相変わらずのうさん臭さである。
「はあ、そうなんですね。……私の方からしてみても、やらかした事に比べれば、このような場所で拾って頂けた事はありがたい限りですけれどね」
「うんうん、君は本当は縛り首でもおかしくなかったんだよ。慈悲深い主人たちと僕に感謝してほしいものだね、はっはっはっはっ」
 笑うケットシーに頭が痛くなるストロアだった。
「それは確かにそうなんですけれどね。それよりもケットシー組合長。そろそろロゼリア王太子妃にお子様がお生まれになるという噂をお聞きになりましたか?」
「ああ、それかな。知っているよ。人の噂を聞くまでもない。精霊たちが既に騒いでいるからね」
 ケットシーは知っているという回答をしているのだが、どうにも一般人には理解できなさそうな答えだった。アイリスという存在を知っているからこそ、ストロアはなんとか理解できた。
「精霊ですか。私も見てみたいですね」
「何を言っているんだい? ライだって精霊だよ。複雑な経緯をたどりはしたがね」
「ああ、確かにそうでしたね。親しみ過ぎてて忘れてしまっていました」
 冷たい言葉で返しているようだが、ストロアのその顔はかすかに笑っていた。
「さて、王子か王女か、どちらが生まれるにしてもこれから忙しくなるね。ストロア、近隣国からの申し入れはあるかい?」
「それでしたらすでに、ロゼリア王太子妃のご実家であるマゼンダ侯爵家から来ておりますね。それ以外にもすでに数件来ております」
「そうかいそうかい。それじゃさっさとボクらの仕事をしようじゃないか。何と言っても吉報だからね」
「畏まりました。対応にあたる人員を手配して参ります」
 ストロアはそう言うと、組合長室から出ていく。
 一人部屋に残ったケットシーは、にこにことした笑顔で窓の外を見る。
「ふふっ、この吉報はなにもモスグリネ王国だけの話じゃないよ。ボクら幻獣たちにとっても初めての事になるからね」
 ケットシーは視線をモスグリネ城へと向ける。
「さあ、儚く消え去ったはずの運命の糸は、今度はどんな物語を紡いでくれるんだろうね」
 この日も晴れ渡った空から、眩いばかりの太陽がヴィフレアの街を照らしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...