逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
353 / 473
最終章 乙女ゲーム後

第348話 結婚式の余波

しおりを挟む
 サプライズイベントも無事に終わり、レイニもシルヴァノとペシエラを祝福すると、アイリスたちにも挨拶をしてカイスの村の近くの湖へと戻っていった。元妖精のライともひとことふたこと会話をしていたようだ。
「いやまぁ、シルヴァノ殿下がご結婚とは、卒業に続いて実におめでたい事ですな」
「ええ、ペシエラ様も本当にお綺麗で素晴らしかったですわ」
「しかし、十五歳とは思えないな」
「年齢的には結婚はできないが、学園を卒業しているから結婚できるという判断だったのだろうかね」
「そうでございましょうね。十三歳以前に学園に入学されたのは、ペシエラ様が初めてですもの。前例がございませんわ」
 貴族たちの会話が聞こえてくる。シルヴァノとペシエラの結婚は、概ね肯定的に受け入れられているようである。逆行前でも名君レベルに称賛されていたわけだし、これはとても納得いく話だろう。
「本日の料理も大満足ですわね」
「あの丸い塊もおいしかったな。食べてみたら肉と野菜をこねて丸くした物のようだったぞ」
「結婚式の際に振舞われたケーキというものでしょうか、甘くておいしかったですわ」
「殿下と妃殿下が切り分けられていたのは驚いたがね」
「あの魔法の使い方にも驚いたものだよ」
 料理に対する評価も聞こえてくる。これには腕によりをかけて作ったチェリシアも大満足のようで、両手を腰に当ててドヤ顔を決めていた。ロゼリアとアイリスがその横で呆れて引いていたが、チェリシアは気にしていないようだった。
 ペシエラはシルヴァノと一緒にお祝いの挨拶の対応のために、国王たちと一緒に居る。とても今は挨拶に行けない状況のようだ。小さい頃からずっと一緒だった妹だけに、直にお祝いを言ってあげたいチェリシアだったが、今はとにかく我慢である。
 それに加えて、親とも合流できない状況が続いており、ロゼリアとチェリシアとアイリスは、自分たちの侍女と一緒に部屋の隅の方へ移動して椅子に座ってくつろいでいる。幸い、自分たちの方に挨拶しに来る貴族が居ないので、三人は黙々と料理を味わっていた。
「はぁ、やっぱりペシエラはきれいだったわね。今度は私たちの番かぁ」
「ええ、そうね。ただ、アイリスの相手を早く見つけないといけないわよ」
「私ですか?」
 チェリシアとロゼリアの話の中で、アイリスの相手の話に及ぶ。
「うん、やっぱりそうよね。アイリスはお母さんの事もあったから、どうしても相手探しには慎重になっちゃうわよね」
「コーラル家の存続のために婿入りになるものね。お家存続のためにさらに慎重にならざるを得ないものね」
 ロゼリアとチェリシアで盛り上がる。それも仕方ないかも知れない。何と言っても国の東側の大部分がコーラル伯爵領なのだから。そもそもは大した産業もない広い土地だったが、今は産業も豊かで地味に狙っている貴族が多い。万一コーラル家が消滅ともなれば、その土地を巡って争いの元にもなりかねないのだ。
 ちなみに逆行前は、ペシエラが死んだ時も父親のプラウスが治めていた。貧乏だったがゆえに戦争には駆り出されずに済んだのだった。
 めでたい席ではあるが、貴族たちが集まる宴の席ではこういった水面下の駆け引きが激しいのである。結婚式があった事もあって、特に婚姻関係の話が盛り上がりを見せているようだ。
「主人、ただいま戻りました」
 ゆらりと黒い影が揺れて、ニーズヘッグが現れた。レイニを一時的に召喚する代わりにカイスの辺りの警備を任せていたのだ。
「ご苦労様、ニーズヘッグ」
 アイリスは労う言葉を掛けると、近くのテーブルから適当に料理をかき集めてニーズヘッグに与えた。
「ありがとうございます、主人」
 すっとお辞儀をしてから料理を受け取るニーズヘッグ。そのニーズヘッグをジーっと見るロゼリアとチェリシア。その視線に気づいたニーズヘッグは頭を上げる。
「……どうかされましたか?」
 ニーズヘッグが首を傾げている。
「アイリスを慕っているという点では、これはありかも知れませんね」
「そうね。やっぱりロゼリアもそう思う?」
 ロゼリアとチェリシアがこそこそと話している。侍女三人はすまし顔のまま立っているが、アイリスとニーズヘッグは首を傾げて二人を見ている。
「ニーズヘッグ、アイリスと結婚しませんか?」
「はぁ?!」
 チェリシアが言い放った言葉に、ニーズヘッグの顔がとても愉快な事になっている。
「ええ、そうね。アイリスの事は好きなのでしょう?」
「ぐ、ぐぬぬぬ……。だが、俺は幻獣で厄災の暗龍とまで言われた存在だぞ。人間と結婚なんぞできるか!」
 必死になって言い訳をするニーズヘッグの顔は真っ赤である。この暗龍、実に非常に分かりやすいものだ。
 しかしながら、アイリスの顔を見てみると、こちらもこちらでまんざらではない様子。ニーズヘッグは意外とイケメンなのである。
「ニーズヘッグ、諦めた方がいいわよ。あなたがアイリス様を好いている事はみんなが知ってる事なんですから」
「何だと?!」
「ええ、滅多に居ないとはいえ、たまにお見かけする姿といったら、それはそれは微笑ましい限りです」
「ぐ……が……」
 ライとキャノルから目撃証言をされて、あえなく撃沈するニーズヘッグ。結婚式の余波は、思わぬところで再び厄災の暗龍を撃破する運びとなったのである。
 アイリスとニーズヘッグはお互いにまんざらではないようなので、あとはプラウスとサルモアを説得できるかだけの問題のようだ。
 こうして、ロゼリア十八歳の年末パーティーの時間は過ぎていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...