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第十章 乙女ゲーム最終年
第329話 乙女ゲームの終わりに
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年が明けて、ロゼリアたちは王宮に呼び出されていた。というのも、ペイルがモスグリネ王国に帰る事になったからだ。
王宮の謁見の間に呼び出されたマゼンダ侯爵家、コーラル伯爵家の面々は、二国の王族たちと対面していた。
正直これだけの王族に囲まれれば、その緊張は半端ないものである。しかし、ロゼリアたちはもう慣れてしまったような感じすらある。
「わざわざ足を運んでもらってすまないな、マゼンダ侯爵、コーラル伯爵」
クリアテス国王が声を掛ける。
「いえ、王国の民となれば、この程度の事など苦ともなりません」
「左様でございますとも。この場にお招き頂けたこと、実に名誉な事だと感激しております」
ヴァミリオとプラウスは粛々と答える。王国の貴族なれば、こう答えるのも実に自然な事なのだ。
「そなたらの貢献の度合いを考えると、この場に呼ぶにふさわしいからな。さあ、ともにモスグリネの王たちを見送ろうではないか」
ブランシェード女王がこう高らかに言えば、全員がそれに応えた。
モスグリネの王族を送り出す馬車のところまでやって来ると、そこにはケットシーとストロアたち商業組合のメンバーたちが待ち構えていた。
「やあやあ、待っていたよ。もういいのかい?」
ケットシーは王族相手だろうと敬語にはならない。幻獣だから仕方ないね。
「うむ、しっかりと話はさせてもらったからな。こちらとしては話す内容はない」
ダルグ国王がこう答えると、ケットシーは両手を広げて首を左右に振った。
「やれやれ、そうじゃないのだなあ。ねえ、ペイル君」
ケットシーは視線をペイルへと向けた。ペイルはその視線にぐっと後ずさる。ケットシーが何を言いたいのかがひしひしと伝わってくる。少し頭をぐりぐりと振り回したペイルは、最後にため息を吐いて覚悟を決めたようである。
「ロゼリア」
「はい、ペイル殿下」
ペイルが名前を呼べば、ロゼリアは落ち着いて反応する。
「三年後、無事に学園を卒業したら、必ずお前を迎えに行く。俺が直々に迎えに行くんだ。必ず待っていろよ」
こういうペイルの顔は真っ赤である。それに対してロゼリアは落ち着いて反応をする。
「はい、お待ちしておりますとも。必ずや、あなたにふさわしい女性になってみせます」
「……お前は今のままでも十分魅力的だぞ」
ロゼリアの返事に、ペイルは顔を真っ赤にして何かぼそぼそと言っている。
「チェリシアが作ってくれたチャットフォンもありますからね。たまには話をしたいですね」
シルヴァノは分かっていながらも、無邪気な笑顔でそう言葉を挟み込んだ。これに対してペイルたちは、「そうだな」と簡単に言葉を返していた。
「名残惜しいが、我々は戻らねばならぬ。機会があれば、こちらからもそちらを招待しよう」
「そうですな。そちらばかり来てもらうのもさすがに気が引ける」
最後に国王同士が会話を交わすと、モスグリネの王族は馬車へと乗り込んでいった。
「ペシエラ」
「なんでございましょうか、ペイル殿下」
「結局お前には一度も勝てなかったな。いつかきっと勝ってやるからな」
「あら、でしたら、また返り討ちにして差し上げますわ。いつでもいらっしゃいな」
ペイルの決意の言葉に、ペシエラは煽るだけ煽っておいた。やっぱり逆行前のわだかまりはそう簡単には解消できないのかも知れない。
「ふっ、やはりお前はそうでないとな」
だが、ペイルは満足げに笑っていた。
こうして、モスグリネの一行は帰路へと就いた。幻獣ケットシーとニーズヘッグの二体が護衛に居るのだから、まず問題なく帰れるだろう。ロゼリアたちは、しばらくモスグリネの馬車の列を静かに見送っていた。
こうして、乙女ゲームの三年間は無事に終了した。バッドエンドではないので、とりあえずはグッドエンドといったところだろうか。何はともあれ、無事に過ごせてよかった。
一年次と二年次のとんでも展開っぷりに慌てたものだったが、それに比べるとだいぶ三年次の展開はおとなしいものだった。せいぜいストロアの一件くらいであろう。とんでも展開の半分くらいはチェリシア絡みだった。
乙女ゲームと同じ展開をしたのはホントに学園生活の初めの方だけである。この転換点となったのこそ、一年次の夏合宿である。
ここでまさかのアイリス(モブ学生)生存ルートを取った事で、その後の展開が大きく様変わりした。
ゲームに出てこなかった幻獣や神獣が明らかになったり、わけの分からない大規模時空間転移の話が出てきたり、この世界の根本を揺るがす事実が表に出てきたのだ。そして、大きなイベントもほとんどが前倒しになり、ストーリーは完全に破綻をきたしたのだった。
すべてを狂わせた元凶は、やはり、イレギュラーとなったチェリシアだろう。時間を巻き戻ってきたチェリシアを弾き飛ばして体を奪い、前世の知識を使っていろいろと引っ掻き回してくれたのだ。
そのせいで影響をもろに食らったのが本来のチェリシアであるペシエラだった。本来の自分の妹という立場に収まり、世界の理から外れてしまったペシエラ。その存在を救うための二年次冬のモスグリネ王国への旅。ここでペシエラを無事に救う事ができた事が、もしかしたら最終イベントクリアだったのかも知れない。
今となっては全部が思い出である。ロゼリアたちはとにかく、残りの学園生活三年間を無事に過ごす事だけを考える事にした。
最後にはもう一つ、大きな転換点が待ち構えているのだから……。
王宮の謁見の間に呼び出されたマゼンダ侯爵家、コーラル伯爵家の面々は、二国の王族たちと対面していた。
正直これだけの王族に囲まれれば、その緊張は半端ないものである。しかし、ロゼリアたちはもう慣れてしまったような感じすらある。
「わざわざ足を運んでもらってすまないな、マゼンダ侯爵、コーラル伯爵」
クリアテス国王が声を掛ける。
「いえ、王国の民となれば、この程度の事など苦ともなりません」
「左様でございますとも。この場にお招き頂けたこと、実に名誉な事だと感激しております」
ヴァミリオとプラウスは粛々と答える。王国の貴族なれば、こう答えるのも実に自然な事なのだ。
「そなたらの貢献の度合いを考えると、この場に呼ぶにふさわしいからな。さあ、ともにモスグリネの王たちを見送ろうではないか」
ブランシェード女王がこう高らかに言えば、全員がそれに応えた。
モスグリネの王族を送り出す馬車のところまでやって来ると、そこにはケットシーとストロアたち商業組合のメンバーたちが待ち構えていた。
「やあやあ、待っていたよ。もういいのかい?」
ケットシーは王族相手だろうと敬語にはならない。幻獣だから仕方ないね。
「うむ、しっかりと話はさせてもらったからな。こちらとしては話す内容はない」
ダルグ国王がこう答えると、ケットシーは両手を広げて首を左右に振った。
「やれやれ、そうじゃないのだなあ。ねえ、ペイル君」
ケットシーは視線をペイルへと向けた。ペイルはその視線にぐっと後ずさる。ケットシーが何を言いたいのかがひしひしと伝わってくる。少し頭をぐりぐりと振り回したペイルは、最後にため息を吐いて覚悟を決めたようである。
「ロゼリア」
「はい、ペイル殿下」
ペイルが名前を呼べば、ロゼリアは落ち着いて反応する。
「三年後、無事に学園を卒業したら、必ずお前を迎えに行く。俺が直々に迎えに行くんだ。必ず待っていろよ」
こういうペイルの顔は真っ赤である。それに対してロゼリアは落ち着いて反応をする。
「はい、お待ちしておりますとも。必ずや、あなたにふさわしい女性になってみせます」
「……お前は今のままでも十分魅力的だぞ」
ロゼリアの返事に、ペイルは顔を真っ赤にして何かぼそぼそと言っている。
「チェリシアが作ってくれたチャットフォンもありますからね。たまには話をしたいですね」
シルヴァノは分かっていながらも、無邪気な笑顔でそう言葉を挟み込んだ。これに対してペイルたちは、「そうだな」と簡単に言葉を返していた。
「名残惜しいが、我々は戻らねばならぬ。機会があれば、こちらからもそちらを招待しよう」
「そうですな。そちらばかり来てもらうのもさすがに気が引ける」
最後に国王同士が会話を交わすと、モスグリネの王族は馬車へと乗り込んでいった。
「ペシエラ」
「なんでございましょうか、ペイル殿下」
「結局お前には一度も勝てなかったな。いつかきっと勝ってやるからな」
「あら、でしたら、また返り討ちにして差し上げますわ。いつでもいらっしゃいな」
ペイルの決意の言葉に、ペシエラは煽るだけ煽っておいた。やっぱり逆行前のわだかまりはそう簡単には解消できないのかも知れない。
「ふっ、やはりお前はそうでないとな」
だが、ペイルは満足げに笑っていた。
こうして、モスグリネの一行は帰路へと就いた。幻獣ケットシーとニーズヘッグの二体が護衛に居るのだから、まず問題なく帰れるだろう。ロゼリアたちは、しばらくモスグリネの馬車の列を静かに見送っていた。
こうして、乙女ゲームの三年間は無事に終了した。バッドエンドではないので、とりあえずはグッドエンドといったところだろうか。何はともあれ、無事に過ごせてよかった。
一年次と二年次のとんでも展開っぷりに慌てたものだったが、それに比べるとだいぶ三年次の展開はおとなしいものだった。せいぜいストロアの一件くらいであろう。とんでも展開の半分くらいはチェリシア絡みだった。
乙女ゲームと同じ展開をしたのはホントに学園生活の初めの方だけである。この転換点となったのこそ、一年次の夏合宿である。
ここでまさかのアイリス(モブ学生)生存ルートを取った事で、その後の展開が大きく様変わりした。
ゲームに出てこなかった幻獣や神獣が明らかになったり、わけの分からない大規模時空間転移の話が出てきたり、この世界の根本を揺るがす事実が表に出てきたのだ。そして、大きなイベントもほとんどが前倒しになり、ストーリーは完全に破綻をきたしたのだった。
すべてを狂わせた元凶は、やはり、イレギュラーとなったチェリシアだろう。時間を巻き戻ってきたチェリシアを弾き飛ばして体を奪い、前世の知識を使っていろいろと引っ掻き回してくれたのだ。
そのせいで影響をもろに食らったのが本来のチェリシアであるペシエラだった。本来の自分の妹という立場に収まり、世界の理から外れてしまったペシエラ。その存在を救うための二年次冬のモスグリネ王国への旅。ここでペシエラを無事に救う事ができた事が、もしかしたら最終イベントクリアだったのかも知れない。
今となっては全部が思い出である。ロゼリアたちはとにかく、残りの学園生活三年間を無事に過ごす事だけを考える事にした。
最後にはもう一つ、大きな転換点が待ち構えているのだから……。
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