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最終章 乙女ゲーム後
第336話 見られる改善、見られぬ改善
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最後の六年次を迎える。最上級生になったからと言っても、やる事はほとんど変わらない。
ただ、ペシエラは三年次生と同じ年齢なのに学生を指導する立場に立っていた。剣術も魔法も騎士団に相当する腕前を持っているからだった。ほぼ同い年に指導してもらう事に戸惑いも持つ学生も居たが、シルヴァノの婚約者だと知るとおとなしく従うようになった。さすが王子の威光である。
文句を言っていた学生も、ペシエラの実際の剣術と魔法を見たら黙り込んだ。サーベルを華麗に扱う剣術、高威力の魔法を連発し、六属性すべてを操る姿。そんなものを見せつけられて黙らない方が無理というものである。このトップクラスの技術を持つペシエラの指導を受けられるとあって、この年の学生はとてもまじめに取り組んだそうな。
さて、その姉であるチェリシアは、スノールビーの事業のさらなる安定化のために動いていた。地理的な問題のせいか、開業後の客足はそれほどよろしくはなかった。
だが、この村は近くに鉱山があり、その疲れを癒せる温泉という設備がある。魅力自体はあるはずなのだ。
「うーん、やっぱり立地かしらね」
「そうでございますな。ここはマゼンダ領でもかなりの奥地ですからな」
わずかな時間を使って会議をするチェリシアとトム。どうにかして人を呼び込もうとするが、なかなかうまくはいかないようである。
「それに加えて、ここは元々静かな暮らしをしていましたからな。それもあって、外部から多く人を呼び込むという事には抵抗があるように思われますぞ」
トムがこう推察する。
確かに、前世でも田舎暮らしで人を呼び込もうとしたが、地元の人との折り合いが付かずにうまくいかないという話を聞いた事がある。
だが、このスノールビーは近くに鉱山もある立地なのだ。本来ならもっと栄えてもいいはずの場所である。チェリシアは、頭を悩ませた。
「というわけなの。アイリスには何か案があるかしら」
ここでなぜか話を持ち掛けたのはアイリスである。彼女には幻獣や魔物の配下が居るので、こういう事なら詳しいのではないかと思ったからだ。
『それでしたら、地元の人と外部の人とで住む区域を分けてはいかがです?』
こう話してきたのは、アイリスの侍女を務める魔物のライだった。
『まずは別々に住んでもらって、お互いの干渉を減らすんですよ。魔物にもよくある話ですから、そういうのって』
「なるほど、そのアイディア貰うわ」
というわけで、ライの案を採用して、スノールビーの村長とトムを交えながら話を詰めていった。
「で、お姉様。スノールビーの件はどうなってますの?」
ある日、久しぶりにマゼンダ商会に四人が集まった時の事、ペシエラがチェリシアに確認を取ってきた。
「元からの住民の一部がまだ反発してるから、ちょっと村を広げて新しい人はそっちに住むように誘導してるところよ」
「先日相談してきた事ですね。ライの案を採用したんですね」
「なるほど、あそこの近くには鉱山があるし、温泉や温水を使った畑という新しい産業ができて、新しい人が入ってきてるんだったわね」
「というか、お姉様。よくそんな時間がありましたわね。普通に行けば、片道ですら何日もかかる場所ですのに」
ペシエラの目がギラリとチェリシアを睨む。その視線に、チェリシアはすすっと視線を逸らした。
「……テレポートを使ってますわね。便利ですわよね、あの距離を一瞬で行き来できるんですから」
ペシエラはため息を吐くと紅茶を飲んだ。
「呆れたわね。そこまであそこに力を入れてるのね。お父様とお兄様は怒ってましたわよ?」
「うはぁ……。ロゼリア、それホント?」
「チェリシアは嫁入り前で、まだ他家の人間ですもの。自分の領地で勝手をされて怒らない人が居ると思う?」
「そ、それは……、確かにそうね」
チェリシアはロゼリアに頭を下げる。
「私に謝られても困るわよ。まあ、マゼンダ商会の事業って事で大目に見てもらってるんだから、お父様とお兄様にはちゃんとお礼を言っておきなさいよ」
「仰る通りですぅ!」
ロゼリアに言われっぱなしのチェリシアは、今度スノールビーで採れた作物を使った手料理でもご馳走しようと考えた。
「まあ、トムさんが許可してるのもあるから、そこまで怒られないと思うわよ。あと、プラウス様に苦情を入れるのをやめてるんだから、しっかり反省してよ?」
ロゼリアからぼろっかすに言われて、チェリシアは深く反省した。その様子にペシエラは呆れ、アイリスは苦笑いをしていた。キャノルも置いてきぼりだったので、チェリシアを擁護する事はなかった。もはや四面楚歌。菓子折りを持っての謝罪は必須案件であった。好き放題にしていたチェリシアが全面的に悪いのである。ひと言くらい相談すればよかっただろうに。
まったく、最初はロゼリアを見てびびっていた内気なチェリシアはどこへ行ったのやら……。すっかり今では、勝手に暴れまわるただのトラブルメーカーである。愛されヒロインじゃなきゃ今頃どうなっていたやら。まったくもって胃の痛い話だ。
とはいえ、逆行前と比べると退屈しない日々が続いている。それだけに、ロゼリアの心中もなかなかに複雑なものだった。
ただ、ペシエラは三年次生と同じ年齢なのに学生を指導する立場に立っていた。剣術も魔法も騎士団に相当する腕前を持っているからだった。ほぼ同い年に指導してもらう事に戸惑いも持つ学生も居たが、シルヴァノの婚約者だと知るとおとなしく従うようになった。さすが王子の威光である。
文句を言っていた学生も、ペシエラの実際の剣術と魔法を見たら黙り込んだ。サーベルを華麗に扱う剣術、高威力の魔法を連発し、六属性すべてを操る姿。そんなものを見せつけられて黙らない方が無理というものである。このトップクラスの技術を持つペシエラの指導を受けられるとあって、この年の学生はとてもまじめに取り組んだそうな。
さて、その姉であるチェリシアは、スノールビーの事業のさらなる安定化のために動いていた。地理的な問題のせいか、開業後の客足はそれほどよろしくはなかった。
だが、この村は近くに鉱山があり、その疲れを癒せる温泉という設備がある。魅力自体はあるはずなのだ。
「うーん、やっぱり立地かしらね」
「そうでございますな。ここはマゼンダ領でもかなりの奥地ですからな」
わずかな時間を使って会議をするチェリシアとトム。どうにかして人を呼び込もうとするが、なかなかうまくはいかないようである。
「それに加えて、ここは元々静かな暮らしをしていましたからな。それもあって、外部から多く人を呼び込むという事には抵抗があるように思われますぞ」
トムがこう推察する。
確かに、前世でも田舎暮らしで人を呼び込もうとしたが、地元の人との折り合いが付かずにうまくいかないという話を聞いた事がある。
だが、このスノールビーは近くに鉱山もある立地なのだ。本来ならもっと栄えてもいいはずの場所である。チェリシアは、頭を悩ませた。
「というわけなの。アイリスには何か案があるかしら」
ここでなぜか話を持ち掛けたのはアイリスである。彼女には幻獣や魔物の配下が居るので、こういう事なら詳しいのではないかと思ったからだ。
『それでしたら、地元の人と外部の人とで住む区域を分けてはいかがです?』
こう話してきたのは、アイリスの侍女を務める魔物のライだった。
『まずは別々に住んでもらって、お互いの干渉を減らすんですよ。魔物にもよくある話ですから、そういうのって』
「なるほど、そのアイディア貰うわ」
というわけで、ライの案を採用して、スノールビーの村長とトムを交えながら話を詰めていった。
「で、お姉様。スノールビーの件はどうなってますの?」
ある日、久しぶりにマゼンダ商会に四人が集まった時の事、ペシエラがチェリシアに確認を取ってきた。
「元からの住民の一部がまだ反発してるから、ちょっと村を広げて新しい人はそっちに住むように誘導してるところよ」
「先日相談してきた事ですね。ライの案を採用したんですね」
「なるほど、あそこの近くには鉱山があるし、温泉や温水を使った畑という新しい産業ができて、新しい人が入ってきてるんだったわね」
「というか、お姉様。よくそんな時間がありましたわね。普通に行けば、片道ですら何日もかかる場所ですのに」
ペシエラの目がギラリとチェリシアを睨む。その視線に、チェリシアはすすっと視線を逸らした。
「……テレポートを使ってますわね。便利ですわよね、あの距離を一瞬で行き来できるんですから」
ペシエラはため息を吐くと紅茶を飲んだ。
「呆れたわね。そこまであそこに力を入れてるのね。お父様とお兄様は怒ってましたわよ?」
「うはぁ……。ロゼリア、それホント?」
「チェリシアは嫁入り前で、まだ他家の人間ですもの。自分の領地で勝手をされて怒らない人が居ると思う?」
「そ、それは……、確かにそうね」
チェリシアはロゼリアに頭を下げる。
「私に謝られても困るわよ。まあ、マゼンダ商会の事業って事で大目に見てもらってるんだから、お父様とお兄様にはちゃんとお礼を言っておきなさいよ」
「仰る通りですぅ!」
ロゼリアに言われっぱなしのチェリシアは、今度スノールビーで採れた作物を使った手料理でもご馳走しようと考えた。
「まあ、トムさんが許可してるのもあるから、そこまで怒られないと思うわよ。あと、プラウス様に苦情を入れるのをやめてるんだから、しっかり反省してよ?」
ロゼリアからぼろっかすに言われて、チェリシアは深く反省した。その様子にペシエラは呆れ、アイリスは苦笑いをしていた。キャノルも置いてきぼりだったので、チェリシアを擁護する事はなかった。もはや四面楚歌。菓子折りを持っての謝罪は必須案件であった。好き放題にしていたチェリシアが全面的に悪いのである。ひと言くらい相談すればよかっただろうに。
まったく、最初はロゼリアを見てびびっていた内気なチェリシアはどこへ行ったのやら……。すっかり今では、勝手に暴れまわるただのトラブルメーカーである。愛されヒロインじゃなきゃ今頃どうなっていたやら。まったくもって胃の痛い話だ。
とはいえ、逆行前と比べると退屈しない日々が続いている。それだけに、ロゼリアの心中もなかなかに複雑なものだった。
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