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最終章 乙女ゲーム後
第351話 この日を迎えて
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あれよあれよという間に、ロゼリアがモスグリネ王国にやってきてから一年が経った。この間にも様々な事があった。
まずは最初の友人であり、困ったちゃんであったチェリシアが、ロゼリアの兄カーマイルと結婚した。ロゼリアはモスグリネ王国の勉強中であったので結婚式には参列できなかったが、マゼンダ商会を通して贈り物はしたし、チェリシアへもチャットフォンで直接お祝いをしておいた。
ペシエラの方は、まだ十六歳という若さながら、すでに王太子妃として忙しく動いているらしい。ブランシェード女王について行って女王の現場を勉強するなど、本当に精力的なようである。
アイリスはなんだかんだでニーズヘッグと結婚にこぎつけたようである。跡継ぎとなったニーズヘッグは、領主の仕事に愚痴を言いながらもなんとか頑張っているらしい。惚れた女の子孫と結婚したのだ。しっかり頑張るといい。
さて、ロゼリアは逆行前の十九歳を無事に突破して、二十歳となる年を迎えた。
一年間の準備期間を終えて、いよいよペイルと結婚して、正式にモスグリネの王太子妃となるのだ。
ヴィフレアの住民からは歓迎されたが、やはり貴族たちからの風当たりは強く、夜会やマゼンダ商会の実績などでもって徐々に抑える事に成功した。今では完全ではないにしろ、モスグリネのほとんどの貴族に認めさせるまでに至ったのだ。一番の説得力はペイルの態度だったのだが、よくあの段階からここまでの恋仲になれたものである。
そして、迎えた結婚式の日には、家族総出で参列していた。
父ヴァミリオに母レドリス、兄カーマイルに義姉チェリシア。アイヴォリー王太子シルヴァノに王太子妃ペシエラ。コーラル伯爵プラウスに妻サルモア、義子アイリスに夫ニーズヘッグ。これだけでも錚々たるメンバーである。
「はっはっはっ、実に勢揃いといったところかね」
そう話すのはモスグリネ王国の商業組合長のケットシーである。気ままな幻獣とはいえ、さすがの国の慶事とあっては参列しないわけにはいかなかった。
「あら、相変わらずの胡散臭さですわね」
「はっはっはっ、褒めたからといっても何も出ないよ?」
「褒めてませんわよ」
ペシエラが呆れるが、ケットシーは平常運転である。
「いやでも、実におめでたい事だよ。はっはっはっ、マゼンダ侯爵家の素敵なお嬢さんには感謝しかないね。これからもモスグリネ王国商業組合としては、ごひいきにさせて頂くよ」
ケットシーはこうとだけ言い残すと、お礼だけ受け取って歩いていった。本当につかみどころがない猫である。
こうやって続々と参列者が集まってくる中、ロゼリアの準備も着々と進んでいた。
ロゼリアの花嫁衣裳の準備の間、シアンは傍に立って、ずっとその様子を見守っている。じっと静かに立っているように見えるが、その実は小さく感動で震えていた。
それもそうだろう。シアンはロゼリアが小さい頃からずっと仕えてきた侍女なのだから。シアンにとって、ロゼリアは自分の子どものようなものなのである。だからこそ、この結婚はとても感慨深いものなのだ。
モスグリネ王国の色は緑であるので、花嫁衣装も緑色の系統のものが用いられる。ロゼリアは髪が赤系の色なので、際立たせるためかかなり薄めの緑色が選ばれていた。
ドレスデザインはレース使いのオフショルダーのロングドレスで、首には付け襟のようなチョーカーが着けられている。頭にはモスグリネの国花をあしらったヴェールが掛けられている。本当に見るからに美しく仕上がっていた。
「まあ、さすがペイル殿下の選ばれた方ですわ」
「ええ、本当にお美しゅうございます」
着付けを行っていた侍女二人がべた褒めである。それに対してシアンは強く頷いている。自慢の娘が褒められているのだ。嬉しくないわけがない。支度が終わると、
「さあ、ペイル殿下がお待ちです。参りましょう」
ロゼリアは立ち上がって、式が行われるモスグリネ王城の大広間へと向かった。
モスグリネ王城の大広間には、ペイルの結婚式をひと目見ようと、多くの貴族や商家たちが詰めかけていた。どうして商家が居るかといえば、結婚相手であるロゼリアが実質的なマゼンダ商会の商会長だからである。取引のある相手となれば、参加しないのは無礼というものだ。だから、多くの商家が参列しているのである。
式場に声が響く。
「静粛に。ダルグ国王陛下、並びにライム王妃殿下が入場されます」
式場内が静かになると、国王と王妃夫妻が一段高くなった席に登場する。場の空気が一気に重くなった気がする。会場に集まった貴族や商家の者たちが、一斉に敬礼をする。それを見届けると、国王と王妃は椅子に座った。
「本日は、ペイル王太子殿下とロゼリア侯爵令嬢の結婚の式典にお集まり頂き、実に嬉しく思います」
結婚式の進行を務める宰相が地味に涙声である。ついつい感極まってしまっているようだ。
「あのわがままだったペイル殿下が、こうして伴侶を迎える事ができるに、つい涙があふれてしまうのであります」
涙もろいおじさんのようである。それくらいに幼少の頃のペイルに苦労させられてきたのだろう。よく見れば国王と王妃も頷いていた。他にも頷く貴族が居るのを見ると、どうやらそれなりに共通の認識のようである。
「っと、このようなめでたい席で、年寄りの愚痴はこのくらいにしておきましょう」
ハンカチを出して涙をぬぐった宰相は、気を取り直している。
「それでは、ペイル王太子殿下とロゼリア侯爵令嬢の入場でございます!」
この声で、式場内に華やかな音楽が流れ始める。そして、式場の両サイドから、結婚衣装に身を包んだペイルとロゼリアが姿を現したのだった。
まずは最初の友人であり、困ったちゃんであったチェリシアが、ロゼリアの兄カーマイルと結婚した。ロゼリアはモスグリネ王国の勉強中であったので結婚式には参列できなかったが、マゼンダ商会を通して贈り物はしたし、チェリシアへもチャットフォンで直接お祝いをしておいた。
ペシエラの方は、まだ十六歳という若さながら、すでに王太子妃として忙しく動いているらしい。ブランシェード女王について行って女王の現場を勉強するなど、本当に精力的なようである。
アイリスはなんだかんだでニーズヘッグと結婚にこぎつけたようである。跡継ぎとなったニーズヘッグは、領主の仕事に愚痴を言いながらもなんとか頑張っているらしい。惚れた女の子孫と結婚したのだ。しっかり頑張るといい。
さて、ロゼリアは逆行前の十九歳を無事に突破して、二十歳となる年を迎えた。
一年間の準備期間を終えて、いよいよペイルと結婚して、正式にモスグリネの王太子妃となるのだ。
ヴィフレアの住民からは歓迎されたが、やはり貴族たちからの風当たりは強く、夜会やマゼンダ商会の実績などでもって徐々に抑える事に成功した。今では完全ではないにしろ、モスグリネのほとんどの貴族に認めさせるまでに至ったのだ。一番の説得力はペイルの態度だったのだが、よくあの段階からここまでの恋仲になれたものである。
そして、迎えた結婚式の日には、家族総出で参列していた。
父ヴァミリオに母レドリス、兄カーマイルに義姉チェリシア。アイヴォリー王太子シルヴァノに王太子妃ペシエラ。コーラル伯爵プラウスに妻サルモア、義子アイリスに夫ニーズヘッグ。これだけでも錚々たるメンバーである。
「はっはっはっ、実に勢揃いといったところかね」
そう話すのはモスグリネ王国の商業組合長のケットシーである。気ままな幻獣とはいえ、さすがの国の慶事とあっては参列しないわけにはいかなかった。
「あら、相変わらずの胡散臭さですわね」
「はっはっはっ、褒めたからといっても何も出ないよ?」
「褒めてませんわよ」
ペシエラが呆れるが、ケットシーは平常運転である。
「いやでも、実におめでたい事だよ。はっはっはっ、マゼンダ侯爵家の素敵なお嬢さんには感謝しかないね。これからもモスグリネ王国商業組合としては、ごひいきにさせて頂くよ」
ケットシーはこうとだけ言い残すと、お礼だけ受け取って歩いていった。本当につかみどころがない猫である。
こうやって続々と参列者が集まってくる中、ロゼリアの準備も着々と進んでいた。
ロゼリアの花嫁衣裳の準備の間、シアンは傍に立って、ずっとその様子を見守っている。じっと静かに立っているように見えるが、その実は小さく感動で震えていた。
それもそうだろう。シアンはロゼリアが小さい頃からずっと仕えてきた侍女なのだから。シアンにとって、ロゼリアは自分の子どものようなものなのである。だからこそ、この結婚はとても感慨深いものなのだ。
モスグリネ王国の色は緑であるので、花嫁衣装も緑色の系統のものが用いられる。ロゼリアは髪が赤系の色なので、際立たせるためかかなり薄めの緑色が選ばれていた。
ドレスデザインはレース使いのオフショルダーのロングドレスで、首には付け襟のようなチョーカーが着けられている。頭にはモスグリネの国花をあしらったヴェールが掛けられている。本当に見るからに美しく仕上がっていた。
「まあ、さすがペイル殿下の選ばれた方ですわ」
「ええ、本当にお美しゅうございます」
着付けを行っていた侍女二人がべた褒めである。それに対してシアンは強く頷いている。自慢の娘が褒められているのだ。嬉しくないわけがない。支度が終わると、
「さあ、ペイル殿下がお待ちです。参りましょう」
ロゼリアは立ち上がって、式が行われるモスグリネ王城の大広間へと向かった。
モスグリネ王城の大広間には、ペイルの結婚式をひと目見ようと、多くの貴族や商家たちが詰めかけていた。どうして商家が居るかといえば、結婚相手であるロゼリアが実質的なマゼンダ商会の商会長だからである。取引のある相手となれば、参加しないのは無礼というものだ。だから、多くの商家が参列しているのである。
式場に声が響く。
「静粛に。ダルグ国王陛下、並びにライム王妃殿下が入場されます」
式場内が静かになると、国王と王妃夫妻が一段高くなった席に登場する。場の空気が一気に重くなった気がする。会場に集まった貴族や商家の者たちが、一斉に敬礼をする。それを見届けると、国王と王妃は椅子に座った。
「本日は、ペイル王太子殿下とロゼリア侯爵令嬢の結婚の式典にお集まり頂き、実に嬉しく思います」
結婚式の進行を務める宰相が地味に涙声である。ついつい感極まってしまっているようだ。
「あのわがままだったペイル殿下が、こうして伴侶を迎える事ができるに、つい涙があふれてしまうのであります」
涙もろいおじさんのようである。それくらいに幼少の頃のペイルに苦労させられてきたのだろう。よく見れば国王と王妃も頷いていた。他にも頷く貴族が居るのを見ると、どうやらそれなりに共通の認識のようである。
「っと、このようなめでたい席で、年寄りの愚痴はこのくらいにしておきましょう」
ハンカチを出して涙をぬぐった宰相は、気を取り直している。
「それでは、ペイル王太子殿下とロゼリア侯爵令嬢の入場でございます!」
この声で、式場内に華やかな音楽が流れ始める。そして、式場の両サイドから、結婚衣装に身を包んだペイルとロゼリアが姿を現したのだった。
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