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最終章 乙女ゲーム後
第332話 五年次・夏旅行2
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食堂で見せてもらった魚の骨抜きの魔道具は、なんとも不思議なものだった。
大きな骨は最初のに人の手で取り除くのだが、その後の切り身を魔道具に設置して魔道具を作動せると、まるで吸い出されるように残った骨が切り身から抜け出てきたのだ。どういう仕組みなのか聞いてみたいが、発案者であるチェリシアの説明もまったく意味不明だった。どうやら感覚のようである。でも、これのおかげで口の中やのどに骨が刺さる事故は防げているので、とりあえずヨシである。
食堂へお礼を言って、チェリシアたちはプライベートビーチに移動する。このプライベートビーチはコーラル家とマゼンダ家だけが使える特別な場所である。周りを木の柵で囲まれている。
「ここが噂の砂浜ですか」
「きれいですわね」
ブラッサとプラティナがそれぞれに感想を述べている。
「あそこの更衣室で着替えて下さいな。男女別になってます」
チェリシアは水着に着替えるべく、更衣室へと案内する。この世界で海や湖などに入る事はあまり一般的ではないが、ここ数年はシェリアの人はだいぶ海で楽しむようになってきていた。ただ、水着は値段が張るので、普及にはまだほど遠そうである。
さて、水着に着替えたチェリシアたち。基本的に女性はあまり肌をさらさないので、プラティナとブラッサの水着は布が多めである。ワンピース型の水着で、腕と脚はだいぶ素肌が見えている。それ比べてチェリシアはセパレート型の水着でへそまで見せている。さすが異世界経験者である。
「ずいぶんと大胆な水着ですわね、チェリシアさん」
「そうですか? これでもまだ布は多いのですよ。でも、今は伯爵令嬢ですので、これ以上はさすがに止められましたね」
「まったくですよ。この方にはそういう貴族の常識があまり通用しませんから」
「ちょっと、キャノル?」
プラティナと話していると、唯一ついて来ている使用人であるキャノルがツッコミを入れてきた。チェリシアが怒ると、キャノルはつーんと顔を逸らした。それを見たプラティナとブラッサは笑っている。
「それじゃ、日焼け止めの魔法を掛けますよ」
ぷりぷりと怒りながらも、チェリシアは日焼け止めの魔法を展開した。これがないと日焼けをして後が怖いのである。水着の跡がくっきり残ったり、水やお湯に入るとしみて痛いなどの弊害が発生するからだ。貴族令嬢にそれはさせられない。
外でチークウッドが待っていた。こっちは警備の兵士に説明を受けていたようだ。チークウッドと合流したところで、彼にも日焼け止めを掛けておく。
「しかし、海と砂浜で何かすると言っても、何をすると言うんだ?」
チークウッドは宰相の息子らしい思考である。
「そもそもこのアイヴォリーでは海も砂浜も珍しいですし、コーラル領にしか存在しませんからね」
チェリシアはまずはその希少性を挙げた。
「砂浜は意外と動きにくいんです。走るだけでも平地よりも足腰の鍛錬になります。それに、湿地帯のように足が深みにはまるなんて事もないんですよ」
「ふむ」
続けて、砂浜の特徴を挙げると、チークウッドはどこか納得したようだった。
「他にも同じように砂浜の場所はあるみたいですし、相談でしたらお父様にお願いしますね」
こう話すチェリシアは、すでに海に足を突っ込んでいた。
「海にはいろいろ危険はありますが、このプライベートビーチにはいろいろ安全対策が施してありますから、安心して遊べますよ」
「危険?」
チェリシアの言葉にプラティナとブラッサたちが反応するので、海の危険性をチェリシアはいろいろと説明しておいた。クラゲとか波とか離岸流とか、とにかくたくさんである。
だが、そのたくさんある危険も、チェリシアにかかれば問題はない。このプライベートビーチには危険を回避する魔法が仕込まれている。沈んだとしも無理やりにでも浮かせるのだ。コーラル家の令嬢は揃いも揃って規格外である。養女になったアイリスも含めてである。
女性陣がはしゃいでいる中、チークウッドだけは海と砂浜の事を丹念に調べていた。さすが着眼点が違う。最初こそ水着で砂浜を走るなどしていたが、普通の服に着替えたり、兵士から鎧を借りたりして砂浜の感触を確かめていた。
「これは、オフライトやシェイディア嬢も連れてくるべきだったのでは?」
膝上まで海に入って水を掛け合っているチェリシアたちにこう進言してくるチークウッド。
「いや、ペシエラたちが参加してる合宿に参加してるではないですか、その二人とも。私はその手隙時間をこうやって潰すつもりでしたから、参加予定の二人に声は掛けられませんでしたよ?」
チェリシアが言い訳をすると、チークウッドはため息を吐いた。
「はあ、これほどまでの有用な訓練地があったとは。すぐに父上に相談の上、コーラル伯爵にお声掛けせねば」
どうやらチークウッドのスイッチが入ったようである。チェリシアからすると嫌な予感しかしなかった。
「ああ、何というもったいない事をしていたのだ。私の見聞はまだまだ狭いようだよ」
チークウッドは本気で嘆いていた。
結局チェリシア絡みで面倒が起きそうな予感だけが残った、シェリアへの旅行だった。
この後、チークウッドは父親の跡を継ぐべく、更に王国内の領地について猛勉強する事となったのだった。
これも結局、乙女ゲーム時間内でチェリシアたちにほぼ絡まなかった事による弊害なのであった。本来ならその頭脳で王国内の企てを潰していく役割があったのに、どうしてこうなったのだろうか……。哀れである。
大きな骨は最初のに人の手で取り除くのだが、その後の切り身を魔道具に設置して魔道具を作動せると、まるで吸い出されるように残った骨が切り身から抜け出てきたのだ。どういう仕組みなのか聞いてみたいが、発案者であるチェリシアの説明もまったく意味不明だった。どうやら感覚のようである。でも、これのおかげで口の中やのどに骨が刺さる事故は防げているので、とりあえずヨシである。
食堂へお礼を言って、チェリシアたちはプライベートビーチに移動する。このプライベートビーチはコーラル家とマゼンダ家だけが使える特別な場所である。周りを木の柵で囲まれている。
「ここが噂の砂浜ですか」
「きれいですわね」
ブラッサとプラティナがそれぞれに感想を述べている。
「あそこの更衣室で着替えて下さいな。男女別になってます」
チェリシアは水着に着替えるべく、更衣室へと案内する。この世界で海や湖などに入る事はあまり一般的ではないが、ここ数年はシェリアの人はだいぶ海で楽しむようになってきていた。ただ、水着は値段が張るので、普及にはまだほど遠そうである。
さて、水着に着替えたチェリシアたち。基本的に女性はあまり肌をさらさないので、プラティナとブラッサの水着は布が多めである。ワンピース型の水着で、腕と脚はだいぶ素肌が見えている。それ比べてチェリシアはセパレート型の水着でへそまで見せている。さすが異世界経験者である。
「ずいぶんと大胆な水着ですわね、チェリシアさん」
「そうですか? これでもまだ布は多いのですよ。でも、今は伯爵令嬢ですので、これ以上はさすがに止められましたね」
「まったくですよ。この方にはそういう貴族の常識があまり通用しませんから」
「ちょっと、キャノル?」
プラティナと話していると、唯一ついて来ている使用人であるキャノルがツッコミを入れてきた。チェリシアが怒ると、キャノルはつーんと顔を逸らした。それを見たプラティナとブラッサは笑っている。
「それじゃ、日焼け止めの魔法を掛けますよ」
ぷりぷりと怒りながらも、チェリシアは日焼け止めの魔法を展開した。これがないと日焼けをして後が怖いのである。水着の跡がくっきり残ったり、水やお湯に入るとしみて痛いなどの弊害が発生するからだ。貴族令嬢にそれはさせられない。
外でチークウッドが待っていた。こっちは警備の兵士に説明を受けていたようだ。チークウッドと合流したところで、彼にも日焼け止めを掛けておく。
「しかし、海と砂浜で何かすると言っても、何をすると言うんだ?」
チークウッドは宰相の息子らしい思考である。
「そもそもこのアイヴォリーでは海も砂浜も珍しいですし、コーラル領にしか存在しませんからね」
チェリシアはまずはその希少性を挙げた。
「砂浜は意外と動きにくいんです。走るだけでも平地よりも足腰の鍛錬になります。それに、湿地帯のように足が深みにはまるなんて事もないんですよ」
「ふむ」
続けて、砂浜の特徴を挙げると、チークウッドはどこか納得したようだった。
「他にも同じように砂浜の場所はあるみたいですし、相談でしたらお父様にお願いしますね」
こう話すチェリシアは、すでに海に足を突っ込んでいた。
「海にはいろいろ危険はありますが、このプライベートビーチにはいろいろ安全対策が施してありますから、安心して遊べますよ」
「危険?」
チェリシアの言葉にプラティナとブラッサたちが反応するので、海の危険性をチェリシアはいろいろと説明しておいた。クラゲとか波とか離岸流とか、とにかくたくさんである。
だが、そのたくさんある危険も、チェリシアにかかれば問題はない。このプライベートビーチには危険を回避する魔法が仕込まれている。沈んだとしも無理やりにでも浮かせるのだ。コーラル家の令嬢は揃いも揃って規格外である。養女になったアイリスも含めてである。
女性陣がはしゃいでいる中、チークウッドだけは海と砂浜の事を丹念に調べていた。さすが着眼点が違う。最初こそ水着で砂浜を走るなどしていたが、普通の服に着替えたり、兵士から鎧を借りたりして砂浜の感触を確かめていた。
「これは、オフライトやシェイディア嬢も連れてくるべきだったのでは?」
膝上まで海に入って水を掛け合っているチェリシアたちにこう進言してくるチークウッド。
「いや、ペシエラたちが参加してる合宿に参加してるではないですか、その二人とも。私はその手隙時間をこうやって潰すつもりでしたから、参加予定の二人に声は掛けられませんでしたよ?」
チェリシアが言い訳をすると、チークウッドはため息を吐いた。
「はあ、これほどまでの有用な訓練地があったとは。すぐに父上に相談の上、コーラル伯爵にお声掛けせねば」
どうやらチークウッドのスイッチが入ったようである。チェリシアからすると嫌な予感しかしなかった。
「ああ、何というもったいない事をしていたのだ。私の見聞はまだまだ狭いようだよ」
チークウッドは本気で嘆いていた。
結局チェリシア絡みで面倒が起きそうな予感だけが残った、シェリアへの旅行だった。
この後、チークウッドは父親の跡を継ぐべく、更に王国内の領地について猛勉強する事となったのだった。
これも結局、乙女ゲーム時間内でチェリシアたちにほぼ絡まなかった事による弊害なのであった。本来ならその頭脳で王国内の企てを潰していく役割があったのに、どうしてこうなったのだろうか……。哀れである。
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