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最終章 乙女ゲーム後
第331話 五年次・夏旅行
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五年次の夏、夏合宿を出禁になったチェリシアは、合宿に参加しない学生たちと一緒にシェリアにやって来ていた。
アイヴォリーではいくつか存在する海に面した街の一つであり、唯一の漁港とリゾート地を持つ大きな街である。とはいっても、海に面した地域は全部コーラル領である。海に関する事業は、ほぼコーラル伯爵家の専売特許というわけなのだ。
それに関連した事業としては、水着の販売がある。モスグリネから仕入れた生地だけではなく、最近扱いが始まったターコイズ領の蜘蛛糸を使った生地のものも増え、そのバリエーションは確実に増えていた。
「ふふっ、たまには息抜きもよろしいですわね」
こう話すのはプラティナだ。
プラティナも今年は合宿不参加である。というのも、オフライトにたまにはゆっくりしてみたらいいと言われたからである。
「なぜ私までこんな事に付き合わされているのか、まったく理解できませんな」
この旅行には宰相の息子のチークウッドも来ている。
「ならどうして参加したのかしら」
「父上がうるさいからですよ。ただ、このシェリアはこの国唯一の漁業都市ですからね。確かに王都以外に出るのも、いろいろと勉強になるかもとは思いましたよ」
プラティナに突っ込まれるとチークウッドはそう答えていた。どうやら、チークウッドの言葉からすると期待と愚痴が複雑に絡んでいるような感じだった。
「国の仕事をするなら、各領地をたまに見てみるのはいい事だと思いますよ。政治も商売も情報が命ですからね」
シェリアの案内をしているチェリシアは、そう言いながら意地悪そうに笑っていた。
「まあ、やる事を疎かにしてしまっては意味がありませんがね」
「うぐっ……」
いい事を言ってるつもりのチェリシアに、チークウッドはしっかりカウンターを入れておいた。強かなものである。
「本当に、チェリシア様は言動不一致が多いから困りますね」
「そんなブラッサさんまで……」
日傘を手に現れたのはドール商会の長女ブラッサだった。チークウッドの婚約者として、今回の旅行に同席しているのである。彼女は六年次生なので、年末に卒業を迎えるが、商業科でありながら文官の勉強もしていて、そっちでも好成績なのだとか。チェリシアも見習ってほしいものだ。
それにしても、シェリアの街もチェリシアが小さい頃に比べて、だいぶ賑わってきたものである。そもそも最初にシェリアが発展するきっかけになったのは、塩と魚釣りだった。魚釣り自体はロゼリアがしたし、塩はアイディアをチェリシアが出してロゼリアが実行したものである。それからというものいろいろな要素を取り入れて発展を続けてきた。今では港に大きな帆船が十数隻が留まっているまでになった。最初は貿易用の帆船数隻だったのが嘘のようである。
シェリアの街中を歩いている時は、チークウッドやブラッサはそれぞれに街をじっくり見ていた。視点はおそらく違うだろうが、さすがに職業病とも言える状態である。プラティナは見た事がない物ばかりだったのか、かなり興味深そうに見ていた。やはり、アイヴォリー王国内においてはシェリアは特殊な街なのだろう。
昼食は定食屋さんでの魚料理。女将さんはチェリシアたちに驚いていたが、すぐに落ち着いて対応してくれた。白身のフライに甘辛の酢を絡ませたシェリアフライがこの日のメインだった。
「魚は細かい骨があるとか聞いていたが、まったく無いな」
「うちの商会とドール商会が共同で作った骨取りの魔道具を使っているんです。面白いので後で見ていかれますか?」
チークウッドがそのように言うものだから、チェリシアが誘ってみるとぜひともと答えていた。よっぽど気になったようである。というわけで、お昼のピークが過ぎたら見学させてもらう事になった。
「ドール商会とマゼンダ商会は、かなり仲がよさそうだな」
チークウッドは身内だけで聞こえるような声で話し掛ける。
「取り扱い分野を分ける事で衝突しないようにはしていますので」
「そうそう。食料品と一部の生活雑貨はマゼンダ商会で扱っています」
「ドール商会では金属製品や衣料品が中心となっています」
「ただ、お互いの技術が必要であれば、その時は協力するって感じですね」
ブラッサとチェリシアがそれぞれに答えた。
「なるほどな。それは実に興味深い話だな」
「誰だって得手不得手があるのです。それを補う合うのが友人だったり商会だったり国だったりっていうだけなんですよ」
チークウッドが頷いていると、チェリシアはそうツッコミを入れた。
「マゼンダ領もコーラル領も食料の生産がメインですから、どうしてもそっちに傾いちゃいますもの」
「そうですわね。私どものドール商会も、元々はアイヴォリー王国の武具製造から始まっていますものね。商会としてはそれを前面に出していますもの」
二人の話に、チークウッドは驚いていた。どうやら知らなかったようである。将来の宰相様はそれでいいのだろうか。ちなみにプラティナは知っているようなので、チークウッドのころころ変わる表情を楽しんでいるみたいだ。
「では、そろそろお昼の忙しい時間が終わるみたいですし、食堂に戻ってみましょうか」
こう言ってチェリシアたちは、さっきお昼を食べた食堂に戻るのだった。
アイヴォリーではいくつか存在する海に面した街の一つであり、唯一の漁港とリゾート地を持つ大きな街である。とはいっても、海に面した地域は全部コーラル領である。海に関する事業は、ほぼコーラル伯爵家の専売特許というわけなのだ。
それに関連した事業としては、水着の販売がある。モスグリネから仕入れた生地だけではなく、最近扱いが始まったターコイズ領の蜘蛛糸を使った生地のものも増え、そのバリエーションは確実に増えていた。
「ふふっ、たまには息抜きもよろしいですわね」
こう話すのはプラティナだ。
プラティナも今年は合宿不参加である。というのも、オフライトにたまにはゆっくりしてみたらいいと言われたからである。
「なぜ私までこんな事に付き合わされているのか、まったく理解できませんな」
この旅行には宰相の息子のチークウッドも来ている。
「ならどうして参加したのかしら」
「父上がうるさいからですよ。ただ、このシェリアはこの国唯一の漁業都市ですからね。確かに王都以外に出るのも、いろいろと勉強になるかもとは思いましたよ」
プラティナに突っ込まれるとチークウッドはそう答えていた。どうやら、チークウッドの言葉からすると期待と愚痴が複雑に絡んでいるような感じだった。
「国の仕事をするなら、各領地をたまに見てみるのはいい事だと思いますよ。政治も商売も情報が命ですからね」
シェリアの案内をしているチェリシアは、そう言いながら意地悪そうに笑っていた。
「まあ、やる事を疎かにしてしまっては意味がありませんがね」
「うぐっ……」
いい事を言ってるつもりのチェリシアに、チークウッドはしっかりカウンターを入れておいた。強かなものである。
「本当に、チェリシア様は言動不一致が多いから困りますね」
「そんなブラッサさんまで……」
日傘を手に現れたのはドール商会の長女ブラッサだった。チークウッドの婚約者として、今回の旅行に同席しているのである。彼女は六年次生なので、年末に卒業を迎えるが、商業科でありながら文官の勉強もしていて、そっちでも好成績なのだとか。チェリシアも見習ってほしいものだ。
それにしても、シェリアの街もチェリシアが小さい頃に比べて、だいぶ賑わってきたものである。そもそも最初にシェリアが発展するきっかけになったのは、塩と魚釣りだった。魚釣り自体はロゼリアがしたし、塩はアイディアをチェリシアが出してロゼリアが実行したものである。それからというものいろいろな要素を取り入れて発展を続けてきた。今では港に大きな帆船が十数隻が留まっているまでになった。最初は貿易用の帆船数隻だったのが嘘のようである。
シェリアの街中を歩いている時は、チークウッドやブラッサはそれぞれに街をじっくり見ていた。視点はおそらく違うだろうが、さすがに職業病とも言える状態である。プラティナは見た事がない物ばかりだったのか、かなり興味深そうに見ていた。やはり、アイヴォリー王国内においてはシェリアは特殊な街なのだろう。
昼食は定食屋さんでの魚料理。女将さんはチェリシアたちに驚いていたが、すぐに落ち着いて対応してくれた。白身のフライに甘辛の酢を絡ませたシェリアフライがこの日のメインだった。
「魚は細かい骨があるとか聞いていたが、まったく無いな」
「うちの商会とドール商会が共同で作った骨取りの魔道具を使っているんです。面白いので後で見ていかれますか?」
チークウッドがそのように言うものだから、チェリシアが誘ってみるとぜひともと答えていた。よっぽど気になったようである。というわけで、お昼のピークが過ぎたら見学させてもらう事になった。
「ドール商会とマゼンダ商会は、かなり仲がよさそうだな」
チークウッドは身内だけで聞こえるような声で話し掛ける。
「取り扱い分野を分ける事で衝突しないようにはしていますので」
「そうそう。食料品と一部の生活雑貨はマゼンダ商会で扱っています」
「ドール商会では金属製品や衣料品が中心となっています」
「ただ、お互いの技術が必要であれば、その時は協力するって感じですね」
ブラッサとチェリシアがそれぞれに答えた。
「なるほどな。それは実に興味深い話だな」
「誰だって得手不得手があるのです。それを補う合うのが友人だったり商会だったり国だったりっていうだけなんですよ」
チークウッドが頷いていると、チェリシアはそうツッコミを入れた。
「マゼンダ領もコーラル領も食料の生産がメインですから、どうしてもそっちに傾いちゃいますもの」
「そうですわね。私どものドール商会も、元々はアイヴォリー王国の武具製造から始まっていますものね。商会としてはそれを前面に出していますもの」
二人の話に、チークウッドは驚いていた。どうやら知らなかったようである。将来の宰相様はそれでいいのだろうか。ちなみにプラティナは知っているようなので、チークウッドのころころ変わる表情を楽しんでいるみたいだ。
「では、そろそろお昼の忙しい時間が終わるみたいですし、食堂に戻ってみましょうか」
こう言ってチェリシアたちは、さっきお昼を食べた食堂に戻るのだった。
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