逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
341 / 431
最終章 乙女ゲーム後

第336話 見られる改善、見られぬ改善

しおりを挟む
 最後の六年次を迎える。最上級生になったからと言っても、やる事はほとんど変わらない。
 ただ、ペシエラは三年次生と同じ年齢なのに学生を指導する立場に立っていた。剣術も魔法も騎士団に相当する腕前を持っているからだった。ほぼ同い年に指導してもらう事に戸惑いも持つ学生も居たが、シルヴァノの婚約者だと知るとおとなしく従うようになった。さすが王子の威光である。
 文句を言っていた学生も、ペシエラの実際の剣術と魔法を見たら黙り込んだ。サーベルを華麗に扱う剣術、高威力の魔法を連発し、六属性すべてを操る姿。そんなものを見せつけられて黙らない方が無理というものである。このトップクラスの技術を持つペシエラの指導を受けられるとあって、この年の学生はとてもまじめに取り組んだそうな。
 さて、その姉であるチェリシアは、スノールビーの事業のさらなる安定化のために動いていた。地理的な問題のせいか、開業後の客足はそれほどよろしくはなかった。
 だが、この村は近くに鉱山があり、その疲れを癒せる温泉という設備がある。魅力自体はあるはずなのだ。
「うーん、やっぱり立地かしらね」
「そうでございますな。ここはマゼンダ領でもかなりの奥地ですからな」
 わずかな時間を使って会議をするチェリシアとトム。どうにかして人を呼び込もうとするが、なかなかうまくはいかないようである。
「それに加えて、ここは元々静かな暮らしをしていましたからな。それもあって、外部から多く人を呼び込むという事には抵抗があるように思われますぞ」
 トムがこう推察する。
 確かに、前世でも田舎暮らしで人を呼び込もうとしたが、地元の人との折り合いが付かずにうまくいかないという話を聞いた事がある。
 だが、このスノールビーは近くに鉱山もある立地なのだ。本来ならもっと栄えてもいいはずの場所である。チェリシアは、頭を悩ませた。
「というわけなの。アイリスには何か案があるかしら」
 ここでなぜか話を持ち掛けたのはアイリスである。彼女には幻獣や魔物の配下が居るので、こういう事なら詳しいのではないかと思ったからだ。
『それでしたら、地元の人と外部の人とで住む区域を分けてはいかがです?』
 こう話してきたのは、アイリスの侍女を務める魔物のライだった。
『まずは別々に住んでもらって、お互いの干渉を減らすんですよ。魔物にもよくある話ですから、そういうのって』
「なるほど、そのアイディア貰うわ」
 というわけで、ライの案を採用して、スノールビーの村長とトムを交えながら話を詰めていった。
「で、お姉様。スノールビーの件はどうなってますの?」
 ある日、久しぶりにマゼンダ商会に四人が集まった時の事、ペシエラがチェリシアに確認を取ってきた。
「元からの住民の一部がまだ反発してるから、ちょっと村を広げて新しい人はそっちに住むように誘導してるところよ」
「先日相談してきた事ですね。ライの案を採用したんですね」
「なるほど、あそこの近くには鉱山があるし、温泉や温水を使った畑という新しい産業ができて、新しい人が入ってきてるんだったわね」
「というか、お姉様。よくそんな時間がありましたわね。普通に行けば、片道ですら何日もかかる場所ですのに」
 ペシエラの目がギラリとチェリシアを睨む。その視線に、チェリシアはすすっと視線を逸らした。
「……テレポートを使ってますわね。便利ですわよね、あの距離を一瞬で行き来できるんですから」
 ペシエラはため息を吐くと紅茶を飲んだ。
「呆れたわね。そこまであそこに力を入れてるのね。お父様とお兄様は怒ってましたわよ?」
「うはぁ……。ロゼリア、それホント?」
「チェリシアは嫁入り前で、まだ他家の人間ですもの。自分の領地で勝手をされて怒らない人が居ると思う?」
「そ、それは……、確かにそうね」
 チェリシアはロゼリアに頭を下げる。
「私に謝られても困るわよ。まあ、マゼンダ商会の事業って事で大目に見てもらってるんだから、お父様とお兄様にはちゃんとお礼を言っておきなさいよ」
「仰る通りですぅ!」
 ロゼリアに言われっぱなしのチェリシアは、今度スノールビーで採れた作物を使った手料理でもご馳走しようと考えた。
「まあ、トムさんが許可してるのもあるから、そこまで怒られないと思うわよ。あと、プラウス様に苦情を入れるのをやめてるんだから、しっかり反省してよ?」
 ロゼリアからぼろっかすに言われて、チェリシアは深く反省した。その様子にペシエラは呆れ、アイリスは苦笑いをしていた。キャノルも置いてきぼりだったので、チェリシアを擁護する事はなかった。もはや四面楚歌。菓子折りを持っての謝罪は必須案件であった。好き放題にしていたチェリシアが全面的に悪いのである。ひと言くらい相談すればよかっただろうに。
 まったく、最初はロゼリアを見てびびっていた内気なチェリシアはどこへ行ったのやら……。すっかり今では、勝手に暴れまわるただのトラブルメーカーである。愛されヒロインじゃなきゃ今頃どうなっていたやら。まったくもって胃の痛い話だ。
 とはいえ、逆行前と比べると退屈しない日々が続いている。それだけに、ロゼリアの心中もなかなかに複雑なものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...