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最終章 乙女ゲーム後
第340話 かくせいの能力
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「村長様、実は、アイリスにはとんでもない能力があるのです」
「とんでもない能力ですと?!」
チェリシアが切り出すと、村長は大げさに驚いた。そして、もう一度三人で頷き合うと、
「村長様、一度外に出ましょう。ここで行うには狭すぎます」
アイリスがそう言って立ち上がった。村長はわけが分からなかったが、とりあえずそれを了承する。こうして、村長の家を出て少し広い場所へとやって来た。
「ここなら大丈夫ですかね」
アイリスは周りをきょろきょろと見回して、ふうっと深呼吸を一つする。そして、叫んだ。
「召喚、フェンリル!」
青白い光が放たれたと思うと、同色の魔力の煙が舞う。そして、その煙が晴れると、そこには白銀の大きな狼がでーんと座っていた。
「な、な、何ですかな、この狼は!」
村長は驚いている。ちゃんと狼だと認識しているあたり知見はある模様。
「ふははははっ! 我は神獣フェンリル。誇り高き氷の狼よ!」
高らかに名乗るフェンリル。村長とその護衛は腰を抜かしてその場に座り込んだ。近くの村人も何だ何だと見に来ては騒ぎ始めていた。
「安心するがよい。我が友人たるベルの末裔ならば、友人も同然。大人しくしていれば何もせん」
フェンリルは鋭い視線を向けて、そう宣言した。
「ベル……。我らが先祖ベル・フラウアード様の事でございますか?!」
腰を抜かした状態で問い掛ける村長。
「いかにも」
フェンリルはこうとだけ答える。すると、村長はふるふると震え始めた。
「おおお……、伝承は本当だったのでございますか。我が一族は氷の狼の庇護の下にあると」
「うむ」
村長の言葉に、フェンリルは頷いた。
「今の我の主人アイリスとその母アメジスタは、ベル・フラウアードの正式な血筋。数多の奇跡の一つか、アイリスには神獣使いの力が顕現した」
「な、なんですと?!」
フェンリルが告げた衝撃の事実に、村長たちが大声で驚いている。絶えたと思われていた神獣使いの能力が、この世に再び出現したのだ。一族として驚かないわけにはいかない。
「母アメジスタには能力はない。おそらく、相手方のパープリアの一族の影響だろう。これも偶然の産物としか言えんだろうな。パープリアの一族は非道であるし、アイリスの兄ヴィオレスにも能力はないのだからな」
フェンリルはアイリスが奇跡の存在だと結論付けた。
まあ実際に奇跡の存在ではある。なにせロゼリアとペシエラの逆行前の時間軸では計画に失敗して死んでいるし、今回も本来なら処刑レベルの話なのにこっそり生かされているわけなのだから。生きていなければこの能力に気付く事もできなかった。これが奇跡と言わずしてなんと言おう。
この流れを受けて、アイリスとフェンリルはライの事も紹介する。ライの正体が元妖精で魔物となったハイスプライトだと知ると、これまた村に衝撃が走っていた。魔物がおとなしい事もそうだが、アイリスの侍女をしている事がその原因のようである。
「アイリスはかなりの神獣、幻獣、精霊、魔物と契約しておるからな。よっぽどでないと手出しはできぬ。そこのペシエラなら楽に貫通してきそうだがな」
「私にはそんな度胸はありませんわよ。ふざけた事を仰らないで下さらない?」
フェンリルの悪ふざけに、ペシエラはご立腹である。だが、それとは裏腹に笑いが起きていた。その状況に、ペシエラは更にご立腹となった。
チェリシアとアイリスがペシエラを宥める中、神獣使いの帰還とアメジスタの帰郷を祝して宴会が催された。村の広場で火を囲んでの飲み食いというシンプルな宴である。火の周りでは誰が申し合わせたのか、よく分からない踊りが始まった。チェリシアが見る限りはなんとなく盆踊りっぽい動きである。
さすがに宴の中心はアメジスタとアイリス母娘であり、料理や飲み物を差し入れにやって来る村人の姿が見られた。分かるがそこそこ控えて欲しいと、ライが時々遮っていた。まぁそれはそうだろう。あまりに頻繁に来られては親子の会話が弾まないのだ。親の故郷での会話なのだから、そこは気を遣ってもらいたいものである。
チェリシアとペシエラが楽しむ横では、キャノルがお酒を飲んで酔っ払っていた。一応、学園卒業する年齢まではお酒は飲むなという法律があるが、キャノルはとっくにそんな年齢は突破している。飲むのは問題ないのだが、ウザ絡みだけはやめてほしい。チェリシアがそんな事を思っていると、ペシエラが怒ってキャノルをす巻きにしていた。文句を言ってくるキャノルに、今度は水をかぶせるペシエラ。まったく遠慮がない。それが終わると今度は説教が始まる。チェリシアはそれを苦笑いしながら眺める事しかできなかった。
ひと晩騒いだ翌日は村を見学して、アメジスタの両親にも挨拶をしてもう一泊した。結局、神獣使いの話がいろいろ聞けるかと思ったが、伝承自体が風化気味で新しい情報はなかった。ただ、ベルの墓というものがあるらしいので、その墓参りだけはしておいた。
帰る前にアメジスタに村に残るか問い掛けたが、アイリスに母親らしい事をあまりできなかったと言って、一緒に帰る事になった。村を出る時には、さすがに泣きそうな顔をしながら手を精一杯振っていた姿が印象的である。
こうやって、アメジスタに帰省をさせようというペシエラの企画は、ひとまず成功に終わった。さすがにアイリスの紹介ではとてつもなく驚かれたが、これはこれで予想の範疇である。
何にしても一度訪れておいてよかったと、チェリシアたちはそう思うのだった。
「とんでもない能力ですと?!」
チェリシアが切り出すと、村長は大げさに驚いた。そして、もう一度三人で頷き合うと、
「村長様、一度外に出ましょう。ここで行うには狭すぎます」
アイリスがそう言って立ち上がった。村長はわけが分からなかったが、とりあえずそれを了承する。こうして、村長の家を出て少し広い場所へとやって来た。
「ここなら大丈夫ですかね」
アイリスは周りをきょろきょろと見回して、ふうっと深呼吸を一つする。そして、叫んだ。
「召喚、フェンリル!」
青白い光が放たれたと思うと、同色の魔力の煙が舞う。そして、その煙が晴れると、そこには白銀の大きな狼がでーんと座っていた。
「な、な、何ですかな、この狼は!」
村長は驚いている。ちゃんと狼だと認識しているあたり知見はある模様。
「ふははははっ! 我は神獣フェンリル。誇り高き氷の狼よ!」
高らかに名乗るフェンリル。村長とその護衛は腰を抜かしてその場に座り込んだ。近くの村人も何だ何だと見に来ては騒ぎ始めていた。
「安心するがよい。我が友人たるベルの末裔ならば、友人も同然。大人しくしていれば何もせん」
フェンリルは鋭い視線を向けて、そう宣言した。
「ベル……。我らが先祖ベル・フラウアード様の事でございますか?!」
腰を抜かした状態で問い掛ける村長。
「いかにも」
フェンリルはこうとだけ答える。すると、村長はふるふると震え始めた。
「おおお……、伝承は本当だったのでございますか。我が一族は氷の狼の庇護の下にあると」
「うむ」
村長の言葉に、フェンリルは頷いた。
「今の我の主人アイリスとその母アメジスタは、ベル・フラウアードの正式な血筋。数多の奇跡の一つか、アイリスには神獣使いの力が顕現した」
「な、なんですと?!」
フェンリルが告げた衝撃の事実に、村長たちが大声で驚いている。絶えたと思われていた神獣使いの能力が、この世に再び出現したのだ。一族として驚かないわけにはいかない。
「母アメジスタには能力はない。おそらく、相手方のパープリアの一族の影響だろう。これも偶然の産物としか言えんだろうな。パープリアの一族は非道であるし、アイリスの兄ヴィオレスにも能力はないのだからな」
フェンリルはアイリスが奇跡の存在だと結論付けた。
まあ実際に奇跡の存在ではある。なにせロゼリアとペシエラの逆行前の時間軸では計画に失敗して死んでいるし、今回も本来なら処刑レベルの話なのにこっそり生かされているわけなのだから。生きていなければこの能力に気付く事もできなかった。これが奇跡と言わずしてなんと言おう。
この流れを受けて、アイリスとフェンリルはライの事も紹介する。ライの正体が元妖精で魔物となったハイスプライトだと知ると、これまた村に衝撃が走っていた。魔物がおとなしい事もそうだが、アイリスの侍女をしている事がその原因のようである。
「アイリスはかなりの神獣、幻獣、精霊、魔物と契約しておるからな。よっぽどでないと手出しはできぬ。そこのペシエラなら楽に貫通してきそうだがな」
「私にはそんな度胸はありませんわよ。ふざけた事を仰らないで下さらない?」
フェンリルの悪ふざけに、ペシエラはご立腹である。だが、それとは裏腹に笑いが起きていた。その状況に、ペシエラは更にご立腹となった。
チェリシアとアイリスがペシエラを宥める中、神獣使いの帰還とアメジスタの帰郷を祝して宴会が催された。村の広場で火を囲んでの飲み食いというシンプルな宴である。火の周りでは誰が申し合わせたのか、よく分からない踊りが始まった。チェリシアが見る限りはなんとなく盆踊りっぽい動きである。
さすがに宴の中心はアメジスタとアイリス母娘であり、料理や飲み物を差し入れにやって来る村人の姿が見られた。分かるがそこそこ控えて欲しいと、ライが時々遮っていた。まぁそれはそうだろう。あまりに頻繁に来られては親子の会話が弾まないのだ。親の故郷での会話なのだから、そこは気を遣ってもらいたいものである。
チェリシアとペシエラが楽しむ横では、キャノルがお酒を飲んで酔っ払っていた。一応、学園卒業する年齢まではお酒は飲むなという法律があるが、キャノルはとっくにそんな年齢は突破している。飲むのは問題ないのだが、ウザ絡みだけはやめてほしい。チェリシアがそんな事を思っていると、ペシエラが怒ってキャノルをす巻きにしていた。文句を言ってくるキャノルに、今度は水をかぶせるペシエラ。まったく遠慮がない。それが終わると今度は説教が始まる。チェリシアはそれを苦笑いしながら眺める事しかできなかった。
ひと晩騒いだ翌日は村を見学して、アメジスタの両親にも挨拶をしてもう一泊した。結局、神獣使いの話がいろいろ聞けるかと思ったが、伝承自体が風化気味で新しい情報はなかった。ただ、ベルの墓というものがあるらしいので、その墓参りだけはしておいた。
帰る前にアメジスタに村に残るか問い掛けたが、アイリスに母親らしい事をあまりできなかったと言って、一緒に帰る事になった。村を出る時には、さすがに泣きそうな顔をしながら手を精一杯振っていた姿が印象的である。
こうやって、アメジスタに帰省をさせようというペシエラの企画は、ひとまず成功に終わった。さすがにアイリスの紹介ではとてつもなく驚かれたが、これはこれで予想の範疇である。
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