逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第十章 乙女ゲーム最終年

第328話 断罪は何も敵からとは限らない

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 あれほど警戒していたのは何だったのか。そう思えるくらいに何もなく二日目も終わってしまった。
 何もないとは言ったものの、マゼンダ商会へはいろいろと取引の相談が持ち掛けられていた。しかしながら、ヴァミリオ、カーマイル、プラウスの三人でしっかりと揉め事もなく対応がされていた。ものの数秒で判断が下されるあたり、事前情報もしっかり入っているのだろう。さすが一流貴族は違う。
 三日目には、ロゼリアたちもドール商会やオーカー商会と話をしていた。特に子どもたちの話では盛り上がりを見せているようである。年が近いので主な話題は学園の事のようだ。
 オーカー商会の子どもブリューレとホイートも、この一年ですっかり変わっていた。あれだけやる気のない失礼な子どもだったのだが、しっかり挨拶もできるようになっていた。二年後、いや年末の時期なので実質一年後には二人も学園に通う事になる。一年前に衝撃を受けた学園祭の日から、猛勉強してきたらしい。今ではすっかりあの時の生意気さは完全に消え去っていた。マゼンダ商会やドール商会に出向いたり、オーカー商会の職員に話し掛けたりして、自分たちなりに一生懸命商売とは何かを学んでいるようだ。
「マゼンダ商会は別に独占しようとはしていませんものね。目くじらを立てる内容は特に感じられません」
 そういうのはブラッサである。
「そうですね。正直ルゼさんの事も自分のところで抱えていたかったと思いますがね」
 ロイエールもこういう感想を持っている。
「私の持つ能力は、確かにドール商会の方が相性はいいんですよ。金属加工においては、それは目を見張るものがありますから」
 ケーキを頬張りながら喋るルゼ。メタルゼリーとは思えないくらい、完全に人っぽい状態である。
 ルゼはメタルゼリーという魔物であり、世界中のあらゆる金属を食べてきた猛者だ。それがゆえに、あらゆる金属に変化する事が可能だし、自分の体の一部を金属にして切り離す事ができる。なお、その部分はすぐに復活する。
 このメタルゼリー、乙女ゲームの最終フェーズではシルヴァノのルートで出てくる凶悪な敵だった。なにせ物理攻撃が通じない、魔法攻撃もあまり通らないと厄介この上なし。そんなメタルゼリーも味方ならこの通り心強いのである。女性型だったのは正直驚いたものである。
 だが、現実でも厄介なのは変わりなかった。鉄や銅ならまだしも、アルタンや魔法銀、果てはアダマンタイトやオリハルコンなどにも体を変質させられるのだから。ルゼの魔力が続く限り、いくらでも作り出せる。実に半チートである。それ故に、ドール商会は金属製品をある程度安定的に作り出せているのである。
 一方のオーカー商会も、マゼンダ商会の影響でかなり利益を上げていた。マゼンダ商会の扱う物の中でも、食料品や加工品の原材料を取り扱っている。コーラル伯爵領、アクアマリン子爵領、マゼンダ侯爵領の産物だけでもかなりの利益である。今回ケットシーが苦言を呈してきた大豆の取引も、このオーカー商会の担当である。
 ドール商会もオーカー商会もチェリシアの多大なる被害者ではあるが、同時に莫大な恩恵も受けており、なんとも歯がゆい状況になっていた。頼むからこれ以上の無茶振りはやめてくれと祈るばかりなのだという。
 とはいえ、本人が居る前でそういう事は言わない。ロイエールたちは一応商人である。貴族相手に機嫌を損ねたらどうなるのか、そういうのは嫌というほど分かっているのだ。
「あのですね。チェリシア様にははっきり言った方がいいですよ。この人思い付きで行動しますから」
 何度となく苦言を言い掛けるロイエールたちだったが、たまりかねたルゼがチェリシアにはっきりと言ってのける。
「えっ、どういう事なのかな?」
 チェリシアは驚いている。
「さっき、ケットシー様とお会いしましてね。大豆の事でオーカー商会の方と話されていたんです。そりゃもう、ケットシー様もやりくりに大変らしいですし、その取引でオーカー商会も在庫圧迫加減なんですから。チェリシア様は収納魔法をお持ちなんですから、さっさと買い取って下さい」
 ルゼに怒鳴られて目を白黒させるチェリシア。しかし、周りを見ればロゼリアやペシエラたちもこくこくと頷いていた。
「え、私が悪いの?」
「当然です。チェリシア様は、自分がどれだけ国の事情を引っ掻き回されたと思ってるんですか!」
「ひぃぃっ!」
 ルゼに怒鳴られ、チェリシアは涙目で謝っていた。さすがは魔物。貴族相手でも怯まなかった。
 結局のところ、国を揺るがすような断罪イベントは起きなかったのだが、自由にやり過ぎたチェリシアが身内から断罪されるイベントが発生したのだった。周りの貴族たちがパーティーに酔いしれる中、チェリシアはルゼからぐちぐちと説教を受け続けたのだった。周りもどうやら同じ気持ちだったようで、誰一人としてこの説教を止める事なく雑談に明け暮れていた。まあ、やり過ぎたチェリシアが悪い。
 この日の王都にはしんしんと雪が降り続き、とても静かで平和に三年次の冬は暮れていったのであった。
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