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最終章 乙女ゲーム後
第350話 緑の祝福
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ペイルとロゼリアの婚姻と結婚について、王都のマゼンダ侯爵邸で話が持たれた。その内容によれば、この後すぐにモスグリネの王宮に向かい、そこですぐに婚約発表を行う。その後、一年間でモスグリネの風習などを学んで、翌年の年明け早々に結婚式を挙げるという流れになるそうだ。婚約からすぐに結婚とはどうしてもできないらしい。国内の人物ならそれもあり得る話だが、ロゼリアがアイヴォリーという他国の人間だからこそ、ワンクッション挟んだ流れとなるそうだ。
話が決まれば、そこからの流れは速い。
ロゼリアがチャットフォンで連絡を入れれば、出発の日にはチェリシアたちが見送りにやって来た。コーラル伯爵家も忙しいだろうに、わざわざ時間を作ってくれたようだ。なにせペシエラだって居たのだから。
「友人の見送りは当然ですわよ。それよりも、ロゼリアもおめでとうですわ」
「ありがとう、ペシエラ。とは言っても、結婚式は一年後だけれどもね」
言葉を交わす二人に対して、アイリスはひたすら拍手しているし、チェリシアなんて顔をしわくちゃにして泣きまくっている。ヒロインがしていい顔かどうか分からないが、大げさなレベルだった。
「本当、三人にはずいぶん振り回された気がするけれど、楽しくて思い出深い生活だったわ。モスグリネに行ってしまったからといって会えなくなるわけじゃないし、これもあるから寂しくないでしょう?」
ロゼリアはチャットフォンを出して微笑んでいる。
実際、このチャットフォンは何かと役に立っている。両国の王太子と王太子妃が全員持っている事になると、今後の国家間の話し合いはスムーズに進みそうである。何気に重要アイテムとなってしまったようだ。
ロゼリアとチェリシアたちは互いに言葉を交わし合うと、ペイルの乗る馬車に侍女のシアンと一緒に乗り込んだ。いよいよお別れの時である。
「それでは行って参ります。皆さんもごきげんよう」
ロゼリアが両親と兄、それとコーラル姉妹たちに挨拶をする。
そして、ペイルとロゼリアを乗せた馬車が、隊列を作ってマゼンダ邸を出発していった。チェリシアたちはその隊列をずっと見送っていた。
ハウライトを出た後のロゼリアは、少し上の空で外を眺めていた。
「どうした。もう家が恋しくなったのか?」
少々無神経なペイルだが、ロゼリアの事が心配になったのは確かである。
「いえ、幼少から家はおろか、国からも出る事は決めていたのですが、いざ実際出るとなると、思ったより愛着があったものだと思いまして」
「まあそうだろうな。今まで十八年間過ごしてきた場所だからな」
ロゼリアの言葉に、ペイルは同意する。
その後はしばらくの間、馬車の中は沈黙に包まれる。だが、その沈黙を破ったのはペイルだった。
「だが、そういうところも見越した上で、ヴィフレアに商会の支店を出したのだろう? 今はケットシーがお得意様だと言って、よそから不当に手を入れられないように必死に守っていたな。あいつにも会ったらお礼を言っておくといい」
「あら、それはとても助かりますね。こっちはこっちで忙しくて、あまり手が回せませんでしたから」
ペイルが、ヴィフレアに出しているマゼンダ商会の支店についての現状を伝えると、ロゼリアは素直に感謝していた。
それからも、ペイルはマゼンダ商会の取り扱う魔道具についてもかなり褒めているようだった。ロゼリアがそのマゼンダ商会の実質的な商会長である事もあるが、何より便利というのもある。特に万年筆は貴族の間では一種のステータスアイテムと化していた。
いろいろと話をするペイルを見て、ロゼリアはついつい笑ってしまう。
「……何かおかしかったかな?」
「いえ、楽しそうに話す殿下を見て、少々可愛く思えてしまいました」
ペイルが話を止めてロゼリアに尋ねれば、ロゼリアは笑いを堪えながら真面目に答えていた。
こういったやり取りをしながら、十日ほどかけてロゼリアたちはモスグリネ王国の王都ヴィフレアに到着した。
ヴィフレアに到着すると、先触れからの連絡で準備されていたのか、メインストリートには多くの人が出迎えていた。ペイル王子とその婚約者のお出迎えを王都挙げて祝おうという事である。
この自分が歓迎されているという光景は、ロゼリアにとってはたまらなく嬉しいものだった。それがゆえに、この光景を見たロゼリアの瞳からは、ほろりと涙がこぼれ落ちた。その様子を見たペイルは動揺するが、隣のシアンはまったく動じずにそっとロゼリアを支えた。
思えば、逆行前はただ平然として生きてきた覚えがある。そして、卑劣な罠に嵌められて処刑されてしまった。
それを思うと、今はなんて幸せなんだろうと、ロゼリアは感動に打ち震えていた。
時戻りをして人生をやり直してきて、本当に最高に幸せともいえる瞬間の中に居る。それだけでただただ嬉しいのだ。
大勢の人たちが出迎える中を、ペイルとロゼリアの乗った馬車がゆっくりと進んでいく。その人だかりは、王城の入口付近まで続いており、実に王都総出の出迎えであった事が窺える。
王城に到着するまでの間、ロゼリアは感動に涙しながら、出迎えた民衆にペイルと一緒に手を振り続けたのだった。
話が決まれば、そこからの流れは速い。
ロゼリアがチャットフォンで連絡を入れれば、出発の日にはチェリシアたちが見送りにやって来た。コーラル伯爵家も忙しいだろうに、わざわざ時間を作ってくれたようだ。なにせペシエラだって居たのだから。
「友人の見送りは当然ですわよ。それよりも、ロゼリアもおめでとうですわ」
「ありがとう、ペシエラ。とは言っても、結婚式は一年後だけれどもね」
言葉を交わす二人に対して、アイリスはひたすら拍手しているし、チェリシアなんて顔をしわくちゃにして泣きまくっている。ヒロインがしていい顔かどうか分からないが、大げさなレベルだった。
「本当、三人にはずいぶん振り回された気がするけれど、楽しくて思い出深い生活だったわ。モスグリネに行ってしまったからといって会えなくなるわけじゃないし、これもあるから寂しくないでしょう?」
ロゼリアはチャットフォンを出して微笑んでいる。
実際、このチャットフォンは何かと役に立っている。両国の王太子と王太子妃が全員持っている事になると、今後の国家間の話し合いはスムーズに進みそうである。何気に重要アイテムとなってしまったようだ。
ロゼリアとチェリシアたちは互いに言葉を交わし合うと、ペイルの乗る馬車に侍女のシアンと一緒に乗り込んだ。いよいよお別れの時である。
「それでは行って参ります。皆さんもごきげんよう」
ロゼリアが両親と兄、それとコーラル姉妹たちに挨拶をする。
そして、ペイルとロゼリアを乗せた馬車が、隊列を作ってマゼンダ邸を出発していった。チェリシアたちはその隊列をずっと見送っていた。
ハウライトを出た後のロゼリアは、少し上の空で外を眺めていた。
「どうした。もう家が恋しくなったのか?」
少々無神経なペイルだが、ロゼリアの事が心配になったのは確かである。
「いえ、幼少から家はおろか、国からも出る事は決めていたのですが、いざ実際出るとなると、思ったより愛着があったものだと思いまして」
「まあそうだろうな。今まで十八年間過ごしてきた場所だからな」
ロゼリアの言葉に、ペイルは同意する。
その後はしばらくの間、馬車の中は沈黙に包まれる。だが、その沈黙を破ったのはペイルだった。
「だが、そういうところも見越した上で、ヴィフレアに商会の支店を出したのだろう? 今はケットシーがお得意様だと言って、よそから不当に手を入れられないように必死に守っていたな。あいつにも会ったらお礼を言っておくといい」
「あら、それはとても助かりますね。こっちはこっちで忙しくて、あまり手が回せませんでしたから」
ペイルが、ヴィフレアに出しているマゼンダ商会の支店についての現状を伝えると、ロゼリアは素直に感謝していた。
それからも、ペイルはマゼンダ商会の取り扱う魔道具についてもかなり褒めているようだった。ロゼリアがそのマゼンダ商会の実質的な商会長である事もあるが、何より便利というのもある。特に万年筆は貴族の間では一種のステータスアイテムと化していた。
いろいろと話をするペイルを見て、ロゼリアはついつい笑ってしまう。
「……何かおかしかったかな?」
「いえ、楽しそうに話す殿下を見て、少々可愛く思えてしまいました」
ペイルが話を止めてロゼリアに尋ねれば、ロゼリアは笑いを堪えながら真面目に答えていた。
こういったやり取りをしながら、十日ほどかけてロゼリアたちはモスグリネ王国の王都ヴィフレアに到着した。
ヴィフレアに到着すると、先触れからの連絡で準備されていたのか、メインストリートには多くの人が出迎えていた。ペイル王子とその婚約者のお出迎えを王都挙げて祝おうという事である。
この自分が歓迎されているという光景は、ロゼリアにとってはたまらなく嬉しいものだった。それがゆえに、この光景を見たロゼリアの瞳からは、ほろりと涙がこぼれ落ちた。その様子を見たペイルは動揺するが、隣のシアンはまったく動じずにそっとロゼリアを支えた。
思えば、逆行前はただ平然として生きてきた覚えがある。そして、卑劣な罠に嵌められて処刑されてしまった。
それを思うと、今はなんて幸せなんだろうと、ロゼリアは感動に打ち震えていた。
時戻りをして人生をやり直してきて、本当に最高に幸せともいえる瞬間の中に居る。それだけでただただ嬉しいのだ。
大勢の人たちが出迎える中を、ペイルとロゼリアの乗った馬車がゆっくりと進んでいく。その人だかりは、王城の入口付近まで続いており、実に王都総出の出迎えであった事が窺える。
王城に到着するまでの間、ロゼリアは感動に涙しながら、出迎えた民衆にペイルと一緒に手を振り続けたのだった。
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