344 / 488
最終章 乙女ゲーム後
第339話 故郷の村でお話を
しおりを挟む
チェリシアたちが集落に近付くと、村の外に居た門番と思しき男性が武器を手に身構えた。かなり警戒しているようだ。
だが、その警戒も、チェリシアたちと一緒に居たある女性を見て解かれる事となった。
「もしかして、アメジスタちゃんかい? いやぁ、懐かしいなぁ」
そう、アメジスタの姿を見つけて懐かしんだのである。
今のアイリスの年齢を、いや、その上に兄のヴィオレスが居るのを考えると二十年以上居なかった人物である。そんなに時間が経っていて、果たして認識できるものだろうか。よっぽど特徴がないと無理である。
「そういうあなたは、コバルかしら。やんちゃだったのに門番とはね」
アメジスタはくすくすと笑っている。
「さすがにこの年になれば俺だって落ち着くさ。それにしても、そっちの子たちはアメジスタちゃんの子どもたちかい? 貴族様にもらわれていってみんな心配してたけど、子だくさんとはめでてえなあ」
コバルは目頭を押さえて感動しているようである。
「違うわよ。私の子どもはこのアイリスだけよ。あとの子はお世話になっているところの息女様とその侍女よ」
「ほえぇ、その眼鏡の子がアメジスタちゃんの子かい。またべっぴんさんだなぁ」
コバルが感動しているが、ペシエラが横から出てきて話に割り込んだ。
「感動の再会を楽しんでいるところ申し訳ございませんが、こちらの村の村長様に会わせて頂けませんかしら。申し遅れましたけれど、私、ペシエラ・コーラルと申します」
ペシエラがコバルを睨むようにしながら話すと、コバルは体を震わせた。明らかにまだ子どもなペシエラだが、そのまとう雰囲気は明らかに周りと違ったのである。
「まあまあ、ペシエラ」
チェリシアが前に出てくる。
「初めまして、チェリシア・コーラルと申します。今回はアメジスタさんに帰省をさせようというペシエラの心遣いでやって来たのです。突然のご訪問で驚かれるのも無理はございませんが、村長様に面会させて頂けないでしょうか」
威圧的に話すペシエラとは対照的に、元日本人の丁寧な挨拶を繰り出すチェリシア。これによって、コバルの緊張は少々解れたようである。
「畏まりました。少々お待ち下さい」
貴族相手となって、コバルは丁寧な言葉遣いになった。
近くに居た村人に声を掛けると、村長へと伝令に行かせる。こういう融通が利くあたりが村という感じだ。
そういえば、村が全然騒ぎが起こっていないのには理由がある。というのもフェンリルがこの場に居ないからである。知らない村人を驚かせてはいけないと、フェンリルには村の外で待機してもらっているのだ。後でアイリスの事を説明する上で重要な役割があるがためである。
しばらく待つと交代の門番がやって来て、コバルと交代する。そして、コバルの案内で村長の家まで向かった。
「村長、コーラル伯爵家の令嬢たちをお連れしました」
「うむ、通せ」
「はっ! どうぞ、お入り下さい」
村長の家に入ると、目の前にはだいぶ老けた感じの男性が座っていた。その男性を目の前にして、アメジスタがお辞儀をする。
「セリアン村長、お久しゅうございます。アメジスタでございます」
「おお、アメジスタか。元気にしておったか」
「はい。いろいろございましたが、今はコーラル伯爵家にてお世話になっております」
「そうかそうか」
簡単に話を済ませると、全員に座るように促し、円を描いてラグの上に座った。
全員が座ったところで、これまでの話を村長にする。その話に村長は驚いたり首を捻ったり、とにかく反応が忙しいようだった。
「そうか……、お前を妻にと言ってきた男は、そんな狂った男であったか」
「はい、あの男は私に毒を盛り、軟禁していました。息子はほとんど構わず、娘にまで汚い事をさせる始末で……、彼女たちが居なければどうなっていたか、本当に恐ろしいものでございました」
アメジスタは唇をかみしめて、ぎゅっと身を引き締める。相当に怖い思いをしていた事がよく分かる。
「今では、打って変わって幸せです。息子は別の家に引き取られて騎士を目指しておりますし、娘は今ここに同席しております。村のみんなに会わせられるかと思うと、本当に嬉しくて……」
アメジスタはここまで言って、涙で言葉を詰まらせた。
さすがにこの話を聞いた村長も、なんと言葉を掛けていいのか分からない。そのくらいに酷い生活の時期が長かったのだ。
アメジスタが言葉に詰まってしまい、話が続かなくなってしまった。なので、ここからはチェリシアとペシエラの番である。
「ここからは私たちがお話させて頂きます」
チェリシアが村長に言葉を掛ける。村長は無言で頷いたので、了承と理解した二人が話を始める。
アイリスはパープリアの手駒として扱われ、王族の抹殺を実行した事を話すと、村長は言葉を失っていた。だが、そのアイリスを助ける気でいたペシエラの妙案によって、今もこうして生きていると伝えると、村長は深くペシエラに頭を下げてきた。
「なんと慈悲深い……、さすがは未来の女王陛下。恐れ入ります」
さすがはアイヴォリー王国の中、この村にもペシエラの話は伝わっていたようだ。こう言われたペシエラは、咳払いを一つする。
「村長、感動するのはまだ早いですわ。お話はここからですわよ?」
「はい?」
ペシエラの言葉に顔を上げて目をぱちぱちとする村長。そう、驚いたり感動したりするのはまだ早い。アイリスに関する話はここからが本番なのだ。
チェリシア、ペシエラ、アイリスは互いの顔を見ると、最後は同時に頷く。そして、本題を切り出した。
だが、その警戒も、チェリシアたちと一緒に居たある女性を見て解かれる事となった。
「もしかして、アメジスタちゃんかい? いやぁ、懐かしいなぁ」
そう、アメジスタの姿を見つけて懐かしんだのである。
今のアイリスの年齢を、いや、その上に兄のヴィオレスが居るのを考えると二十年以上居なかった人物である。そんなに時間が経っていて、果たして認識できるものだろうか。よっぽど特徴がないと無理である。
「そういうあなたは、コバルかしら。やんちゃだったのに門番とはね」
アメジスタはくすくすと笑っている。
「さすがにこの年になれば俺だって落ち着くさ。それにしても、そっちの子たちはアメジスタちゃんの子どもたちかい? 貴族様にもらわれていってみんな心配してたけど、子だくさんとはめでてえなあ」
コバルは目頭を押さえて感動しているようである。
「違うわよ。私の子どもはこのアイリスだけよ。あとの子はお世話になっているところの息女様とその侍女よ」
「ほえぇ、その眼鏡の子がアメジスタちゃんの子かい。またべっぴんさんだなぁ」
コバルが感動しているが、ペシエラが横から出てきて話に割り込んだ。
「感動の再会を楽しんでいるところ申し訳ございませんが、こちらの村の村長様に会わせて頂けませんかしら。申し遅れましたけれど、私、ペシエラ・コーラルと申します」
ペシエラがコバルを睨むようにしながら話すと、コバルは体を震わせた。明らかにまだ子どもなペシエラだが、そのまとう雰囲気は明らかに周りと違ったのである。
「まあまあ、ペシエラ」
チェリシアが前に出てくる。
「初めまして、チェリシア・コーラルと申します。今回はアメジスタさんに帰省をさせようというペシエラの心遣いでやって来たのです。突然のご訪問で驚かれるのも無理はございませんが、村長様に面会させて頂けないでしょうか」
威圧的に話すペシエラとは対照的に、元日本人の丁寧な挨拶を繰り出すチェリシア。これによって、コバルの緊張は少々解れたようである。
「畏まりました。少々お待ち下さい」
貴族相手となって、コバルは丁寧な言葉遣いになった。
近くに居た村人に声を掛けると、村長へと伝令に行かせる。こういう融通が利くあたりが村という感じだ。
そういえば、村が全然騒ぎが起こっていないのには理由がある。というのもフェンリルがこの場に居ないからである。知らない村人を驚かせてはいけないと、フェンリルには村の外で待機してもらっているのだ。後でアイリスの事を説明する上で重要な役割があるがためである。
しばらく待つと交代の門番がやって来て、コバルと交代する。そして、コバルの案内で村長の家まで向かった。
「村長、コーラル伯爵家の令嬢たちをお連れしました」
「うむ、通せ」
「はっ! どうぞ、お入り下さい」
村長の家に入ると、目の前にはだいぶ老けた感じの男性が座っていた。その男性を目の前にして、アメジスタがお辞儀をする。
「セリアン村長、お久しゅうございます。アメジスタでございます」
「おお、アメジスタか。元気にしておったか」
「はい。いろいろございましたが、今はコーラル伯爵家にてお世話になっております」
「そうかそうか」
簡単に話を済ませると、全員に座るように促し、円を描いてラグの上に座った。
全員が座ったところで、これまでの話を村長にする。その話に村長は驚いたり首を捻ったり、とにかく反応が忙しいようだった。
「そうか……、お前を妻にと言ってきた男は、そんな狂った男であったか」
「はい、あの男は私に毒を盛り、軟禁していました。息子はほとんど構わず、娘にまで汚い事をさせる始末で……、彼女たちが居なければどうなっていたか、本当に恐ろしいものでございました」
アメジスタは唇をかみしめて、ぎゅっと身を引き締める。相当に怖い思いをしていた事がよく分かる。
「今では、打って変わって幸せです。息子は別の家に引き取られて騎士を目指しておりますし、娘は今ここに同席しております。村のみんなに会わせられるかと思うと、本当に嬉しくて……」
アメジスタはここまで言って、涙で言葉を詰まらせた。
さすがにこの話を聞いた村長も、なんと言葉を掛けていいのか分からない。そのくらいに酷い生活の時期が長かったのだ。
アメジスタが言葉に詰まってしまい、話が続かなくなってしまった。なので、ここからはチェリシアとペシエラの番である。
「ここからは私たちがお話させて頂きます」
チェリシアが村長に言葉を掛ける。村長は無言で頷いたので、了承と理解した二人が話を始める。
アイリスはパープリアの手駒として扱われ、王族の抹殺を実行した事を話すと、村長は言葉を失っていた。だが、そのアイリスを助ける気でいたペシエラの妙案によって、今もこうして生きていると伝えると、村長は深くペシエラに頭を下げてきた。
「なんと慈悲深い……、さすがは未来の女王陛下。恐れ入ります」
さすがはアイヴォリー王国の中、この村にもペシエラの話は伝わっていたようだ。こう言われたペシエラは、咳払いを一つする。
「村長、感動するのはまだ早いですわ。お話はここからですわよ?」
「はい?」
ペシエラの言葉に顔を上げて目をぱちぱちとする村長。そう、驚いたり感動したりするのはまだ早い。アイリスに関する話はここからが本番なのだ。
チェリシア、ペシエラ、アイリスは互いの顔を見ると、最後は同時に頷く。そして、本題を切り出した。
1
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。
そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる